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「民間企業」が取り組む、若者の投票率アップ施策!その背景や反響に迫る

2023/09/01

本記事では、次の世界の「新しい答」を見つけ実装する、電通のクリエーティブ・エリア「A」(※1)のメンバーが、U30(10代・20代)を中心としたNPO「NO YOUTH NO JAPAN 」(以下NYNJ)によって、2022年7月の参議院議員選挙で若年層の投票率アップを目的に民間企業とともに行われた「UPRATE」施策を取材。

NYNJ代表理事の能條桃子氏、施策に参加したTimeTreeのCPO・吉本安寿氏、MG Japan Services (Tinder Japan)シニアディレクターの永野久美氏に、企画立ち上げの背景や、選挙の投票率向上に民間企業が関わる意義、反響や成果などについてお聞きしました。

<目次>

若者の投票率80%!選挙が“一大イベント”のデンマーク留学経験から、
NYNJを設立


生活者の“日常に溶け込む”アプリを活用し、3つの施策を実施

「企業がユーザーと社会への関わり方を表せる活動」
ハードルが高い「選挙」への取り組みに、民間企業が参加を決めた理由


SNSに約2700件の反響!取り組みを行ったこと自体へのポジティブな評価も

いずれは選挙を「モーメント」に!多彩な企業の参加でコンタクトポイントを増やし、「三方よし」を目指したい
※1=「A」とは 
次の世界の「新しい答」を見つけ実装するためにクリエイターやプロデューサーが集結した「クリエーティブ・エリア」。dentsu zero 鈴木健太を中心に2022年に発足し、数々のアイデアを自発的にスタートさせている。社内ラボとして現在活動中。

 

「UPRATE」鼎談_メインカット(集合)
左からNYNJ能條氏、Tinder Japan永野氏、TimeTree吉本氏、インタビュアーを務めた電通「A」メンバーの塚田航平

若者の投票率80%!選挙が“一大イベント”のデンマーク留学経験から、NYNJを設立

「A」:インタビュアーを務める電通の塚田と申します。「A」は若者を取り巻く環境から社会をよくしていきたいと考えるメンバーが集まったラボです。今回は、僕とNYNJ代表の能條さん、そのメンバーで僕の電通の後輩でもある瀧澤(千花)で、若者の投票にまつわる課題について話し合っていたことをきっかけに、電通報で「UPRATE」施策をご紹介することになりました。

まずは自己紹介を兼ねて、能條さんはNYNJ設立の経緯を、吉本さん、永野さんは各社の事業についてお聞かせください。

能條:日本では今、若者の投票率がどんなに高くても40%を切る状況です。政治の話題はどことなくタブーな雰囲気で、ある意味“諦めている”ような空気感があります。私自身はもともと選挙や政治に興味があったのですが、大学時代にデンマークへ留学した際、選挙期間は街全体がお祭り状態になり、20代の投票率も80%を超える様子を目の当たりにしました。その経験をきっかけに、日本の同世代の人たちももっと政治に関心を持って近づいてほしいという想いを強くし、2019年の参議院選挙の時に、まずはインスタグラムで政治と社会、選挙について分かりやすく発信をすることからNYNJの活動をスタートしました。

「UPRATE」施策鼎談_能條氏ソロカット

吉本:TimeTreeは、任意の相手とカレンダーを共有できるアプリのサービスを展開しています。このアプリは、家族や恋人などの親密な間柄のグループで利用されることが多くあります。例えば夫婦間では、予定が十分に共有されずに言った言わないのすれ違いが発生することがよくあります。TimeTreeではそのようなユーザーの課題を解決しています。国内の登録ユーザー数は2300万を超えており、多くの方の生活動線に入り込んでいるため、日頃からそれをどう活用して社会課題の解決に結びつけられるかを考えていたところ、今回の企画にお声がけをいただきました。

永野:Tinderは、マッチングアプリとして世界最大級の規模を誇るサービスです。「メンバー」(Tinderユーザー)の過半数は18歳から25歳で、まさに本施策で投票を訴えかけたい世代。私たちも常々、サービスを利用しているメンバーに何かプラスになることを還元できないか考えていた中で、ご縁があって今回のお話をいただきました。

生活者の“日常に溶け込む”アプリを活用し、3つの施策を実施

「A」:「UPRATE」は自治体や行政ではなく、「民間企業」を通して若者に投票を呼び掛ける点が大きなポイントになっています。こうした施策を考えた背景について教えてください。

能條:きっかけは、これまでの私たちのアプローチ方法では、“届く相手”に限界があると感じていたことです。NYNJの公式インスタグラムには約10万人のフォロワーがいますが、そのほとんどは、もとから選挙や政治への関心がある大学生や社会人です。活動を続ける中で、その一歩先の、まだ投票に行っていない人たちに情報を届ける施策が、本当に難しいことを実感していました。

そこで海外の取り組みを見た時、若い人たちが集まる場所やサービスを提供している企業とコラボレーションし、選挙への関心を促していることに気づきました。日本は特に企業への信頼度が高い国だと思います。若い世代も行政や自治体より企業が提供するサービスとの接点の方が大きいと感じていて、そうした接点を多く持つ企業さんとコラボできれば、投票率を上げる新たな方法が見つかるのではないかと考えました。

「A」:そこから2社とのコラボレーションが実現したのですね。2022年の参議院選挙では実際にどのような施策が行われたのでしょうか?

吉本:当社では2つの施策を行いました。1つは、TimeTreeのアプリ上に国内のすべてのユーザーの予定として、「参院選投票日」を表示すること。それも当日だけではなく、少し前から表示してリマインドし、認知アップを狙いました。母の日や父の日、バレンタインデーなどと同じ形での表示なのですが、当社のアプリとしてこうしたイベントを表示したのは、初めての試みでした。

もう1つは、当時「Today」という「今日」にまつわるコンテンツをまとめたメディアのようなページがあり、そこに参議院選挙に関連したコンテンツを用意して、投票日であることをアピールしました。

「UPRATE」施策鼎談_事例画像

永野:Tinderでは、アプリを開くとメンバーのプロフィールが次々と表示されていきます。プロフィールを見ていいなと思ったら右にスワイプするとマッチし、合わないと思ったら左にスワイプするとそのまま次の人が表示されます。その中に、投票を呼びかけるための少し目を惹くカードをランダムで入れて、面白いと思った方が右にスワイプすると、NYNJの公式インスタグラムへ飛べるようにしました。

カードは3種類作って約1週間おきに表示させ、興味を持った人は実際に選挙の情報が得られる仕組みです。ほかに当社の公式SNSを使った発信も行いましたが、実際にカードを見たメンバーによるオーガニックな投稿の反響が大きかったですね。

「UPRATE」施策鼎談_事例画像02

「企業がユーザーと社会への関わり方を表せる活動」

 

ハードルが高い「選挙」への取り組みに、民間企業が参加を決めた理由

「A」:現状、日本では投票率を上げる施策に民間企業が参加するケースは多くないように思いますが、今回なぜ「UPRATE」施策に参加しようと思ったのでしょうか?

永野:先ほどもお伝えしたとおり、「Tinderのメインメンバーである若い世代に還元できることは何か」を考えた結果なんです。選挙は彼らの将来に関わってくる大切なことですが、投票率はずっと低いままです。ただそれは、関心がないというよりも諦めに近い思いや、選挙の仕方を「知らない」……情報が届くべきところに届いていないことが理由としてあるのだと思います。Tinderというアプリを使えばそうした状況に対してできることがあるのではと思いました。

能條:NYNJとしても現在の投票率の低さは若者だけの課題なのだろうか?という疑問がありました。私たちは、若者を取り巻く環境を変えることによって、投票率も上げられると考えています。デンマークでは、過去に投票率が下がってしまった際、当時国会議員だった今の首相がそれを解決するプロジェクトを立ち上げました。その時、特に効果があった施策の一つがマクドナルドに投票所を置いたことです。

日本でも若者と親和性の高い企業さんとそうした取り組みをしたくて、『コラボしたい企業』をリスト化していたのですが、そこにはTinderさんも入っていました。ただ、今回のコラボでは、最初、永野さんの方からアプローチしてくださったんですよね。

永野:一番の問題はTinderとしてどうアプローチしたら、メンバーのもともとの利用目的と全然違うものが出てきたとき、ノイズにならないかでした。若い人たちが使っている以上は楽しく、遊び心があって、大胆にやらないときっと伝わらない。そのバランスをどう取るのが正しいのか自社内だけでは答えが出せなかったので、インスタグラムで見つけたNYNJさんに、何か一緒にできないかと持ち掛けたんです。

「UPRATE」施策鼎談_永野氏ソロカット

「A」:TimeTreeさんがUPRATEに参加されたのには、どのような背景があったのでしょうか?

吉本:当社の場合は、ブランドプロミスとして「明日をちょっとよくするために」を掲げ、カレンダーのサービスを通じて、より良い明日の予定を選択できることを目指しています。UPRATEさんからご提案をいただく中で、選挙への参加は、まさに世の中の未来をより良くする選択の一つだと考えました。また、団体のプロモーションが目的ではなく、本当に社会課題を解決したい想いが強く感じられたところにも共感しました。

一部の人だけが関わる予定をカレンダー上に表示すると、関係のない人にはノイズとなってしまいユーザー体験を阻害しかねません。選挙は多くの人に影響と関連があるもので、当社代表からも社の目指すものと合っていると同意を得られたため、参加を決めました。社会に対する自社の存在意義を伝える上で、自分たちがどんな社会を目指し事業活動をしているかを表せる一つの手段だったと思います。

「A」:両社とも初めての取り組みとして、ある意味チャレンジをされたんですね。目指すべき社会に向けて、事業活動を展開していこうという視点に、とても感銘を受けました。

能條:私たちも、特定の党への投票を求めるのではなく、「投票に行くこと自体」を呼び掛けることは、本当に社会を良くすることに企業が関心を持っていることの表れになると考えています。こうした事例を積み重ねることによって、他の企業にも「自社のサービスでできること」を考え始めるきっかけがつくれたらうれしいですね。

SNSに約2700件の反響!取り組みを行ったこと自体へのポジティブな評価も

「A」:今回の施策に対して TimeTreeさん、Tinderさんとも、ユーザーがSNSにコメントを投稿したり、Tinderさんの場合、ウェブメディアで取り上げられていたりしたのを拝見しました。施策後の社内外の反響について教えていただけますか。

永野:ツイッター(現・X)には約2700件の投稿があり、リーチは約300万でした。それだけ多くの方がカードを見て面白いと感じ、それを自分の言葉でツイートしてくれたのは大きな成果だったと感じています。3種類のカードは、全くテイストが異なりそれぞれに味がありましたが、平塚らいてうさんの写真を使ったものが一番反響がありましたね。

能條:NYNJが投票を呼び掛けるのは当たり前ですが、Tinderさんが平塚らいてうさんのカードを出してきた意外性が面白すぎて話題が広がったのだと思います。「投票に行こう」という呼びかけをTinderさんがこのような形で伝えてくれると、若者たちにも選挙を真面目に考えるのは「ダサい」じゃなくて「イケてる」ことの一つだと捉えられたのではないでしょうか。そうした雰囲気を反響として見られたのはありがたかったですね。

吉本:TimeTreeではやはり、約2000万を超えるユーザーのカレンダーに表示されたことが、認知としてかなり大きかったと感じます。正直なところ、施策を行った当時はこれがポジティブな反応を呼ぶのか、ノイズととらえられるのか全く読めませんでした。施策後のツイートを見たら、結果的にポジティブなものが多く「素晴らしい取り組み」と言っていただけた。取り組みをしたこと自体を評価して、好印象を持っていただいた方が相当多かった印象でしたね。

「UPRATE」施策鼎談_吉本氏ソロカット

能條:選挙への取り組みって、売り上げやダウンロード数にすぐつながるものではありませんので、少しでも還元されたのならよかったです!ただ、これがもし社会課題に対してきちんと取り組む姿勢やビジョンを元々持っていない企業が突然始めた施策だったら、反応は違っていたかもしれません。協力いただいた2社が、社会やユーザーに対してもともと取っていたコミュニケーションとズレていないことが伝わったからこその反応に見えました。

いずれは選挙を「モーメント」に!多彩な企業の参加でコンタクトポイントを増やし、「三方よし」を目指したい

「A」:あらためて、今の日本では、選挙や投票といったテーマに慎重になるところがある一方で、世の中的には、企業が社会課題に取り組むのは当たり前という流れが生まれてきています。今回「UPRATE」企画に参加した企業として、こうした活動に民間企業が取り組む意義や、自社のマーケティング・ブランディングにどう貢献できるのかをお聞かせください。

吉本:今、企業は消費者から、事業を通して目指すものやその本質を見られている時代です。そのため、事業をそうした視点と結びつけていく必要があります。

当社は、ユーザーが抱えている課題解決のための一つの手段として、TimeTreeを提供しています。その文脈では、社会課題への意識は特にありませんが、一方で、企業として目指したい世界や実現したいビジョンがあります。ユーザーと運営だけの関係ではなく、そこに社会を含めた3点の関係性を築けると、自分たちの目指す姿を知ってもらえるきっかけになる。アクション自体がビジョンやパーパス発信の一部になるので、社会に対する企業の存在価値を伝える場としては、参加して良かったと考えています。

永野:企業として力を発揮するために大切なのは、各自の得意分野でしっかり活動をすることです。私たちの場合は得意分野が「若者世代」「出会い」ですし、当社のビジネスを存続し、成功できているのはメンバーがいるから。ですので、そこにどうマッチした活動があるかを考え、取り組むことがメンバーのためにも自社にとっても意義をもってきます。

能條:ありがとうございます。私たちはもちろん、社会を良くするための手段として選挙や若者の投票啓発に真面目に取り組んでいますが、一方で、この活動が今後、企業に多方面でメリットをもたらせるような“おいしいもの”になるといいなと思っています。

例えばアメリカでは、大統領選挙があると、さまざまな企業がステッカーを作って配ったり、お店のラッピングを変えたりしています。それは選挙への取り組みが自社にとってのメリットになると分かっているからです。最近では「国際女性デー」が企業キャンペーンの一つの「モーメント」(契機)として広まっています。多様な企業が乗りやすいものになることで、議論が進む利点も生まれてくるので、選挙も同じようなモーメントにしていきたいですね。

「UPRATE」施策鼎談_塚田氏ソロカット

「A」:おっしゃる通り、多彩な企業によるコンタクトポイントを増やす中で、参加された企業のサービス自体へのエンゲージメントや、ロイヤルティが高まっていくと三方よしになっていくように感じました。こうした活動は1社だけで進めていくのは難しいように思います。今回のような記事などを通じて他社にもその発想を広げ、互いに共有することで、各企業がそれぞれに適した形で活動していくことができるのではないでしょうか。今後、民間企業同士でそうした協力体制を持てると、より取り組みを加速していけそうですね。

能條:若い世代の日常をつくっている企業さんがたくさんあるので、一つずつ投票への情報にアクセスできるきっかけを増やしていきたいなと考えています。それを継続することで、この取り組みが選挙時のルーティンになっていくといいですね。

「UPRATE」施策鼎談_全員集合カット
本取材に参加したメンバー。左からTinder Japanの広報を担当する佐川恵美里氏、TimeTree・西尾亮祐氏、吉本氏、永野氏、能條氏、塚田、電通「A」の三好裕太、瀧澤千花

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