【グローバル】加速するサステナビリティ&サーキュラーエコノミーNo.19
気候変動とインフレは、どう購買行動を変えたか?
―サステナブル・ライフスタイル意識調査2023より―
2023/10/18
電通と電通総研は、2021年に続き第3回となる「サステナブル・ライフスタイル意識調査2023」(以下SLS2023)を共同で実施しました(調査概要はこちら )。
調査エリアは東アジアから日本・中国、西欧からフランス・ドイツ、東南アジアからインドネシア・タイの合計6カ国です。アメリカの調査データ(※1)にも触れながら、調査メンバーがこれらの国際調査の結果を読み解き、考察します。今回は、気になる「気候変動×購買行動」をメインにトピックスをいくつかご紹介します。
※1
電通グループ が北米で実施した調査「Dentsu Consumer Navigator : Sustainability 2023」。SLS2023では一部の調査項目や対象条件を合わせて調査を行った。
<目次>
▼気候変動の影響は、「食と水」と「生活コスト」に。ステルス値上げも実感した2023年
▼日用品は詰め替え?それとも、容器回収?
▼牛肉を食べないことへの抵抗は減る
気候変動の影響は、「食と水」と「生活コスト」に。ステルス値上げも実感した2023年
「気候変動の影響を受けている領域」として、6カ国平均で8割を超えたのが「食と水の安全」「生活コスト」でした。また、これらの項目はアメリカでも8割を超えていました。
日本でも、提示したすべての項目で「強く/やや影響を受けている」の合計が過半数を超え、気候変動がもはや将来の危機イメージではなく、日々の暮らしに影響を受けているという実感が広がっています。また、どの国でも上位に経済関連の項目があり、気候変動のインパクトとして経済的な打撃をグローバル規模で受けていることがわかります。
なお「自分のメンタルヘルス」は6カ国平均では最下位ですが、フランスのZ世代は65%(フランス平均+9pt)・ドイツのZ世代は74%(ドイツ平均+10pt)と、欧米で「気候変動によるZ世代のClimate Anxiety(気候不安)」が注目されたことも結果に表れていました。
生活コストに関しては、6カ国平均で2023年に「値上がりした」という回答(そう思う+ややそう思うの合計)は、「食品価格」88%、「燃料費」86%、「光熱費」85%と、多くの人々がインフレを感じていることがわかりました。またステルス値上げとも呼ばれる同じ価格でも内容量が減るなどの実質的な値上げも、6カ国平均で72%、日本では83%が感じていました。また日本では「商品・サービスのランクを下げて購入利用する」が59%と、6カ国で一番高い割合でした。
日用品は詰め替え?それとも、容器回収?
次に日用品に特化した項目についてご紹介します。まず購買の優先順位について。調査の第1回から「価格が高くても、環境に良い日用品を選ぶ(環境優先)」か「環境に良いものより、価格の安い日用品を選ぶ(価格優先)」のどちらを選ぶかという質問を聴取しています。日本は環境優先が3割、価格優先が7割で、インドネシア・中国・タイはその反対で環境優先が7割でした。フランス・ドイツはどちらも半々くらいで、大まかな傾向は2021年から大きくは変わっていません。
次に、詰め替え商品を買うことについて。「よく買う」と回答した割合は日本70%、インドネシア68%、タイ65%でした。その他の国は、ドイツ45%、フランス41%、中国36%と、半数以下でした。
例えばシャンプーの場合だと、日本・タイ・インドネシアでは、詰め替え商品が棚のメインゾーンに置かれていて、その他の国は本体がメインで置かれています。また、東南アジアでは詰め替えずに「詰め替えパックのままで使用する」人が多い傾向があります。中国では「詰め替え過程に抵抗がある」(商品が外気に触れたり、容器を洗った後の水が残ることで、品質が変わることを懸念する)人が多く、詰め替えの意識的なハードルも日本の感覚とは異なります。
また日本のように「詰め替えパック」が想起されているとは限りません。持参容器で量り売りをしてくれるリフィルステーションや、容器を店頭に持ち込むと洗浄・充填(てん)してくれるサービス、容器回収を含む宅配サービスなど高価格ラインも存在します。
さて、これらの「価格優先か環境優先か」と「詰め替え商品をよく買うか」の違いを頭におきながら、今度は、「今より1.3倍価格が高い日用品を買うとしたら、環境要因はどこまでプレミアム購買理由の中に入るのか」を見ていきます。ちなみに1.3倍というのは2021年の「品質は現行の商品以上でかつ環境に良い商品が発売された場合、どこまで今より高い価格を許容できるか」という設問で許容できるとされた回答を参考にしています。
日用品のプレミアム購買理由の1位が環境関連になったのは、フランスとドイツでした。アジアではプレミアム購買の理由のトップは「高品質」です。購買理由の上位5位に入る中で、容器関連のものは下記です。
- 詰め替え:日本(25.3%)、フランス(28.3%)、ドイツ(28.6%)、タイ(31.0%)
- 容器回収・再利用システム:中国(26.9%)、インドネシア(28.8%)、タイ(36.9%)
- 容器包装のプラスチック削減:ドイツ(26.3%)
容器回収や再利用は日本ではあまり意識されませんが、他アジアでの期待が高いことがわかります。また、詰め替え購入が日々の習慣になっていないドイツやフランスでは「容器回収・リフィル・宅配など、詰め替えの仕組みが選べる高価格商品」という打ち出し方もできるかもしれません。
牛肉を食べないことへの抵抗は減る
最後に、今や日本の多くのスーパーで販売されている代替肉(大豆など植物性由来の肉)の浸透度合いや意向をみていきます。
まずは代替肉を「よく食べる」と回答する人はまだ少なく、習慣としている人は少ないですが、「たまに食べる」人を含めると一定の市場がありそうです。なお、フランス・ドイツのみ、Z世代でこの植物由来の代替肉を食べる割合(「よく食べる」+「たまに食べる」)がそれぞれ64%と国平均より+10pt以上となっており、ヨーロッパではZ世代で受け入れられる割合が高くなっています。
代替肉を選ぶ理由は、ビーガン、宗教上の理由、ダイエット、気候変動対策、動物福祉のためなど、さまざまです。この中で、気候変動の影響を意識した牛肉の消費制限について聞いてみると、制限を受け入れられるという回答がすべての国で6割以上、「環境負荷軽減による商品の値上げ」の許容よりも高くなっています。フランスや中国のような食文化を大事にする国においても、牛肉消費を減らす必要性は、概念としては理解されているといえそうです。
牛肉の消費制限が必ずしも代替肉に向かうわけではありませんし、頭ではわかっていても「制限」がない限りは、自主的に習慣になるまでには時間がかかりそうです。オランダでは2022年に牛肉の価格が上がり、牛肉よりも代替肉の価格が安くなりました。今後は、経済要因で代替肉を選ぶということも増えていくかもしれません。
グラフに示した通り「環境負荷の軽減による値上げ」は日本・フランス・ドイツで許容できる人は4~5割、インドネシア・タイでは7割です。経済成長が大きく見込めず、物価が上がっても給与が上がりにくい国は、これ以上の生活コストは心情的に許容しにくいのかもしれません。
買わずに我慢するか、環境に良い分高価格かの二択ではなく、気に入った商品として選んだものが「結果的にサステナブル」になっていることが理想です。しかし、インフレや経済不況を背景に、環境よりも価格優先のマインドも根強い状態です。人びとも企業も、理想だけでは大きく動かない現実を前に、ルールや制限についても受け入れはじめてきている様子です。
今後は、関心のある社会課題や、Z世代とサステナビリティなど、そのほかの注目トピックスについて紹介する予定です。また、SLS2023レポートは電通総研ウェブに掲載予定です。