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未来づくりは未来の意思を可視化するところから始まるNo.6

開発・研究の“核”を見つめ直す。ファンケル総合研究所「つくりたい未来」へのビジョン策定

2024/07/30

電通未来事業創研が提供する「Future Craft Process 」は、「未来の社会実態」「未来の生活者インサイト」の2つの視点から未来の企業価値をつくり出すアプローチ手法です。

美容と健康分野で幅広いサービスを展開し、国内外に存在感を示すファンケルの総合研究所において、昨年、このアプローチ手法を用いたビジョンの策定が行われました。

前回記事では、プロジェクトを主導した未来事業創研の吉田健太郎氏とファンケル総合研究所所長・若山和正氏に、未来への視点の持ち方やR&Dに携わる人々が未来へ視点を広げる意義などについて伺いました。

今回は、実際にワークショップに参加した、同研究所研究戦略推進室に所属する秋山智美氏、基盤技術研究センター所属の倉田洋一氏、機能性食品研究所所属の小野寺美穂氏に、未来事業創研の山田茜氏がインタビュー。プロジェクトで取り組んだ内容と、ワークショップを通して得られた気づきや自身の変化などについてお聞きしました。

        

前編:自社の未来をつくる発信基地となる。ファンケル総合研究所の未来視点

左から)電通 山田茜氏、ファンケル総合研究所 秋山智美氏、小野寺美穂氏、倉田洋一氏
(左から)電通 山田茜氏、ファンケル総合研究所 秋山智美氏、小野寺美穂氏、倉田洋一氏
<目次>
このプロジェクトは、「研究所の未来に関わる転換点」

立場にとらわれず交わした、“本当につくりたい未来”への本音

自分の本音、したいことが「つくりたい未来」につながっていく

「未来は自分でつくるもの」の思いを新たに、何ができるかを考えたい

このプロジェクトは、「 研究所の未来に関わる転換点」

山田:約1年前に、ファンケル総合研究所の皆さんと未来事業創研で3日間のワークショップを含むプロジェクトを実施しました。本プロジェクトは、「ファンケルの未来をつくる発信基地になりたい」という若山所長の目標と未来事業創研の考えが合致したこともあり、ビジョン策定を目的として行われたものです。まずは電通とこの取り組みを始めると聞いたときの率直な感想、申し込みへと至ったモチベーションについてお聞かせください。

秋山:最初にプロジェクトの話を聞いたとき、「これは研究所の未来に関わる転換点」だと感じました。私は勤続25年ほどになりますが、その間、研究所でワークショップを実施したことは一度もありませんでした。ビジョンの策定自体も、全所員を巻き込んで推進する方法も初めてのこと。そうした取り組みに参加せず、できあがったビジョンの文言だけを見ても、そこに至った思いや背景まで理解するのは難しいと思ったのです。であれば、最初から積極的に関わり、プロセスそのものを体感したいという想いで手を挙げました。

秋山氏

倉田:私も秋山と同様「今が変わるときだ」と、感じました。研究所はもともとファンケルの“未来”をつくるところです。われわれ研究員はこれまで、個々の研究テーマの製品化を通してお客さまに喜んでいただくことは考えていましたが、研究所全体として会社やお客さま、社会に利することを考えていく最初の機会がこのワークショップなのではないかと。

また、そうした取り組みの中で、異なる文化を持った電通さんと交流できるのも楽しみでした。当社の未来をつくることに加え、自分自身の幅を広げることにもつながるのではないかと考え応募しました。

小野寺:私も研究所に勤めて20年以上がたちます。この一大イベントを前に、長年勤めているからこそ出せる意見があるのではないかと思い、ぜひ新たなファンケルの形づくりに参加したいとの意気込みで申し込みました。また、電通さんとの取り組みという点もとても魅力的で、ファシリテーションの様子などを見ながらプロの手法を直接吸収したいという思いもありました。

山田:皆さん研究所の一大イベントとして捉えた上で、大変ポジティブに受け止めていただけたのですね。プロジェクトではまず全所員に向けたオンライン勉強会を実施し、未来の社会課題やどんな世の中になっているか、未来の生活者に関するインプットを行いました。こちらの勉強会についてはいかがでしたか?

倉田:SDGsの話題など、日々ニュースを通して耳にするものもありましたが、それを電通さんの視点でどう捉えているか知ることができる貴重な機会でした。また各テーマを「未来」に向けた時間軸で考えるきっかけになり、電通さんの軸と、私が普段から考えていた軸を照らし合わせることができました。新たな気づきをたくさん得られ、とても勉強になりましたね。

倉田氏

山田:ありがとうございます。この勉強会は、未来に関する情報を聞いて主体的につくりたいと思う未来を具体的にイメージするきっかけにしていただいたり、視野を広げてアイディエーションの刺激剤としていただくことで、ワークショップに向けたヒントを得ていただくという位置づけでした。

テーマももともと100個ある中から、若山所長をはじめ運営チームの皆さんにピックアップしていただきました。ファンケルさんの事業に関わる「美」と「健康」をベースにしてはいますが、皆さんご興味をお持ちいただいたテーマが多く、貴所内での投票などを経て当初の予定よりも多くのテーマについてお話しする運びになりました。

小野寺:情報量の多さは本当に衝撃的でした。また、他分野の技術の進化と、すでに未来に向けて動き始めている様子を知り、焦りを覚えました。例えば農業のオートメーションでは、人がほぼ関わらずロボットを使って農薬などを管理している。その様子をデモ映像や画像で見ると、われわれも早く未来に対して動かなくてはという思いを強く感じました。

立場にとらわれず交わした、“本当につくりたい未来”への本音

山田:その後、ライフステージ別にチームを設定し、それぞれのチームでつくりたい未来を話し合い、「ライフピース」(※)として可視化していく3日間のワークショップを行いました。

※ライフピース=未来の人々の“くらし”のシーンを切り取り、“行動や価値観”をキーワードとして抽出し可視化したもの。


今回のプロジェクトの特徴として、参加者の人数が驚くほど多かったことがあります。ワークショップに参加した5名×8チームのメンバーの他に、サブメンバーと宿題だけを行うメンバーがいて、役職者から若手の方までの約70名に関わっていただきました。その中で若い方も物おじせず発言されていたところに、普段の風通しのよさや皆さまのお人柄を感じました。実際に参加された皆さまが、ワークショップ中の雰囲気や進行などに関してお感じになったことはありますか?

倉田:どのチームも幅広い職域のメンバーが参加しており、さらに立場を気にせず意見交換をしたり、言い合ったりできたところが新鮮でした。私のチームは担当ライフステージが「子ども」だったため、実際にお子さんがいる人、将来像として子どもとの暮らしを思い描く人など、多くの視点が合わさって一つの考えができました。年齢や性別、立場などのバラエティーが豊かであるほど面白いものができると感じました。

秋山:全体を通して、とても和気あいあいとした雰囲気でしたね。むしろメンバーの発言がフランクすぎて、どう収束させるのかと心配になりました(笑)。ファシリテーター兼メンバーとして参加くださった、電通の担当者さんのまとめ方を学ぶこともでき、勉強になりました。

小野寺:私自身は当初、とても緊張していました。各部門の専門家がそろっていて、どれだけ真面目な話をするのだろうと。けれども、いざ話し始めると、仕事ではありましたがサークルのような雰囲気で、価値観の違いが分かるざっくばらんな意見交換ができました。この会社の未来がさらに開けそうだと感じられる経験でしたね。

小野寺氏

山田:会社員としてではなく、それぞれが一個人として本当につくりたい未来を話していくので、趣味や好きなものを含めた自己開示がされていましたよね。日々を暮らす上で好きなものがある高揚感は大事だとか、なぜ私はそれが好きなのか、といった本質を語ることになるので、年次・役職など関係なく話されていた様子が私も印象的でした。

今回の取り組みでは、未来事業創研のもともとのサービスから大きくカスタマイズした部分があります。先ほどお話ししたサブメンバーと宿題だけ行っていただくメンバーを含め3層構造での関わり方をつくるなど、当社としても初の体制で熱意ある皆さんをどう巻き込んでいくか考えました。

また、部署の枠を超えてワークショップに参加いただくケースは他社でもあるものの、今回は総合研究所でしたので、職域や役職のほかに「食」「サプリメント」「化粧品」など、取り扱っているテーマの異なる方々が集まってくださいました。そこで、チームの構成においては、そうした条件がすべてかぶらないメンバーになるよう、電通側も意見を出しながら調整させていただいたのですが、どのチームも活発な意見交換がされていたことをうれしく思っています。

山田氏

自分の本音、したいことが「つくりたい未来」につながっていく

山田:ビジョン策定に向け、ワークショップを通じて未来の暮らしや、そこでありたい姿について考えてみたご感想をお聞かせください。

秋山:私は「ファミリー層」について考えるチームでした。話の中で「家族を大事するためには、まず自分を大事にしたい」という意見が挙がり、同意を得て内容が固まっていきました。そうした“本音”の部分が出てくることがまず発見でした。

今働く女性がどんどん増えている中で、「自分がどうなりたいか」について考える機会も増えていると思います。それを考えることが当たり前になると、みんなが自分のありたい姿を大事に持ち続けるようになるのではないでしょうか。私も同じことを思っており、突き詰めると「自分のしたいこと」がそのまま世の中的な「つくりたい未来」につながっていくのだなと感じました。

倉田:今回考えた「つくりたい未来」が、数年後ではなく、10年後という少し遠い未来だった点が良かったと思います。チームのテーマだった「子ども」は、まさに10年後の主人公になっている存在です。彼らは大人にはない自由な面を持っている半面、大人よりも自由が利かずにコンプレックスを抱えている部分もある。そこをどう解消できるのか、「今」を生きる者としてどう未来に向けた手伝いができるかを考えるきっかけになりました。

小野寺:私たちのチームは担当ライフステージが「中高大生」でした。10年後には時代の背景も生活習慣も変わり、例えば学校もオンライン授業が基本の環境になっているかもしれません。その様子を想像すると、生身のコミュニケーション機会が減ってしまい、成長期における大事な経験が欠如してしまう可能性が生まれます。そうした未来の状況を親目線ではなく、「自分が生きる」と想定したときに何が気になるか、何を必要とするかを考えるのがとても難しかったですね。

山田:今お話しいただいたディスカッションを経て、24個のライフピースができあがりましたが、特に思い入れのあるものをお一人ずつお聞かせいただけますか。

小野寺:私は「α世代ウェイウェイ化計画」です。

α世代ウェイウェイ化計画
※画像の一部を加工しています。

小野寺:「ウェイウェイ」は、若者が仲間で盛り上がったりテンションが高まったときにいう言葉らしく、中高生のお子さんがいるメンバーが教えてくれました。日々の暮らしの中で自分の気持ちをサポートしてもらえる機会って多くないですし、常に自分自身で盛り上げるのも難しいですよね。このライフピースが実現できれば、きっと人生を楽しく「ウェイウェイ」過ごせるはずだと。常にテンションを高くして、前向きに物事が進められる未来を築きたいという意味で、このテーマを推したいと思います。

秋山:私は「心身リセット時間で好きな自分を過ごす」ですね。

心身リセット時間で好きな自分を過ごす
※画像の一部を加工しています。

秋山:やはり自分の心のバランスを保てないと、他の人のことも考えられないという視点は大きかったと感じています。自分自身をリセットしたり充電したりする時間は重要で、ファミリーとして同じ空間を共有しながらも、一人一人がそれぞれ自分にとって必要なことをできる点にこだわってつくりました。

倉田:私は「子どもの可能性を広げるスマート子育て」か「理想の自分(外見)を諦めずに実現!」のいずれかですね。

子どもの可能性を広げるスマート子育て
※画像の一部を加工しています。
理想の自分(外見)を諦めずに実現!
※画像の一部を加工しています。

倉田:昔に比べたらだいぶ状況が変わってきているとはいえ、子育てにはどうしてもまだ画一的な面が残っています。一人一人の子どもが持っている可能性をより伸ばしてあげられるよう、特性に合わせて才能をサポートしてあげる必要があると思いますし、そうした未来をつくれたらいいと話し合いました。趣旨はどちらも同じで、それが「美」にいくか、「健康」にいくかでライフピースが分かれました。

「未来は自分でつくるもの」の思いを新たに、何ができるかを考えたい

山田:ワークショップから約1年がたとうとしていますが、参加後、ご自身の内面やお仕事において何か変化はありましたか?

秋山:実は仕事で大きな変化がありました。当時は化粧品の研究部署メンバーとして参加していたのですが、その後、ワークショップを企画運営していた部署に異動になり、ビジョン策定を経た先の改革を主導する立場になっています。昨年は大きな流れとして、ライフピースをベースに策定されたビジョンの実現に向けて戦略をつくり、具体的な研究テーマを設定するなど実行への仕組みを構築しました。

今回、当研究所のビジョンとなったのは、「お客様一人ひとりの未来の可能性と幸せを広げる」でした。この文言が生まれた背景を知っているのと知らないのとでは、捉え方がだいぶ変わってきます。ワークショップへの参加が異動のきっかけかは分かりませんが、そこが改革の起点なのは間違いないので、参加していなかったら今の業務を推進するのは大変だったと思います。

ワークショップに参加していなかった所員へのビジョン浸透も今後の課題の一つです。スタート地点に立ったばかりではありますが、自分自身のプロジェクト参加も含めて業務の意義は強く感じていますので、熱量を持ってみんなを引っ張っていければと考えています。

秋山氏

山田:ありがとうございます。研究所員としてワークショップに参加いただいた方が、ビジョン策定後の未来を実際につくっていくための“本丸”にご異動になったのはすごく大きいことだと思います。倉田さんはいかがでしょうか?

倉田:私自身の仕事の内容は変わってはいませんが、仕事を通して何を具現化し、お客さまに還元していきたいのか、といったコアの部分が自分の中でより理解しやすくなりました。そうした核となる大事な部分は、分かっているようで意外と自分でも分からなかったりします。ワークショップに参加したことで、全体を俯瞰(ふかん)で見てファンケルと研究所に何ができるのかをさらに能動的に考えられるようになりました。

同時に、「未来は自分でつくるもの」という思いも新たにしました。もともと研究の仕事のあるべき姿がそこなのですが、定期的に思い直さないとどこかで変わっていってしまう。そこを一度リセットして、未来を自分たちでつくっていくのだと改めて思い直せました。

小野寺:ワークショップの後、実は部署内で同じようなイベントを開催しました。その中で、まずゴールを先に決め、そこに向かってトレースしていく方法を考えるようになったのは大きな変化でした。これまでは世の中の状況について調べることはしていましたが、「時間軸」を変えてありたい姿から物事を考える手法は取っていませんでしたので。

また、研究所のメンバーとは、仕事以外の会話が増えました。ワークショップを通して自分が本当にやりたいことが明確になり、他の人たちに言えるようになったのは大きいと思います。

山田:「まずゴールを決めて」というバックキャスト思考は未来事業創研の考え方に通じるものなので、日々の業務の中で活用いただけていることを大変うれしく思っています。本日はたくさんのお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

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