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自社の「調達コード」、知っていますか?
企業の必須要項となったサステナビリティへの配慮とその指針

2023/09/27

オリンピック・パラリンピックや国際博覧会(万博)などの国際的な大型イベントが近づくにつれ、昨今取り沙汰されるのがサステナビリティに配慮した「調達コード」 (※1)だ。

オリンピック・パラリンピックでは2012年のロンドン大会から、また万博では2015年ミラノ万博から調達コードが策定・公開されるようになった。持続可能性に配慮しない調達は国際的にNGになってきている。本稿ではこの調達コードへ本格的に向き合い、また自社ルールの策定に乗り出す企業についてPRの視点から議論したい。

※1=サステナビリティに配慮した「調達コード」とは、物品やサービスの調達プロセスにおける持続可能性への配慮を実現するための基準や運用方法等を定めたもの。

 

気候変動の要因と私たちにできること

現在、われわれの行いがいかに各種の環境破壊につながり、それが日々の生活に降りかかっているのかを、明確に突き付けられている。この夏の異常な暑さしかり、昨今のサンマの売価高騰しかりである。絶滅危惧種といった言葉もそこここで耳にするが、それらの種ももともとは普通に存在する生物だったわけで、「いつも食卓に上っていたあのサンマがとうとう絶滅危惧種に認定されました」といったニュースがわれわれに届くようなことがあれば、それはまさに危機的状況であるし、しかも、あり得ないことではないという怖さも持ち合わせている。

このように、われわれが無意識に重ねてきた行いが、徐々にわれわれ自身の生活に不具合として降りかかってきていることを皆が感じていると思うが、この「自分ゴト化」こそが次なる行動へのモチベーションとなるのだ。

グローバルの指導者がどうこう言っている、政治の世界で環境保護のための法制化が議論されている、そんな話をちまたで漏れ聞き、「そうだよねー」と浅い相づちを打つような行動は、いま求められていない。必要なのは、そんな社会に苦言を呈し、また自らその難題に向き合う覚悟なのだ。

いまこそ企業に求められる調達コードの策定

そのような中、「調達コード」の自分ゴト化にいまほど適切なタイミングはないのではなかろうか。2025年には大阪・関西万博が開催される。世界中から人が集まり、その膨大な観覧者が訪れる施設は、デザインで人々を魅了し、次世代の機能で人々を感嘆させ、その時代のレガシーとして人々の記憶に残る。グローバルにアピールする格好のタイミングとして、国のみならず参画する企業にとっても大いに力の入る事業であることは間違いない。そこでこの調達コードへも本格的に向き合い、また自社ルールの策定にも乗り出す企業もあるだろう。

昨今のトレンドでは、施設のいでたちは華美であることよりもむしろシンプルさが、予算的にはコスパを意識し、開催前後の環境負荷にも配慮した施設が社会的に求められる。そう、地球温暖化につながるさまざまな要因をいかに排除し、こういった大型イベントにおけるサステナブルな開催への道を敷設できるか、次の事業者へとバトンタッチしていけるかという思想が企業には求められている。その思想がそもそもの計画時点で盛り込まれているかが注視され、人々から評価される。そしてその共感度が、イベント自体の成功にも大きく寄与することとなる。

つくって終わりではなく、始まりから終わりまで、一貫した意思の提示が必須であり、またその最終評価は、イベント終了時までのトータルの環境負荷計測を終えた時点でされることとなる。環境負荷低減の施策が有効に働かず、その数値目標を下回ることになれば、最後の最後でマイナス評価ともなってしまうわけで、中間地点を数カ所設け、目標通り計画が進んでいるかというチェックも、今後は必要になってくるはずだ。

調達コードの法制化が遅れる日本

調達コードについて、国内ではまだあまり耳にしないという人も多いかもしれない。だが、世界では法制化までされているところも多い。例えば、EUでは森林破壊が確認された土地で収穫された木材やパーム油、大豆、カカオ豆、コーヒー豆、牛肉、天然ゴム、さらにはこれらを原料とする派生製品に関して市場流通させること、あるいは輸出することを禁止する法案が2023年5月に採択されている。つまりEUでは森林破壊に加担した産品の調達は明確に「罪」と認定されるわけだ。また各企業にはこれら産品の状態を事前に確認する環境デュー・ディリジェンス活動が義務付けられている。知らなかったでは済まされないよう、事前の調査も課せられているのだ。

英国でも同様の法律が2021年に公布・施行されており、米国では2021年に法案提出、2022年末でパブリックコメントの段階にある。また各国とも、これら産品の収穫、生産に関わる人々の人権にも配慮するよう人権デュー・ディリジェンスについても言及されているのだ。一方、日本に目を向けてみると、現状ではこれらの産品に関する法制化はされておらず、また法案の検討にも至っていない。わずかに木材関連についてのみ輸入業者や製材業者に対する合法確認を義務付けているものの、人権デュー・ディリジェンスについてもガイドラインがあるのみという、いわば初期段階にとどまっている。

公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(以下、WWFジャパン)によると、現在、自社の調達コードを設定しているグローバル企業は2012~2019年で3.6倍に増えているという数字もあるのに、この現状はかなり立ち遅れているといわざるを得ないだろう。

また、同じくWWFジャパンの調べによると、こうした国際トレンドの影響で調達コードに関して何かしらのアクションを取らねばと考えている国内企業は多いそうだ。しかし、実際に調達コードを策定している企業は半数程度だという。

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一方、とある住宅メーカーではその木材調達において「森林破壊ゼロ方針」を掲げ、同様のゼロ方針を策定していないサプライヤーからの木材調達を原則禁止にしているという。自社事業領域での原材料調達において、同じ目標を持つ企業としか取引をしないという指針は、ビジネス的には不利な側面もあるはずだが、こういった覚悟を内外に明確に示す企業への社会や生活者からの共感は、そのネガティブ面をも凌駕(りょうが)する価値を持つと信じているからこそできる宣言といえよう。

海外企業の先進事例を見れば北欧家具メーカーのIKEAは使用する全木材の産地を木材調達マップで公表、99.9%がFSC®認証(※2)材もしくは再生材であることをアピールしているし、大手スーパーのCOOP(スイス)では、自社ブランドのパンや菓子類に使用するパーム油を全量RSPO認証 (※3) 品に切り替えて、農園までのトレーサビリティデータを開示している。両社ともうそ偽りのない、疑問を差し挟む余地がない姿勢で取り組んでいることに誇りをもっており、その自信がここまでのオープンスタンスを可能としているのだろう。

※2= FSC®認証とは、責任ある管理をされた森林と、限りある森林資源を将来にわたって使い続けられるよう適切に調達された林産物に対する国際森林認証制度。 FSC®ロゴマークは森林の環境や地域社会に配慮して作られた製品であることを示すマーク 。
 
※3= RSPO認証とは、持続可能なパーム油の生産と利用を目的に2004年に設立された国際NPO「Roundtable on Sustainable Palm Oil(RSPO)」による認証制度。
 

「FSC®認証」マークは一定の審査をクリアした木材や紙製品を認証し、家具、紙パッケージ、紙パック、ティッシュ、コピー用紙などに付き、また「RSPO認証」マークは一定の基準を満たした農園と製品を認証し、ポテトチップスやカップ麺、マーガリン、せっけん・洗剤などの製品に付けられている。

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牛乳やカップ麺などの身近な商品のパッケージにも各認証マークを見つけることができる。

なぜ日本は自分ゴト化できないのか?

日本で自分ゴト化を進めるにはどうしたらいいのか。自分たちの目の届かないところで、日本が地球規模で環境問題の原因をつくっていることを改めて理解すべきなのだろう。

日本のカーボンフットプリントを見てみると、東南アジアやアフリカで影響が大きいことが分かる。インドネシア産のパーム油、パプアニューギニアやラオスのコーヒー豆、タンザニアの綿花やゴマ、ブラジルの大豆などが代表例だ。実は日本国内の森林面積増加分と比較すると、国外における日本関与の森林伐採面積の方が大きく、地球規模でいえばやはり日本の関与で森林伐採を進行させていることとなる。それがたとえ他国の領土であっても、その責任は免れない。2015年の時点ですでに日本人1人当たりで平均2.22本の森林伐採を引き起こしており、そのうちの9割以上となる2.07本が海外の森林で行われているという試算もある(※4)。隣の青い芝生を焼き尽くすような蛮行とも言える状態なのだ。

※4=総合地球環境学研究所(2021)
https://www.chikyu.ac.jp/publicity/news/2021/0330.html


実は世界の森林減少のうち、その7割が農林畜産物の生産の過程で起きており、WWFジャパンの資料で、は2004年から2017年までに世界24カ所で計4300万ヘクタール、およそ日本の1.2倍相当の面積の森林が消失したという。そのような農林畜産物を輸入している国々にも当然のことながら責任がある。

そして、以前は中国のCO2排出量を超える分を吸収してくれる媒介であった森林が、伐採によってCO2排出する側に転換した。そのCO2の吸収分の消失量と排出量を合わせると世界第3位の排出国に相当するのだという。そして、その片棒を担いでいるのが日本なのである。森林破壊につながる各製品の輸入額で見れば1位の中国(24%)に続き、EU(16%)、インド(9%)、米国(7%)、日本(5%)とトップ5に名を連ねるポジションとなっている。こちらも自国領土ということではなく、輸入製品を通じてのマイナス貢献ということで認識されづらいところなのかもしれない。

ちなみにWWFジャパンによると、調達コードを策定すべき業界トップ3として農林水産業、繊維・アパレル業、外食産業が挙げられるという。特に外食産業は、農林水産物を多量に使用するものの、その対策が追いついていないということらしい。仕入れ値で商売が大きく左右され、調達原料でのサステナブル配慮をしづらいということがあるのだろう。しかし、このままでは状況は悪化するばかりなのだ。

子どもの自分ゴト化を通じて関与のチャンスを増やす

自分ゴト化のひとつの方法として、子どもを通して関与を深めていく取り組みがある。森林保全に取り組むWWFジャパンは、本年7月27日の木曜日、学校が夏休みに入った直後に上野動物園で親子向けの夏休みイベントを開催した。「世界トラの日」である7月29日を前に、絶滅の危機にひんするトラの視察をメインに、熱帯林や野生動物の危機的状況とそれを守るための手立てを学ぶ内容だ。

地球上の8割の生物は自然の森林にすんでおり、絶滅危惧種を含めて生物の存続には生物多様性の場としての森林の保全が不可欠なことがこのことからも分かる。森林保全によりCO2排出量が抑制され、生物多様性も維持されるという、このあたりの問題は常に深い相関関係にあることも忘れてはならない。

この親子向けイベントは、絶滅の危機にひんするトラを折り紙で折り、スマホのARアプリで読み込み、課題や解決策を特設サイトで学ぶというもの。7月の暑いさなか、親子22人が参加し実施された。イベント自体はWWFジャパンが本年6月22日の「世界熱帯雨林の日」にあわせてスタートしたキャンペーン内の催しとして位置付けられ、その啓発キャンペーンは年内いっぱい継続されるという。近年の熱帯林の急速な消失により年々増加している絶滅危惧種の野生動物の実態と、森林や動物を守るために私たちが毎日の暮らし中でできるアクションを知ってもらうのが目的だ。

当日は会議室で折り紙とAR体験をした後、実際の「トラ」をおりの前で観察しながら、トラの飼育係およびWWFジャパンのスタッフから、動物園でのトラの普段の様子や生息地での実態が解説され、その生息地を守るために私たちの生活と認証マークの関係性が説明された。そう、認証マークとは先に紹介したFSC®マークでありRSPOマークのことである。実は国内で普段購入している商品にもこれらのマークを表示しているものは意外と多い。そのマークの意味を知り、自分たちの消費行動において目前のトラをどうサポートできるのか、その製品を選ぶことで間接的に環境への取り組みを自身が実践できることを知ってもらうのだ。

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実際、子供たちはSDGsなどの知識も学校で学んでおり、これらの仕組みへの理解度もとても高かった。しっかり学んだからこそ、今日から実践したいという声を保護者からも聞くことができた。要は、日常生活の中でいかに自分ゴト化し、生活様式に採り入れられるかが今後の重要なテーマなのだ。また特設サイトでは、絶滅危惧種がすむ森を守るために自分たちができることや認証マークの大切さについて学び・考える。そういった継続した機会提供が人々の意識を変え、また、その行動が企業の意思へと反映されていくことこそが望ましい姿だろう。

WWFジャパンのサイトでは、これら認証マークが表示された商品を見つけ、自分たちが動物たちのために、また環境保全のために何ができるかを考え、誓う、夏休みの自由研究シートも無料ダウンロードできるようになっている。お子さんがいる方は、ぜひ、子どもたちと共にこの課題を眺めてみてほしい。小さい頃に漠然と考えていたことが現代の子どもたちの手によって実現することは珍しくない。そんな活動の発端としてこの課題セットは十分に効果を発揮するのではなかろうか。

・WWFジャパンキャンペーン特設サイト:
https://www.wwf.or.jp/campaign/rainforest-animal-origami/


かように、気候変動の抑止に対する活動はまだまだグローバルでも足並みがそろっていない状況にある。国連やNGO/NPOが声高にその推進を呼びかけ、メディアがいかに警鐘を鳴らそうとも事態はなかなか動かないのだ。しかし、これを打破するのは各所で実行力のある企業であり、またそれを支援できる生活者だ。先に述べた通り、生活者との関係性において企業は自らの行動を示し、行動への共感度を上げ、ビジネス的なリターンも得ることができるはずだし、それが現代の企業の生き残り策のベースともなる。

コロナ禍を経て、自社の社会的存在意義を考え直す動きがグローバルでも活発化しているが、その一つの方向性として、これら気候変動、森林保全、生物多様性など環境問題への対応についても指針を示すことを検討してもらいたいと思う。なぜなら、そんなふうに地球のことを真剣に考えてくれる企業を嫌う人などいるはずもないのだから。

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