ROASが目標比147%を達成。アパレル企業のHAKONIWA実践術!
2023/10/24
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今回ご紹介するのは、アパレル企業TSIが、ヤフー(現・LINEヤフー)と電通の共同分析プロジェクト「HAKONIWA」を活用して取り組んだ、デジタル広告のROAS(Return On Advertising Spend:費用対効果)改善+αの事例。
HAKONIWA
ヤフーが保有するオンライン行動データと、電通グループが保有するデータ基盤を連携させた分析環境。月間アクティブユーザー数約8400万人(※)のYahoo! JAPAN内の、さまざまなデータを分析に活用し、広告配信にまでつなげることができる。
※Yahoo! JAPAN公式サイト「サービス・事業」より
クリック率などの広告データに加え、検索データ、Yahoo!ショッピングの購買データなど、ヤフーおよびヤフーのパートナー企業(一部)が展開している多数のサービスデータを連携。広告主が保有するファーストパーティーデータを、セキュアな広告主データ保管領域経由でHAKONIWA環境に入れることで、ヤフー保有データ、電通保有データとかけ合わせた分析が可能となる。
参考記事:
HAKONIWAを活用したPayPayキャンペーン分析事例 経済圏データの活用で何ができるのか?
TSIではこれまでも自社データ(ファーストパーティーデータ)を活用したデジタルマーケティング施策を多く行ってきましたが、新たにHAKONIWAを活用し、データをかけ合わせることで、どんな成果と発見があったのでしょうか?
TSIで、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)を使ったデータ施策や、ウェブ広告、CX改善など幅広く統括する竹山健司氏と、同社と共にデジタル広告配信に取り組む電通デジタルの矢野すずか氏、アナリストとしてHAKONIWAを用いた予測モデルの作成やデータ分析を担当した、電通デジタルの五十嵐祐介氏にお話を伺いました。
<目次>
▼2つのターゲットに対してHAKONIWAでアプローチ!
▼予想を超える成果!新規ユーザー獲得と、詳細なユーザー理解を実現
▼自社データ「以外」とのデータ連携は、広告配信以外にも可能性が広がる
2つのターゲットに対してHAKONIWAでアプローチ!
──今回は、TSIが「ナノ・ユニバース」「サンエー・ビーディー」というブランドで実施した、HAKONIWAを用いたROAS改善の事例について伺えればと思います。まず、TSIがHAKONIWAを導入した経緯を伺えますか?
竹山:これまでもウェブ広告の配信に当たって、自社が持つ購買データなどを活用したアプローチをしてきました。でも、自社データだけではターゲティングの母数も限られます。また、特に「新規に購入してくれると予測されるユーザー」「LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)が高いと予測されるユーザー」に対してROASの高いアプローチをしたいというかねてからの希望もありました。そこで電通デジタルに相談し、HAKONIWAでのユーザー分析と広告配信、効果測定を実施することになったのです。
矢野:HAKONIWAは、持っているデータが非常に豊富です。例えば「検索データ」を活用して、ユーザーの興味関心なども深く理解した上で、「予測モデル」に反映できます。
※ヤフーが取得・活用できるデータは、全てユーザー許諾取得済みの情報となります。
――データクリーンルーム(DCR)にはさまざまな活用法があると思いますが、今回の特徴は?
矢野:TSIの持つ自社データの、HAKONIWAとの連携です。オフライン(店舗)とオンライン(EC)の購買データや、どういう方が購入しているかというデータをHAKONIWAと連携しました。
これらのデータを基に、2つの予測モデルを作り、それぞれのモデルに対してヤフー上で広告配信を行うことで、「新規ユーザーになってもらえたか」「継続的に購入してもらえたか」といった分析を行っています。
五十嵐:現在、DCRの活用方法としては、プラットフォーム側に蓄積されているコンバージョンデータを分析することが多いんです。その点、今回はファーストパーティーデータであるTSI側のCDPにある購買データをHAKONIWA内に連携して、かけ合わせて分析した点がユニークだと思います。
機械学習を活用し、ヤフーの持つさまざまな属性データと連携することで、どのユーザーが購買する確率が高いか?という2つの予測モデルをつくりました。
- 新規購買ユーザー予測
- 高LTVユーザー予測
実際にHAKONIWA内でそれぞれのスコアが高いユーザーをセグメント化し、2つの予測モデルに基づいた広告配信までつなげられました。
予想を超える成果!新規ユーザー獲得と、詳細なユーザー理解を実現
――ファーストパーティーデータとの連携で、今までのデジタル広告ではできなかったことが実現したのですね。
矢野:従来はサイト来訪者というシンプルな条件に基づいてリターゲティングなどの広告を行うことが多かったのですが、「サイト来訪者」の中にもさまざまな確度のユーザーが混在しています。
今回、サイト来訪時の行動データに加えて、ヤフーのデータやファーストパーティーデータなど、多様なデータを活用して、ユーザーごとの購買確率を予測するモデルを作り、各ユーザーの購買確度に応じたきめ細やかな配信ができるようになりました。
竹山:「オンラインのデータだけを使い、オンライン上で購入を促す」というのが従来のデジタル広告ですよね。私たちはアパレル企業なので、店舗の購買データを活用した広告配信自体はやっていたんですが、HAKONIWAとの連携ではこれまでとは違う成果を得られています。例えば、今回はデジタル広告でありながら、「店舗での購買」というところまで見て、最適化を図っていきました。
――「ヤフー広告を見て、ナノ・ユニバースやサンエー・ビーディーの実店舗で購入した」というところまで分析できたということでしょうか。
竹山:はい。広告のクリックやビューを測定し、広告配信期間中に購入されていれば、広告の効果があったと見なしています。
五十嵐:今回はPOSのデータも使い、広告配信前と広告配信中の期間を比較し、検証しました。
――電通のTrue Lift Modelを用いて、「純粋な広告効果によるコンバージョンリフト」も調べたそうですね。
広報リリース:
デジタル広告の効果をより正確に評価する「True Lift Model™」を提供開始
矢野:ナノ・ユニバースも、サンエー・ビーディーも、非常に人気のあるブランドですので、「ウェブ広告に接触しなくても購入していたユーザー」が当然多くいるはずです。そこで、「広告効果」をしっかり見るためにTrue Lift Modelでの検証も行いました。
――2つのセグメントでは同じクリエイティブで広告配信したのでしょうか?
矢野:はい。あくまでも今回は2つの予測モデルを別々に配信し、比較できることが大事だったので、同じ条件で比較できるように、クリエイティブは統一しています。その結果、「高LTV層は商品をしっかり訴求した方が良い」「新規層にはセール訴求が良い」といった分析が可能になりました。
――配信の結果、どういった成果が得られたのでしょうか?
竹山:大きくいうと、以下の3つが成果です。
- 全体購買の実績ROASが目標比147%となった。
- 新規購買の実績ROASが目標比110%となった。
- 新規購買者、既存購買者ともに、ヤフーのデータを活用した興味関心事項も抽出できたため、アプローチ先の解像度が上がった。
TSIも、やはり費用に対する売り上げをシビアに見ています。そんな中で、全体的にも非常に良い数字が出ましたし、特に新規ユーザー獲得は特に重視しているところなので、目標比110%という数字には満足しています。
そしてもう一つ、副次的な効果として、アプローチ先であるユーザーの解像度がかなり上がりました。「新規」「高LTV」といった予測モデルそれぞれについて、どういう検索ワードが多いのか、どういう興味関心が高いのかといったユーザー像が見えたことで、ユーザー層に応じた適切なアプローチが明確になったんです。もちろんTSIでも、年齢や性別といったデータは持っているのですが、それだけだとわれわれがアプローチすべきユーザー像が明確ではなかったんです。
矢野:五十嵐から「新規購買のユーザーは、Yahoo! JAPAN内でこういう興味関心を持っている」という分析レポートを出してもらったんですが、これである程度「こういう人たちは今後新規ユーザーとして狙っていけるかもしれない」というイメージができましたね。
五十嵐:まさにそこはDCRの強みでもありまして、プラットフォーム事業者が持つさまざまなデータをかけ合わせて分析することで、今まで見えていなかった属性の発見ができます。そのため、竹山さんのおっしゃるような「新規ユーザーの開拓」には、非常に相性が良いと思います。
――ファーストパーティーデータのDCRへの連携というのはまだ珍しい例のようですが、苦労されたことはありますか?
竹山:広告配信に当たって自社データを活用することはこれまでも経験があったんですが、プラットフォームによって連携方法やデータの送り方、データ自体の仕様などがけっこうバラバラなんです。ヤフーとの取り組みは初めてでしたが、電通デジタルさんのフォローで、スムーズに実施することができました。
――予測モデルを作成するのはスムーズにできたのでしょうか?
五十嵐:予測モデルの構築自体は、多数の実績があるためハードルなく実施できるのですが、達成したい目的から逆算して、どういうモデルなら予測精度をより高められるかの調整には苦労をしました。
矢野:特に「高LTVが期待できるユーザー」などは、分析上はボリュームが少なくなってしまいがちです。そこでLTVのスコアを高いユーザーから配信して広げていくという配信手法をTSIさんとも議論しながら設計して実行しました。配信実施時におけるプロセスを決めておくことも、スムーズに施策を実行できるポイントだと思っています。
自社データ「以外」とのデータ連携は、広告配信以外にも可能性が広がる
――今回の取り組みを受けて、社内からはどんな反響がありましたか?
竹山:やっぱり新規ユーザー獲得に対する反響がありました。「本当に、新規ユーザーもこれぐらい取れるんだね!」という。TSIではずっと新規ユーザー獲得が課題としてあったので、実績ができたのはとても良かったと思います。
矢野:実は今回、HAKONIWAでのモデリングを使った分析と比較するために、「興味関心:ファッション」というシンプルなターゲティングでの配信も一緒に始めたんです。そうしたら、まったくコンバージョンが取れなかった。つまり、本来「新規ユーザー獲得」ってすごく難しい、ハードルの高いことなんですね。そこで予測モデルを使って良い数字が出せたのは、TSIのプランナーとしての立場から見ても発見でした。
――逆に、課題点や改善したい点はありましたか?
五十嵐:先ほどデータ連携の話を少ししましたが、アナリストの立場でいうと、TSIのファーストパーティーデータをHAKONIWA環境に連携していただき、予測モデルを構築し、セグメントを作って配信するという全体の流れは、プライバシー配慮もしながら進めるため簡単ではなく、時間もかかります。そこを、今後はよりスピーディーに、そしてもちろんプライバシー保護の観点で安全・安心であることは必須なので、両立したソリューションやスキームを開発していきたいと考えています。
それに加えて、「クライアント課題に合わせた分析のバリエーション」も増やしていければと思います。使えるデータはプラットフォームごとに異なるので、クライアントの要望に対して望ましいアウトプットを得られるプラットフォームで分析できる、そういう仕組みづくりも進めていきます。
――長期的に見ての、未来展望をお聞かせください。
矢野:今回は3カ月の実施でしたが、もっと長期的・継続的に分析を続けることで、「LTVの高いユーザー」がどんな人なのかをより理解していくことができると思います。「こうした新規ユーザー層が、1年後には何回購入してくれたのか」みたいなところまでわかると、より精度の高いモデリングやアプローチもできるのではないでしょうか。
竹山:将来的な希望でいうと、広告配信だけでなく、ECサイトでのCX改善など、より購買に近いところにも活用していけたらと考えています。また、TSIはOMO(Online Merges with Offline、店舗とECの融合)を非常に重視しているので、「店舗とEC、両方のチャネルで購入してくれている人の総合的な売り上げやROASの最適化」だったり、あるいは店舗単体での最適化だったりということにもつなげられるとうれしいですね。
矢野:今回はTSIとヤフーのデータだけでの実施だったので、今後は電通や他のデータベンダーのデータも連携した取り組みも提案していきたいです。「店舗には来たが購入していないユーザー層」のデータも、例えば位置情報データなどを連携することで、ある程度見えてくると思います。プライバシーが保護されるHAKONIWAのような分析環境の中で、「デジタル広告と、実店舗に足を運んでくれたユーザー」というところまで詳細に分析できると、さらにいろんな施策につなげることができるのではないでしょうか。
竹山:もう一つだけ挙げると、自社のCDPにHAKONIWAのデータを接続しての分析もできるようになるとうれしいです。当然、プラットフォーム事業者側のプライバシーポリシーなど、ユーザー保護がしっかり確立された上でですが、そういうことが可能になると、CXの改善やLTVの向上にもつなげていけるかなと思います。
――本日はありがとうございました!
※ヤフー株式会社は、2023年10月1日より、LINEヤフー株式会社になりました。
電通広報リリース:
複数のデータクリーンルーム環境を一元管理する「TOBIRAS」を開発
お問い合わせはこちらまで:
電通 データ・テクノロジーセンター
Email:data-alliance-unit@dentsu.co.jp