“DX先進国”中国で日系企業はいかにDXを進めるべきか?No.4
大規模調査から考察!「日本と中国」ヘルスケア意識の違いとは?
2022/11/30
コロナ禍を契機に、中国でも人々の健康意識や行動に変化が起きています。
電通グローバル・ビジネス・センターは、電通が日本で16年にわたり実施してきたインサイト調査「ウェルネス1万人調査」の主要項目について、中国でも2022年6月に調査しました(※)。
日本の調査(2021年実施)と比較すると、面白いギャップを発見しましたので、その一部を、「電通ウェルネス中国」の立ち上げを担当する薛倩(セツ セイ)と、メディカル・ヘルスケア領域を専門とするプランナーの瀧澤菜穂が紹介します。
※中国版は、調査対象者の設計などが一部異なります。詳しくはこちら。
<目次>
▼中国では「30代女性」の健康意識が高い!背景にある日中の生活環境の違い
▼デジタル化の進む中国。日本では健康系アプリの利用モチベーションの設計が急務!
▼中国と日本で異なる「機能性成分」の摂取率
▼話題のウェルビーイング度。男性よりも女性の方が高い日本と、男女差のない中国
中国では「30代女性」の健康意識が高い!背景にある日中の生活環境の違い
薛:中国版の「ウェルネス調査」は、一級&新一級都市(※1)在住の20~40代の男女4920人を対象にしました。中国で20~40代というのは、高度経済成長を支える労働力の中堅層です。経済力もあり、消費力も旺盛です。
しかし近年、「996」(※2)と例えられる労働時間の長さや、高騰する不動産価格に象徴される生活コストの高さに、ストレスを抱える中堅層の心身健康状況が注目されてきています。
※1 一級都市、新一級都市
中国都市局と中国都市研究院が2020年に共同発表した「2020年中国都市発展レベルランキング」に選ばれた都市。一流都市として39都市が選ばれ、そのうちの4都市が一級都市(北京、上海、広州、深圳)。同じく15都市が準一級都市(成都、重慶、杭州、西安、武漢、蘇州、鄭州、南京、天津、長沙、東莞、寧波、佛山、合肥、青島)とされた。今回ウェルネス調査を行った2022年も、一級都市、新一級都市は2020年と同じ都市が選ばれている。
※2 「996」
「朝9時から夜9時まで、週に6日間働く」の意味で、つまり1日12時間労働、休みは週1日、日曜日だけという勤務状況を指す。
瀧澤:日本版の「ウェルネス1万人調査」は、全国の20~60代の男女を対象としていたので実際はデモグラが異なりますが、今回は比較しやすいように、日本版も20~40代に絞ったスコアをご紹介します。
薛:まず「健康意識・行動」の全体的な傾向を見てみましょう。中国では、男性に比べて、女性の健康意識がやや高いです。そして、女性の中でもとりわけ30代が一番意識も行動力も高く、日頃から健康維持のために積極的に取り組んでいる様子がうかがえます。
瀧澤:日本でも全体としては、男性よりも女性の方が健康意識が高いのは同じです。でも、中国の場合、30代の意識が高いというのが意外でした。日本では、女性は年代があがるごとに健康意識・行動が積極的になります。つまり、60代が最も意識が高く実践している年代なのですが、中国で30代が高いのはなぜですか?
薛:中国では「健康=美」と見なされ、中国の女性は「美は体の内から生み出される」との意識が高いです。そのため、美のために食事に気を配ったり、ジムに通う女性がたくさんいます。中でも、経済成長期に青春時代を過ごした30代女性は経済力があり、将来に対して楽観的で、健康と美への投資を惜しみません。
そもそも、中国では以前から男女平等が進み、自立心が高く、自分に自信がある女性が尊敬される傾向にあります。そのため自分がまだまだいける、まだまだ上昇期にいると言えるように、健康管理、スタイル管理を積極的に行う女性が多いのです。
また、メディアの影響も少なからずあります。2児のママになっても筋トレを続ける30代女性の有名芸能人が、トレーニング姿を頻繁にソーシャルメディアにアップしているのを見習って、自分のランニングの写真、ジムでの写真をWeChatのMomentsやDouyinといったソーシャルメディアにシェアし、「健康な自分」のイメージを発信する30代女性がたくさんいるのです。
瀧澤:日本の20~30代女性も、美容目的の強い健康意識・行動が見られるのは同じですが、子どもを持つと優先順位が変わらざるをえないかもしれません。私自身も30代ですが、周囲を見ていると、生活が子ども中心になり、仕事をしている人は両立で精一杯という実情もありそうです。
薛:その点中国では、結婚・出産を経ても、お手伝いさんや自分の両親のサポートが手厚く受けられます。そのため、自分のために時間・お金を投資することを躊躇しない、というマインドが日本よりも強いかもしれません。
デジタル化の進む中国。日本では健康系アプリの利用モチベーションの設計が急務!
瀧澤:キャッシュレスの普及など、日本よりも中国のほうが生活の中におけるデジタル化が進んでいるとは知っていましたが、今回、いわゆるヘルステックの活用度合いについても顕著な差がでましたね。
例えば、スマートウォッチの利用率についてです。日本は、20~40代の現在利用率は12.8%にとどまりましたが、中国ではその倍以上の26.4%に上りました。
薛:中国では、デジタルは生活の隅々まで浸透しており、スマートウォッチの使用はその一つです。それにヘルス関連のアプリもたくさんあり、利用率がとても高いです。例えば、自国アプリ「悦动圈(※3)」「Keep(※4)」の利用率が3割ぐらいです。
※3 悦动圈=ランニングを記録し、共有するソーシャル機能付きの中国健康アプリ
※4 Keep=中国の多機能健康アプリ
瀧澤:日本でも、活動量や体重/食事を管理する健康系アプリは、スマートウォッチよりも身近に使用されています。ただ、どんなアプリも利用経験率と現在利用率の差分が大きいことから、一度は使ってみたもののやめてしまった、という人も多いと推察されます。
健康系アプリをやめてしまう理由としては「記録が面倒だった」が多いです。興味を持ってアプリを使い始めてはみたものの、すごくシリアスに悩んでいるわけでもないため、少しでも動作が面倒だと簡単に離脱してしまうのかもしれません。日本においては、モチベーション設計を成功させる難しさを日々感じています。
薛:中国では、ヘルス関連アプリの使用目的は「ボディメーキング」と「体質改善」がメインです。しかし、「記録があっても具体的な改善方法が分からない」ことが離脱理由のトップなので、やっていることに対して目に見える「リターン」を求めているのが分かります。「健康行動」の結果として、自分の体形をアピールしたい、といった意識は中国の方が高いように感じます。
瀧澤:続いてコロナ禍で話題になった「オンライン診療」についてです。日本はまだ20~40代の若い年代でも利用経験率が低く、5.6%にとどまります。ただ、今後の利用意向は34.3%に上っており、活用のポテンシャルがありそうです。
薛:中国はコロナ前から「オンライン診療」の利用がある程度ありましたが、コロナ後は利用率がさらに高まり、20~40代男女の利用経験率が71.3%と非常に高い結果が出ました。
また、オンラインで薬剤師から処方箋の説明を受け、配達してもらうサービスの利用経験率も70.2%と非常に高い。私も今年の春に、上海のロックダウン期間中に病院に行けないため「オンライン診療」を受けました。処方箋もオンラインで出してもらい、薬が後日自宅に配達されるという一連のことが、一つのアプリで短時間で完結できました。
中国と日本で異なる「機能性成分」の摂取率
瀧澤:健康目的での摂取成分のラインアップと、摂取率の比較も面白かったですね。日本では「乳酸菌」が、名称認知、摂取率、効能効果理解などで他の成分より高く、メジャーな存在なのですが、中国ではあまり話題になりませんか?
薛:近年は、ヨーグルト製品の広告などの影響で乳酸菌の認知も高くなってきましたが、それでも日本に比べて低いです。一方でビタミンとたんぱく質は非常によく知られており、これらのサプリメントが人気です。
瀧澤:もう一点驚いたのが、摂取率(ボリューム)です。中国の性年代別結果も見たのですが、20代男性で最も摂取率の高いタンパク質は49.4%、ビタミンは42.4%と、半数近くが摂っている機能性成分があるんですね。日本の20代男性で最も摂取率が高いのは乳酸菌ですが、21.6%にとどまります。
20代は他の年代に比べると、健診にひっかかるような不調を抱えていることは少ないでしょうから、日本だけの結果を見ている時は違和感がなかったのですが、中国は20代から「健康行動」として機能性成分の摂取が定着していることに驚きました。
薛:そうですね。中国では最近20代の若い人も健康管理に目を向けています。「パンク養生」(※5)という流行言葉に例えられるように、不養生な生活習慣を持ちながらも健康に執着を持つ彼らは、簡単に手に入る効果的な健康法を求めています。そのため、若い彼らに必要な成分として、ビタミンとタンパク質のサプリメントやドリンクの需要が高くなっています。
※5 パンク養生
パンクロック式健康法の意味。「肌の手入れをしながら徹夜する」「コーラに漢方薬を入れて飲む」などのように、「体を酷使しながら、いたわる」という真逆の行為を並行させるライフスタイル。
話題のウェルビーイング度。男性よりも女性の方が高い日本と、男女差のない中国
薛:最後に、今話題のウェルビーイング度(個人にとって心身ともに良好な状態)を見てみましょう。中国でもウェルビーイングの考え方は意識されていて、体の健康だけでなく、メンタルヘルスや人間関係、社会性などから、人々のウェルネスを包括的に見る考え方が広がってきています。
瀧澤:日本でもファッション誌がウェルビーイングの特集を組むなど、さまざまなところで目にする機会が増えました。ウェルネス1万人調査では、直近1年の「幸せ度」を100点満点中何点か、答えてもらいました。
薛:中国では、20~40代男女の平均値として、81.9点と高いです。性年齢別で見ると、男女ともに30代、40代が高め、また男女の平均スコアはそれほど差がありません。
瀧澤:日本は、男女ともに年代があがるほど少しずつ点数は上がります。男女を比較すると、女性の方が高めで、例えば40代だと男女で5点の差がありますね。
■まとめ
日本・中国における健康意識・行動には、それぞれの国の特徴を反映した違いがあり、中国市場を狙う日本企業にも、またその逆の場合にも、ヒントとなるファインディングスを数多く把握することができました。
電通では、今後も両国のヘルスケアプロジェクトが連携することで、生活者視点でのヘルスケア市場の把握とビジネス開発に役立てていきます。
(薛 倩)