loading...

“お困りごと解決”ではなく“楽しい体験”までを実現する。視覚障がい者のウィンドウショッピングアプリとは?

2022/10/20

リスニングウィンドウ

世の中にはさまざまな視覚障がい者向けサービスがあります。しかし、その多くが情報保障や安全確保といった「お困りごとの解決」にとどまっているのが現状です。

電通と電通クリエーティブXは、「楽しい体験」までを追求することがこれからの社会が目指すべき姿だと考え、視覚障がい者がウィンドウショッピングを楽しめるアプリ「Listening Window(リスニングウィンドゥ)」の共同開発を進めています。

今回は開発にご協力いただいたブラインドサッカー選手の日向賢さん・元ブラインドサッカー選手の日向舞香さんご夫妻をゲストに迎え、電通の村田晋平、電通クリエーティブXの西村保彦を交えてプロジェクトの経緯や今後の展望を聞きました。

日向夫妻と村田さん西村さん

日向賢さん
ブラインドサッカー選手
生まれた時から全盲。会社員として勤務しながらブラインドサッカー日本代表としても活躍中。
 
日向舞香さん
元ブラインドサッカー選手
中学生の頃からだんだんと目が見えなくなり、条件によって人影が分かる程度の弱視に。企業のマッサージルームでマッサージ師として勤務。元アスリートで、ブラインドサッカー日本代表チームとパラローイング日本代表チームで活動していた。

 

自分のペースでウィンドウショッピングを満喫したい

──はじめに、簡単に自己紹介をお願いいたします。

日向(賢):日向賢と申します。普段は会社員として働きながら、パラアスリートとしてブラインドサッカー日本代表でも活動しています。

日向(舞):日向舞香です。私は企業のマッサージルームでマッサージ師として働いています。元アスリートで、ブラインドサッカー日本代表チームとパラローイング日本代表チームで活動していました。

村田:電通コピーライターの村田です。今回のプロジェクトではクリエーティブ・ディレクターという立場で関わっています。

西村:電通クリエーティブXの西村です。普段はテクニカルディレクターとして主にデジタルコンテンツの開発などに携わっています。今回のプロジェクトでは村田さんから頂いたアイデアをどのような技術で実現できるかを考えて、実際にアプリを作るところまでを担当しています。

──早速ですが、Listening Windowの概要を教えていただけますか?

村田:Listening Windowは目の不自由な方にウィンドウショッピングを楽しんでいただくことを目的にプロトタイプ開発したアプリです。アプリを起動してiPhoneを首からぶら下げて歩くと、AIがカメラに映ったお店のロゴを判別し、音声でお店のジャンルと店舗名を伝えます。気になるお店があったら画面をタップすると、おすすめ商品やセール情報、グルメサイトの評価などの詳細情報を教えてくれます。

Listening Window

 

──どのような経緯で開発されたのでしょうか?

村田:最近のiPhoneには「LiDAR」(Light Detection and Ranging)という、レーザー光を利用して、スマホから対象物までの距離を把握したり物体の形を認識する機能が付いています。これをカメラの画像認識技術と組み合わせると、iPhoneの機能はどんどん人間の視覚に近づいていく。そう考えたとき、パッと瞬間的に思い付いたのが「目の不自由な方々が楽しくなるものが自分にも作れるかもしれない」ということでした。そこから西村さんたちとディスカッションを始めたんです。

西村:最初は視覚障がいのある子どもたちが、ない子どもたちと一緒に鬼ごっこを楽しめるようなサービスを検討していました。そこでプロトタイプを何パターンか作成し、日向ご夫妻に体験していただいてディスカッションを重ねる中で、ウィンドウショッピングというキーワードが出てきたと記憶しています。

日向(賢):私はコンピューター関係の仕事をしている時期が長かったので、LiDAR機能の技術的な仕組みは理解していたのですが、それを視覚障がい者向けに活用するという発想はなかったので面白い試みだと思いました。実際にプロトタイプを体験しながら普段の私たちの生活をお伝えする中で、ほかにも活用できるシーンがないかを検討しました。

日向(舞):ウィンドウショッピングがしたいと言い出したのは私です(笑)。もともとスイーツショップを巡るのが好きで、Googleマップを使ってあらかじめ調べたお店に行くことはしていました。でも、まわりにどんなお店があるかまでは認識できないので、せっかく魅力的なお店がいっぱいある東京にいるのに残念だなと思っていたんです。あとは、「一人でウィンドウショッピングをしたい」というのも私の中で大きなキーワードでした。

──一人で行きたかったのですね。

日向(舞):はい。目が見える方やガイドヘルパーさんと一緒であればウィンドウショッピングはできなくはないですが、事前に予定を組まないといけないので、行きたいときにフラッと行くのは難しいんです。それに、やっぱりウィンドウショッピングは自分のペースでできたほうが楽しいなって思っていました。

視覚障がい者の困りごと解決だけではなく、プラスアルファの価値を提供する

──プロトタイプが完成し、ご夫妻でListening Windowを体験されたそうですが、お二人の率直な感想を教えていただけますか?

日向(舞):お台場にあったヴィーナスフォートで体験したのですが、以前二人で訪れた時には知らなかったお店を発見したり、セール情報など新しい情報がどんどん入ってきたりするので、知ることで世界が広がった印象がありました。二人だけの世界で完結しないところがすごく楽しかったです。

日向(賢):すでに知っているお店であっても、こういうものを扱っているお店だというプラスアルファの情報を入手しながら歩けるので、想像していた以上に面白かったです。

村田:ありがとうございます。1年間ぐらいコツコツ開発してきたので、このアプリに価値を感じてもらえるのだという手応えを得られるのは大きな励みになりました。

西村:先ほど舞香さんがおっしゃっていましたが、「Googleマップを使えば行きたい店には行ける」というお話が私たちにとっては目からウロコで。つまり、われわれはどうしても視覚障がいのある方が困っていることを解決しようと発想しがちなんですが、そうではなくてもっと日常を楽しんでもらえるとか、プラスアルファの価値を提供すべきだということを、日向ご夫妻とディスカッションする中で学びました。なので、楽しい、面白いという感想を頂けると本当にうれしいですね。

村田:日向ご夫妻と会話をするたびに新しいアイデアが生まれますし、むしろご夫妻からアイデアを頂くことも多かったです。チームメンバーの考え方も当初からどんどんアップデートしていくことができたと思います。

──日向ご夫妻からは具体的にどのような意見やアイデアがあったのでしょうか?

村田:機能としては、お店の情報だけでなくエスカレーターやトイレなど、ベーシックなインフォメーションを知りたいというご要望をいただきました。

日向(賢):そうですね。実現可能かどうかはさておき、自分たちが生活する中でこれができたら便利だというアイデアをたくさんお伝えしたと思います。実際にアプリを使ってみた感想も率直にお伝えして、議論を重ねていきました。

日向(舞):そもそも自分が目的地にいると思ったら違う場所だったというケースもあるので、今いる場所の建物の名前を知りたいという話もしました。

村田:隣のビルに入ってしまっても気付かずにうろうろしたりするとか、ビルは合っているけどオフィスエリアに着いてしまっていたりするとか、日向ご夫妻から教えてもらって初めて気が付くこともたくさんありました。もちろん、全てのご要望を実現できているわけではないので、今後も優先順位を付けながらブラッシュアップしていきたいと思っています。

視覚障がい者が積極的に外出を楽しめる世界をつくる

──Listening Windowはプロトタイプの段階だとのことですが、今後どのようなことに取り組んでいきたいですか?

村田:やはり目の不自由な方の安全性を担保するようなサービスはほかのテクノロジー企業が注力する領域だと思うので、電通のクリエイティブとして目指すべきなのは、こういうものがあったらもっと楽しいんじゃないか、もっと笑顔が増えるんじゃないかというアイデアを形にすることだと考えています。

なのでまず大きな方針として、視覚障がいのある方が楽しくなれる体験をつくることを目指します。Listening Windowの現状は屋内の商業施設に限定しているので、屋外でのウィンドウショッピングが可能になる技術を実装しつつ、音声ナビゲーションにより楽しい体験を付加していきたいと思います。

西村:そうですね、現状のプロトタイプは限定的な環境でしか使えないので、屋内と屋外のウィンドウショッピングを一連の体験として楽しめるような仕組みを実現したいですね。

──日向ご夫妻は、今回のプロジェクトを通じてどのような可能性を感じましたか?

日向(舞):私たち夫婦は視覚障がい者の中でも積極的に外へ出かけるタイプだと思います。でも、出かけることが苦手だったり、ちゅうちょしがちな視覚障がい者もまわりにたくさんいるので、そういう方々が外に出かけるきっかけをアプリが作ってくれるといいなって思いました。いつも決まった場所にしか出かけない方も多いので、いつもと違うところに出かけられるようになったら、それこそ日常の楽しみも増えるのではないでしょうか。

また、視覚障がい者がどんどん外出するようになれば、健常者が視覚障がい者と接する機会が増えて、手を差し伸べてくださる人も増えるのではないかと期待しているので、ぜひ今後も協力していきたいなと思っています。

日向(賢):やっぱり視覚障がいがあると得られる情報が少ないので、ここのお店に行きたいとか、これを買ってみたいというきっかけが生まれにくいと思うんです。そういった情報にアプリの音声を通じて触れられると、もっといろんな物事に興味を持てるようになるので、店や街と連携してどんどん広がっていくといいなって思います。

西村:Listening Windowに関しては、お店や施設側で機器を導入したり設定や登録をしなくても、ユーザーがアプリさえ持っていればどんなお店でも使えるという世界観を実現したいと考えています。ただ、セール情報やプラスアルファの機能を追加するためにはお店や施設側の協力が必要なので、一緒にこの取り組みにチャレンジしてくださるパートナーを探しています。

村田:そうですね。お困りごとの解決だけでなく、“楽しい”というレベルにおいても「誰一人取り残さない世界を目指す」という想いに共感していただける方に、ぜひお声がけいただけるとうれしいです。

【お問い合わせ先】
info@listening-window.com
 

<Listening Windowスタッフリスト>
Dentsu
CD:村田晋平
AD:高嶋結
Creative Technologist:諸星智也
CW:宮田和弥
Business Producer:緑川久美子
 
Dentsu Creative X
Producer:大賀遊
Producer:安東岐国子
Assistant Producer:寺山幸太
Technology Director:西村保彦
Engineer:黒川瑛紀
Film Director:寒川未空
 
協力パートナー
日向賢
日向舞香
 
Twitter