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ライフイベントを正確に捉える。金融データを活用した広告・マーケティング事業とは?

2023/05/17

2021年11月に改正銀行法が施行されて、マーケティング・広告業務などへの銀行本体の参入が認められました。

給与の振り込み、住宅ローンの申し込み、投資信託などによる資産の運用……。金融機関はお客さまの生活と隣り合わせの金融サービスを提供しており、長年のお取り引きの中で、たくさんのデータを保有しています。金融データを上手に活用すれば、利用者一人一人のニーズに合った価値ある広告を、高い精度で届けられるのではないでしょうか?

2021年7月に誕生した株式会社SMBCデジタルマーケティングは、この仮説を現実のものにするため、新しい広告・マーケティング事業に取り組んでいます。

この記事では、同社が手掛ける広告・マーケティング事業について、代表取締役社長の高野義孝氏と、電通の統合マーケティング・プロデューサーであり、現在は同社の取締役副社長を務める大久保卓哉氏に話を伺いました。

※本事業では、金融機関の提供する広告・マーケティングサービスとして、お客さまの安心・安全を最も重視しています。そのため、個人情報の取り扱いについては、弁護士等外部有識者も交えて定期的にモニタリングを実施する等、厳格に管理した上で運営されています。
 
高野氏、大久保氏

SMBCデジタルマーケティング
2021年7月に設立された、三井住友フィナンシャルグループと電通グループの合弁会社。金融ビッグデータを活用した広告・マーケティング事業を行う銀行業高度化等会社として、国内メガバンクで初めて金融庁の許可を取得。企業ブランディングや、商品・サービスの訴求をしたい広告主から広告出稿を募り、三井住友銀行アプリやEメールなどで広告を配信している。

お客さま一人一人のライフイベントを捉えた広告配信ができる

──最初にSMBCデジタルマーケティングを設立した背景を教えてください。

高野:銀行業界を取り巻く環境は大きく変化しています。2021年11月に改正銀行法が施行されて、システムの開発・販売、データ分析、調査、広告などの業務に関し、銀行本体や子会社での取り扱いが認められました。

三井住友フィナンシャルグループ(以下、グループを総称して「SMBCグループ」)は中長期ビジョンを実現するための方向性を打ち出しています。その一つが情報産業化です。SMBCグループは、長年の事業の中で蓄積されたデータや情報などを保有していて、それらは非常に価値のある資産です。

この金融データを活用した広告・マーケティング事業を行うため、2021年7月にSMBCデジタルマーケティングを設立しました。設立にあたり、広告・マーケティングに関するたくさんのノウハウと協業実績を持つ電通グループとタッグを組むことにしました。

大久保:SMBCグループが保有するさまざまな金融データやアプリなどの金融サービスと広告を掛け合わせると、新しい広告やマーケティングの形が生まれるかもしれない。そんな期待を持ちながら参画しています。私は現在、電通からSMBCデジタルマーケティングに出向していて、SMBCデジタルマーケティングの副社長を務めています。

──具体的にどんな事業を行っていますか?

高野:アプリ、Eメール、紙のダイレクトメールなど、三井住友銀行(以下、SMBC)が持っているメディアに、SMBCが保有するデータを分析し、お客さまに適すると考えられる広告コンテンツをお届けしています。重要な点として、SMBCデジタルマーケティングが広告をお届けする際、電通グループ各社や広告主である法人のお客さま等、第三者への個人情報の提供は行いません。個人情報が適切に管理されているか、弁護士等外部有識者も交えた定期的なモニタリングを実施するなどお客さまの安心・安全を第一に運営をしています。

具体的には、保有する2800万IDのお客さまの属性や口座のご利用状況から進学や引っ越しなどのライフイベントを推定し、それぞれのお客さまのニーズに合った広告をSMBCのアプリなどに配信しています。

SMBCは以前からお客さまのライフイベントを捉えて、SMBC自社の商品やサービスの広告を配信してきました。SMBCデジタルマーケティングが新たに取り組んでいる事業は、SMBCグループ以外の非金融系の企業の広告を届けることです。

広告イメージ

──データの特徴は?

高野:銀行が保有しているファーストパーティデータは、非常に正確であることと、長年のお取り引きの中で蓄積されたデータであることが特徴です。そのような正確なデータを活用してライフイベント、ライフステージを推測することは、お客さまにとって有用な情報をお届けすることにもつながると考えています。われわれは、金融グループの一員としてお客さまに安心して触れていただける広告づくりを目指しています。

大久保:銀行や金融機関は、一度口座を開設していただくと、長くお取り引きいただくことが多いです。社会人になったときに口座を開設して、その後、何十年にもわたりご利用いただくケースも少なくありません。利用者の皆さまの人生の歩みともいえるデータが蓄積されていきます。そのようなデータを分析して広告・マーケティング事業を行っています。

正確なデータを元に広告を打ち、マーケティングができる

──金融データを広告やマーケティングに活用するメリットは何でしょうか?

大久保:世の中の既存の広告メニューでは、広告を届けたいターゲットについて詳細に把握することが難しい場合があります。興味関心事や経済力について、ウェブサイトの閲覧情報を元に推定することしかできないことも多いです。それに対してわれわれは、属性や保有商品、サービス利用情報など正確な情報をベースに広告をお届けすることができます。

高野:ライフイベントの発生やライフステージが変化するときに、口座の使い方も変化します。例えば、就職された時に口座を開設していただいたり、住宅を購入される際に住宅ローンを組んでいただいたり。こうしたライフイベントに際して、これまで銀行は金融面でのニーズにお応えしてきましたが、こうしたタイミングでは、非金融のニーズも発生しますので、金融・非金融問わず、広告という形でお客さまにとって有益な情報をお届けしていきます。このマーケティングができることが、他にはないわれわれの強みであると思っています。

──なるほど。SMBCならではの強みはありますか?

大久保:広告を事業化するには一定の母数にリーチできることが前提になります。SMBCには約2800万もの口座があります。多くのお客さまにご利用いただいている基盤があるからこそ、ニッチな商材でも、ある程度まとまった母数を担保できる点がSMBCの強みだと思います。

──これまでにどんな広告事例がありますか?

高野:化粧品、飲食、小売、出版等、これまで幅広い業界の企業にご利用いただいています。また、特徴的な広告事例としては不動産会社の広告配信があります。私たちが保有しているデータを元に、住宅の購入を検討していそうな方をスコア化して、スコアの高い方と低い方で広告を出し分けました。すると、広告のクリック率に1.3倍ほどの差が出て、スコアの高い層の方がクリックしやすいという結果が出ました。

──クライアントからの評価はいかがですか?

高野:まず、非常にブランドセーフティな場所に広告を出せるという点が評価されています。企業は自社の広告がどんなところに、どんな情報とともに出るのかを非常に気にされますから。一方、お客さま側からも「SMBCなら変な広告は送ってこないだろう」という信頼は得られていると感じます。

大久保:アプリの場合、広告は画面のトップに表示されるので、認知されやすい点もご評価いただいています。広告のクリック率はおおむね1%を超えていて、一般的に見ると高い水準にあります。他のメディアと比べてクリック単価がすごく高いということもなく、ターゲットとしている方を、広告主のウェブサイトなどにしっかり送客できる点も評価していただいていますね。

高野:加えて、個人情報はきちんとマスキングし統計情報にした上で、配信後に広告主に分析レポートを提供しています。このレポートは正確な属性に基づいて分析しているので、その後のマーケティングにもご活用いただくことができ、喜ばれています。

他にも評価されているポイントがあります。デジタル広告はCookie規制などもあり、リターゲティングが難しくなっています。われわれは、アプリとEメールを組み合わせた広告展開も広告主に提案しています。アプリで広告をクリックした人に対し、Eメールで詳細な情報をお届けするというものです。アプリで広告をクリックした方は、そうでない方の約1.7倍、Eメールの広告を見るという結果が得られたこともありました。

分析レポートサンプル

事業のベースは、金融機関ならではの「信頼性」

──金融に関連する情報など、センシティブなデータを扱う上で特に気を付けていることを教えてください。

高野:金融機関は信頼をベースに成り立っています。その金融機関が行う広告・マーケティング事業であることは常に意識しています。個人情報の取り扱いについては社内で厳しくルール化することに加え、広告を行った後、弁護士を交えたモニタリングを定期的に行い、正しくデータを利用して、正しく削除しているか等をチェックしています。

大久保:高野さんがおっしゃる通り、法的な面での確認はきめ細かく行っています。電通はさまざまな企業のマーケティングをサポートしていて、データの活用事例や注意点に関するたくさんの知見があります。

広告表現についてもSMBCとSMBCデジタルマーケティングでダブルチェックをしています。法的な観点はもちろんのこと、生活者目線で見たときに気になる表現は、広告主にご修正いただくこともあります。

高野:SMBCのお客さまが見るものになりますので、広告審査はかなり丁寧に行っていますよね。

大久保:審査では、一つの広告バナーを複数人でチェックしたり、バナーから飛んだ先の広告主のランディングページの表現もきちんと確認します。例えばキャンペーン告知なら景品表示法と照らし合わせ、大丈夫かどうかを確認するといったことです。

高野:場合によっては弁護士から意見をもらうこともあります。何よりもお客さまの「安心」「安全」や「信頼」を重視しています。

ウェブ広告に対する世間の目は、今かなり厳しくなっていることも認識しています。同じ広告がしつこく表示されることはお客さまにとって気持ちの良いものではなく、ブランドの棄損につながります。しかも、興味がない方に何回も広告を表示しても無駄な出稿になるわけです。ですから、広告の表示回数を制限したり、同じ業種の広告は同じタイミングで同じお客さまに出ないような設計もしています。他にも、ターゲットを絞り込み過ぎず、お客さまにとって過度にピンポイントな広告の配信にならないように気を付けています。

大久保:広告の内容や配信について法的に問題がないことと、レピュテーションとしてどうかは別問題です。法的に問題がなければ良いというわけではなく、SMBCのお客さまにとって不快にならないことは常に意識していますね。

金融以外の情報や体験を提供していきたい

──現在の課題や今後の展望を教えてください。

大久保:個人のお客さまに最適な広告を表示するという点でも、法人の広告主にとって効果が高いデジタルマーケティングを提供するという点においても、まだまだレベルアップさせていきたいと思っています。データと、お客さまとの接点の両面からサービスを高度化させていきます。お客さまとの接点を自分たちで作っていくということもあり得ると思いますし、さまざまなチャレンジをしていきたいと思っています。

高野:なにより今、銀行自体のビジネスが変わりつつあり、ただお金を預けたり、借りたりするだけの存在ではなくなっていくと感じています。そのときにお客さまとどうお付き合いをしていくのか?金融データを分析してどんなコミュニケーションができるのかを考えることが必要です。SMBCが持っているメディアやデータのポテンシャルはかなり高いと考えています。

大久保:現状では金融データを広告やマーケティングに活用しているケースは多くありません。まずは金融データをマーケティングに使うメリットを伝えていきたいですね。

高野:それと、SMBCグループ全体としてはこれからも金融サービス以外の事業の提供にも力を入れていきます。広告・マーケティングの他にも、非金融のサービスを提供していく流れがあります。お客さまのライフイベントでは金融サービスだけにニーズがあるわけではないですよね。ですから、さまざまなニーズに応えていきたいです。それが銀行自体のビジネス変革にもつながると思うので、その一翼を担っていきたいと思っていますし、電通グループとだからできることがあると思っています。

【お問い合わせ】
SMBCデジタルマーケティング:https://www.smbc-digitalmarketing.co.jp/

 

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