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支持され、愛され、長く売れ続けるために。ファンベースCXプログラムNo.2

ファンがファンを増やす好循環、ファンベースCXループとは?

2023/01/30

「企業を愛するファン」をビジネスの土台に置き、中長期的にコミュニケーションしながらビジネスを安定的に成長させる方法。それが、“さとなお”こと佐藤尚之氏の提唱する「ファンベース」だ。

予算をつぎ込んだ短期キャンペーンで話題化を図り、大量の新規顧客を獲得する。そんな手法が、今や通用しづらくなってきている。しかし、ファンベースの上にさまざまな短期施策を重ねていくことで、既存ファンが新規ファンを獲得してくれるループをつくることができるという。

ファンベースカンパニーの会長を務める佐藤氏と、電通CXクリエーティブ・センター(以下、CXCC)の並河進氏が、2社が共同して提供する「ファンベースCXプログラム」の狙いを語った。

ファンベースCXプログラム

「ファンベースCXプログラム」
電通が取り組んできた「CX全体の統合的なコミュニケーション」を、ファンベースカンパニーが得意としてきた「ファン中心の視点」で見つめ直し、再構築した新しいプログラム。以下の4つの価値を提供する(リリースは、こちら)。

① 現在のファンとの関係性を強化し推奨意向を向上させる、一体化されたコミュニケーションアイデアの立案と実施
② ファンの思いと推奨行動を新規顧客獲得拡大につなげるクリエイティブ施策
③ 社員のモチベーションを上げ、社内のファン度を高める「社内ファンベース」
④ ファンベースカンパニーの独自開発ツール「ファンベース診断」を用いた分析と継続的な効果検証


 

「ファンベースCXループ」という好循環を生み出せ!

並河:前回はファンベースの基本の考え方について伺いましたが、今回は、ファンベースカンパニーと電通のCXCCが共同で企業に提供する「ファンベースCXプログラム」を紹介したいと思います。まず、細かい話に入る前に全体像として、根幹にあるファンベースCXループの概念図を見ていただきましょう。

ファンベースCXプログラム

並河:これはファンベースとCXを組み合わせた図です。従来のファネルとかデュアルファネルといった概念図と違って、ループになっているのがポイントですね。

佐藤:よくあるファネル図だと、認知から入って購入まで至る一本道なんですが、その後も顧客体験(CX)は続きます。まず右側のループが、既存ファンによる「LTV」(※1)のループで、ファンはずっと買い続けてくれる。そのLTVを向上させることをベースにしつつ、ファンベースのもうひとつの要素であるファンの「推奨」により、新たな認知や購入も起こる。それが左側のループです。この2つのループによって、ファンベースがより確固たるものになっていきます。

並河:ファンによるぐるぐるの渦を、僕は勝手に重力場と呼んでいますが(笑)、この重力場にファン以外の人も引き寄せられていくのが、ファンベースCXループです。人が引きつけられるブランドって、単純に良い商品があるだけじゃなくて、それを愛するファンたちも含めてブランドになっていると思うんですよ。ぐるぐる回るファンたちの熱がブランドや商品の中核にあって、その熱をいかに高めるかという考え方ですね。

佐藤:ファンの温度を高めることによるLTVの継続的向上、ファンによる推奨と新規(顧客)獲得、これを全部やっているのがファンベースCXですね。売り上げでいうと、LTVが大きいんですよ。売り上げの8割はファンによるものですから。ファンベースって精神的な話だと思われがちなんですが、実は売り上げに直結しています。

並河:ファンベースCXプログラムは、この理想的なループにいかに近づけるかというのが基本になっていますね。僕らは「CXの好循環を生み出す」という言い方をしています。じゃあ、実際にどうやってファンの温度を高めていくのか。ファンと接する場所って実はいろんなところにあります。店頭もそうだし、ウェブサイト、SNS、YouTubeチャンネル、あるいはメールや手紙を送る、特別なイベントを開催する。そういうものを新たに始めたり、改善したりしていくのが、今回のプログラムです。そこにCXCCのメンバーもいるので、アイデアやクリエイティビティを発揮できると思います。

※1 LTV:Life Time Value(顧客生涯価値)。一人の顧客がライフタイムを通じて企業にもたらすトータルなバリューのこと。


ファンベースCXプログラム

本当に大事なことはファンたちが知っている?

並河:前回の記事でさとなおさんは、企業がファンミーティングを実施して、ファンの声を傾聴することを勧めていましたよね。僕は最近、ある手帳メーカーとの取り組みで、ファンを集めてお話を聞いてみたんです。

前回、「機能価値」のお話がありましたが、例えば手帳の機能である「スケジュールを管理する」みたいなところは、それこそ、デジタルで代用できてしまったりします。でも、その手帳のファンの皆さんに話を聞くと、「自分が書いた文字で、そのときの感情を思い出す」とおっしゃるんですね。そういう「情緒価値」をその手帳に対して持っているから、毎年その会社の手帳を買うんだ、と。

そこで思ったのが、「ファンがどういう思いでその商品を使っているのか」を知るのが、すごく大事だなということです。というのも、新規顧客を獲得しようというときに、「そうじゃない使い方」をアピールして買ってもらったとしても、結局、ファンにならずに離れていっちゃうんじゃないかなと思うんですね。

佐藤:ファンにならずに離れていくし、情緒価値を外したキャンペーンとかをしてしまうと、大事な既存ファンも離れていってしまう可能性がありますね。

並河:そうなんです。だから、既存ファンがどんな気持ちで、どんなふうに商品を使っているかというのは、新規顧客を獲得するときにもすごくお手本になるとわかったんです。既存ファンというのは、新規顧客のいわば“先輩”ですから。

佐藤:それはすごく大事な話です。だいたいその先輩たちが愛しているところを、後輩たちも愛するんですよね。新規向けに全然違うアプローチをしても、その境地に全くたどり着かずに離れてしまいます。

企業にしても、広告会社にしても、「その手帳を好きな人たちは放っておいても使うんだから、放っておこう。それよりも新規顧客を」と考えがちなんですね。でも、放っておいたら絶対にダメなんです。ファン度は放っておいたら下がっていくんですよ。ちゃんと既存ファンのファン度を上げることで、「LTV」も上がるし「推奨」も発生する。ファン度を高めるためには、ファンたちが好いてくれている部分が一番大事なんですね。

並河:わかります。その手帳のファンミーティングですごく感じたのが、ファンの方ってまずその商品の使い方が上手なんですよね。「こういうときはこういうふうに使うといいよ」みたいなお話をすごく知っていて。

佐藤:ファン同士のネットワークもありますからね。企業側がコミュニティをつくらなくても、ファン同士はつながって情報交換しているので。

並河:「機能価値」「情緒価値」「未来価値」のお話を前回しましたが、企業ってどうしても、機能価値を高めて、前面に出していこうと考えるんですよね。でも、ファンと対話することで、ファンが好いてくれている情緒価値を理解すれば、それが企業側の“気づき”になって、商品の改善や開発に生かすことができる。ファンベースCXでは、そうやってファンと企業が相互に気づいて、相互に成長していくプロセスを理想としています。

佐藤:そうやってファン度が高まり、LTVも高まり、推奨によって新たなファンもループに加わって、どんどん好循環ができるというのが最高だと思いますね。

並河:ファンベースカンパニーのやり方で面白いなと思ったのが、ファンミーティングで「ファン同士が話す」ことをすごく大切にしている点。質問を投げかけていくグループインタビューとは違っていて、ファン同士で話してもらうとどんどん話が出てくるんですよ。

佐藤:モデレーターが主導権握って順番に質問していくみたいなのは、どうしてもモデレーターの思惑が入ってしまったりしてファンの意見が反映されにくいんですよ。そうでなくて、ファンに自由に盛り上がってもらう。やっぱり、ファン同士だから生まれる熱というのが大事で。

といっても最初のうちは、ファンもどこが好きなのかを言語化できていなかったりして、食品や飲料だったら「おいしいですよね」みたいな機能価値の話しか出てきません。みんな意外と一番好きなところを忘れていたりする。でも、すごい熱いファン仲間に出会うことで、徐々に「ああ、私もそうだった!」「あそこが最高ですよね!」「私はこんな体験が」と加速していくので面白いんです(笑)。ファン同士の会話を盛り上げることで、自然と金言だらけになっていくんです。

並河:そうして得たインサイトを基に、またよりよいCXを開発し、ますますファン度が高まる。まさに理想のループですよね。新規顧客にどうアプローチするかを考えるときにも、既存ファンの視点や考え方を「ベース」にする、というのも、ファンベースCXのポイントですね。

ファンベースCXプログラム

広告クリエイターの培ってきた能力をCXに生かす!

並河:広告の多くは、興味のない人たちに知ってもらうことや、振り向いてもらうことを目的にしているけれど、でも本当は、振り向いてもらってからが始まりなんだ、というのが今の考え方ですよね。

佐藤:そうですね。

並河:商品を買った後のお客さまにどう寄り添っていくか。さまざまな顧客接点におけるCXを「線」で捉えて、いわば一筆書きで体験全体をつくっていく。僕らCXCCは、100人ほどのクリエイターのチームで、体験の質だったり、きめ細かさだったり、驚きだったり、そういう体験をクリエイティブの立場からつくっていくことをしています。発足から2年ですが、この2年を振り返ると、「振り向いてもらった後も大事なんだ」という、意識のチェンジが進んでいます。

佐藤:なるほど、広告クリエイターがCXに取り組むことで、意識のチェンジが起こっているというのは面白いですね。

並河:僕自身も、新規顧客を振り向かせる広告を最重要視する思い込みがあったのですが、一回その思い込みを解き放ってみたら、例えば自分が企業やプロダクトを好きになるときって、広告が占める比重って、そこまで大きくないときも多いですよね。それよりも日々のサービスだったり、お店での体験だったり、ウェブサイトやSNSだったり、その全てにおける体験が大きくて。そうしたさまざまな体験の大切なone of themとして広告がある、というふうに捉えるようになりました。

佐藤:広告の役割はもちろんあるんだけど、お金をかけるにしても、今までの比重と少し考え方を変える必要があると思いますよね。

並河:クリエイターの立場でも、広告だけやっているよりもチャンスは広がるんだなと気づきました。クリエイティブの力ですてきな「体験」や「表現」をつくれる場所が、広告以外の顧客接点にも広がったわけで。お店でつくってもいいし、ウェブサイトでつくってもいい。

CXの領域って、かつては、クリエイティブ以外の「仕組み」的なものが先行していたんですね。CRM(※2)はこういうテクノロジーがあるとか、このプラットフォームはこういうことができるとか、領域ごとにサイロ化しているところもあって。その仕組みに対して、自分たちのクリエイティブで何ができるかをやってみたのが、この2年間です。仕組みの中で、それを体験する人が幸せだと感じたり、あるいはストレスを感じなかったり、という部分ですね。そんな中で、領域ごとに考えるのではなく、顧客体験を線で捉えて、その一筆書きの全部を「ファン視点」で見直すことにチャンスがあると感じて、今回組ませてもらったんです。

佐藤:やっぱりファンベースとCXというのはつながっていて、電通のクリエイティブの強みがすごく生かせると思うんですよ。

並河:CXCCのクリエイターも、ファンと対話する中で、いろんな発見や気づきがあります。

佐藤:それはそうですよね。コピーライターにしても、一時期から「目立たせるプロ」「気を引くプロ」にちょっとなってしまっていたけど、彼らの本質は「共感のプロ」ですからね。

並河:クリエイターの力って気づく力なんじゃないかな?というのはすごく思っています。どうしても、クリエイティブというと「作る力」に目がいきがちです。だけど、ファンと話す中で、そのファンの気持ちや行動の中から「ああ、これだ」というところに気づく。そこから、ファンたちが喜ぶ表現にジャンプアップすることができる。いわばファンと共に創る、共創です。

佐藤:クリエイターがファンに共感した上で、表現にジャンプアップできたら、ファンたちは熱狂すると思います。これからはそういうところにクリエイターの力が必要とされていくのではないかなぁ。

※2 CRM:Customer Relationship Management(顧客関係管理)。一人ひとりの顧客に適切な対応をすることで、顧客との良好な関係を維持・促進すること。


ファンベースCXプログラム

ファンに喜んでもらうことほど、幸せな「伝える仕事」はない

並河:僕はファンベースCXプログラムについて、幸せな仕事になっていく気がしています。企業のことが大好きなファンの方と出会って、企業の方も喜んでくれるし、すごくうれしい体験なんですよね。そんなファンから学んで、商品や事業やコミュニケーションを良くしていく。それが企業の成長につながるのって、クリエイターにとってもとても幸せな体験で。

佐藤:それ以上幸せなこと、ないんじゃないかなと思います(笑)。われわれは大きく言うと「伝える仕事」をしているわけですけど、企業が血と汗と涙で作り上げた大事な商品を、大好きだといってくれる人たちがいて、その人たちを喜ばせることほど、幸せな「伝える仕事」はないかなぁ、と。

並河:ファンベースは、考え方のベースであり、顧客基盤としてのベースであり、ビジネスのベースで、そういう確固たるものの上にCXを描いていくというのは、これからのひとつのよりどころになっていくと思いました。

佐藤:企業は、もともとは誰かの役に立って、誰かに喜んでもらうために商品やサービスをつくったはずですよね?それなら、一番喜んでくれている人たちをまず見るというのが、商売の基本だと思うし、そこに戻るだけなんじゃないかと思いますね。

並河:実は、本当に素晴らしいテレビCMとか、素晴らしい表現には、その視点がちゃんと含まれていると思います。

佐藤:そう!必ず含まれていますよね。だから、新しいというより、あるべき姿に立ち返るのがファンベースCXだと思っています。

並河:僕もすごくその考え方がしっくりきています。どうもありがとうございました!

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