サステナビリティ経営を支える次世代顧客群「サステナブルカスタマー」No.2
企業との好循環を実現する「サステナブルカスタマー」ってどんな人たち?
2024/04/22
持続可能な社会の実現に向け、「サステナブル経営」や「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」が注目を集めています。
“サステナブル”というキーワードは、企業が事業を展開する上でもはや欠かせない要素です。
前回記事では、電通の独自調査から判明したデータとともに、企業がアプローチするべき新たな顧客群「サステナブルカスタマー」という概念を紹介したところ、多くの反響をいただきました。特に、「すでにサステナブルカスタマーは市場の約20%を占める」という数字はインパクトがありました。
その後、第2回調査(概要)を行い、サステナブルカスタマーとは、一体どんな人たちで、どんなことに興味を持っているのかを深掘りしました。サステナブルカスタマーの生態(属性)を元に、企業との関係構築のヒントや、アプローチ方法を探ります。
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<目次>
▼生活者なくしてサーキュラーエコノミーは成立しない
▼市場に2割も存在!「サステナブルカスタマー」とは一体どんな人たち?
▼企業からの情報発信が、サステナブルカスタマーの行動変容につながる!
▼「二次流通」を含めた多面的なビジネス展開に可能性あり!
▼サステナブルカスタマーは、購入者から企業を応援する“パートナー”へ
生活者なくしてサーキュラーエコノミーは成立しない
サステナブル経営とは、「事業や経営戦略の中に、社会貢献活動を含めたサステナビリティの要素を取り込む」という考え方です。
従来、企業は製品をつくって、生活者に販売することだけが企業活動の領域でした。これに対し、サステナブル経営では、製造して売るだけでなく、「回収・再利用する」ことまでもが企業活動の範囲となります。
これが、いわゆるサーキュラーエコノミーです。
製品をつくる製造業者や、それを生活者に販売する流通・小売業者を「動脈産業」、使い終わったものを回収・リサイクルする企業を「静脈産業」と捉え、この2つの産業を連携させ、循環のサイクルを回すという仕組みです。
しかし、「販売」した後に「循環」のサイクルを回すためには、企業や産業の努力だけではどうにもなりません。購入した商品を、使用後に静脈産業へと回収・リサイクルに出すという顧客の行動(参加)がなければ、循環のサイクルを回すことができないからです。
電通では、この見過ごされていた顧客の存在こそが、サーキュラーエコノミーを回す重要なカギであり、サステナブル経営を推進する上で、企業がビジネスターゲティングするべき新たな顧客群なのではないかと考えました。
そして、この顧客群を「サステナブルカスタマー」と位置づけ、従来の「ロイヤルカスタマー」を重視したマーケティングの次の概念であると、提唱しました。
また、企業やブランドへのロイヤルティの高さを示す「購入継続性」と生活者のサステナビリティ意識とその活動への参加を示す「回収・リサイクル参加」軸で、顧客セグメントを体系化すると、以下の4象限に分けることができます。
- 無関心層
- グリーンカスタマー
- ロイヤルカスタマー
- サステナブルカスタマー
第1回調査と同様、今回の調査でも、上記のセグメント(顧客層)を分類すると、サステナブルカスタマーに該当する生活者は全体の約20%を占めるという結果が出ました。市場には既に一定数のサステナブルカスタマーがいることが、あらためて浮き彫りとなった形です。
また、「価格が高くても環境に良いものを選ぶ」と回答した生活者の割合を見てみましょう。サステナブルカスタマーでは、下の表の通り、5.8%とほかのセグメントと比較すると有意に高い結果が出ています。これもマーケティング観点では見逃せないポイントです。
市場に2割も存在!「サステナブルカスタマー」とは一体どんな人たち?
各セグメントの生態を見ていくと、ライフスタイル、興味、さらにリサイクル・回収活動への関心度合いにも、それぞれ特徴があります。
●企業に共感し回収活動に参加する「サステナブルカスタマー」
・世帯年収が高めの40代主婦が中心層。
・省エネにも積極に取り組み、整理整頓したミニマムな暮らしを望んでいる。
・政治・社会意識や社会貢献意識も高く、新聞、テレビ、インターネット、SNSなど、全方位で情報を取得している
・回収・リサイクルへの参加意欲が最も高く、すでに回収活動を行っている
・企業やブランドに対する信頼、共感が、購買意思決定につながりやすい。
●ブランドの継続購入性が高い!「ロイヤルカスタマー」
・社会人40代主婦が中心層。
・特定ブランドの継続購入性が高く、人付き合いを大切にする傾向がある。
・一定の環境への関心はあるが、回収活動に参加するほどの意欲はない。
●環境意識が高く個人的な意義を重視する「グリーンカスタマー」
・男女半々で50代が中心層。
・社会貢献よりも個人的な意義を重視する。
・省エネにも積極的に取り組む。
・回収活動への参加意欲は高いが、その回収活動を実施している企業やブランドに対する購買意欲への結びつきは弱い。
●回収活動に興味なし「無関心層」
・40~50代の社会人男性が中心層。
・社会貢献への意識は低く、日常生活での省エネなどへの関心もほぼ皆無。
・回収活動への関心も低いため、共通ポイントなどのインセンティブでも行動意欲を引き出しにくい。
また、上記のセグメントだけでなく、もう一つ注目したいのが、サステナブルカスタマーを筆頭に、どのセグメントにも一定数存在する「高くても環境に良いものを選ぶ」層です。彼らに共通する属性は以下になります。
●高くても環境に良いものを選ぶ「価格<サステナブル層」
・40代~50代女性が中心層。
・日常的に持続可能な生活を心がけ、回収参加意欲は極めて高く、企業アピールにも反応するが、社会貢献よりも自己の満足感を優先しがち。
この調査結果をもとに、マーケティング観点からさらに踏み込んで考察していきましょう。
企業からの情報発信が、サステナブルカスタマーの行動変容につながる!
今回の調査結果から、リサイクル・回収行動における各セグメントの特性を深掘りしてみたところ、サステナブルカスタマーならではの行動特性というものが見えてきました。
企業がリサイクル・回収活動に取り組むことに対して、特に「サステナブルカスタマー」は好反応を⽰しており、企業の商品やサービスの利⽤・購⼊意向が⾼いだけでなく、その企業のサービスや商品の利⽤によって「誇らしさを感じる」⼈の割合も他の層より⾼くなりました。
さらに、回収活動に取り組む理由として「メーカーが推奨しているから」という回答が、他のセグメントよりも突出して多いことがわかります。
企業やブランドに対する信頼感やつながりが購買意思決定に影響しやすいサステナブルカスタマーは、メーカー側が発信するサステナビリティに対する思いや考え方に共感し、それが行動に移すきっかけになっていると考えられます。
「企業やブランドからの呼びかけや情報発信」が、サステナブルカスタマーの行動変容を促す要因になっている
ことは、今回の調査における大きなファインディングとなりました。
また、前回の調査でも大きなトピックとなっていたのが、回収活動におけるインセンティブの内容です。「商品クーポン」「共通ポイント」といった魅力的なインセンティブは、もちろん全セグメントで共通して高い割合を示しています。
しかし、サステナブルカスタマーはそれに加え、「CO2削減量を教えてくれる」「寄付ができる」「回収量・回収結果を教えてくれる」などの「非金銭的インセンティブ」を選ぶ割合が、他のセグメントよりも高いことが判明しています。
非金銭的インセンティブでも、継続購入や回収活動に参加してくれるサステナブルカスタマーこそが、サーキュラーエコノミーを循環させるために必要不可欠な顧客群であるといえるでしょう。
「二次流通」を含めた多面的なビジネス展開に可能性あり!
今回の調査では、購買行動時の「二次流通」という考えについても、興味深いデータが得られました。
サステナブルカスタマーとロイヤルカスタマーは、どちらも継続購入性が高く、また「高くても環境に良いものを選ぶ」といった志向をもつ人が多いなどの共通点があります。しかし、「二次流通」についての考え方は大きく異なっていました。
ロイヤルカスタマーは「使用頻度が低くても購入して手元に置いておきたいものがある」と考える人が多いのに対し、サステナブルカスタマーは、「エシカル消費やクラウドファンディングなど、社会や周囲の人のためになる買い物をしたい」という意識を持つ人が他のセグメントに比べて高くなっています。
また、日頃からフリマアプリなどのサービスを積極的に活用し、シェアサービスなどへの興味が高いのもサステナブルカスタマーの特徴です。この結果から見ても、シェアをしたり、リユースをしたりする「二次流通」が、サステナブルカスタマーの志向やライフスタイルにフィットする考え方であるといえるでしょう。
国内では、これまで「リサイクル(再利用)」をすることが推奨されてきました。しかし、あまり知られていませんが、実はリサイクルにはエネルギーが必要で、CO2も発生する環境負荷が高い行為とされています。
そこで、サーキュラーエコノミーを実現するために、まずは環境負荷の低いロングライフ化や「リユース(再使用)」「シェア(共有)」を最初の選択とすることが推奨されています。
企業は「製品をつくって、販売する」だけの従来型のビジネスモデルから、シェアサービスやフリマアプリといった二次流通に関するサービスビジネスに転換したり、あるいはそれらも併せて展開することで、多層的なビジネスモデルとなり、収益と環境負荷低減を両立できるかもしれません。
サステナブルカスタマーは、購入者から企業を応援する“パートナー”へ
今回の調査結果から、サステナブルカスタマーは、企業やブランドの考え方に共感し、応援する気持ちから購入に至るケースが多いとわかりました。そして、そういった企業やブランドの商品を購入する自分のライフスタイルに対して、誇らしい気持ちを抱き、それが結果として継続購入や回収活動への参加につながっていると考えられます。
また、企業から生活者へのサステナビリティに関する発信は、サステナブルカスタマーとの関係構築の強化に効果的だということも、今回の調査における大きな収穫でした。
サステナブル経営への転換を図る上で、企業側が意識するべきことは、サステナブルカスタマーを“購入者”ではなく、持続可能な社会を実現する“パートナー”と捉え、よりよい関係性を築いていくことです。
サーキュラーエコノミーのサイクルを一緒に回すパートナーを増やし、循環の流れを作ることが、事業性とサステナビリティを両立させる近道だといえるでしょう。
近年は、回収・再利用の仕組みをDX化する取り組みなどサーキュラーエコノミーの領域に、官民問わずさまざまな団体、企業から注目が集まっています。電通でも、生活者にフォーカスしたマーケティングの視点や切り口で、サステナブル経営の一助となるようなアイデア、提案を行っていきます。
事業開発など、これからのビジネスとマーケティングにおいて、「サステナブルカスタマー」を意識してみてはいかがでしょうか?