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「サラリーマントーマス」がバズったワケ

2023/10/30

2022年12月「きかんしゃトーマス」のアニメシリーズが12年ぶりにフルリニューアルされ、3D CGから2Dルックのアニメーションになりました。

新シリーズのプロモーションのためにYouTubeで公開されたのが、“アテフリ”ドラマ「サラリーマントーマス」です。総再生回数は200万回を超え、多くの注目を集めました。

画像をクリックすると、動画がご覧いただけます。

きかんしゃトーマス
「きかんしゃトーマス シーズン1」の音源を使った“アテフリ”ドラマ

同施策の企画立案にあたり活用したのが、電通が開発した「データドリブンコンテンツグロースメソッド(D2CGM)」(※1)です。

今回は、「きかんしゃトーマス」の日本のマスターライセンス権を保有するソニー・クリエイティブプロダクツ マーケティング部の朝倉精吾氏と伊藤弘康氏をゲストに招き、同施策を担当した、電通データ・テクノロジーセンターの澤田悠太氏と増田修人氏がインタビュー。リニューアル時に感じていた課題感や、「サラリーマントーマス」公開後の反響などについて伺いました。

※1 データドリブンコンテンツグロースメソッド(D2CGM):データを軸にコンテンツの課題発見から、生活者インサイトの分析、企画立案(各メディアでの話題化)、効果検証までを一気通貫で実施。コンテンツの成長を支援する。


きかんしゃトーマス

3Dから2Dへ。大きく変化させるタイミングで、どうアプローチするか?

澤田:「サラリーマントーマス」は、「きかんしゃトーマス」フルリニューアルのプロモーションとして電通から提案をさせていただきました。この大きな転機で抱かれていた課題感についてあらためて教えていただけますか?

朝倉:実は、以前にも鉄道模型を使用した人形劇から3D CGアニメーションへのリニューアルがありました。今回は、そこから2Dルックへのリニューアルで、見た目が明らかに変わります。さらに声優の方々も新しいメンバーになったので、私自身も大きな変化を感じました。

その中で、ファンの方はもちろん、アニメーション放映やイベント運営、商品化を担っていただくライセンシーの方々にも「新しいトーマスをどう受け入れていただき、信頼感を得ていくのか」が一番大きな課題でした。大きな変化に合わせて、思い切ったプロモーション施策が必要だと考えていたんです。

澤田:お話を伺い社内で戦略を検討するにあたって、最初に電通オリジナルのアニメ・キャラクター調査データを用いて、「きかんしゃトーマス」の課題分析を行いました。500を超える他のアニメ作品やキャラクターとのポジション比較で分かったのは、「トーマスは認知率が高いキャラクターだけれども、他と比べると『すごく大好き』という好意率が低い」ということでした。

この結果から子どもだけでなく、大人へのアプローチも視野にいれて世の中全体の「きかんしゃトーマス」に対する好意率の底上げが必要だと考えました。ここが「サラリーマントーマス」を企画する起点になっています。

朝倉:トーマスはコアターゲットが未就学児に限定されているのが特徴です。2~4歳ぐらいの男の子がコアで、5歳を過ぎるとだんだん卒業していきます。ただ、2~4歳の時期には非常に強い好意を持っていただける特殊な立ち位置にあります。

また、日本での放映が始まって30年以上が経過しています。30年前に子どもだった大人たちが必ず通ってきている。子どもの頃を思い出していただき、好きだった気持ちを掘り起こすことで、ターゲットを広げることもできるコンテンツです。

きかんしゃトーマス

増田:まさに僕自身がトーマスの大ファンでした。ハマったというレベル以上に大好きで、常にグッズが身近にありました。

伊藤:「きかんしゃトーマス」自体は2025年に80周年を迎える非常に長く愛されているコンテンツです。昔ファンだったご両親や保護者の方々から子どもに共有してもらうなど、そこをうまく活用できるといいと考えており、その仮説ともデータ分析から見えてきた現状が重なりました。それから、子ども自体のターゲットも広げたいと考えています。女の子や多種多様なキャラクターもいるので、女の子のファンも増やしたいです。新シリーズには自閉症と向き合うキャラクターが登場するなど、多様性も意識した内容になっているため、多くのお子さんに見ていただきたいと思っています。

きかんしゃトーマス

データ分析から課題を発見し、ゴールへ導く「データドリブンコンテンツグロースメソッド(D2CGM)」

澤田:そういった課題感を伺い、今回は「データドリブンコンテンツグロースメソッド(D2CGM)」を活用して施策を提案させていただきました。私たちのチームでは、電通グループ独自の総合マーケティングプラットフォームであるPeople Driven DMP®(※2)を使って、消費者行動データといろいろなコンテンツのファンのデータを掛け合わせるエンタメ大規模調査を行っています。

例えば、国内の約500のアニメについて認知度や好意度をはじめとしたさまざまなファンのエンゲージメント指標を聞き、それと消費者行動データを掛け合わせることで、実際に購買につながった人や今後ファンになることが期待できる潜在層の詳細データを出すことができます。また今回のように、他のアニメと比べてトーマスがどの立ち位置にいるのかをチェックすることもできます。

このようにデータを起点にコンテンツの課題を発見し、どんな道筋をたどれば課題を解決できるのかを考えるのがD2CGMです。さらに施策を企画する際にも、データを活用することを意識して取り組んでいます。

※2 People Driven DMP®:特定の個人が識別できないよう管理・構成されたさまざまなオーディエンスデータや、ユーザーの同意許諾を得たメディア接触データ、購買データ、位置情報データなどを統合し、人(People)基点で分析することができるプラットフォーム。

 
きかんしゃトーマス

澤田:今回の案件では、課題を発見し、チームで共有することが大事なポイントだったと感じています。「認知率は高いけど、好意率が低い」「拡散意向が低い」という課題が見えたところで、プランナーと共に検討し、「トーマスを好きになる。ついつい話題を拡散したくなる。もっと子どもに見せたくなる」というゴールを設定しました。

また、ターゲット分析からは「知っているけれども好きではない」層が2500万人ぐらいいることが分かりました。そこで、今までアプローチできていなかったけれども、子どもの頃に見ていたので潜在的にまた好きになる可能性のある、30代男女をターゲットにしましょう、と提案しました。

増田:インサイト分析では、N=1インタビューなどを駆使して、ターゲットの心と体を動かす訴求軸を明確化します。今回はトーマスの大ファンだった僕自身がN=1となり、ファンの間で有名なミームや、主要キャラの位置づけなど少しでも皆さんのアイデアブレストの種になる情報提供を意識して行っていました。

そこからクリエイティブチームと一緒にアイデアを練っていきます。分析結果を見せ上記のターゲット分析やインサイト分析を共通認識としてそろえつつ、データ分析チームからも、「勤労感謝の日に社会的なメッセージを出してみよう」とか、「サラリーマンが集う居酒屋『十升(トーマス)』みたいなことをやってみては」、というアイデアを出したりしました。

そして「大人にこそ共感を得られるトーマス」という方針を企画のコアに話し合いを重ねる中で最終的に「サラリーマントーマス」を提案することになったのです。

きかんしゃトーマス
2022年11月23日の勤労感謝の日に、東京新聞朝刊で「トーマスが飛び出す!新聞広告」を掲出。

朝倉:データ分析のチームからもアイデアを出すというのは、面白いですね。結果だけ渡してクリエイティブチームに任せる縦割りの体制が多いような気がするので。

増田:正直なところ最初は僕も戸惑いましたが、難しさを感じつつ、楽しみながらアイデアを出していました。

澤田:よりよい企画を出すためにも、データ分析とクリエイティブの垣根はなくして取り組むことを意識しています。

きかんしゃトーマス

2Dルックになっても「きかんしゃトーマス」が伝えたいことは変わらない

澤田:「サラリーマントーマス」の提案を受けた感想はいかがでしたか?

朝倉:提案内容の面白さとデータの裏付けの両方が際立っていると感じました。まず、アイデア自体が単純に面白い。そして私たちの場合、海外の版権元の許可を得る必要があります。そこを突破するためのロジックとして数字がひもづいている点も評価できると思いました。

伊藤:日本でもロジカルに説明することが重視されてきていますが、海外のほうがやはりシビアです。特に「きかんしゃトーマス」は歴史あるコンテンツなので、今回のような攻めた施策は今までやったことがありません。それを実現できたのは、「なぜやるのか?」というロジックがしっかりしていたからだと考えています。

澤田:版権元をどのように説得しましたか?

朝倉:文化の違いもあるので、なぜこれが面白いのかを説明するのは難しい課題ではありました。結局は見てもらったほうが確実に企画意図が伝わると思い、ラフで作っていただいたものを見てもらいました。すると、本国のクリエイティブ担当も面白いと言ってくれたんです。

澤田:それはうれしいですね。私がデータを使ったプランニングをするときに常に意識しているのは、大筋はデータで整えつつ、最後のクリエイティブ表現の部分は遊べるように余白を残すことです。面白いクリエイティブで遊べるけど、その道が正しいことを、誰もが分かるようにするのがデータなのではないかと思っています。

伊藤:「きかんしゃトーマス」は3DCGから2Dルックになって、見た目は変わりましたが、根底にあるものや伝えたいことは変わりません。「サラリーマントーマス」は、ただ面白いだけではなく、根底に流れているものを変えずにアプローチしてくれた点が良かったと思います。エピソードは全部で500話以上あるので、そこからドラマにする3話を選ぶのも大変だったのではないでしょうか?

澤田:「大人にとっても教訓になる内容が多い」ことは強く意識して、クリエイターとも共有して制作していましたね。どのお話をドラマにするかについては、増田が500話から30話に絞って、そこから動画制作を担当するクリエイターが3話を選びました。

伊藤:それは大変でしたね!版権元もやったことがない作業です。

増田:トーマスに詳しい僕の経験値を生かせたのではないかと思います(笑)。「サラリーマントーマス」公開後の反響はいかがでしたか?

朝倉:バズらせようとして、バズらせることは難しいと思いますが、目標にしていた100万回再生をクリアし、動画全体では200万回を超えました。また、今回はドラマのスピンオフ版でタカラトミーから出ている「プラレールトーマス」のプロモーション動画も作りました。その購入者アンケートでは、商品をプロモーション動画で知った方が約60%と、一番多い結果になりました。

きかんしゃトーマス

伊藤:新しい「きかんしゃトーマス」の視聴率も非常に良い結果になっています。2Dルックになって絵自体が変わったので、今までリアル過ぎると感じていたお子さんも見てくれているのかなと。子ども自身は、3DCGや2Dルックという区別はないですよね。

増田:2Dルックになることに抵抗があった方にも今回の「サラリーマントーマス」のようなとがった施策をすることで、「なんか運営が面白いことやっているな」といったポジティブな反応があるといいなと思っていました。

朝倉:トーマスファンの方からは「メッセージ性みたいなものがちゃんとつながっていることを公式が打ち出してくれて、ポジティブな気持ちになった」という声がありました。

せっかくなので、この「サラリーマントーマス」を生かして、タイアップ企画などもできるといいですね。ファンも続編を期待していますし、いろいろな商品と掛け合わせても面白いかもしれません。

澤田:そうですね。ぜひ続編も作りたいです。本日は貴重なお話をありがとうございました。
 

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