DENTSU DESIRE DESIGNが考える、「欲望理論」からのマーケティング再構築No.7
「欲望(Desire)クラスター」でひもとく消費者アプローチメソッド
2023/01/27
「DENTSU DESIRE DESIGN(電通デザイアデザイン:以下DDD)」は、企業から見えにくくなってきた現代の消費者像を、今一度「欲望(Desire)」を起点とした消費意識からひもとこうとするプロジェクトです。
本連載では、DDDメンバーが、「欲望」を起点とした消費者インサイトへのアプローチ方法と今後の展開について紹介していきます。
前回は、世の中には大きくわけると、どんな種類の欲望を持つ人が存在するのか、欲望を軸にしたクラスター分析の結果を紹介しました。今回は、そのクラスターの中からの一つを取り上げ、〈欲望にどうアプローチすると、心が動いた結果の消費へと向かうのか〉を考えていきます。
「欲望」をマーケティングへ応用するために必要な3つのプロセス
DDDでは、研究より導き出した11の欲望因子のスコアをもとに、10種類の欲望クラスターへと分類しました (詳しくは、こちら)。
今回はその中から「オウチ弁慶」に着目してひもといていきます。下図は11の欲望因子に対するオウチ弁慶の反応を示したチャートです。(11の欲望について詳しくはこちらを参照)
DDDでは、欲望にアプローチして実際の消費に向けていくためのマーケティング施策を、3つのプロセスで考えています。
この3つのステップごとに、オウチ弁慶にはどのような施策が有効かを紹介します。
〈1stSTEP〉 アプローチする欲望を検討する
まずはオウチ弁慶が持つ11の欲望から、アプローチしていく欲望を特定します。オウチ弁慶の場合、【愛&感動】と【取集&所有】に分類される欲望への反応の平均値が、全体平均よりも高くなっています。
つまりオウチ弁慶にとっては、「愛し愛されたい」という欲、すなわち自分が愛し自分が愛される実感を得られ、感動できるような体験価値が重要となります。例えば自分の身の回りの充実だったり、好きなものに囲まれたりといった満足感が、欲望を軸にしたアプローチのポイントになってきます。
〈2ndSTEP〉欲望に基づく顧客提供価値を定義する
アプローチしていく欲望を決めたら、その欲望 に対して、どう価値を提供するべきかを
- 社会的価値
- 情緒的価値
- 機能的価値
の3つの要素に分解しながら定義していきます。
社会的価値とは、自分の消費活動が世の中にとってプラスになっているのか、という視点。情緒的価値とは、買い物をすることでどんな気持ちの高まりを得られるのか。機能的価値とは、その商品・サービスの品質や機能からどういったベネフィットを得られるのか、を示すものです
オウチ弁慶が高い反応を示した【愛&感動】と【取集&所有】の欲望をこの3つの要素に分解するとどうなるのか。2022年5月に実施したアンケート調査(詳細はこちら)において、オウチ弁慶のクラスターが実際に回答した心が動いた消費の具体例を示しながら確認していきましょう。
【愛&感動】【取集&所有】の欲望にフィットする社会的価値、情緒的価値、機能的価値とは
【愛&感動】の場合
社会的価値では、自分の活動が社会をより良くするという実感が得られることが重要になります。調査における具体的なコメントでは、例えば「猫カフェ」に対して、「猫たちと触れ合うことで心を癒やされたい。保護猫活動への募金をして猫たちの力になりたい」、という声がありました。
情緒的価値には、心が揺さぶられるような体験が該当します。例えば涙を流すことでストレス解消につながる涙活(るいかつ)などがそれに当たるでしょう。
映画「エレファント・マン」を挙げた回答者からは「内容がせつなく、悲しく、物語にとても感銘しました。流れも良く、素晴らしい映画だと思います。人生勉強にもなります」といった感想がありました。
機能的価値は、視覚や聴覚に訴えられる感動体験です。心が動いた消費に「世界の美しい図書館」という書籍を挙げた回答者は、「世界の美しい図書館の画像を見て、感動したかった」と理由を述べていました。さらに世の中にすてきな場所があることを知って癒されたい、図書館についてのエピソードを読むことで美しさにとどまらずさまざまなことに思いを巡らせたいという希望も綴られていました。
【取集&所有】の場合
こちらも「社会的価値」「情緒的価値」「機能的価値」の考え方は、【愛&感動】と同様です。
社会的価値では、「エコバッグ」が挙げられていました。「値段が安く、見た目も丈夫そうで送料も無料だったので。気分に合わせてエコバッグを変えることで、気分転換になると思った」という点に自分と社会、両方にとってのメリットを見いだしていました。
情緒的価値では、買いそろえることで自己満足度が高まると「エヴァン・ウィリアムス12年」(ウイスキー)が挙がりました。その理由「ウイスキーコレクションに加えたくて。所有欲のみ」からはシンプルな収集欲が価値になっていることが垣間見えました。
機能的価値では、「業務用皿うどん」という回答があり、「簡単に作れる休日の食事のレパートリーを広げたかった」との理由から、所有をきっかけに自分で作ることができる料理の幅を広げようといった行動が見られました。
〈3rdSTEP〉アプローチすべき欲望とそれに対する3つの価値要素をマーケティング施策へ応用する
最後のステップとして、対象となるクラスター(今回はオウチ弁慶)への提供価値を定義した上で、3つの価値要素を具体的にどのようにアウトプットしていくかを規定していきます。
自社の商品・サービスは企業によっても商品カテゴリーによっても千差万別です。マーケティング施策への応用は一義的には決まりませんが、「欲望にアプローチすることにより心が動いた結果の消費」を具現化する施策を考えるには、この方法が有効であると思われます。
具体的には、今回着目したオウチ弁慶に対して、自社の商品・サービスがどういう形で価値を提供できるのか、どう関心を持ってもらい、欲望にアプローチして欲しい気持ちをどう引き出すかのマーケティングアイデアを考えていきます。
今回取り上げたオウチ弁慶は「愛&感動」と「取集&所有」の欲望が強いことから、社会や環境への貢献が可視化されて収集したくなる気持ちを刺激するようなマーケティング施策を講ずることが有効打になります。
例えば、自分の好きなものや趣味のものがデザインされているエコバッグであれば、収集欲が刺激されるでしょう。しかも、その利用状況に応じて社会や環境への貢献活動が可視化されるようなDXの仕組み作りを行うことで、オウチ弁慶は自社に振り向いてくれるのではないでしょうか。
昨今、エネルギー問題やマイクロプラスチック問題への解決が求められることも後押しになると考えられます。このように、好きなエコバッグのコレクションで自分も満足しつつ、社会へも貢献したいという気持ちに応えるものを提供することが、オウチ弁慶の攻略ポイントの一つになってきます。
今回はオウチ弁慶で試考しましたが、他のクラスターもそれぞれ独自の欲望パターンを持っています。欲望クラスターごとに消費へ向けて心を動かすポイント、いわば消費の「ツボ」は異なりますし、商品サービスも多種多様にわたることから、正解は一つではありません。
これからも電通デザイアデザインプロジェクトではそういったさまざまなマーケティング課題に向き合っていきます。ご興味のある方は下記までお問い合わせください。