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九州の“現場”から見出す、地域価値共創の糸口No.1

唐津の離島に芽吹く、「地域づくり」の新発想

2023/12/12

人口減少社会の中、働き手・後継者不足をはじめとした複数の課題を抱える地域産業の“現場”では、突破口の模索が続いています。

国や自治体はDXの推進と補助に力を入れているものの、短期的な成果が優先されがちな施策では、持続可能な地域づくりにつながらない……という悩みは全国共通なのではないでしょうか。

こうした課題解決への糸口となるべく、電通九州では2023年に「地域価値共創局」(詳しくはこちら)を発足。地域との関わりをより深化させ、DX領域だけでなく、既存事業の成長や新事業創出の支援を進めています。

地域価値の共創に欠かせないのは、各ステークホルダーが業種を超えてスクラムを組み取り組むことです。

そこで、本連載では電通九州の代表取締役社長・鈴木亨氏が九州各地のそれぞれの“現場”で地域価値の共創を進めている先端的な企業や人物を訪ね、地域価値創造のポイントや想い、視点などについてインタビュー。地域価値の創出に取り組む事業者との共創の可能性を探るとともに、同じ状況の中で一歩を踏み出そうとする人々へのヒントを届けます。

第一回は、佐賀県唐津市で事業を展開する「Retocos(リトコス)」です。代表取締役の三田かおり氏は、唐津の離島「高島」に暮らし、島の自然素材を活かした化粧品の原料やお茶など、ユーザーに優しいプロダクトで評価を得て、島の人の仕事を増やしています。また「離島留学」という仕組みで、関係人口を増やし、将来の島民を増やす取り組みを推進しています。その活動やパーパスにはたくさんの学びがありました。

地域価値共創#1_メインカット
写真左より電通九州・鈴木亨氏、リトコス・三田かおり氏。リトコス社屋の前庭にて。
<目次>

大切なものは身近にある―未利用資源を生かしたエシカルな商品づくり

事業のスケールに向けた“目利き”を大事に、プロジェクトごとのパートナー探し

「都会の子どもたちに、“ふるさと”を創る」

消費者と価値を共創する時代。事業推進の「ストーリー」も大事に届けたい

大切なものは身近にある―未利用資源を生かしたエシカルな商品づくり

鈴木:今の活動、事業を始めたきっかけを教えてください。

三田:離島の活性化に関わる役所のミッションで、唐津の加唐島(かからしま※1)に派遣されたのがきっかけです。この島の特産品は椿で、日本書紀にも「椿の島」として載っているくらい有名です。椿と言えば椿油ですが、主な産地は、東京・利島、長崎・五島で、加唐島の人は産業化に関心が低かったのです。実際のところ、加唐島の人口は約220人なので、大量生産はできません。ただ、少量生産ならではの利点として、生産者の顔が見えることに気づきました。

※1 = 加唐島:佐賀県唐津市沖合の島。唐津市の7つの有人離島のひとつ。

 

鈴木:椿と椿油は、まるで葡萄とワインのようにトレーサブルだし、エシカルですね。

三田:はい。椿が化粧品に加工された際に「○○さんの畑で栽培した椿が原料です」と、ユーザーに伝えることができます。化粧品では新しい試みだと考えました。

鈴木:加唐島の椿は、大手セレクトショップに採用されたそうですね。

三田:ちょうどコロナ禍の最中で、お家時間の充実や、モノの背景に注目する志向が高まっていました。そんな時勢もあり、ユナイテッドアローズさんのコスメブランドに採用されました。その後、再春館製薬所さんにも採用された結果、コスメ愛好家の方々に多く発信していただき、さらにそれが体験ツーリズムにもつながりました。

鈴木:商品開発は、この島にある素材、本当に身近な素材をベースにしているそうですね。

三田:椿の事業は、行政の有期プロジェクトでしたので、島の経済を活性化するために、自走できる何かを生み出す必要があると考えました。その際にやはりこだわりたかったのが、島内のどこにでもある草木を使った商品作りなんです。

島は海に隔たれているため、固有種、在来種が自生しています。例えば、ここ高島(たかしま)には、長命草(ボタンボウフウ)が雑草のように生えています。「1株食べると1日長生き(できる)」といわれる薬草ですが、利用されていませんでした。

鈴木:未利用資源の新たな活用からは、多くの示唆を得られそうです。

三田:椿の学名は「カメリアジャポニカ」種です。「ジャポニカ」つまり、椿は日本原産の花です。このように、日本の至る所に自生している種に目を向け、多くの皆さんが、足元を見直すことにつながればいいなと。

鈴木:放棄した土地が活用できて、新たな仕事になるということですね。

事業のスケールに向けた“目利き”を大事に、プロジェクトごとのパートナー探し

三田:この島の畑は、自家消費のためにあります。大量生産の必要がなく、農薬を使わないため、土壌はきれいです。

しかし畑のすぐ裏が山地で、そこからイノシシが現れて作物を食い荒らすので、島民は耕作をやめてしまいました。ますます畑が荒れて人家のすぐそばが、イノシシのすみかという状態。そこで島の人と協力し、畑を整地して、ハーブを植えました。ハーブは背丈が低いので、視界がよくなることでイノシシが警戒することに加え、その香りを嫌うこともあって、近づかなくなります。

地域価値共創#1_乾燥茶葉
在来種のハーブと嬉野茶をブレンドさせてお茶をつくる。

鈴木:ハーブをどのような商品にされたのでしょうか?

三田:特に香りを楽しんでもらうため、お茶に力を入れています。島で飲むフレッシュなハーブティーはよいものですが、乾燥茶葉にすることで、全国の人に楽しんでもらえます。

四季折々のハーブを、季節の便りとしてお届けしたい。飲んでくださった方との縁で、耕作放棄地の再生につながればうれしいなと。

鈴木:良い香りですね。どのようなこだわりがありますか? 

三田:立ち昇る香りはもちろん、飲んだ時に鼻から抜ける「アウトの香り」を重視してブレンドしています。ハーブティー自体は珍しくありませんが、嬉野(うれしの)茶とのブレンドティーは、どこにもない商品です。松尾修一さんという著名な茶師の発酵技術と、ブレンドの仕方で味を変えています。

鈴木:香りやお茶が生業になるというのは幸せですね。

三田:暑い日に畑仕事をして自分で作ったお茶を飲んで、体を冷やすと「幸せだなー」と感じます。

この島は日本の縮図です。私がしていることを受け入れてくれる人、そうではない人の両方がいます。一時は、島のためによいことをしているのにどうしてという思いもありましたが、今は「自分軸」を大切に、自分のやりたいこと、ビジョンに共感してくれる人と一緒に進めています。

鈴木:事業パートナー探しはご自身で?

三田:プロジェクトごとに、誰とコラボするかといった“目利き”を大事にして探しています。島にあるものだけでは、事業がスケールしていかないので、さまざまな技術や素材を調合して、独自のクオリティを生み出していきたいですね。

鈴木:この事業で「WWDアワード(※2)」特別賞を受賞されました。お聞きした時はどう感じましたか? 

三田:田舎で泥臭くやっている事業が、一流のファッションメディアで評価されたことが、とてもうれしかったですね。「東京じゃないと夢はかなわない」という時期もありましたが、今はそうした時代ではありませんし、大切なことをローカルから投げ掛けたいです。

小さなことでも、みんなが一歩を踏み出せば大きなムーブメントになるので、そのきっかけになればと思っています。

※2 = WWD:国内・海外のファッション&ビューティの業界誌
 

「都会の子どもたちに、“ふるさと”を創る」

地域価値共創#1_三田氏ソロカット
価値共創について語る三田氏。

鈴木:ところで加唐島には、学校の問題がありますね。家族で暮らし続けることは難しくなってしまっています。

三田:高校はもちろん中学校もありません。今島に小学生は2人しかいないので、小学校存続も危うい。そこで「離島留学」を事業として始めました。都会の小学生を4人、1年間預かり寮母さんがお世話しながら、子どもたちで共同生活をして、ここにでしか味わえない体験をしてもらう。将来は第二の故郷にしてもらって、関係人口を増やしたいと思っています。

鈴木:地元や地域のポテンシャルを見つめ、自分は何ができるのか、そんな志向をもつ若者が増えているそうなので、将来楽しみですね。また「関係人口」は持続可能な地域づくりにおける1つのキーワードだと思います。人々と地域のエンゲージメントを深めることが、さまざまな課題の解決につながりそうですし、電通グループもお手伝いできると思います。

三田:離島は、暮らしと地域課題が直結している土地です。島ではおのずと、置かれた環境に意識的になるし、子どもたちも、どう解決していくかを考えるようになる。離島留学をやっている意味もそこにあります。

鈴木:事業継続の課題や展望のポイントはどこにあると考えられていますか?

三田:いかに、ここでしか学べないカリキュラムを作り、ここで学びたいという世帯を募るかです。移住者を増やし、島民を増やす。すなわち子どもたちも増えます。さまざまな考え方があると思いますが、この事業は、元居た人に戻ってもらうのではなく、新しいコミュニティを形成するというアプローチです。

鈴木:子どもたちが来ると、島の人たちの関与度が高くなりそうです。これは持続可能性において、とても大事な点ですね。

三田:子どもの声があると大人もうれしい。皆さん孫のように声を掛けています。子どもたちが留学を終えて帰る時は、港に全員来たくらいです。人の温かさ、家屋の造り、日本の原風景があります。わたしたち世代もそうですが、現代の子どもとっても懐かしい場所を提供する。ふるさとづくりです。

今はお香調進所と共同でフレグランスの開発も進めています。これからはBtoCに力を入れ、在来種のハーブの香りをコンシューマー(消費者)に提供したいと考えています。そうした形で、また新たな価値を共創していきたいですね。

地域価値共創#1_鈴木氏ソロカット
在来種のハーブを使ったフレグランスの試作品。

消費者と価値を共創する時代。事業推進の「ストーリー」も大事に届けたい

鈴木:商品の話に戻りますが、いまは、パーパスで動かす時代。思いを理解してもらうことが大切になりますね。

三田:はい。コロナ禍を経てだと思いますが、例えば化粧品は、値段の安い高いや、肌に合うかどうかだけでなく、背景や思いに共感したうえで、作り手と一緒になって価値を高めようと考える方が増えていると思います。情報発信の手段も多くあり、価値感を共にする方と出会うこともできるので、こうしたビジネスが成り立つのかなと感じています。

鈴木:ビジネスを、独りよがりの活動ではなく、みんなの活動にするためにも、ストーリーが大事になる。

三田:商品ですからお茶なら「おいしく」、アロマなら「上質に」。当然のことですが、そのためにも、商品化の進め方は、地域の人たちとの関係性を深めながら、丁寧に、丁寧にと考えています。そうした進め方そのものが、ストーリーとして紡がれていきますから。

鈴木:われわれの習い性として、事業やプロダクトを、みんなが倣えるように、パターン化しようとするのですが、このように地に足を付けて、共創ビジネスを実践されている方のお話は、重要な学びだと感じます。その上で、われわれはまだ世に出ていないものやストーリーを言葉や絵にするのが得意ですので、お手伝いできたら素敵なことです。今日はありがとうございました。

「地域価値共創局」とは?
地域の一人一人が、それぞれの土地でQOLを実感できるよう、“QX”という考え方のもと、コミュニケーションとDXを一体的に提供します。同時に、既存事業の成長や新事業創出も支援。コンセプトの立案や実証によって、自治体、企業、大学などのステークホルダーと、三方よしの事業モデルを構築し、持続可能な地域づくりへの貢献を目指します。
地域価値共創#1_図版01
地域価値共創局の活動ドメイン(イメージ)

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