購買データで媒体横断分析!「ミンティア」に見る、日用消費財のオンオフ統合マーケティング
2023/09/15
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今回ご紹介するのは、アサヒグループ食品の清涼菓子ブランド「ミンティア(MINTIA)」における、DCRを活用したデジタルマーケティング事例です。
従来はインプレッション数やクリック数といった中間指標でしか売り上げへの貢献度を分析できなかった、日用消費財の広告費用対効果。それがDCRの横断活用により、実購買数ベースで詳細に分析できるようになったという、グローバルで見ても意欲的な試みです。
アサヒグループ食品でミンティアなどの商品のマーケティングを担当する小林芽生子氏と、本プロジェクトで主に分析を担当する電通デジタルの友井大将氏、DCRを活用したソリューションの開発・運用に携わる電通の前川駿氏にお話を伺いました。
<目次>
▼従来難しかった「購買データ」起点で、プラットフォームごとの効果検証が実現!
▼Cookieに代わる物差しが手に入る。DCRの「媒体横断」と「継続」のメリット
▼DCRは売り上げのみならず、ファンづくりや顧客体験の向上にも寄与する!
従来難しかった「購買データ」起点で、プラットフォームごとの効果検証が実現!
──アサヒグループ食品がDCRを導入した経緯を教えてください。
小林:広告媒体が多様化していく中で、出稿媒体の選定や、複数の媒体を横断した評価が難しいことが課題でした。また、いわゆる「Cookieフリー時代」に向けて、ユーザーのプライバシー保護とマーケティングのための分析の両立を求めていたのです。
前川:各媒体(プラットフォーム事業者)の提供するDCRでは、プライバシーが保護された環境で、外部データとの突合についてそれぞれの媒体がユーザーから同意許諾を得ていることが一般的です。このDCR内でさまざまなデータを突合することで、ユーザーの個人情報を守りながら、これまで以上にビジネスの成果に直結する分析が可能です。
――ミンティアという商品ならではの課題が特にあったのでしょうか?
小林:ミンティアはオフラインの売り場がメインの商品です。そのため、デジタル広告を出稿したり、SNSでの施策を打っても、実際の売り上げへの寄与といったオフラインへの効果を測る指標が確立されていないことが課題でした。年々デジタル広告の比率が上がっていく中で、「オンオフ統合」で施策を効果検証できる環境を整える必要がありました。
――今回、かなり多くのDCRを横断的に活用されていますね。全体像としてはどのような設計になっているのでしょうか?
友井:ミンティアが実際に店舗でどのくらい購入されているかが分からなければ、施策の効果検証もできませんので、「オフラインでの購買パネルデータ」を軸に据えました。具体的には、ロイヤリティ マーケティングの共通ポイントサービス「Ponta」を起点とした購買者パネルを媒体ごとのDCRに連携し、購買行動をもとにユーザーをタイプ分けして、グルーピングしています。
そしてグループごとの購買傾向の可視化や、どの媒体がどういった購買行動に影響を及ぼしているかの検証などに活用しています。これまで Google やLINE、X(旧Twitter)、Facebookなど複数の国内主要媒体で分析してきました。
――数多くの媒体、数多くのDCRにまたがった分析をされているのですね。なぜ、オフラインの購買データにPontaパネルを選んだのでしょうか?
友井:今回のプロジェクトは、「いかに多くの媒体を横断で分析できるか?」が重要なポイントです。Pontaはさまざまな媒体にデータ連携を拡張している点が魅力でした。また、Ponta会員数が非常に多く、コンビニエンスストアをはじめとするデータにも強いため、ミンティアの一番大きな購買ポイントの一つである「コンビニでの購買行動」との親和性が高いのです。
──この2年間でミンティアのどんなことが分析できたのか、具体的に伺えますか?
友井:ミンティアの競合となり得る他社のタブレット菓子も含めて、DCR上のIDを「買いやすい層」「買いにくい層」でグルーピングした上で、「どの層がどの広告に接触し、どう購買したのか?」を媒体ごとに検証しました。単純な購買率のみならず「狙いたいターゲットがどうすれば動いてくれるか」まで含めて、最適な媒体を選定できるようになりました。
小林:どの媒体でどのターゲットにどんなアプローチをし、売り上げにどう貢献したのかを俯瞰(ふかん)して、その結果を踏まえながら媒体を選定し、商品も広告もスケールさせていけるのは大きいですね。また、アイドルやコミックとのコラボ施策を行った結果、どういった層がどの媒体からどのくらい流入してきたのかといったことも、従来のデジタルマーケティングでは見えなかった部分です。
Cookieに代わる物差しが手に入る。DCRの「媒体横断」と「継続」のメリット
──このプロジェクトに約2年間、継続的に取り組んだからこそ得られた成果や気づきを教えてください。
友井:「媒体×ターゲットグループ」別の購買分析データを2年間蓄積してきたので、それらのデータを定量的に比較できます。定性的な面では、購買行動ごとにユーザーをグルーピングしているのですが、例えばある男性アイドルを起用したキャンペーンに対して、「同じ女性層でも、この媒体でターゲティングした方が売り上げにつながった」といった分析も組み合わせることができます。これは、分析結果をもとに各媒体の広告配信に繋げることができるDCRの強みを生かしています。
小林:「実際に買ってくれているお客さまは、この媒体と接触しているな」という実態を、売り上げベースで解明できていますよね。経験や勘だけでなく、データの裏付けがあった上で、「接触のボリュームゾーン」に対してしっかりアプローチ可能になったのは大きな成果です。
このプロジェクトを始めたのは2021年ですが、ミンティアは商品の特性上、新型コロナウイルス流行で在宅の方が多くなると、離脱する(=ミンティアを購入しなくなる)ユーザーが一定数いました。そして、徐々にコロナ禍が落ち着くとともに再び購入し始めるユーザーがいる中で、例えば「どういうユーザー層が離脱しているのか?」「どの媒体に接触したユーザーの再購入が多いのか?」なども検証できます。そういうユーザーの出入りの情報も、データの蓄積で可視化できるようになりました。
2年間継続して見ていくことで、世の中の変化とともにユーザーがどのように変わっていくのかをつかめるのは面白いポイントでした。ミンティアは、毎月数字を細かく追うというよりも、毎年「春」と「秋」に大きなキャンペーン施策を展開して、それぞれの施策後の変化を見る傾向にあるんです。その意味でも、要所要所の変化を大きく捉えられるDCRとは、商品の相性が良いと感じています。
前川:継続という観点でいうと、ここ十数年のデジタルマーケティングで当たり前に使われていた「サードパーティーCookie」を使った広告の効果計測や広告実施の効率化は、今後ますます難しくなっていくと思います。しかしその一方で、ブランドとユーザーのコンタクトポイントは増加しています。
単一のメディアやチャネルを通じて、一方的にメッセージを伝えて終わりの時代ではなく、ブランドとユーザーの対話を通じた長期的な関係性づくりが重要になり、ブランドのファンを増やすために広くマーケティングに投資するという観点に変わってきています。
こうした時代には、プラットフォームや自社の資産を活用したさまざまな施策に対して、同じ基準・同じ定義で多角的に評価した「物差し」を仕組み化し、継続的に蓄積することが重要だと考えています。いつでもすぐに過去の知見に立ち戻れることで、変化の激しい市場環境でも、マーケターの方々が「人の心を動かす施策」を考案することに時間を使えるようになるのではないでしょうか。
──「継続」に加えて、今回のプロジェクトは「媒体横断」という点も特徴かと思います。
友井:たくさんの媒体を横断して、かつそれをオフラインの購買データという指標で計測できている点は、確かにこのプロジェクトの大きな特徴です。Pontaパネルのような外部データを各DCR内に連携して、セキュアな環境で分析できます。
ただし、一つ一つのDCRは同じものではありません。例えば、オンライン広告のクリック率一つとっても、媒体によってクリック1回の価値が違います。広告の表示のされ方が媒体それぞれで異なるので、軽くクリックされる媒体もあれば、しっかり閲覧された上でクリックされる媒体もあるわけです。
そこで今回は、「広告費に対してどれだけ売り上げへの貢献があったのか」という定義をそろえることで、同じ基準で判断・分析できる「共通指標」を作りました。
前川:加えて、Pontaパネルの購買データだけでは、それがミンティアの売り上げ全体ではありません。つまりPontaのデータを基に、全体像を「拡大推計」する必要があります。
また、分析結果である「売り上げに対する各媒体の広告効果」が、実態と乖離(かいり)してしまっては意味がありません。どうすれば各媒体共通で使えて、なおかつ実態に即した指標を作れるのか、そのロジックをクライアントと一緒に議論しながら組み立てていきました。
小林:媒体横断という意味では、「A媒体とB媒体にどのくらいの予算を投下して、それぞれのインプレッション数はどれくらいか?」みたいな単純比較は私たちだけでもできたんですよ。でも、300万円かけた媒体と500万円かけた媒体でインプレッション数が変わるのは当然ですよね。それにインプレッション数やクリック率は、市況や入札する企業数にも左右されたりするので、その数字だけを見ていても「次」につながるノウハウがなかなか得られません。
そこに対して「購買データを基準に、全媒体に横串を刺す」という手法は、私たちだけではできないことでした。この共通指標はどんどん改良しており、より精度の高いものになっていますし、徐々に検証できる媒体が増えている点も頼もしく思っています。
それに、たくさんある媒体の情報のアップデートを1担当者が全部やれるかというと難しいところがあって、それでも最適なプランニングをしなきゃいけない。そこの部分を「TOBIRAS」で非常にスピーディーに実現できるようになったのは、本当にありがたいです。
前川:ここでTOBIRASについて少し説明させてください。各媒体の持つDCRは、それぞれシステムの仕様や専門性が異なります。それらを同じ基準で横比較することは、本来難しいことなんです。また、小林さんがそうであるように、デジタルマーケティングの担当者にとって「デジタル広告の効果計測の定義」は、重要ではありますが、業務のほんの一部です。他にたくさんの業務がある中で、「データを、マーケティングの実務ですぐに使えるような扱いやすい形で、スピーディーに提供すること」がとても重要であると思っています。
そこで、電通グループでは複数のDCRを一元管理するTOBIRASというシステム基盤を開発し、活用しています。DCRは柔軟でさまざまな切り口の分析ができますが、それ故に、活用の難度が高い面があります。DCRという“ルーム(部屋)”はたくさんあるけれど、誰もが入れる“扉”がないという状態が課題だと考え、TOBIRASと名付けました。それぞれ仕組みが異なるDCRを共通化し、スピーディーに横断分析を実行できます。
Cookieフリー時代にもデータマーケティングを広く、継続的に活用される強靭な仕組みにしたいと考えています。今回のプロジェクトでもTOBIRASを活用し、購買データ分析をより迅速に提供できる体制を作っています。
電通広報リリース:
複数のデータクリーンルーム環境を一元管理する「TOBIRAS」を開発
DCRは売り上げのみならず、ファンづくりや顧客体験の向上にも寄与する!
――今回の取り組みにおける一番の収穫はなんでしょうか。
小林:何よりも、オフラインの購買データとデジタルマーケティングの接続です。最終的にミンティアを購入してくださったユーザーが、どのデジタル広告に接触していたのかが分かる。しかも、貢献度が高かった媒体まで分かるのが、従来との最大の違いです。
以前は「これだけクリックされているから、売り上げに貢献しているはず」という推測しかできなかったのが、購買起点で見られるようになったことで、インプレッションやクリック率は「中間指標」になりました。ある意味、デジタルマーケティングにディスラプション(破壊的なイノベーション)が起こったと考えています。
社内でも、今まではインプレッション数やクリック率で広告の費用対効果を説明していましたが、購買ベースで数字が出せるようになり、「このプランで、これだけの予算を使います」と自信を持って提示できるようになりました。
友井:オフラインの購買データを使って可視化してみると、「クリック率の高い媒体A」よりも、「動画視聴率の低い媒体B」のほうが実際の購買に貢献している、というケースは往々にしてあるんですよね。
前川:インプレッションや到達数という「量」に対する費用対効果を見ることは、もちろんアカウンタビリティ(説明責任)の観点で必要です。その上で、接触したユーザーの行動を「質」として評価すると、「AとBはインプレッション数が圧倒的に多いけれど、質を考えると意外とCとDの方がよかった」という多角的な判断を提供できます。
小林:そういう発想って、ECをされている方々の考え方だと勝手に思っていたんです。ECではデジタル広告から購買までがつながっていて、コンバージョン率を測定することで、質の面での広告の評価もできますから。ミンティアのように、コンビニがメインの売り場の商品でも、その考え方ができるというのが衝撃的でした。
――購買起点の効果測定以外では、どんな発見がありましたか?
小林:今回の取り組みを通して、「お客様を知る」ということをより鮮明にできていると思っています。これまでも、広告配信媒体が提供しているペルソナを基に、例えば旅行や音楽などの興味・関心の中から「こんなことが好きな人」を選んで広告配信をしていました。でも、DCRで「これくらいの年齢の人で、こんなライフスタイルで、具体的にはこんなことに興味があって……」という、かなり粒度の細かいターゲティングができるようになりました。広告の費用対効果を上げることにも使える一方で、ユーザー一人一人の単位まで目を配っていくことになるので、広告活動とは両極端に位置する感覚もあるんです。
すでに、アイドルやコミックとのコラボをきっかけに入ってきてくれたユーザーが、今後何をすれば喜んでくれるのか、どのくらい残ってくれるのかといった、より細分化したマーケティングを考えるきっかけになっています。それによって、従来はミンティアに興味のなかった新しい顧客層にまでスケールさせていけると考えています。
前川:先ほど、「企業とユーザーの関係性づくりが重要になる」という話をしました。DCRは、「長期的なファンづくり」をデジタル上で展開していくケースにも活用できると思います。従来のCookieを使ったユーザー分析だと、数カ月に1回の頻度でIDが変わってしまいましたが、DCRであれば、各媒体がユーザーから許諾を得たIDを通して、より長期的な関係性を分析できます。こうしたDCRの特徴を生かした取り組みが今後は増えていくと考えています。
――今後のプロジェクトの展望を教えてください。
友井:現在、ミンティアはコンビニエンスストアでの購買データを拡大推計した数値を基に分析していますが、スーパーマーケットやドラッグストアにもミンティアを買ってくださるユーザーはたくさんいます。そういった複数の商圏を統合したり、実際に購買したユーザーの属性を直接ターゲティングに活用したりする手法も電通デジタルで模索しているところです。
前川:今やデジタル化が進み、商品の売り場も多様化しています。電通グループでは、「企業の自社のECチャネル」「大手オンラインEC」「スーパー」「コンビニ」「ドラッグストア」など、複数のチャネルごとにユーザーの特徴と行動を捉えてプランニング、施策実施、検証までを行えるように、アライアンスやソリューションの開発を進めています。
小林:Cookieフリーの時代になって、データ活用が減るのかといったら全くそんなことはなく、精度の高いデータを用いてより良い顧客体験を実現できる手応えを感じています。これからの時代、「一律のマス広告を打ち、みんなが1個の商品を買う」ということはなくなっていくと思います。より細分化されたニーズに対して、テスト的にいろんな販促を展開していくような施策にDCRを役立てていきたいですね。前川さんや友井さんとも、今後もぜひ一緒に取り組んでいければと思います。
前川:ありがとうございます!最後に少し宣伝をすると、電通グループでは、2015年のタグ計測に制約がかかる前からデータクリーンルーム領域のアライアンスとソリューション開発に力を入れていまして、世界的に見ても実践的な活用にノウハウがあると思っています。
DCRの利用に当たっては、ユーザーデータを取り扱う上での法的な理解も必要です。加えて、プラットフォーム事業者ごとに規約が異なり、ユーザーから得ている許諾の内容も異なります。電通グループでは、統計や機械学習に関するデータサイエンスの専門知識や実務経験に加え、法令順守の視点や顧客体験の視点など、データ倫理の専門性を兼ね備えた社員を「認定アナリスト」として800名以上認定しています。興味のある方はぜひご相談いただければと思います。
――本日はありがとうございました!
電通広報リリース:
複数のデータクリーンルーム環境を一元管理する「TOBIRAS」を開発
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電通 データ・テクノロジーセンター
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