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まちの幸せを追求する「都市の未来デザイン ユニット」No.1

「幸福度の高い」都市とは?これからの都市・まちづくりに求められること

2023/04/21

電通の「都市の未来デザイン ユニット」は、都市やくらしの未来像を描き、構想から実現までをさまざまな領域で支援する専門チームです(詳細はこちらから)。今回はチームメンバーの白州達也が、「幸福度の高い」都市をつくっていくために「これからの都市・まちづくりに求められるものは何か?」について考えます。

<目次>
ひと基点で、より幸福度の高い都市・まちをつくる

都市・まちづくりの未来:都市・まちの経営力を高める“手法”としてのDX

「都市の未来デザイン ユニット」のアプローチ

ひと基点で、より幸福度の高い都市・まちへ近づくためのキーワード

ひと基点で、より幸福度の高い都市・まちをつくる

世界情勢が不安定になるなか、新型コロナをはじめとする新たな感染症のリスクに加え、地政学的リスク・エネルギーや食糧リスク・金融不安なども顕在化しています。人々の生活に直結する物価高、光熱費の上昇、将来のお金の価値に対する不安など、先行きが見通せない空気が日常生活にも広がっています。

昨今、これらの課題解決に向けて、都市・まちづくり領域まで広げて、新たなプロジェクトを立ち上げる動きが産官学で活発化してきました。とはいえ、「都市・まちづくり」を専門で学ぶ機会や知見を得る機会はそれほど多くありません。この領域の知見が、理系・文系を問わず、もっと広がっていくことが求められています。

「都市・まちづくり」の状況を整理すると、これまで下記のように進化してきました。

【都市・まちづくり1.0】
都市やまちを構成する要素は、これまでは主に道路や橋、ダムなどの土木構造物や建築物、エネルギーや上下水・通信などのインフラ、交通システムというハード領域が中心だった。

【都市・まちづくり2.0】
少子高齢化やエネルギー・食料自給リスクへの取り組み、グリーン社会・循環型社会システムへの移行など、喫緊の社会課題が顕在化し、それらは、「都市・まちのスケールで取り組まなければならない」。ゆえに、自治体はじめ、SDGsの観点で広く産業界・研究教育機関が向き合い始めた。

【都市・まちづくり3.0】
さらに、「ひと基点での幸福論」が登場。いうまでもなく、都市・まちの担い手は、「住む、働く、学ぶ、遊ぶ、育てる、誰かの役に立つ」ために、日々を生きている「ひと」。
人々は、いまをよりよく生きたいし、子孫の世代までも平穏であってほしいと願い、「幸福に生きられる・幸福が続く未来」を求めている。
この観点で、都市・まちを舞台に、人々が求めるライフスタイルを支援する仕組み、よいアイデアや行動を応援する仕組み、自発的参加を促すような仕組み、公共空間を市民が使いこなせる仕組みなど、「都市・まち」スケールでの取り組みはDXの登場とあいまって、急拡大している。
【都市・まちづくり1.0】は、【都市・まちづくり2.0】に移行しています。そして、【都市・まちづくり2.0】と【都市・まちづくり3.0】は、切り離せない関係にあります。

両方とも、主役は「ひと」です。くらしのシステムを変えていくためには、「人々に納得して参加していただくこと」が重要です。そもそも【市民の認知・理解・検討プロセス】がなければ、具現化できません。

まちづくりに求められるプロセスの変化

「内発的・自発的な意識・行動の喚起」が大切で、ここに、「都市・まちづくりへの信頼をどのように高めていけるのか?」そして「人々の絆づくりに、貢献できることは何なのか?」というとても重要な問いが立ってくるのです。

都市・まちづくりの未来:都市・まちの経営力を高める“手法”としてのDX

「都市・まちづくり」においてDXはどのように活用されていくのでしょうか。3つの視点で見てみましょう。

① 都市DX
都市経営の視点でみると、財政が厳しいなか、インフラのメンテナンスや、交通輸送の維持、水・土・空気の健全な確保、食糧調達の安全安心、市民の健康を支える仕組み、災害時に応用できる平時からの備えなど、安全保障として取り組むべきことが多々あり、難題です。

このシステムは長い時間軸で、人々の幸福に寄り添える柔軟なものでなければなりません。その上で、「かかってしまうコストを格段に下げられる手法としてのDX」を見いだすことができればアップデートされ続けるでしょう。その課題解決発想に大きな期待がかかっています。

② 観光経済DX
外部から訪れてくださる方々が、その都市・まちの文化や自然・くらしに触れて、地元との交流が生まれれば、短期的には観光経済につながり、ゆくゆくは交わされる親近感から友好につながっていくことでしょう。

平和が脅かされるいま、多様性を知りお互いを好きになっていく機会として、都市・まち観光業は深い意味を持つようになると思われます。

海外からの旅行客を取り込むインバウンドの促進においては、DX導入で心理的不安や不都合をサポートし、より充実した滞在や交流機会、深い学びの場を提供することが可能です。結果として、新しい概念でのツーリズムやMICE(※1)体験を、ユニークな場所・環境・コミュニティで提供することが可能となります。

※1=MICE
企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字のことであり、多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称 

参考:https://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kokusai/mice.html
 

③ 新産業生態系づくり
都市経営の観点では、新たな産業生態系づくりに取り組む必要があります。【都市・まちづくり2.0】からは、脱炭素社会の実現に向けて産業・社会システムを組み替えていくグリーン・トランスフォーメーション(GX)の循環型ビジネスモデルへの移行が急がれています。例えば、生物多様性や農林水産業を軸とした新たな地域ビジネスがデジタル技術の浸透で可能性が広がり、若者に支持され、その地域は新・田園都市づくりのモデルとなるケースなどが想定されます。

【都市・まちづくり3.0】からは、人々のより幸福なくらし・人生に寄り添えるサービスや商品が生まれていきます。都市・まちが舞台となって、個人が気づいた有意義な活動や、困っている方々を助けたいという課題解決アイデアを応援する仕組みが整えば、そこから新たなサービスや製品が地域発で育っていくでしょう。気づいた個人の感性や目利き力と、それに共感する輪が広がってマーケットになっていく事例は今後も増えていくでしょう。

新たな発想と、その発想に賛同した人々のコミュニティ、そしてコミュニティを応援する行政や企業などが一つになって、新たな産業生態系が生まれる可能性があります。このような動きを加速させるフェスティバルのようなイベントを開催することで、都市・まちに新たな活力が生まれ、都市経営基盤の強化につながるケースも期待されます。出会いと触発、交流機会が価値となるため、後述する「セレンディピティを誘発する仕組みや都市デザイン」が、鍵を握ります。

「都市の未来デザイン ユニット」のアプローチ

これまでお話ししてきたような都市開発の進化や世の中の現状を踏まえ、「都市の未来デザイン ユニット」では、下記の視点でまちづくりに取り組んでいます。

① 「ひと基点」×「都市・まち経営視点」での、ビジョンづくり
まずは、その土地の地歴、文化・産業歴から地域課題までをひもときます。また、その地域で胎動している素晴らしい取り組みをまちの熱量として捉えて、未来像への仮説を組んでいきます。その仮説をもとに、「都市課題を創造的に解決しよう」という当事者と議論を交わし、方向性を見いだしていくステップがビジョンづくりです。

② 本気度を高めあう共創マネジメント
都市・まちづくりは、時間軸が長く、そこに向き合うには、関与するステークホルダーの合意形成が必要になります。「本気になって、その事業やプロジェクトに確信と愛着を持ち、その輪を広げられるか?」で成否は決まると考えています。

「利他の気持ち」「数十年先の未来のために」という気持ちを込めて仕事をしたいというメンバーが一つのチームになれば、それは財産です。そのためのプロセスが共創マネジメントであり、ソフトプロジェクトマネジメントのスキルをもって、相互連携を図っていきます。

③ 社会実装チームの組成・連携
「都市の未来デザイン ユニット」では、地元地域を支える地方銀行やメディア企業、インフラ企業などと共に、市民サービスを支える経済循環の仕組みづくりに取り組んでいます。また、ドローンを組みこんだ総合的なスマート物流の社会実証や、AIを活用したレコメンドによる行動変容のきっかけづくりなどの社会実証に取り組んでいます。

それらの経験を生かし、「新たな社会実装チームの組成に貢献する、もしくは参画させていただく」ことで、「ひと基点で、より幸福度の高い都市・まちのモデルづくり」に貢献したいと考えています。

ジブンゴトとしていくプロセス
都市・まちづくりは、仕事として向き合う私たちにおいても、市民としてジブンゴトにしていくことが大切。多くの人が関わるプロジェクトだからこそ、ありたき未来を共有し、具体的な実証や実装を繰り返していくことで、人やチームが成長していくプロセスをイメージしています。

ひと基点で、より幸福度の高い都市・まちへ近づくためのキーワード

では、「幸福度の高い」都市に欠かせないものとは何か?いくつかあるなかで、本稿では下記の3点を取り上げます。

① 「植物力」への目覚め
昨今、大豆ミートなどのプラントベースフードの市場が急拡大の兆しを見せています。また「植物」から薬効を得たり、新素材を開発したり、植物発電や、カーボンファーミングへの展開、バイオマス燃料の抽出など、「植物力」に注目が集まっています。

資源が乏しいとされてきた日本ですが、森と土壌と海を循環する豊かな生態系/先人が築いてきた里山での生きかた/多様な植物の存在/植物と共にある生活文化/植物プランクトンなどの資源化技術など、豊富な「植物を取り巻く資産」を有しています。「植物力を活用する都市・まちの仕組み」に着眼すれば、「ひと基点で、より幸福度の高いくらし」をあらゆる産業領域から高度に追求することができるといえます。この考えのもとに、日本ならではの都市・まちづくりを構想することが可能です。

「植物力ニッポン・プロジェクト」なるものが立ち上がれば、地域住民や農林水産業および6次産業を営む方々・新たな植物力に注目するベンチャーや企業・投資セクター・学校や大学・自治体まで、それぞれが関わることができ、私たちのくらしを捉え直すだけでなく、世界の課題解決にも役に立つはずです。

② セレンディピティを誘発する仕組みや都市デザイン
「セレンディピティ」という言葉は、「ふとしたひらめき、偶然の出会いがもたらす幸運・発見」を意味します。現在は、仕事や子育て、家事などが忙しい半面、多様で魅力的なメディアが登場し、情報を吸収する個人の許容量も格段に磨かれ、忙しいさなかで、人と人がつながり合っている状態にあるでしょう。

わずかな時間でも有意義に過ごしたいから、自分の興味関心にアンテナを立てながら、都市やまちを歩き、四季を愛(め)で、催しに参加したり、交流を増やし、自分がやりたいことを常に意識している方が増えていると推察します。そのような意識・行動をサポートする仕組みや、セレンディピティを誘発する仕組みを伴った都市デザインの手法は、これから加速していくと捉えています。

③ 若い世代の感性、行動力を支援するスキーム
生命地域主義(※2)の考え方が見直されています。そして多様性を認め合い、寛容な心を養えるよう、幼いころから教育を受けている若い世代が育っています。彼らがどんな社会の仕組みを創り上げていきたいと考えるのか、ここに未来はかかっていると考えます。

※2=生命地域主義
地域の自然資源や人的資源(文化、歴史、技術など)を組み合わせ、循環型社会システムを構築し、地域独自の価値をつくるという考え方


そのため、「自発的に取り組んでみたい、挑戦したいという思い」を受け止める・応援する仕組みが都市・まちには必要です。

「自分が成し遂げることができた、新しいことに挑戦できた」という充実感・満足感や、失敗から学ぼうという挫折からの立ち直りも含めて、すべてが幸福感につながると捉えれば、「ひとづくり」の支援スキームが都市OSに組み込まれていくべきだと考えます。

次回以降も「まちの幸せ」について考えていきます。都市・まちづくりについて検討中の方は、ぜひお気軽に電通「都市の未来デザイン ユニット」までお問い合わせください。

【本件に関する問い合わせ先】
都市の未来デザイン ユニット
HP:https://www.dentsu.co.jp/labo/futuredesign_unit/index.html
Email:futuredesign-unit@dentsu.co.jp
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