20年間のトラッキング調査から見えた、ケータイ・スマホと生活者変化No.1
ケータイ・スマホと生活行動。20年間の追跡調査で分かったこと
2024/02/14
「未来事業創研」(※)のファウンダーで、「電通モバイルプロジェクト」リーダーの吉田健太郎です。
※未来事業創研=未来を可視化して企業の事業創造・変革の実現を支援する、電通グループ横断組織。https://dentsumirai.com/
この連載では電通が20年間、合計120回にわたって実施してきたモバイル市場のトラッキング調査と、そこから見えてきた生活者の意識・行動変化についてご紹介します。
ケータイ(ここではスマートフォンではない旧来の携帯電話のこと)市場、スマホ市場の実態を把握する電通のトラッキング調査は、2003年11月に始まり、毎年6回、一度も欠かすことなく実施。2023年秋には20周年を迎えました。120回の調査から、モバイル市場の動向のみならず、ケータイ、スマホの普及による生活者の変化も見てきました。
今回は調査が始まった2003年11月の状況を起点とし、ケータイからスマホへのシフトがどのように進み、人々の暮らしがどのように変化していったかを振り返ります。
※本記事に出てくる数字は、特に注意書きがない限り、電通モバイルプロジェクトのトラッキング調査によるものです。
<目次>
▼人々の暮らしを変えたケータイとスマートフォン
▼2023年時点、月々の通信料金は本当に安くなったのか?
▼モバイルデバイスでの利用機能・サービスは20年でどう変化した?
▼LINEの登場で若年層のスマホシフトが加速。一気にSNSの時代に
▼「決済」での活用も、モバイルデバイスの中心的な役割へ
▼広く普及・定着するには「便利」より「意味」が大事
人々の暮らしを変えたケータイとスマートフォン
電通のトラッキング調査は、2003年11月に、最初は「3Gトラッキング調査」という名称で始まりました。
3G対応機種の広がりとともに、ケータイの機能やサービスが進化・普及することで、生活者にどのような意識・行動変化が起こるかを知るのが目的でした。
20年前の普及状況ですが、2003年の調査ではユーザーの約24%が3Gケータイを、4分の3以上が2Gまたは2.5Gケータイを使っていました。
当時は、NTTドコモ、KDDI(au)の他にVodafone(ボーダフォン)とTU-KA(ツーカー)が通信事業者として存在しており、KDDI(au)が3Gでは一歩リードしていた状況です。
懐かしいと思われる方もいらっしゃるでしょうし、「え?知らない!?」という方もいるでしょう。
ここから、本トラッキング調査ならではの2003年、2008年、2013年、2018年、2023年の5点比較で、時代の変化を見ていきます。
先に注目ポイントを簡単にお伝えします。
「2003年」はパケット定額制が開始された年で、ようやく料金を気にせずに、モバイルインターネットを自由に利用できる手段が提供されました。そこから多様なモバイルサービスが普及していきます。ただし、ケータイでのモバイルインターネットは閉じられた空間で、PCと同じインターネットは利用できない状態が続きます。
ケータイの成熟と潜在的なモバイルインターネットの閉塞感がある中、「2008年」の7月にiPhone 3Gが登場します。その前にもスマートフォンは発売されていましたが、一部の利用者にとどまっており、現在から振り返るとこの年がスマホ元年と捉えられます。
「2013年」は格安SIMなどが台頭してきたタイミングです。同時に4G(LTE)のエリア拡大、対応端末の普及が進み、急速にデータ通信利用が増え始めました。
ただし、2013年頃は3Dグラフィックなどを使ったリッチなゲームアプリや動画をシェアするSNSなどは広まっていませんでした。2012年に「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」が登場し、2013年には「モンスターストライク(モンスト)」がリリースされ、ゲーム市場は急拡大していきます。
さらに通信速度の上昇やスマホ機種の進化もあり、2013年からの5年間で、動画、ゲーム、マンガ、音楽、エンタテイメントサービスをスマホで楽しむことは当たり前になりました。それに伴い、アプリ課金やネットショッピングなど、スマホ上で支払うお金が増えていきました。
そして格安スマホやサブブランドが浸透した「2018年」には、コード決済の「PayPay」が登場し、アプリやインターネット上だけでなく、リアルでもスマホでお金を払うことが当たり前になっていきます。
2023年時点、月々の通信料金は本当に安くなったのか?
まず、調査結果をもとに、20年間の「通信料金」の変化を見ていきましょう。
2003年の毎月の通信料金を見ると、調査対象者の平均額は約7300円で、そのうち「データ通信料金」は半分以下の2600円に過ぎませんでした。「基本料金」と「通話料金」で4700円となり、支払額全体の60%以上を占めます。
この背景として、2003年当時はパケット定額制も始まったばかりで、ケータイ利用のメインが「通話」と「メール」という状況でした。データ通信料金の感覚がわからず、ついつい使いすぎてしまい、想像以上に高い料金を請求されるケースもありました。そのため、データ通信(当時はパケット利用量)に気を付けながら使っている人が多く、このような全体平均となったと見ています。
この後、パケット定額制とともに3Gケータイの普及も進み、毎月の通信料金に占める「データ通信料金」の比率が増えていきます。さらにスマートフォンの時代になると、パケット定額制がいつの間にかなくなり、再びデータ通信量に応じた料金に変わります。もちろん、データ通信の単価はかなり安価にはなっていましたが、ケータイと異なりフルインターネットが利用できるスマートフォンでは使用するデータ量が大きく変わります。
そして、われわれの調査でスマートフォン普及率が全体の3分の2を超えた2013年、ついに通信料金全体の中での「データ通信料金」比率が半分を超えました。
しかし、スマートフォンが主流になった2013年以降は、スマートフォン標準の電話だけでなく、LINEなどのIP電話で通話することが増え、「通話」もデータ通信でまかなわれるようになってきました。ケータイの時代のような、「基本料金」と「データ通信料金」というシンプルな料金ではなく、通話もデータ通信も多様な条件で選択するようになってきたのです。
そのため、電通の調査でも「データ通信料金」を個別に聴取するのをやめて、「通信料金を毎月いくら支払っているか」という金額の聴取と、オプションや割引プランなどを聴取する構成に変えました。
通信料金の支払金額に大きな変化があったのは、2018年から2023年にかけての5年間です。2018年の通信料金は約6500円でしたが、2023年の調査では約4200円になっており、この20年で最大の変化です。
通信料金が下がった要因の一つが、2019年に施行された、通信料金と端末代金の「分離販売」です。2018年の通信料金の月額に「端末代金が含まれている」と回答した人は50%以上存在したことからも、端末代金が分離されたことで毎月の料金が安価になったことが分かります。
また、通信会社のデータ通信をあまり利用しない方などを対象に、安価なプランが充実してきました。例えばY!モバイルやUQモバイルといったサブブランド利用者の増加や、シンプルで必要十分なスペックでありながら月額3000円未満のドコモのahamoの登場なども、大きく影響したと思われます。
整理すると、それまでは月々に支払う通信料金に端末料金が含まれていたのが、2019年の「分離販売」施行により、通信料金の総額が下がったわけです。
その一方で、2023年の最新調査では、スマートフォン本体の購入金額(端末料金)は平均で約6万8500円となっており、この金額を2年の月々支払いに換算すると約2850円になります。これを通信料金の4200円と合算すると、月額が約7000円になります。
この数字だけを見ると、生活者の経済的負担はこの20年で大きくは変化していないようにも見えますが、月々の負担を安価にする選択肢が増えていることも事実です。安価な料金プランが増えただけでなく、機種も安価なものが多くなり、さらには中古スマホなども選択できる時代です。
例えば2023年の調査では、月々の通信料金が3000円未満の人は約4割、さらに機種代金が5万円未満の人も4割近く存在しました。このことからも、ユーザー自身の選択で金額的な負担を減らせる状況になっていると言えます。
ただ、安価な選択肢を選べる時代だと言っても、そのためには情報の収集と理解が必要です。豊富な選択肢は、人々に悩みと苦労も生みます。調べれば調べるほど、どれがいいのかが分からなくなり、決められない人も出てきます。情報を処理するスキルの有無も影響します。
多くの選択肢から自分が納得できるプラン、機種、買い方を選べる人と、そうではない人に、「情報格差」が生じていると言えるでしょう。
モバイルデバイスでの利用機能・サービスは20年でどう変化した?
続いては、この20年間における機能・サービスの変遷を見てみましょう。ケータイとスマホの進化と普及に伴い、生活者に利用される機能・サービスも変化してきました。
2003年の調査でトップ3となった「メール」「インターネット」「写真撮影」は、ほとんどの人が使っている状態になったため、2008年からは選択肢から除外しました。
その2008年にトップに立ったのが「赤外線通信」ですが、今ではほとんど使われていません。背景の一つとして、ユーザー同士の連絡先交換手段が、LINEなどのアプリではQRコードで行うようになったことが挙げられます。
また、LINEやSNSでつながることが一般化して、誰かと電話番号やメールアドレスを交換する機会が、プライベートでは減っていったこともあるでしょう。
LINEの登場で若年層のスマホシフトが加速。一気にSNSの時代に
こうした流れもあり、「通話機能」の利用率に大きな変化が起こりました。2018年までは通話機能の利用率は74.1%でしたが、2023年ではトップ10から陥落。利用率は大きく下がり、なんと約50%になりました。
ステイホームの影響もあってか、世代問わず、多くの人が通話機能を使わなくなり、代わりにLINEやSkypeなどのIP電話で通話をするようになったようです。
これはプライベートだけでなくビジネスシーンでも同様で、リモート会議の増加に伴うウェブ会議ツールの普及も、通話機能が使われなくなった要因の一つです。連絡先のやりとりの変化を考えると、必然的な事態とも感じます。
つまり今や、連絡したい人の電話番号を知らないこと、電話帳に友達の電話番号が登録されていないことが、「当たり前」になってきているということです。
現在ではどの世代でも共通のコミュニケーション手段となったLINEですが、リリースは2011年6月で、iPhone 3Gの登場からわずか3年後です。
2008年、iPhone 3Gを最初に購入した層は、40代前後のAppleファンや、デジタルデバイスが好きな人が中心でした。このトラッキング調査でスマートフォンの利用率がいわゆるキャズム超えし(16%を超え)、マジョリティに普及し始めたのは、2011年3月の調査からです。同時に、2011年頃から10代がスマートフォンを持つようになってきたことも確認しています。
まさにそのタイミングでLINEが登場し、スマートフォンらしいコミュニケーションとしてスタンプでのやりとりが広まりました。そして若年層は友達とLINEでつながるために、いわば芋づる式にスマホへのシフトが加速しました。
LINEが新しいコミュニケーション体験だったことはもちろんですが、サービスリリースのタイミングも絶妙だったと言えます。
また、現在はコミュニケーション手段として定着している各種SNSも、本格的な定着はスマートフォンの普及からと見ています。X(旧Twitter)は日本語版が2008年に4月にリリースされ、iPhone 3Gはその3カ月後に発売開始されました。
その後、2013年では3割台だったSNS利用率は、2014年にInstagramの日本語版が登場したことでユーザーが広がり、2018年には現状と近い約6割の利用率になっています。
また、この2013年から2018年の5年の間に、ユーザーが個々のSNSを使い分けるようになり、さらにはアカウントの使い分けも一般化してきたことも見逃せないところです。
「決済」での活用も、モバイルデバイスの中心的な役割へ
20年間の決済手段の変遷も確認していきます。
2004年に「おサイフケータイ」という、交通系電子マネーやクレジットカードのタッチ決済が可能な機種が登場しました。そこからモバイルデバイスでの決済活用が広がっていきます。
ケータイからスマートフォンに乗り換えると、ほとんどの機能は上位互換していく流れがありましたが、タッチ決済については少し状況が違いました。iPhoneでの対応は2016年に発売されたiPhone7からで、それまではiPhoneではタッチ決済ができませんでした。iPhoneケースに交通系電子マネーカードを挿入している人が多かったことは、記憶に新しいところでしょう。
さて、iPhoneのタッチ決済対応により、スマートフォンでのタッチ決済が主流化していくと思われましたが、2018年にコード決済のPayPayが登場すると状況が変わります。キャンペーンの影響などで、他の決済方法よりお得になるイメージが浸透したこともありますが、何より“お財布”の中身が決済のたびに確認できることが、ユーザーにとっての価値になったようです。
決済時の手間を比較すると、タッチ決済の方がかざすだけなので、楽です。一方コード決済は、いちいちスマホにログインし、アプリを立ち上げる必要があり、場合によっては、さらに二次元バーコードを読み取り、支払い金額を入力することも求められます。
言葉だけで見ると少し面倒なイメージもありますが、モバイル調査結果で利用率を見ると、驚くほど急激にコード決済利用者は増えています。2023年のコード決済利用率は、SNS利用率以上の65%まで来ており、コンビニでは最も選択されている支払い方法になっているのです。
電通の調査では、なぜコード決済を使うのかを利用者に聞いてみました。やはり多く聞かれたのが「ポイント還元」です。従来のポイントサービスのような1%、2%ではなく、10~20%のポイント還元があり、お得なことが利用につながっています。しかし、それだけではありません。「いくら残高があるかが支払うたびに視界に入ること」や、「銀行とつながっていて後から請求が来ないこと」など、利用する理由が次々と出てきます。
また、「割り勘や何か買い物をお願いする時に簡単に友達に送金できる」ことをメリットと回答される方も珍しくありません。これまでは現金での割り勘で、お釣りがない、ちょうどの金額が支払えない、といったことがありました。また、「いつも売ってない、あなたの好きなお菓子が売ってるけど買っておく?」みたいなやりとりも日常的にあります。そんな時、あとで支払うと言って、ちょうどの現金やお釣りがないことで、お金を渡すことが遅くなったり、忘れてしまって友達関係が悪化することもありました。
こんな課題が解決され、今では友達同士で買い物のお願いや、代わりに支払いをしてもらうことも頼みやすくなっているということです。キャッシュレスサービスの普及は、人間関係の悪化要因を減らすことにも貢献してくれそうです。
それはさておき、便利なタッチ決済よりも、手間の多いコード決済の方が普及しているこの状況は、何を示唆しているのでしょうか。
広く普及・定着するには「便利」より「意味」が大事
SNSもそうですが、一つの手段ですべて完結した方が良いという意見もある一方で、目的や相手に応じて複数の手段を使い分けることに価値を感じる人が多数派になっている現状があります。
つまり、サービスやアプリの普及のためには「便利」、つまり手間が少ないことが求められていると思いがちですが、実はそれ以上に、利用する「意味」が求められるのです。
この傾向は、音楽などのコンテンツサービスにおいても同様です。こちらは趣味の領域になるので、より多様な「意味」が生まれています。
2003年では携帯電話で音楽を聴く人は2%程度しかいませんでしたが、20年たった2023年では50%以上の人がスマートフォンで音楽を聴くようになっています。サブスクリプションサービスの普及が背景にありますが、こうして便利に音楽が聴けるようになった環境だからこそ、今度はCDを購入することに別の「意味」が生まれました。
CDが登場した1980年代は、「音が良い」がCDの価値でした。そして今では「本当のファンの証」として、CDが存在しています。アーティストへの「好き」には度合いがあります。単純によく聴く曲、好きな曲があるというのが入り口にあり、その次にライブに行く、フェスに行くがあって、さらに本当のファンだとCDを持っている、という位置づけになってきていると思います。
こうして20年分のデータを振り返ることで、コミュニケーションや決済手段の変化だけでなく、行動の「意味」が時代における状況や環境によって変わっていくことがわかりました。
これらの変遷から、時代の変化を読み解く、あるいは予測するための三つのポイントが見えてきました。
①通信料金の変化から分かること
- 選択肢が限定されている状況では、情報格差が生まれにくい。
- 多様な選択肢がある状況になると、情報格差が顕在化する。
②コミュニケーション手段の変化から分かること
- コミュニケーションツールはつながる相手で変化する。
- 自身の使いたい方法よりも誰とどのようにつながるかでツールが決まる。
③決済手段の変化から分かること
- 便利だけでは価値にならない。
- 簡単であることは非常に大事だが、これまでの「当たり前」になかった価値が必要。
デジタルソリューションは、足元の課題解決のために活用するものだと考えられていますが、マクロな視点で見ると課題解決よりも、「意味」の提案が重要であることが分かります。
筆者は、20年の調査を通じてさまざまな「当たり前が変わっていく」現象を確認してきたことで、現状の当たり前も、もっと幸せな当たり前に変わっていくはずだと考え、変えていけるという確信を持って「未来事業創研」という組織を立ち上げました。
皆さんの周囲でも、スマートフォンやインターネットの普及で「当たり前」が変わった領域を見つけて、その背景を探ってみてください。ほとんどの場合、新しい「当たり前」には意味があることに気付くと思います。
「電通モバイルプロジェクト トラッキング調査」にご興味のある企業の方は、ぜひ電通までご相談ください!
<調査概要>
電通モバイルプロジェクト トラッキング調査
調査方法:インターネット調査
調査期間:2003年11月~現在(計120回実施)
<第1回~第65回>2003年11月~2014年7月
調査対象:15~49歳 携帯電話・スマートフォン利用男女 1000ss
調査対象エリア:関東
<第66回~第120回>2014年9月~2023年11月
調査対象:15~59歳 スマートフォン利用男女 1400ss
調査対象エリア:関東