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“DX先進国”中国で日系企業はいかにDXを進めるべきか?No.3

中国「新消費」から、日本のマーケティングの未来を見る

2022/07/14

<目次>

中国のスピードと試行錯誤から学ぶ

中国の「新消費」とは?

無人コンビニの栄枯盛衰は何だったのか?

EC巨大モール、ライブコマースのその先は?

「モノだけづくり」からの脱却

いわば「超高地トレーニング」

中国のスピードと試行錯誤から学ぶ

今後のマーケティング潮流はどうなっていくのか?何が本当の勝ち筋か? 

マーケティングに携わる誰もが知りたいトピックを、今回は、中国の「新消費」という切り口から迫ってみたいと思います。

中国市場は、プラットフォームや法規制など多くの点で日本と異なりますが、テクノロジーが消費行動に影響を与えるという点では、根っこに流れる潮流は同じだと考えられます。また、中国市場の特徴として、変化のスピードの速さが挙げられ、多様なテクノロジー、サービス、コンセプトがさまざまなところで試され、成功、失敗が至る所で繰り返されています。そのため、日本でこれから試そうとしているコンセプトが、中国市場のどこかで既にトライされ、結果が出ているかもしれません。

中国市場での栄枯盛衰を分析することによって、死に筋のコンセプトへの投資を避けられるのではないか?そうした観点からも、重要なアプローチだと考えています。

今回は、電通 グローバル・ビジネス・センターの山本肇が、電通マクギャリーボウエン・チャイナの藤井直毅氏にインタビュー。中国で長らくマーケティング業務に携わり、昨年末、書籍『新消費 デジタルが実現する新時代の価値創造』(プレジデント社)を上梓した藤井氏に中国の「新消費」について聞きました。

中国の「新消費」とは?

山本:まず、中国の「新消費」について聞かせてください。どのような現象のことですか。

藤井:「新消費」は、中国の消費のトレンドワードです。平易な言葉なのでいろいろな解釈がありますが、私は、社会の発展段階などに応じて変わる「消費に対する考え方・価値観」とテクノロジーに支えられた「消費の手段」の二つが掛け合わさった現象だ、と説明しています。

日本でも「コト消費」「顧客体験強化」が語られて久しいですが、それが最新のデジタル技術によってさらに進化したもの、と考えてもらっていいかもしれません。

無人コンビニの栄枯盛衰は何だったのか?

山本:コロナ禍以前に日本において中国の無人コンビニが話題になったことがありました。多くのマーケターが深圳(シンセン)まで視察に大挙して訪れたと記憶しています。その後、無人コンビニはどうなりましたか?

中国の無人コンビニ「Bingo Box」
中国の無人コンビニ「Bingo Box」

藤井:無人コンビニは正確に言うと、レジ要員・スペースを減らすことで人件費を抑え、販売効率向上を目指す「省人化」の取り組みの一環といえます。容易に想像できるキャッシュレスだけでなく、在庫管理や入退店のチェックのための各種センサー・カメラなど、さまざまな技術が組み合わされて実現しています。

伝統的な小売りと最新式のテクノロジーを組み合わせたものだといえますが、一時期中国で話題になった無人コンビニの有名企業は、そのネーミングのうまさに象徴されるような話題性の仕掛けやテクノロジーはあっても、根本の小売ビジネスの経験に乏しく、流行も長続きしませんでした。

しかし、省人化の背景にある人件費の高騰は先進国共通の課題ですし、中国だけ技術水準が飛び抜けて高いというわけでもありません。今では、米国のAmazon Goや日本でもTOUCH TO GOなどが、それぞれの国の環境にあわせた省人化ソリューションを運用しています。

TOUCH TO GO高輪ゲートウェイ
TOUCH TO GO高輪ゲートウェイ

山本:無人コンビニの栄枯盛衰から学ぶことは何でしょうか?

藤井:こうしたソリューションは中国だけの専売特許というわけではありません。でも、こうして「中国発」として日本に知られるくらい無人コンビニという言葉が広まったのは、多少の未完成や経験の欠如を承知の上でもそれに投資する人々がいて、そこから調達を果たした人たちが素早く実際のビジネスにつなげたことが理由でしょう。

あまりステレオタイプに決めつけてはいけませんが、中国の消費者は派手で素早い行動が得意な一方、地味で持続的なことをコツコツ積み上げることが苦手だということを、実際に日常生活でも感じます。この無人コンビニもその国民性がわかりやすく表れた例ではないでしょうか。中国は過去、非常に変化が激しかった。だから手を替え品を替え、新しいことを打ち出すことが合理的になっていた、とも言えると思います。

しかし、経済成長も落ち着き社会も安定して、これからはよりサステナブルなビジネスを考えなければいけない。また隣国の日本から学ぶこともあると考える人も多いでしょう。そして言うまでもなく、私たちは彼らの思い切りの良さ、新しい技術への向き合い方から学ぶものも多いでしょう。そうした意味で、皮肉に聞こえるかもしれませんが、技術や実施速度といった、よく「中国はすごい」と言われること「だけ」では成功できなかった無人コンビニ騒動は、私にとってはとかく古い、鈍重などと言われがちな日本企業のやりかたが、実は中国でこれから需要があるのでは、と思わせられた出来事でした。

EC巨大モール、ライブコマースのその先は?

山本:コロナ禍の影響もあり、日本でもライブコマースへの注目が集まっていますが、中国の現状はどうですか?

藤井:ライブコマースは既に店舗販売などと同様、普通の販売チャネルの一つになっています。言葉を替えれば、イベント的に「今晩ライブコマースやります!」と言ってするものではなく、毎日毎晩決まった時間に実施されているもの、ということになります。

それに従って、外部の有名インフルエンサー(中国では“KOL”と呼ぶことが多い)を招くというよりは、平時は自社のリソースでまかない、特別なセールなどで宣伝や大量の販売が必要な時にこうしたインフルエンサーとコラボする、という形が多くなってきたように感じます。社内に配信スタジオを設けたり、制作チームを内製化したりといった例を耳にします。

山本:トップインフルエンサーの世界も激変していると聞きます。

藤井:日本同様、インフルエンサーは非常にはやり廃りが激しい業界です。昨年、一昨年はライブコマースで何百億円と売り上げるような人たちが非常に話題になりましたが、上記のような内製化の影響、そして不祥事などもあり、いったん小休止という感じかもしれません。芸能界全体を見ても、昨年から脱税などの取り締まりが非常に厳しくなり、話題が乏しい一年だと感じています。

「モノだけづくり」からの脱却

山本:新消費の潮流の中では、メーカーという存在自体の定義も変わってきていますね。

藤井:モノがあふれる豊かな社会においては、単に困りごとを解決する機能を提供するだけのものは無数に市場に並び、その中で目立つことは非常に難しいのが現実です。それでも諦めずに圧倒的な機能を提供するための研究開発を進めることも必要だと思いますが、同時にコト=体験を売る、という意識をもっと強く持たなければならないでしょう。商品やその機能は体験の重要な一部ですが、全てではありません。

誤解のないように申し上げたいですが、商品が重要でなくなったという意見は、私は間違っていると思います。コア価値である商品機能を軽視して浅薄な「ブランディング」に走っても、無人コンビニのようにすぐに淘汰されるのがオチです。

しかし、メーカーの役割がより重くなり、「モノづくり」から、より複雑で大きな「体験づくり」が求められるようになってきているということは言えるでしょう。「モノだけづくり」を続けていたら、ビジネスの主導権を失い、誰かから仕事をもらうだけの立場に追い込まれかねません。

いわば「超高地トレーニング」

山本:最後に、中国市場でのマーケティングにチャレンジすることの面白さについて教えてください。

藤井:中国はとにかく非常に大きな市場で、新しいものが現れる頻度も高い。一時に比べれば落ち着いた感もありますが、今でも毎月のように新しいアプリやブランドが現れては消えてきます。

海外に出ると、ビジネスであれ生活であれ、完成され成熟した日本の良さも強く再認識するのですが(笑)、「努力すれば必ず報われる」という信心に支えられた中国市場のダイナミズムは、日本では得難いものです。なんとなく「自分はこれくらいかな」と小さくまとまってしまうのではなく、人生にはいろいろな可能性があるということを実感できることは大きな魅力です。

一方、中国のビジネス環境は日本人にとって非常に厳しいことも事実です。特に中国を市場として考えた場合、中国人の気持ちや文化習慣を理解し「売る」ことが何より重要ですが、それは残念ながら日本人には難しいことです。既に日本の技術や商品に圧倒的なアドバンテージがないことも多く、私たちは常に、自分たちが提供できる価値を自問自答しながら日々仕事をしています。

また、だいぶ落ち着いてきたとはいえ、ビジネス習慣も日本の常識から考えればかなり「自由」です。そんな「自由」な企業が競争相手になるのです。コンプライアンスや法律などに違反しないことは前提の上で、日系企業は外国人の外資企業であるというハンディを抱えたなかで、どんな手段を使ってでも競争に勝つことを考えなければいけません。

私の上司はそれを「超高地トレーニング」と呼んでいますが、確かに「前例だから」「誰かが言ったから」ではなく「なぜやるのか」「どうやるのか」を徹底的に考え、突き詰めて行動するというのは大きな負荷である半面、自分をより早く、高く成長させてくれる環境だとも言えます。それは個人としての成長だけでなく、これからさらに日本国外で稼がなければいけない企業そのものの体質を研ぎ澄ませ、強靭に鍛えあげていくのではないでしょうか。

とはいえ、厳しい話ばかりではありません。中国で生活していると、日本のブランドや商品、日本人に対するリスペクトを所々で感じます。そうしたものをうまく取り入れながら、超巨大な中国市場でビジネスを発展させる余地はまだまだあります。電通は日本国内のリソースはもちろん、中国進出をした日系企業としてはパイオニアの部類に入り、中国ビジネスの酸いも甘いも最も多く味わっている会社の一つだと自負しています。「今の中国で日系企業としてどのようにビジネスを広げていくのか」、簡単な課題ではありませんが、これからも日系企業の皆さまの挑戦をぜひサポートしていきたいと考えています。

山本:世界の市場環境が激変している現在において、世界各国の市場環境に合わせたマーケティングを素早く実施することの重要性が、さらに高まってきていると考えられます。その意味で、高速PDCAが繰り返されている中国市場をウオッチし続け、そこからの学びを日本、アジア、その他のマーケットにフィードバックしていくアプローチが有効だということを、本日、改めて認識しました。ありがとうございました。

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