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「人生100年時代」の可能性を拓くシニアの“兆し”No.1

捉えにくいシニアの“リアル”。いま注目のトレンドとは

2022/11/07

電通シニアラボとリクシスは、「人生100年時代の可能性を拓く兆しを見出すプロジェクト」を開始しました。この連載では、シニアの意識や意向を定量・定性調査で探り、その結果から見えてきたリアルなニーズやトレンド、今後のビジネスの可能性について、電通シニアラボの古賀珠実氏が紹介します。

第1回は、電通シニアラボ「シニアの兆し調査 2022」とリクシスの「介護職調査 2022」から見えてきた、3つの「ポテンシャル領域」についてひもときます。

電通シニアラボとは
「超高齢社会における社会課題解決」をテーマにシニアに関する知見の研究を通じてさまざまなインサイト・ソリューション開発を行う電通の社内横断プロジェクト 

リクシスとは
「『情報』と『つながり』で幸せな長生きを実現する」をミッションに掲げ、仕事と介護の両立支援クラウド「LCAT」、シニアビジネス創造支援事業・高齢者・シニア市場向けプロモーション&マーケティング事業を提供
ホームページ:https://www.lyxis.com/
<目次>

シニアは捉えにくいターゲット!?60代70代シニアニーズの「伸びしろ」
Top10を発表


「難聴対応スピーカー」への関心が7割超え 
介護現場でもエイジテックによる課題解決が一般化


「介護家族」は介護以外のニーズも高く、デジタルリテラシーも高い

シニア事業を支援する「シニアビジネス・タスクフォース」

 

シニアは捉えにくいターゲット!?
60代70代シニアニーズの「伸びしろ」Top10を発表

日本の中位年齢(※)は2020年時点で48.6歳、2030年には52.4歳になると予想され(出典:総務省統計局世界の統計2022)、人口の約半数が50歳以上になりつつあります。65歳以上の高齢者は3640万人と過去最多になりました。(出典:総務省統計局2021年)
今、シニアはボリューム層であり、企業のマーケティング担当者から注目を集めています。

※  = 中位年齢  
ある範囲の人口を年齢順で並べ、中央で2等分した時にその境界線上にある年齢のこと
 

一方で、「シニアにモノやサービスを提供するの  は難しい」というマーケティング従事者の声をよく耳にします。
その背景には、ポテンシャルのあるセグメントなどの情報が少ないことや、シニア社員がまだ少なく、マーケティング従事者自身がシニアの実感をもてないことからインサイトを読み違えやすい、などいくつかの課題が存在します。

そうした課題解決へのヒントを探った「シニアの兆し調査 2022」。図表1はその結果から、シニアが「(今)行っていること」と「これから行いたいこと」を比較したものです。

「行っていること」では、外食や子ども・仲間との付き合いが上位にあがるのに対し、「これから行いたいこと」では、「脳の健康」(81.3%)、「運動」(79.9%)、「食生活」(79.6%)、「疲労・元気回復」(77.0%)と“健康を維持向上するための活動”への意向が高くなっています。その次に、「スマホを賢く使う」(74.6%)、「断捨離」(73.6%)が続きます。

シニアの兆し#1_図版01

次に、「行っていること」と「これから行いたいこと」の差を見てみました。やりたい気持ちはあるが、まだ行動が伴っていない、気持ちと行動のギャップ=伸びしろと考えられます。

図表2のギャップTop10から、次の3つの領域が伸びしろとして見えてきました。つまり、シニアのマーケティングにおける「ポテンシャル領域」といえるものです。  

①快適な自立生活の模索

②周囲に迷惑をかけないための断捨離・終活

③健康メンテナンスと、エイジングケア

シニアの兆し#1_図版02-03

全体で見ると、Top10には「③健康メンテナンスと、エイジングケア」領域にあてはまるものが7つランクインしています。

対象者を「親や配偶者を介護・サポートしている」と回答したシニア(以下「介護家族」)に絞ってみると、「①快適な自立生活の模索」領域に「介護負担の軽減」が加わり、「②周囲に迷惑をかけないための断捨離・終活」領域には「エンディングノートの作成」「金融資産整理」「住環境整備」の3つが加わりました。

「シニアの兆し調査2022」の「生活と生き方」に関する質問の結果からこの背景を読み解くと、60代70代の87.1%が「自分が思うように生きていきたい」、94.9%が「迷惑をかけずに生きていきたい」と回答していることから、いつまでも自立して快適に暮らせるように手を打ちたいという気持ちが表れています。

一方、「介護家族」は「サポート意識」に関する質問で、82.3%が「介護が必要になったら少しでも負担を減らす商品やサービスをとり入れたい」、75.5%が「介護が必要になったらできるだけ医療関係者や介護のプロに任せたい」と回答。
在宅介護現場で20年以上の経験を持つ介護のプロ、リクシスの木場猛氏は「これまで『介護は家族が担うもの』という考え方が根強かったが、このように意識が変わってきていることを数字で確認できたことは感慨深い」と話します。

また、日頃介護を行う中で、周囲に迷惑をかけないよう、身の回りの整理をしておかなければと考える意識が、図表3「介護家族」の「終活」意向の高さに反映されていると考えられます。

「難聴対応スピーカー」への関心が7割超え 
介護現場でもエイジテックによる課題解決が一般化

では、シニアはどのような商品・サービスでニーズを満たそうとしているのでしょうか。

シニアの兆し#1_図版04-05

図表4は、不調が出てきたときにシニアが取り入れたいと期待する商品・サービスのランキングです。一般のシニアでも、Top10の中に4つの課題解決型「エイジテック」が含まれているのが特徴的です。

「エイジテック」とは、高齢者(AGE)とテクノロジー(TECH)を組み合わせた言葉で、加齢による体の変化や課題に対応して、暮らしや健康をサポートするテクノロジーを指します。このランキングの中では、「同じ部屋にいる人は同じ音量で誰でもはっきり聞き取れる『難聴対応スピーカー』」や「スマホで紛失物を探せる『紛失防止タグ』」「料理の見た目はそのまま『柔らかくできる調理家電』」「手を使わずに着脱できる『ハンズフリー・シューズ』」が「エイジテック」に該当します。

中でも、「難聴対応スピーカー」への関心は7割を超え、「エイジテック」に対するニーズが顕在化してきていることがうかがえます。

一方、リクシスがケアマネジャーやヘルパーなどプロの介護職を対象に実施した「介護職調査 2022」の「在宅シニアの役に立ちそうと期待する商品サービスのランキング」(図表5)を見ると、難聴対応スピーカーへの期待は8割超え。介護現場では「エイジテック」がより浸透していることがわかります。

また、プロの介護職が在宅シニアにも浸透を期待するものの中には、「コミュニケーションロボット」や「VRゴーグル」など、シニア本人がまだその価値に気づいておらず、今後浸透していくポテンシャルがあるアイテムがランクインしています。

プロの介護職にそうしたアイテムを挙げた理由をヒアリングすると、コミュニケーションロボットについては「デイサービスでロボットを抱いて話しかけ、笑顔を見せてくれた方がいる  」「男性も思わず笑顔になり、ロボットの頭をなでていた」などの回答が挙がりました。

シニアの兆し#1_写真01

VRゴーグルに関しては、「外出が難しい方に海外の映像を見せたところ『本当に海外旅行に行った気分になれた』と喜ばれた」「サファリの映像を見た方は、目の前に動物がいるみたい!と歓声をあげた」など、非日常感を楽しむ声を聴けたといいます。

プロの介護職は普段から「もっとシニアの話し相手になり、楽しませたい」と思っているものの、忙しさから十分に対応できていない、といった思いがあります。エイジテックはそこをカバーしてくれているテクノロジーなのです。

シニアの兆し#1_写真02

「介護家族」は介護以外のニーズも高く、デジタルリテラシーも高い  

いま「介護家族」は全国で653.4万人に上ります。「介護家族」と聞くと40~50代をイメージするかもしれませんが、老老介護という言葉が示す通り、60歳以上が335.2万人と半数以上を占めています。(出典:総務省統計局「令和3年社会生活基本調査」)

「シニアの兆し調査 2022」の中でも回答者となった60~70代男女計800人中に、介護家族が116人いました。「コロナ禍の影響」「スマホやパソコンの利用状況」「サポート意識」の質問への回答から、マーケティング視点では、シニアの「介護家族」へのアプローチのヒントが見えてきました。 

◆彼らの悩みは介護そのものだけではないこと  

  • そろそろ外出を増やしたいが体力や筋力が落ちている気がする 63.8%(全体57.3%)
  • 外出が増えると洋服や髪、化粧などが気になる 60.3%(全体51.1%)   

◆デジタルリテラシーが高いこと 

  • EC利用率が高く、月1回以上EC利用者が 64.8%(全体58.6%)
  • 親や配偶者の代わりにスマホやパソコンで調べたり予約してあげたことがある 69.8%(全体55.1%)  

◆ヒューマンセンタードデザインの可能性

  • 高齢者にとって使いやすいものは、障がい者や若い人にも使いやすいと考える人が 71.6%(全体68.6%)

こうした結果からは、今後、誰にでも使いやすい商品・サービスの設計ニーズがより高まっていく可能性があると感じられます。

シニア事業を支援する「シニアビジネス・タスクフォース」

電通シニアラボとリクシスは、こうした潜在的なニーズに応えていくべく、シニアの暮らしの安全性・快適性の向上を目指してシニア事業支援領域で共に支援をする「シニアビジネス・タスクフォース」を開始しました。

「シニアビジネス・タスクフォース」では、シニアと介護現場における両者の知見とネットワークを生かし、ヒューマンセンタードデザインをはじめとした商品・サービス開発やプロの介護職や介護家族へのアプローチなどをもって、シニアビジネスの成長を支援していきます。

シニアの兆し#1_図版06

次回は、電通シニアラボと早稲田大学Life Redesign Collegeとの取り組みから見えてきた、「プロボノ(社会貢献)層」の特徴と、彼らが抱える課題、解決に向けて必要なソリューションについてお伝えします。

【問い合わせ先】
電通シニアラボ 担当:小磯・古賀
senior-lab@dentsu.co.jp
 
【調査概要】
「シニアの兆し調査2022」
対象者とサンプル数:全国60~70代男女 スクリーニング9,825ss、本調査800ss
対象条件:スマホ・パソコン・タブレットのいずれかを所有し毎日1回以上使用する人
調査手法:インターネット調査
調査時期:2022年7月
調査実施管理:電通シニアラボ
 
「介護職調査2022」
対象者とサンプル数:介護職従事者 109ss
調査手法:インターネット調査
調査時期:2022年7~8  月
調査実施管理:リクシス
 

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