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frogが手掛けるデザインとイノベーションの現在・未来No.38

インビジブルバンキング:“見えない金融サービス”で成功するために

2023/08/22

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエーティブセンター、岡田憲明氏の監修でお届けします。

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リゾートやゲームをシームレスかつスタイリッシュに楽しめるようにする、ウェアラブル決済とはどんなものでしょうか?

商品やサービスからどんな体験を得られるかということに対する消費者の期待は、近年ますます高まっています。消費者のロイヤルティを獲得するために、決済サービスをシームレスで「フリクションレス(摩擦がない)」なものにすることが当たり前になってきているだけではなく、社会的・文化的な面にもシームレスな決済を後押しする機運が高まっています。

frogは、世界有数の金融サービス企業であるJPモルガンと提携し、ウェアラブル決済デバイスの分野でビジネスチャンスの拡大を目指す企業に向けて、決済エコシステムのイノベーションに関するコンセプトを取りまとめました。

<目次>

カスタマージャーニーのあらゆる側面に組み込まれた「決済」行為

「アクセサリー」としての決済デバイスが新ジャンルに

なぜ“RGE”業界でウェアラブル決済デバイスが必要なのか?

ウェアラブル決済デバイスにおける3つのクリエイティブコンセプト

インビジブルバンキング革命の始まり

カスタマージャーニーのあらゆる側面に組み込まれた「決済」行為

消費者の期待の高まりに応えるように技術の進歩が加速する今、これまでの決済サービスの進化について振り返っておくのによい機会かもしれません。例えば、クレジットカードはここ数十年間で目覚ましい普及を見せました。しかし、カードという物理的な存在そのものは変化していません。

人々の関心は、クレジットカードによって何を手に入れられるのかということでした。そして最上位ランクのチタン製カードが登場し、さらに、カードはVIPなライフスタイルを実現するための鍵だと考えられる時代になっていきました。

frogは市場の成長を促し、消費者を中心に据えた変革をリードすべく、複数のパートナーとさまざまな取り組みを行っています。そのうちの1つ、JPモルガンとのコラボレーションで探究しているのが、今、徐々に広がりつつあるインビジブルバンキング(見えない金融サービス)による決済サービスです。

どの業界の企業でも、決済という行為を単なる取引という観点から捉えるのではなく、決済行為はカスタマージャーニーのあらゆる側面に組み込まれているという視点を持つことが必要とされてきています。

そのためには、現在、期待されている以上の決済サービスの可能性を示すような一連のテクノロジーや機能を駆使して、自動車からヘルスケアまで、さまざまな業界をカバーする大きなエコシステムを構想し、開発していくことが求められます。いずれ、すべての企業が自社の決済サービスを含むあらゆる金融サービスをシームレスに統合し、ユーザーが体験するすべてのプロセスをより「フリクションレス」にしていこうという流れが生まれるでしょう。しかし、インビジブルバンキングにおける成功を勝ち取るには、それだけでは十分ではありません。

「アクセサリー」としての決済デバイスが新ジャンルに

テクノロジーとファッションが融合する今の時代にふさわしい、新世代のデジタルバンキングがまもなく登場し、日々の暮らしの中に浸透していくでしょう。「アクセサリー」としての決済デバイスはすでにスマートデバイスの新ジャンルとなりつつあります。現在のスマートウオッチやスマートフォンでは応えることができていない(そして、これまでとはまったく異なる)多様なニーズに対応でき、かつ考え抜かれたデザインを持つ極めて高性能な指輪やブレスレット、ネックレスなどが誕生しています。

テクノロジーを駆使した、こうしたライフスタイルアクセサリーを複数の企業が共同で開発していくことも増えていくと思われます。この流れをリードするには、ユーザーエクスペリエンスのシンプル化と感覚的な魅力を両立させることで差別化を図っていくことが必要です。

現在進めているJPモルガンとのコラボレーションの一環として、frogはイノベーションを加速させ、新しい体験を引き出し、お客さまの想像力を刺激するようなウェアラブル決済デバイスのプロトタイプ開発を検討してきました。

最初のターゲットは、「今ここ」を楽しむことがぜいたくだと考えられている業界、すなわちリゾート、ゲーム、エンターテインメント(RGE)業界を想定しています。

なぜ“RGE”業界でウェアラブル決済デバイスが必要なのか?

RGE業界のサービスは、魔法にかかったような魅力を感じさせる物理的体験が中心です。しかし、外の世界と常につながった状態でいると(そして、時に邪魔をされると)、せっかくかかった魔法が薄らいでしまいます。

もしスマートフォンをポケットに入れたまま、あるいは部屋に置いたままでも、RGEのあらゆるサービスや体験にアクセスできるとしたらどうでしょう? その瞬間を生きるための面倒なあれこれが減り、RGEの世界をリアルタイムで楽しむことができるようになるとしたらどうでしょう?

リゾートにおけるカスタマージャーニーは、コンシェルジュによるチェックイン手続きやゲストエンゲージメントに始まり、デジタルIDの確認、客室への入室、イベントへの参加、そしてもちろんショッピングやスパに至るまで、あらゆる場面で「フリクション」をなくすためのデジタル化が進んでいます。

カジノを持つ多くの施設では、カジノを楽しむゲストの間のバリアをなくすべく、カジノフロアのキャッシュレス化を猛スピードで進めています。

frogとJPモルガンが開発を目指すウェアラブルデバイスのコンセプトモデルは「U-Ring」と呼ばれる、目立ちすぎないレジン(樹脂)製のデジタルウォレットです。これは、JPモルガンのクライアントとなるRGE企業が、物理的な世界とデジタルな世界を完璧に融合させ、差別化を図れるアイテムとしてデザインされました。各社のエコシステムのさまざまな場面で、ブランドロイヤルティの向上につながるようなカスタマーエクスペリエンスを簡単に提供できるようにしたのです。

frogチームは、ウェアラブルデバイスのポイントを次のように考えていました。

  • ユーザーの実際の体験と、それにまつわる自己表現と喜びの時間までを含めた総合的な体験として提供できるものでなければならない
  • この分野でこれまでに見たことのないようなものでなければならない

U-Ringは、キーカードよりも、スーパーアプリよりも、クレジットカードよりも優れた、特別な価値と優雅な気品を提供するオールインワンのウェアラブルデバイスです。

ウェアラブル決済デバイスにおける3つのクリエイティブコンセプト

frogとJPモルガンは、ウェアラブルデバイスとインビジブルバンキングの深い知見を生かし、ウェアラブル決済デバイスのクリエイティブコンセプトを3つのポイントにまとめました。

やや抽象的なこれらのコンセプトは、金融サービス、エンターテインメント、ファッションなどさまざまな業界の企業にとって、来るべき激的な変化を迎えるうえでのインスピレーションとなりうると思われます。

1.デザインは人の感情に従う

このコンセプトは、frog創業時の「デザインは機能に従う」というキャッチフレーズを思い起こさせます。しかし、もうこのフレーズは忘れてください。frog創業者であるHartmut EsslingerとSteve Jobsはともに仕事をしていく中で、イノベーションとは、機能面が大きく変わることではなく、製品やサービス、そしてそれらにまつわるエクスペリエンスに対して消費者が抱える感情が大きく変わることだという考えを共有するようになりました。

デジタルウォレットを物理的に形にした、美しいデザインのウェアラブルデバイスは、ユーザーに形あるモノとつながる安心感を与えてくれます。ウォール街よりもミラノに似合う、さりげなくも魅力的なこのアクセサリーには、近距離無線通信(NFC)、指紋認証リーダー、キャッシュレス決済技術(JPモルガンが出資するSightlineなどのプロバイダーによる)が組み込まれており、リゾート滞在中の直接的かつ安全な支払いを可能にしました。それは、ユーザーが普段から行っている行為でありながら、まったく新しい決済体験をもたらすことができます。

2.体験のためのソリューション

各業界の企業は、次世代テクノロジーを駆使して、消費者の感情的なニーズを満たしながらも利益を追求できるサービスを、より多様な体験の中に組み込んでいくことが求められます。

「今ここ」を楽しむことがぜいたくの新しい形であることを示す文化的指標があります。消費者は常に(インターネットと)接続した状態に置かれ、常に何かを気にせざるを得ず、あらゆる場面で否応なしに自分のステータスを知らされます。

人々はリゾート滞在中にハイエンドな体験を期待し、時間もお金もエネルギーも惜しみなく投入します。リゾート運営者は、ユーザーにそれまでとは違う行動を起こさせるような新鮮で予想を超える体験を創造し、より大きく、より追跡可能なベネフィットを提供する努力が必要でしょう。それが最終的に他社との差別化につながり、ゲストにリピーターとなって、周りの人に薦めてくれるようになるのです。

3.変化を予測し、それに対応する

パートナーと共同でイノベーションを進めていくことは、未知のニーズや機会が眠っている分野を見つけ出し、業界を変えてしまうような大きな変化を起こしていくための共通のビジョンと勇気を与えてくれます。

複数の企業が持つそれぞれの強みを組み合わせることで、困難への対処、戦略的な規模の拡大、そして競合を含めた業界の多くの企業への普及につなげていくことができます。

現在、広がりつつある「今ここ」を重視するRGE文化のさまざまな側面に、すでに消費者が享受しているコネクテッドなライフスタイルの恩恵を同じように受けたいという欲求が潜んでいます。

消費者の行動を変え、莫大(ばくだい)な事業価値を生み出す新技術が登場した時の常として、まずは新しいものを積極的に取り入れるアーリーアダプターたちが、カジノで高額を賭けるVIPプレーヤーのような、大きな影響力を持つ小規模なセグメントのニーズに応える必要があります。彼らが、新技術が広く市場に普及するまでに越えなければならない障害(いわゆる「キャズム(溝)」)を乗り越えることで、広く一般に普及していく道筋が開かれていくのです。

インビジブルバンキング革命の始まり

RGE業界は、インビジブルバンキング革命の影響を受ける数多くの業界の中のごく一部にすぎません。新しいテクノロジーが一部の勇敢な企業に取り入れられ始めており、現在、上記のようなクリエイティブコンセプトを、ヘルスケア、建設、バーチャルグッズ業界などを含むより広い範囲で応用していくことが検討されています。

frogとJPモルガンは、これらのウェアラブルデバイスが切り開く新たなフロンティアの可能性を探り、B2B2Cイノベーションのリーダーとして存在感を高め、より多くのパートナーと協力して決済サービスの未来を築いていくべく取り組みを行っています。

この記事はウェブマガジン「AXIS」にも掲載されています

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