DENTSU DESIRE DESIGNが考える、「欲望理論」からのマーケティング再構築No.8
新たな行動トレンド「居独(きょどく)」を楽しむ人が増加中!
2023/02/10
「ひとりでいることがネガティブではない時代」に。「孤独」はマイナスのニュアンスが消え、ニュートラルに変化。大事な時間として認識されるようになりました。
「DENTSU DESIRE DESIGN(電通デザイアデザイン:以下DDD)」は、企業から見えにくくなってきた現代の消費者像を、今一度「欲望(Desire)」を起点とした消費意識からひも解こうとするプロジェクトです。
本連載では、DDDメンバーが、ニーズの奥にある「欲望」を起点とした消費者インサイトへのアプローチ方法と今後の展開について紹介していきます。
今回は、DDDで対人関係における欲求や、その欲求にまつわる消費行動を研究する「対人・孤独分科会」プロジェクトを担当する小野江理子が、新たな“ひとり”の楽しみ方となる消費者の行動トレンド「居独(きょどく)」について紹介します。
<目次>
▼「居独」とは!?コロナ禍を経て見えてきた“個人行動好きな日本人”の姿
▼消費者の約75%は「一人で行動する方が好き」
▼他人目線よりも、自分の感性や価値観を大事に。
「個」で生きる消費者が主流に
▼今後注目したい、3つの「居独」行動
▼「居独」のトレンドをマーケティングで活用するには
「居独」とは!?コロナ禍を経て見えてきた“個人行動好きな日本人”の姿
新型コロナウイルスの感染拡大が始まって以降、さまざまな「ひとり」の過ごし方のトレンドが見られるようになりました。感染対策の観点からも安全性の高いソロキャンプをする人が増え、ひとりでチェアリング(※1)を楽しむ人も散見されるようになりました。
※1 = チェアリング
野外に持ち運びできるアウトドアチェアを置いて、座りながら飲食や読書などを楽しむ時間の過ごし方
サービスの分野でも、「焼肉ライク」や「ひとりカラオケ専門店 ワンカラ」など、もともと複数人数で楽しむことが前提だった「焼肉」や「カラオケ」を、ひとりで楽しめる専門店が生まれてきています。また、英会話スクールや資格取得のための塾といった分野でも、グループで受講するのではなく、オンラインで好きな時に好きな授業を受ける方が増えました。
かつては複数人数で楽しんでいたイベントや習い事も、今やひとりが楽しい、もしくは、ひとりのほうが良いときもあるという時代になってきたのではないでしょうか。「おひとり様」と言われていた現象も、今は自虐感のようなものが消え、ニュートラルにひとりで何かに取り組む過ごし方がトレンドとなっているようです。
われわれ、DDDの「対人・孤独分科会」では、この現象のもとになる欲望を「居独(きょどく)」と呼んでいます。
「居独」とは、日常にひとりの時間や空間を作って、好きなことに没頭するなど、自分と向き合うことでリセットとリラックスを求める“デザイアブルライフ”(※2)を意味します。
「ソロ活」のように「活動」と呼ぶほどではない、“瞑想”や“散歩”なども含まれ、「ひとり」を楽しむこと全般を指す言葉です。ニュートラルに「ひとりで“いる”」ことを表す意図により、「居」の文字を入れています。
※2 = デザイアブルライフ
消費者の欲望が生み出す暮らしのこと
DDDが2022年11月に実施した「心が動く消費調査」(調査概要はこちら)からはこの欲望を裏付ける現代の生活者の意識が見えてきました。
消費者の約75%は「一人で行動する方が好き」
まず行動する時の人数への意識については、「一人で行動する方が好きだ」(「近い」「どちらかというと近い」計)が全体で74.4%。「人と一緒に行動をする方が好きだ」(「近い」「どちらかというと近い」計)は25.6%と、圧倒的に「一人で行動する方が好きだ」が高い結果でした。
男性20代、女性20代、女性30代でやや「人と一緒に」が高いものの、すべての性・年代で「一人で行動する方が好きだ」が「人と一緒に行動をする方が好きだ」を大きく上回る結果となっています。
続いて、行動人数の実態に関しても、「一人で行動する方が多い」(「近い」「どちらかというと近い」計)が全体で76.9%と、「人と一緒に行動する方が多い」(「近い」「どちらかというと近い」計)の23.1%を大きく上回る結果でした。
こちらも、男性20代、女性30代でやや「人と一緒に」が高いものの、すべての性・年代で「一人で行動する方が多い」が「人と一緒に行動する方が多い」を大きく上回っています。
また、「周りの人から一人ぼっちと思われるのが怖い」という項目では、「そう思わない」(計)が全体で74.1%と、「そう思う」(計)の25.9%を大きく上回り、一人ぼっちと思われても“気にしない派”が大多数であると分かりました。若年層では、男女ともに「そう思う」の値が高いものの、すべての年代で「そう思わない」が「そう思う」を大きく上回る結果となりました。
「日本人は集団主義」と言われることも多いと思いますが、同調査では反対の結果が出ており、実は日本人が「個人行動好き」であることが見えてきました。
他人目線よりも、自分の感性や価値観を大事に。「個」で生きる消費者が主流に
自身の行動と他人の評価に関わる意識項目の質問については、次のような結果が出ています。
「他人の評価とは関係なく、自分が良いと思ったことに没頭することが楽しい」の質問に対して、「そう思う」(計)は83.2%。老若男女問わず多数派であることがうかがえます。
また、「人と競争したり、比較されるのは疲れるので、回避したい」という意識も高く、他人の評価や競争は関係なしに、自分の好きなことに没頭したいというインサイトが浮き彫りになってきました。
さらに、日本人の一人行動好きとは直接関係ないのですが、「流行っているものやトレンドに乗り遅れたくない」という意識は、若年層を含め全ての年代で「そう思わない」(計)が多数派に。トレンド追従意欲の低さからは、流行りよりも自分の主観や感性を大事に生きる生活者の姿がうかがえます。
コロナ禍でテレワークが増え、自分が住みたい場所を選択できるようになったり、副業が可能な企業が増加。また、オンラインでさまざまな分野の学びも得られるようになり、自分の価値観に合わせたライフスタイルやキャリア・趣味を簡単に選択して、まい進できるようになってきました。
消費者個人が、他者目線を気にしたりマジョリティに迎合することなく、自分らしい生き方を追求できるようになったことが、上記のような調査結果に結び付いたものと考えられます。
さらに「あなたが今最も『欲しいもの』『やりたいこと』『なりたい自分』のフリーアンサーを見てみると、「ものづくり」「スキルアップのための勉強・自己研さん」など、何かに取り組みたいというものが多い一方で、単に「ひとりでのんびり過ごす時間がほしい」という趣旨のものまで「居独」のバリエーションが広がっていることが分かります。
コロナ禍以前は、人とつながっていたいという欲求の増大と、テクノロジーの進化による他者との常時接続が当たり前の世の中になっていたかと思います。
それが突如、コロナ禍によって他者と分断・隔離され、否応なしにひとり時間が増えたことで、ひとり時間の大切さに気づき、人とつながる時間とひとり時間の双方を緩急つけてどちらも大事にしたいという意識が生まれたのではないかと考えられます。
今後注目したい、3つの「居独」行動
対人・孤独分科会では、今後どういった「居独」の事象が伸びてくるかについてを推測し、以下3つのカテゴリにまとめました。
①競争のためじゃない、自分進化
これまでのように、他者との競争のための自己研鑽ではなく、なりたい自分になるために、自身をバージョンアップする動きが活発化。「スピークバディ」などのAI英会話や「Udemy」、「スタディサプリ」、「Skillshare」といったオンライン学習サービス・資格対策アプリや、Study Tuberなどのサービスやコンテンツが人気に。
関連キーワード:AI英会話、オンライン学習サービス、資格試験、タイパ(※3)、Study Tuber、目標達成日記シェア、etc
※3 = タイパ
タイムパフォーマンス(時間対効果)のこと
②〇〇なのにパーソナル感
“既製品なのにパーソナル感”“パブリックなのにパーソナル感”など、〇〇なのに、パーソナルに感じられる!といった逆説的意外性のある商品やサービスが話題に。
- 50種類もの色バリエーションがあるファンデーションを提供するブランド「Fenty Beauty」が登場するなどパーソナライズドコスメが人気。
- 100種類もの色バリエーションの中から自分の肌に完全に一致する色を選べ、ロボットがその色のファンデーションを目の前で作ってくれるサービスアモーレパシフィック社「Authentic Color Master by TONEWORK」も世界的に話題に。
“市販品なのにパーソナル仕様”が、コスメ・メイクアップの分野で続々登場。 - 「無印良品」の「ひとり分からつくれる鍋の素」など一人分仕様のポーションや、ナチュラルスーパーマーケット「ビオラル」のサラダやおかずが“欲しい分だけ量り売りで買える”サービスなどが人気に。
「人と一緒にいるときも自分の好きなものを食べたい」や「自分が食べきれる量だけ買いたい」といったパーソナルなニーズに応えている。 - ライザップが作ったコンビニジム「chocoZAP」に代表されるような、パブリックでありながらも、人との接触が最低限に抑えられることで、パーソナルな感覚が担保されるサービスが続々登場。
関連キーワード.:コンビニジム、最低限接触飲食店 、パーソナライズドコスメ、etc
③自分の好きに とことん没入
他人の目を気にせず、自分が好きだと思うことに没頭する動きが活発化。ダイバーシティの浸透で、通念にとらわれず発言しやすい環境も後押しに。男性向けに作られたミシン「TOKYO OTOKOミシン」が話題になり、SNSでソーイング(裁縫)男子を公言する人も続出。自分の好きなブランドやアートの世界に没入できるイマーシブミュージアムも盛況。
関連キーワード:ソーイング男子、メタバース、デジタルファッション、イマーシブミュージアム、etc.
「居独」のトレンドをマーケティングで活用するには
最後に、「居独」というトレンドをどのようにマーケティングに生かせるのかについて、4つのヒントをお伝えします。
①商品・サービスにおいて「豊かなひとり時間によるリセット&リラックス」といったコンセプトは引き続き求められる
「居独」のコア価値である「ひとりをニュートラルに楽しむ」時間として、ヨガやマインドフルネスなどに代表される“自分と向き合うことによる「リセット&リラックス」の価値”は引き続き大事になります。
②個としての自分に向けられた「パーソナル」感覚が、ブランディングにおいてより重視される
Z世代を中心として、既成概念にとらわれず「多様性」を重んじる価値観が広がり、その結果、「自分向けである」と感じられるパーソナルなものが重視されるようになります。「みんなが買っている!」といったトレンド訴求が効きにくくなる可能性も。
③スキルアップ・自己成長につながる商品・サービスが若者を中心に求められる
「リスキリング」や「タイパ」という言葉が流行する中、Z世代を中心とする若者にとって「スキルアップ」や「自己成長」は当たり前のこととしてとらえられており、それを後押ししてくれるような商品・サービスに商機が出てきます。
④「没入系」コンテンツの開発や、メタバース空間でのブランドや商品との接点作りが商機に
「デジタルファッション」といったメタバース上で楽しむアイテムの消費が活発化する中、メタバース上の生活や、(リアル、バーチャル問わず)没入系コンテンツの中で、生活者とブランドの接点を作ることが求められます。
2023年もDDD「対人・孤独分科会」では、「居独」のトレンドについてウォッチしていきます!
興味を持たれた方は、ぜひお問い合わせください。