loading...

支持され、愛され、長く売れ続けるために。ファンベースCXプログラムNo.1

今、企業活動を「ファンベース」にシフトすべき理由

2023/01/25

急激な人口減少。超高齢化。超成熟市場。情報過多……。

企業を取り巻く環境は厳しさを増し、新規顧客獲得も困難になりつつある。そんな時代に、全ての企業が活動の根幹に据えるべき考え方が、“さとなお”こと、佐藤尚之氏が提唱する「ファンベース」だ。

全顧客の20%でありながら売り上げの80%を支える「ファン」を大切にし、企業活動の「ベース(支持母体、土台)」として、中長期的に売り上げや価値を上げていく。そこに企業が成長していく鍵がある。

今回は、佐藤氏のファンベースカンパニーと協業を進める電通の並河進氏が、ファンベースの基本を聞いた。

関連記事:「ファンベース」が世界を楽しくする。営業がそれを加速する。

 
ファンベースCXプログラム

 

世界に膨大な情報があふれかえり、「伝える」ことが困難に

【ファンベースが必然な3つの理由】
1.ファンは売り上げの大半を支え、伸ばしてくれるから
2.時代的・社会的にファンを大切にすることがより重要になってきたから
3.ファンが新たなファンをつくってくれるから

並河:さとなおさんが書籍「ファンベース」を書かれたのが2018年、今から約5年前です。そして今、僕がクライアントと接していて、多くの企業がファンベースを重要視している感触があります。まず、どうしてこの本を書かれたのか、教えてください。

ファンベース
佐藤尚之「ファンベース-支持され、愛され、長く売れ続けるために」(筑摩書房) ISBN:978-4-480-07127-9/定価:本体880円+税

佐藤:僕は25年間電通にいて、その間、「新規のお客さまに対して、広告の力で認知を広げ、シェアを増やす」仕事をやってきました。そして2008年に「明日の広告」という本を書いたころから、コミュニケーションデザインという領域を開発し始めました。

2008年だと、まだテレビが強いとかネットが強いとか、広告業界ではメディアの評価が先に立っていたんですが、メディアの強弱よりも大切なのは「生活者に伝わること」。その生活者に伝わるメディアが良いメディアです。そう考えて、生活者を中心にメディアを自在に組み合わせてコミュニケーションを設計しようとしていたんです。そのころ、すでに「もう広告は伝わりにくいな」という絶望感はありました。そして実際、そこから数年で本当に伝わらなくなっていきましたね。

並河:本に書かれていた、従来の「新規顧客獲得」のやり方が通用しなくなったというお話ですね。

佐藤:ただ、よく誤解されるんですが、新規顧客に対して認知度アップを図ること自体がダメになったわけではありません。でもその打率がすごく下がってきたので、違う「ベース」を持ちましょうというのがファンベースです。

なぜ打率が下がったかというと、やっぱり情報が多すぎる。2020年の1年間に世界に流れた情報量は59ゼタバイト。1ゼタバイトが世界中の砂浜の砂の数といわれるので、まあ無限中の無限ですよね。こんな状況で企業が発信する大切な情報を見てもらうなんて奇跡的だし、見てくれたとしても覚えていられない。

そして、コンテンツも多すぎる。1日に投稿されたYouTubeの動画を全部見終わるのに82年かかるといわれます。これ以外に動画配信サイトはもちろんのこと、SNS、音声メディア、テレビもラジオも新聞・雑誌もある。日本人の可処分時間が平日で2時間半というときに、こんなに情報もエンタメも無限にあって、企業の思惑通りに広告を見てもらうことは難しい。

新規顧客を獲得しようとして大々的にCMを打ち、話題化できても、一瞬だけ盛り上がって終わってしまう、という悩みを抱える企業は少なくありません。せっかくキャンペーンをしても一瞬のカンフル剤で終わり、すぐ忘れられて、次のキャンペーンとのシナジーが生まれない。ぶつ切りの状況なんです。それを繰り返しているのは貴重な予算がもったいないなという課題意識がありました。

並河:たしかに、メディアやコンテンツが爆発的に増えていて、従来のようにマスメディアで一斉に届けるというやり方が難しくなってきていると思います。

佐藤:一方で、日本の人口が急激に減りつつあります。今後30年で約3000万人減るといわれているんですよ。加えて超成熟市場、超高齢社会。情報やコンテンツが過剰に多い上にこの状況です。これまでのように新規のお客さまを獲得する商品やサービスを話題化することは、とんでもなく難しくなってくる。根本的に考え方を変えなければならなくなりました。

このように、僕は企業から生活者に「伝える」ということに対して、いったん絶望的になっていたんですが、一つだけ突破口があることに気付きました。これだけ情報にあふれた世界で、一番信頼できる情報源は何かというと、「家族や友人」がもうダントツなんですね。専門家とかメディアとかタレントとかインフルエンサーよりも、圧倒的に信頼される。

考えてみると当たり前ですよね。情報やメディアが無限にあり、検索してもどこに正しい情報があるかもわからない時代において、一番価値観が近い人、僕は「類友」と呼んでいますが、その人たちからの情報を人は一番信用するんです。本の中ではエデルマン・ジャパンが2016年に調べたデータを載せましたが、2022年にうちの会社でもう一回調べ直したところ、もっと加速度がついて、家族・友人が信頼されるようになっているんですよ。

ファンベースCXプログラム
ファン総合研究所「推奨行動に関する調査」(2022速報値)より。N=25,482

佐藤:そうなると、この「圧倒的に伝わらない時代」に、われわれがちゃんと考えるべき唯一のルートは、信頼できる家族や友人からの「推奨」だろう、と。そこを中心に広告コミュニケーションを再構築するべきだろう、と。

並河:なるほど。いわば口コミですよね。

佐藤:そうです。そここそがいまの時代、一番確かなルートだということです。そして、企業やブランド、プロダクトを口コミで一番強く推奨してくれるのは誰かというと、「ファン」なんですよ。ファンこそが、自分と価値観の近い家族や友人(類友)に強く推奨してくれ、大きな影響を与えてくれます。

ここでもう一つ重要なのが「パレートの法則」です。有名ですが、「2割のファンが(全体の)8割の売り上げを支えている」というものですね。私もいろいろ調べましたが、ほとんどのプロダクト、サービス、サブスクに至るまで、だいたいパレートの法則は当てはまります。長期的に見ると、たしかに「2割のファン」が繰り返し買って、大半の売り上げを支えていることがわかります。

人口が激減する中で、新規顧客の取り合いは修羅の道ですよね。そうではなく、まず8割の売り上げを支えてくれている2割の「いまいるファン」を大切にすることが、時代的にも必須になったと思います。既存のファンに向き合い、喜ばせることでより「ファン度」を高めてもらい、彼らがもっと買ってくれれば、売り上げはじわじわと上がっていく。ファン一人ひとりの「LTV」(※)を高めるという考え方ですね。そして、ファンから周囲の類友への「推奨」も非常に効くわけです。類友は感性が近いので、新たな「ファン」になってくれる可能性が高い。

並河:つまり、既存のファンの存在を土台とし、「ファンのLTV」と「ファンからの推奨」を生かして企業やブランドを成長させていく、これがファンベースの基本的な考え方なんですね。

佐藤:そうです。短期的な爆発力はないんだけど、ファンを喜ばせることで中長期的にじわじわと売り上げが上がっていく。そういうファンの存在を「ベース」にした上で、今までのキャンペーンなどのやり方も組み合わせて、中長期と短期の組み合わせで売り上げを上げていきましょう、というのがファンベースの骨子です。

※LTV:Life Time Value(顧客生涯価値)。一人の顧客がライフタイムを通じて企業にもたらすトータルなバリューのこと。
 
ファンベースCXプログラム

ファンベースは、「ファンマーケティング」でも「ファンビジネス」でもない!

並河:ファンベースという言葉ですが、改めて、さとなおさんの中でどんな定義か、教えてください。

佐藤:文字通り、ファンをベース(支持母体、土台)にするという考え方なんですが、似た言葉で「ファンマーケティング」とか「ファンビジネス」がありますよね。僕は「ファンをマーケティングする」という考えがまず嫌で、強硬に反対しています(笑)。マーケティングって言ってしまうと、そのファンを思い通りに動かしてやろうみたいな、上からの目線の万能感がどうしても入ってくる。でも、ファンは一緒にブランドを育てていく仲間なんです。仲間はマーケティングで動かしたりする対象ではありません。同様に「ファンビジネス」という言葉も、ファンからもうけてやろうというニュアンスを感じます。そういう偉そうな感覚はファンたちに見透かされ、失望されます。

ファンベースとは、あくまでもファンにもっと喜んでもらって、結果としてLTVが上がり、類友に推奨してもらう土台です。企業の価値や売り上げを支えてくれる、強固なベースなんです。

並河:企業の活動にとって、まず既存ファンの存在が「ベース」になり、その上にいろんなものが乗っかっていくということですね。

佐藤:日ごろから既存ファンと向き合い、喜んでもらって、ちゃんとベースとして積み重ねていく。企業側はどうしても新規顧客の方ばかり気にしがちですが、短期的なキャンペーンにしても、一番喜んでくれるのってやっぱりファンなんですよ。「ほら、今キャンペーンやってるあれ、私ファンなの!」と類友に推奨するきっかけにできる。普段のファンベースの施策を大事にしながら、そのベースの上に短期キャンペーンを打つことで、ぶつ切りにならず、継続的な効果が出せるようになると思いますね。

ファンベースCXプログラム

佐藤:まとめると、中長期的に既存ファンのLTVを高めていく施策に、今まで広告会社がやってきたような短期施策。両者を組み合わせることで、企業の着実な成長が実現できるのではないでしょうか。

「うちにファンなんかいませんよ」は本当か?

並河:ちょっと話は戻るんですが、そもそもファンとは何か?を、もう少し掘り下げて伺えればと思います。さとなおさんが本を書かれる前までは、ファンという言葉のイメージって、アイドルやスポーツチームのファンみたいな感じだったと思います。

佐藤:ウォウウォウ!みたいなね。

並河:はい(笑)。そのイメージが強いので、クライアントと話していても「うちにはそんな、ファンなんていませんよ」と言われることが多いんです。やっぱり、ライブやスポーツ観戦に行って熱狂しているような、「いわゆるファン像」を想像されているのかな、と。でも、さとなおさんの言うファンは、もっと広い意味ですよね。

佐藤:そうです。支持者であり理解者でもありますね。例えばJリーグのファンでも、そのチームが強ければファンが増え、弱ければファンが減る、なんてことを言われたりしますけど、僕はそれはファンではないと思っています。そのチームのサッカーに対する考え方や、選手育成についての考え方、地域貢献に対する考え方などもある程度理解して支持してくれている人たち。そういう人たちはチームが弱くなっても離れません。そういう方々こそが「ファン」だと思うし、そういうファンってどんな企業にもちゃんといるんです。

そのブランドやプロダクトの値段とか利便性とかではなく、その背景にある考え方やミッション、哲学などに「共感」や「愛着」や「信頼」している人たちこそがファンです。人はプロダクトそのものではなく、その裏にいる「人」に対してそういう感情を持ちます。どのプロダクトの裏にも「人」の考え方や苦労やストーリーがあるわけですよね。それがとても大事です。

並河:業種的に、自動車メーカーとか、飲料品メーカーだとファンがいるのもイメージしやすいのですが、実はインフラ系の企業にも、BtoBの企業にもファンはいるんですよね。

佐藤:200社以上のファンベースを支援してきましたが、本当にあらゆる業界で、確実にファンはいます。それほどこだわりがない人なら見分けがつかないような工業用手袋のファンを集めてファンミーティングをしたこともありますが、熱狂的なんですよ。だから、企業側がみんな感動的にびっくりされますね。「うちにもファンがいるんですね」と。僕たちもうれしいけど、企業の方はそういうファンに会って6~7割泣かれたりしますね(笑)。

ファンベースCXプログラム

ファンベースの第一歩はファンミーティングと傾聴にあり

並河:先ほどの「人は人に共感する」というお話をもう少し伺います。本の中で、ファンの温度が高まっていくと、機能価値から情緒価値へ、情緒価値から未来価値へと進んでいく、というお話がありました。まず機能価値ですが、これはあらゆるプロダクトやサービスが持っているものですよね。

佐藤:利便性とか、価格が安いとか、品質が良いということですね。僕も広告制作をしていたのでこれを言うのは正直つらいのですが、広告って、機能価値、つまり商品特徴をコアバリューと考えて、コピーやビジュアルで表現することが多かったじゃないですか。他の商品と比べてここが強みなんだと、それをすごく良い言葉にして届けるのがわれわれの仕事だった。

でも、もうこの超成熟市場の時代には、機能価値はどうやっても陳腐化していきます。他社に追いつかれちゃうんですね。「安い」という機能も安さ競争になって追いつかれる。すごく便利なアイデアも、他社がどんどんまねしてくる。ほとんどの商品がどんぐりの背比べになっているのが、超成熟市場なんです。

そういう時代、機能価値だけではなくて、商品の背景に人々が感じてくれる情緒価値、いわゆる感情が大事です。機能価値は他社がまねできるけど、その人の「共感」とか「愛着」とか「信頼」とかいう感情はいろんな文脈でつくられるのでまねできない。そこを大事にしていかないともう戦えないんじゃないの?と。

勘違いしがちなのが、たとえばコピーライターが「この商品の情緒価値を○○と決めましょう」(と提案する)みたいに、企業側が規定しようとしてしまうことです。情緒価値は、そんなふうに押し付けるものではありません。いままでの経験上、ちゃんとファンに聴かないと大きく間違えます。操作するものではなく、「いまある感情」を謙虚に誠実に聴くべきです。ちゃんとファンの声を傾聴して、ファンがどんな情緒価値を持ってくれているのか、どこを愛してくれているのか、それをしっかりインサイトとして理解する必要があります。

並河:機能価値が陳腐化する中で、ブランドや製品に対する情緒的価値をファンから聞き取る、傾聴することが大事なんですね。最後の、未来価値とはどういうものでしょうか?

佐藤:その製品の生産に当たって搾取をしていないとか、環境に配慮しているとか、この企業があるから希望が持てるとか、この企業が世界を変えてくれるんじゃないかとかいう、ファンたちが未来に対して感じている価値ですね。

並河:世界を変えてくれるんじゃないかという期待ですよね。この3つはどれも大事で、くっきり分けられるものではないと思いますが、情緒価値をファンに聴くことが必須だというのは、さとなおさんが一貫しておっしゃっていますよね。 

佐藤:はい。どうしてもプロダクトの機能価値を聴きたがる方が多いんですが、ファンたちが共通して持っているインサイトから、どんな情緒価値があるのかを探るのが大切だと思っています。ファンたちが、その企業のどういうところを好いていて、愛しているか、そのスイートスポットを見抜き、そこを外さないように商品開発をしたり、キャンペーンを打つことが大切だと思っています。

並河:情緒価値を知ることで、よりファンを喜ばせることになるわけですね。

佐藤:「ファンの数を増やす」のがファンベース施策だと思っている方が多いのですが、そうではなく、今いる2割のファンの「ファン度を上げる」のがファンベースの肝です。2割のファンのスイートスポットを知り、喜んでもらう。そうしないとLTVが上がらないし、推奨も起こりません。ファンの数を増やす、というのは、つまり8割の浮気層をファンにしようとしたりするわけですよ。でも、その8割の意見を聴き、そこに合わせて施策を打ったりすると、2割のファンたちががっかりしてそっぽを向いたりするわけです。まずはファンの数よりも「ファン度」に注目することが大切です。

ファンベースCXプログラム

並河:ファンベースにはいろいろな取り組み方がありますが、まずファンが愛してくれている情緒価値を知るために、ファンミーティングをやることを推奨されていますよね。

佐藤:はい。ファンだけを集めて、ファン同士で会ってもらうとものすごく盛り上がって、ファンの本音がたくさん出てくるんです。もう、金言だらけになります。それをすべて記録して読み込んで、そこからインサイトを探っていきます。

あと、大事なことですが、僕が「ファンの声を聴いてください」というと、わりと皆さん「もう調査してますよ」というんですね。定量にしても定性にしても、もうたくさんやってますよ、と。でも、それ、ユーザー全体を調査している場合が多いんですよ。全体調査だと8割の浮気層が含まれるんです。そうではなく2割のファンだけを抽出して、彼らの声だけを聴くのが大事です。ユーザー全体の調査と、ファンだけの調査とでは、結果が百八十度違ったりしますから。

並河:貴重な声を聴く場であるだけでなく、ファンミーティングで、企業側とファンが直接やりとりするのも、「ファン度」を高めることにつながりますよね。

佐藤:はい。特に開発担当者の方に参加してもらうと、自分が苦労して作った商品がちゃんと届いているという感動があったり、モチベーションが上がったりしますね。一方でファンたちの方も、開発者に会える喜びは本当に大きくて。みんなキャーキャー喜ばれます。時にはサインをもらったり写真を撮ったり、盛り上がりますよ。

並河:ありがとうございます。次回は、電通のクリエイティブがファンベースにどう貢献できるか、そして、ファンベースカンパニーと電通が共同で提供する「ファンベースCXプログラム」について、掘り下げていきたいと思います。

tw