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“推しキャラ愛”に国境なし!インバウンド×アミューズメント施設の可能性

2024/06/18

左から電通桜庭氏、タイトー田中氏、電通宇都氏
左から電通 桜庭真紀氏、タイトー 田中元弘氏、電通 宇都啓将氏

コロナ禍で途絶していたインバウンド需要が、今、コロナ禍以前よりも勢いを増しています。為替の影響もあり、今後はますます日本の観光立国化が進むことが見込まれるでしょう。

そんな中、ゲームセンター「TAITO STATION」(タイトーステーション)を運営するタイトーは、訪日中国人が増える「春節(※)」に合わせ、メディアおよび店舗でのプロモーションPoC(実証実験)を実施しました。

※春節=中国の旧暦の正月を指す。中国では春節は長期休暇となり、毎年数億人が移動するといわれており、日本への観光客も増える時期になる。

 

このプロジェクトのポイントは、単なる観光客向けの集客プロモーション施策ではなく、「インバウンドを、全社的な事業として戦略的に考える」ことから始まっていること。

取り組みの内容やその成果について、タイトー取締役常務執行役員の田中元弘氏に、プロジェクトに伴走した電通トランスフォーメーション・プロデュース局の桜庭真紀氏と宇都啓将氏がお話を伺いました。

<目次>
人気IPのキャラクター景品が、訪日客を呼び込む!
中長期で「海外に自社ファンをつくる機会」と捉える
インバウンド施策が、国内も含めたブランディングを考える契機に

人気IPのキャラクター景品が、訪日客を呼び込む!
 

タイトー 田中氏
タイトー 田中氏

桜庭:PoCを実施する前の状況についてお聞かせください。

田中:当社のアミューズメント施設事業は、コロナ禍で落ち込んだものの、ここ2年ほどでV字回復を果たし、2年連続で前年比10%以上の成長を遂げました。成長をけん引したのが、売り上げ構成比で店舗売り上げの多くを占める、クレーンゲームです。

クレーンゲーム好調の理由は、人気IP(知的財産権が保護されたアニメやコミック、ゲームなど)のキャラクター景品があることで、大きな売り上げにつながっています。そして人気のIPは、日本国内だけでなく、海外の方にも影響力があります。

近年、アニメなどの日本IPは中国でもとても人気が高くなっています。それらのキャラクター、いわゆる“推しキャラ”の景品が入手できることが、訪日客がゲームセンターを訪れる要因になっています。キャラクター景品を求める訪日客の増加は、事業全体の売り上げ増加に大きく貢献しています。

桜庭:TAITO STATIONにおける日本人客と訪日外国人客の比率はどのようになっていますか?

田中:店舗によっても異なるのですが、インバウンド客の多い地域では、来客数の50%以上が訪日客という店舗もあります。そうした店舗では、インバウンドの影響が薄い店舗に比べると、売り上げが5~10%程度高くなっています。

桜庭:来店客の半分以上が訪日客というのはかなりインパクトがあります。そしてそういう店舗の方が売り上げが大きいのですね。

田中:はい。訪日客の増加は、店舗の売り上げや客数増加に貢献するのはもちろん、日本人客が少ない「平日昼間」に店舗に来店していただけることもポイントで、時間帯別に来店者数を平準化できるメリットもあります。

旗艦店であるTAITO STATION秋葉原店。店頭に人気IPのキャラクター景品を陳列し、通行人から見えるようになっている。
旗艦店であるTAITO STATION秋葉原店。店頭に人気IPのキャラクター景品を陳列し、通行人から見えるようになっている。TAITO STATIONは、店舗によって「レトロゲームが充実している」「お酒が飲める」「ホラーアトラクションが楽しめる」など、さまざまな特色がある。

桜庭:そうした状況を踏まえ、今回のプロジェクトを企画された経緯を伺えますか? 

田中:今後、ますますインバウンド需要が高まると推測される中、インバウンド向け販促活動を強化して「ゲームセンターといえばタイトー」というブランド確立を目指したいと考えました。

これまでTAITO STATIONでは、インバウンド向けに積極的な販促活動は行っていませんでしたが、ある調査によると、ウェブ上の口コミに占める外国語比率は、同業他社と比較してタイトーが一番高かったそうです。

インバウンド向け販促の実施を検討し始めた2023年夏の時点では、まだ十分に訪日客数が回復していなかったのですが、まず中国を中心にPoCを行うことで、効果の最大化を狙いました。

電通には、当社の別事業である「オンラインクレーン」事業の各種プロモーション施策で、第12ビジネスプロデュース局の皆さまにご支援いただいていたのと、インバウンド・プロモーション施策にも精通していることから、お声がけしました。

参考:オンラインクレーン「タイクレ」
https://www.taito-olcg.com/web/top/


中長期で「海外に自社ファンをつくる機会」と捉える

電通 桜庭氏
電通 桜庭氏

桜庭:今回は7カ月にわたるプロジェクトでした。どんなコンセプト・考え方で進め、具体的にどのような施策を行ったのでしょうか?

田中:まずは、ニーズの把握から始めました。訪日予定で日本IPに関心がありそうな中国人の方や、日本在住で訪日中国人客のガイドを務められている方へのインタビューを実施したのです。インタビューの目的としては、

  • 「日本のゲームセンターをどう思うか」
  • 「訪日時にゲームセンターに行きたいか」
  • 「タイトーブランドの認知度合い」

などを把握することです。

その結果、日本のゲームセンターに対しては、「版元の許諾を取って作られた正規品が置かれている」ことや、「中国のゲームセンターよりも取りやすい」という印象を持たれていることが認識できました。また、景品を取りやすくする店員からのアシストなども、日本独自のサービスとして訴求できることが分かりました。

インタビューを通じて、中国における日本のゲームセンターへの興味度合いを認識できたのは非常に良かったです。日本IPは本当に人気が高く、それらの景品は大きな“惹き”になる、と確信できました。

一方で、訪日前に「日本のゲームセンターに行きたい/行く予定にしている」という人は少なく、あくまでも「街で見かけたときに訪れる施設」に位置づけられていることも読み取れました。

そして競合他社とのブランド認知比較では特に差がありませんでした。これらの結果を受けて、タイトーのブランド認知施策を行うことで差別化が期待できると考えたのです。

PoCを設計するに当たっては、電通さんが提案してくれたインバウンドのコンシューマージャーニーに沿って考えました。

宇都:訪日中国人が旅行前に必ず参考にする小紅書(RED)というSNSで、インフルエンサー施策を中心にプロモーションを実施しましたね。小紅書は、いわば中国版Instagramといった存在で、評判形成に強いSNSです。

インフルエンサー施策を行ったことで、小紅書内で「日本 クレーンゲーム」「東京 クレーンゲーム」といったワードで検索すると「taito」が上位に表示されるようになりました。これに加えて、中国最大の生活情報アプリでの広告配信も行いました。

実店舗では、秋葉原店など都内6店舗で、店舗内ポスターを掲示しました。このポスターのQRコードをスキャンすることで、ノベルティをプレゼントし、WeChat公式アカウントへのフォロワー増加も狙いました。

TAITO STATION渋谷店。どんなゲームがあるのかを訪日観光客にもわかりやすく周知するため、ピクトサインを使った看板を店頭に設置している。ピクトサインは店舗側から発案があり、改装を行った。
TAITO STATION渋谷店。どんなゲームがあるのかを訪日観光客にもわかりやすく周知するため、ピクトサインを使った看板を店頭に設置している。ピクトサインは店舗側から発案があり、改装を行った。

桜庭:今回のプロジェクトを進めるにあたって、タイトー社内ではどんな意見がありましたか?

田中:最初は懐疑的な空気もありました。というのも、当社は日本全国で店舗を運営していますが、全体の来店顧客数における訪日客比率は10%にも満たない状況です。

訪日客比率がコロナ以前より増えてきたとはいえ、TAITO STATION全体ではまだ日本人客の方が圧倒的に多く、依存度が高いため、訪日客、特に中国人に絞った点に対して費用対効果を疑問視する声はありました。

加えて、タイトーはマーケティングにおいてSNSを効果的に運用できているとは言えない状況でした。まだまだ改善の余地が多いので、「訪日客の前に、日本人向けの販促活動を強化するべきではないか」という声もあったんです。

宇都:確かに、訪日観光客が多い地域の店舗は限られていますから、日本全体で考えると、「なんでそこだけ?」ということになりますよね。

田中:しかし、今後は訪日客がますます増えると予測されます。ゲームセンターを運営する競合他社も、日本以外で知名度が確立できていない状況だからこそ、「タイトーブランド」を潜在的な訪日来店客へ訴求し、浸透させることが、中長期的な視点から大きな財産になると見込んでプロジェクト実施を決断しました。

宇都:私たちも、最初にお話を伺ったときに「インバウンドを戦略的に事業として考えたい」とお話しいただき、ものすごく共感しました。というのは、電通でもインバウンドというものを、単なる「観光客向けのプロモーション」だけではなく、「海外に自社ファンを増やす長期的な事業」として取り組んだ方が、結果的に得るものが大きいと考えているからです。

インバウンド施策が、国内も含めたブランディングを考える契機に

電通 宇都氏
電通 宇都氏

桜庭:実際にPoCを実施して、どのような手応えを得られましたか?

田中:春節に合わせて2月に実施しました。他の月と比べて明らかに売り上げが大きく増加したということはありませんでしたが、通常であれば閑散期である2月に好調な売り上げを維持できたという結果から、間接的には貢献してくれたと考えています。

また、短期的な売り上げ以外の部分でも反響はありました。例えば今回、施策の一つとして、獲得した景品を持ち帰りやすいように圧縮する、「圧縮機」によるサービスを試験的に導入しました。これは他社にはないサービスでしたが、お客さまがSNSに投稿した動画が50万回再生まで伸びるなど、大きな反響がありました。加えて、当社へのお問い合わせも多かったです。

宇都:ウェブ上での反響は、ブランドの浸透にも大きな影響がありますよね。実際にPoCを実施するに当たって、実務面での一番のポイントは何でしたか?

田中:店舗と本社との合同プロジェクトチーム内の連携ですね。中でも、実際に訪日客と接する「店舗スタッフとの連動」が重要でした。10月から店舗スタッフも入れてのキックオフミーティングを行い、普段からやりたいことがいろいろあったようで、多くの意見が出され、それに対し何度も議論を重ねました。そして、2月に来日する訪日客を対象としていたため、年末年始の一番の繁忙期に準備をすることになったのですが、各店舗には全面的に協力してもらい、感謝しています。

桜庭:今回の成果を踏まえ、今後のTAITO STATIONのインバウンドへの取り組みについては、どう考えておられますか?

田中:今回のようなインバウンド施策は、継続的に行いたいと考えています。そうすることで、海外でのタイトーブランドの認知向上につなげ、中長期的に多くの訪日客に来店していただき、最終的に店舗の売り上げアップに貢献してくれることを期待しています。

また、今回の成果は、実はインバウンドだけにとどまりませんでした。最初はあくまでも中国からの観光客に向けた施策だったのですが、プロジェクトを推進していく中で、社内で「タイトーブランド」の認知向上の重要性が再認識されていきました。結果として自社の強みを改めて認識し、日本国内も含めたブランディングへの取り組みが、全社的に意識されるようになったと思います。

今回のプロジェクトを契機に、日本人向けも含めたSNS施策や販促戦略を見直しつつ、グローバルに向けても効果的なコミュニケーション活動が実施できるように検討を始めています。

桜庭:インバウンドから始まったプロジェクトが、結果的に国内も含めたブランディングを考える契機になったというのは、われわれにとっても大変意味があることです。国内外に向けたブランディングに関しても、お役に立てればと思っています。本日は、貴重なお話をありがとうございました!

今回PoCに取り組んだプロジェクトチーム。左から順に、タイトー経営企画部・芝野孝子氏、豊田健悟氏、田中氏、電通トランスフォーメーション・プロデュース局・西海瑠依氏、桜庭氏、電通第12ビジネスプロデュース局・菅沼洋輔氏、宇都氏
今回PoCに取り組んだプロジェクトチーム。左から順に、タイトー経営企画部・芝野孝子氏、豊田健悟氏、田中氏、電通トランスフォーメーション・プロデュース局・西海瑠依氏、桜庭氏、電通第12ビジネスプロデュース局・菅沼洋輔氏、宇都氏
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