人生100年時代の日本に貢献?「シニア・プロボノ層」の可能性
2022/11/18
シニアの意識や意向を定量・定性調査で探り、その結果から見えてきたリアルなニーズやトレンド、今後のビジネスの可能性について、電通シニアラボの古賀珠実氏が紹介する本連載。
第2回は、電通シニアラボ「シニアの兆し調査2022」の結果から見えてきた「シニア・プロボノ(社会貢献)層」の特徴と、「プロボノ予備軍」である早稲田大学Life Redesign College受講生インタビューから浮き彫りになった課題および必要なソリューションについてお伝えします。
電通シニアラボとは
「超高齢社会における社会課題解決」をテーマにシニアに関する知見の研究を通じてさまざまなインサイト・ソリューション開発を行う電通の社内横断プロジェクト。
ホームページ:https://www.projects.dentsu.jp/seniorlab/
早稲田大学Life Redesign College(以下、早稲田LRC)とは
「人生100年時代の大学」をコンセプトに、人生の後半においても社会や人々とつながり続け、有意義に生きるための学びの機会とコミュニティを提供することで、人生の再設計「Life Redesign」という大学の新たな価値を受講生とともに創造するプログラムです。
ホームページ:https://lrc.waseda.jp/
<目次>
▼プロボノとは何か?「シニア・プロボノ」の可能性
▼学びへの意識高く、人とのつながりにも意欲的。
「シニア社会貢献層」の特徴を紹介
▼早稲田LRCの受講生に聞く「人生後半戦の生き方」
▼早稲田LRCの受講生と考える、必要なサポートとソリューション
プロボノとは何か?「シニア・プロボノ」の可能性
「プロボノ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
これは、ラテン語の「公共善のために(Pro Bono Publico)」を語源とする、「社会的・公共的な目的のために、自らの職業を通じて培ったスキルや知識を提供するボランティア活動」のことです。(出典:「プロボノ 新しい社会貢献 新しい働き方」嵯峨生馬著)
ボランティア活動の中でも、社会的・公共的な課題解決に寄与することを目的とし、もし企業等で行えばプロフェッショナルとしての対価を得られるスキルや知識を生かして、自発的に無償で行う活動です。報酬については、近年サステナブルな活動にするため、交通費や実費のみが支払われる「有償ボランティア」も浸透してきました。
そこで電通シニアラボが考えたのは、これからの時代は「シニア・プロボノ」が活躍できるのではないか、ということです。
団塊の世代800万人が75歳以上となる「2025年問題」、団塊ジュニア世代が65歳以上となる「2040年問題」など、高齢者が増えることが社会保障費の増大や労働力不足などの“要因”として語られることが多いように思えます。
しかし、見方を変えるとこれは、長年企業などでプロフェッショナルな対価を得られるスキルや知識を身につけてきた人財に、一定の時間ができるということでもあります。「シニア・プロボノ」は、これからの社会を良くする担い手になれるのではないでしょうか。
電通シニアラボが実施した「シニアの兆し調査2022」のスクリーニング調査(N=9825)の結果(※1)では、プロボノ実践者が291人(3%)、プロボノを含むボランティア実践者が866人(9%)出現しました。今後取り組みたい意向があるかの質問では、プロボノ意向者が580人(6%)、プロボノを含むボランティア意向者が1365人(14%)と、この先取り組んでみたい気持ちがある人の方が実践者よりも 多くなっています。
※1 = 兆し調査の選択肢が示す内容は下記のとおり
プロボノ:これまでの知識や経験を生かしたボランティア活動
ボランティア:定期的な地域活動やボランティア活動と不定期に行う単発的なボランティア活動
プロボノ意向者がこれからやってみたい活動のフリーアンサーでは、「ファイナンシャルプランナー資格を生かし、資産運用を広めたい」「教員として40年働いてきた経験を生かして子どもたちに勉強を教えたい」「長年国際部門で仕事し、駐在経験もあるので、若い人たちに国際感覚を伝えたい」といった意欲的な声が多数見られました。
学びへの意識高く、人とのつながりにも意欲的。「シニア社会貢献層」の特徴を紹介
社会貢献を実践するシニアとはどのような人なのか、その特徴を「シニアの兆し調査2022」の質問「生活と生き方について」「趣味と学びについて」の結果からご紹介します。
本調査(N=800)においては「シニア・プロボノ」に該当したのは22人にとどまっていたため、ボランティア実践者を含む計95人を「シニア社会貢献層」として特徴を見てみました。(図表1)
“誰かの役に立ちたい”、“人に感謝されることを生きがいと感じている”という意識に加え、学び続ける意欲も9割前後と高くなっています。
また、人付き合いの幅も広く、4つ以上のコミュニティに属している人が半数以上です。(図表2)
※調査で提示した7つのコミュニティ (今つき合いがあり、関係づくりをしている人):
1 家族・親族、2 近隣・地域、3 若い頃からの友人、4 仕事関係者、5 趣味仲間、6 ボランティア仲間、7 医療・介護関係者
また、「興味のある商品・サービス」(図表3)を見ると、「脳年齢や聴覚年齢測定アプリ」や「自宅で手軽にできる筋トレ装置」のような健康をケアするもの、「じっくり学びながら楽しめる上質な旅行」のように学びへの意欲を反映したものが、上位に挙がりました。
60~70代シニア全体とシニア社会貢献層を比較すると(図表4)、特に興味の差が大きいもののトップに「趣味の合う人が集まるオンラインコミュニティ」が挙がっています。これらの結果から、シニア社会貢献層は人とのつながりを多く求めているように感じられますが、それはなぜなのでしょうか。
裏側にある当事者の思いを解き明かすべく、「プロボノ予備軍」ともいえる早稲田LRC受講生に、インタビューをしてみました。
早稲田LRCの受講生に聞く「人生後半戦の生き方」
早稲田LRCの受講生は、人生100年時代の人生の後半において充実した生活を実現し、プレシニア~シニアの大きな力を再び社会に接続することで、これからの日本社会に寄与し、社会課題を解決する意欲のある人たちです。社会課題やNPO、プロボノについても講義で学び、これからのシニア像をけん引するロールモデルともいえる「プロボノ予備軍」です。
受講生全員を対象としたアンケート(N=33)の中から、「これから力を入れたいこと」で特に社会貢献の内容を具体的に回答した50代後半~70代前半の男女6人に、グループインタビューを行いました。
参加したのは、
- 教員経験に加え独学で英語を学び直し、国際ボランティアを目指すAさん
- ダブルスクールで図書館司書の資格取得を目指すBさん
- 多少お金も稼ぎながら社会課題を解決したいCさん
- 食品関係の業務経験から地域の食料自給率を向上させたいDさん
- 定年前に特例子会社に勤めた経験を生かし、生きがいの面も含めて障がい者雇用の支援を考えるEさん
- 海外赴任経験や子育ての経験、趣味のお笑いを生かし、笑い合える場創りを目指すFさん
と、まさに社会課題解決に生かすことのできるスキルや経験が豊かな6人です。
話を聞くと、意欲が高くビジョンも明快。早稲田LRCにはその準備として、学び直しや仲間づくりを目的に応募したとのことで、今すぐにでも活動を開始できそうな方ばかりでした。
しかし学んでいるうちに、やりたいことが明確になる一方で、課題やハードルも見えてきたといいます。主な課題は、次の3つに集約されます。
- 責任感からくる決断の迷い
着目している課題解決を目指して活動している組織はたくさんある。自分に合うのか、自分のスキルが本当に役に立つのか、やってみないと分からない半面、やると決めたからには簡単に投げ出したくはない。責任感が強いからこそ湧き上がる迷い。
- 組織に縛られる不安
常時人手不足のNPOで活動した場合、頼られるのはうれしい半面、ようやく手にした自分の時間を自由に使いたい気持ちとの間で揺らぐ思い。
- 自らアクションを起こすことへのためらい
オン・オフ両面での情報収集や、自ら考え、仲間を募り活動を起こすにはエネルギーが必要だが、若い頃ほどの無理はきかない。トライアル&エラーを繰り返すにもエネルギーが必要なため、できるだけ失敗を回避したい思いから生まれるためらい。
早稲田LRCの受講生と考える、必要なサポートとソリューション
グループインタビューの後半では、やりたいことを実現するためにはどんなサポートが必要なのか、さらに課題を解消するためのソリューションについてもディスカッションしました。
その結果をまとめると、必要と考えられるサポートは次の3つです。
- ライフキャリア・コンサルティングの場と機会の提供
「シニアの兆し調査 2022」の対象者にも、自分のスキルが役立つかを心配する回答が見られましたが、早稲田LRCの受講生ほどのスキルと経験をもつ人々の中にも、自分のスキルが実際に通用するのか、ニーズがあるのかに対して自信をもてない人がいることがわかりました。それには、組織で仕事をしていれば評価や報酬など価値の客観視ができたのに対し、退職後は実感を持ちにくくなることも影響している可能性があります。これからどのように生きていきたいか、どのようなテーマで役に立ちたいか、スキルを棚卸しして考えをまとめる機会と場が必要と考えられます。
- マッチングとコミュニティづくり
自らのスキルを棚卸した次の段階では、社会のニーズとつなぐことが必要です。NPO法人等とプロボノ意向者をマッチングするサービス自体は存在しますが、シニア・プロボノの場合、サービスを探し当てられないリスクもあります。また、早稲田LRC受講生によると、仲間は励ましや支えであり、刺激でもあるといいます。共通の志をもつ仲間と出会うことも行動の後押しになるのではないでしょうか。
- シニア・プロボノへのインターンシップの機会創出
責任感の強いシニア・プロボノは、合わなければやめればいいとライトには考えにくいため、無理なく活動でき、やりがいをもてそうかを試してみる期間限定のインターンのような場があれば、トライアルしやすいと考えられます。受け入れる側の心配も払拭でき、お互いのイメージをすり合わせることができるのではないでしょうか。
早稲田LRCの受講生は、今ゼミの活動を通じて各自の目指す活動を具体化しています。早稲田大学と電通は、その活動の実現に向け、支援を続けていきます。