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未来づくりは未来の意思を可視化するところから始まるNo.5

自社の未来をつくる発信基地となる。ファンケル総合研究所の未来視点

2024/07/24

電通未来事業創研が提供する「Future Craft Process 」は、「未来の社会実態」「未来の生活者インサイト」の2つの視点から未来の企業価値をつくり出すアプローチ手法です。

美容と健康分野で幅広いサービスを展開し、国内外に存在感を示すファンケルの総合研究所において、昨年、このアプローチ手法を用いたビジョンの策定が行われました。

今回は、プロジェクトを主導した未来事業創研の吉田健太郎氏と、同研究所所長・若山和正氏にインタビューを実施。美と健康における「“不”の解消」の具現化を掲げているファンケルの研究所ならではの未来視点や、未来事業創研との関わり、R&Dに携わる人々が未来へと視点を広げる意義などについてお伝えします。

(左から)ファンケル総合研究所 若山和正氏、電通未来事業総研 吉田健太郎氏
(左から)ファンケル総合研究所 若山和正氏、電通未来事業創研 吉田健太郎氏
<目次>
研究所の役割は、未来の世の中の“不”を把握して、解消すること

「何のためにこの仕事をしているのか」自発的な気づきをもたらすプロジェクトに、参加希望者が殺到

美容や健康は、生活者の夢をかなえる「手段」。“かっこ良さ”ではなく“機能する”ビジョンを策定したい

「“ファンケルの研究所”としての役割」を再認識した取り組みに

研究所の役割は、未来の世の中の“不”を把握して、解消すること

──初めに、ファンケルグループにおける貴研究所の役割やミッションについて教えてください。

若山:ファンケルという会社は、「世の中の“不”の解消」を目的にさまざまな事業を生み出し、40年間で独自のポジションを築いてきました。例えば化粧品事業は、スキンケアによる肌トラブルで悩んでいるお客さまの解決策を模索する中で、無添加化粧品の開発・販売をスタートしました。また、サプリメント事業についても、少子高齢化や医療費高騰の流れを受け、日常の中で健康に資するものを安価で提供できないか?と考えた結果、生まれてきた事業になります。

世の中の課題やお客さまの不便・不満を解消することを礎として会社が起こり、即した事業を進めるうえで、研究開発から商品化、製造、販売までを一気通貫で行えることは、当社の大きな強みです。総合研究所は、その工程における一丁目一番地だと考えています。

──今回、そうした研究所のビジョン策定を行うにあたり、若山所長から電通にお声がけをされたと伺っています。その理由と経緯をお聞かせいただけますか。

若山:私自身が当研究所の所長に就任したのは2022年10月です。もともと文系で、2005年に入社後、化粧品事業や海外事業、健康食品事業などを担当し、事業戦略やマーケティングの分野をメインで手掛けていました。

そんな私が所長に就任した際、目標として掲げたのが、当研究所を「ファンケルの未来を創る発信基地にする」ことでした。そこでまず何から始めるべきかを考えたときに、今お話しした、当社の成り立ちや強みに立ち返ることが重要だと考えました。

そもそもこの会社はなぜ生まれ、存続してきたのか。それはやはり、お客さまの「したい、やりたい。でも、できない」といった“不の解消”に向け、業界のルールや習慣にとらわれず発想・実行してきたからだと思っています。その視点と考え方を研究においても実践していくことが大切だと。その上で、研究所の役割は「未来」に関する世の中の“不”の部分を正しく把握し、解消するためのアプローチ法を提案していくことにあると考えたのです。

製販一体はわが社の大きな強みではありますが、一方で、今年、来年、目の前の課題をどうするかといった短期的な視点に陥ってしまうこともあります。それらは研究にもいえる課題なのですが、研究は本来、一番長期的な視点を持って取り組まなくてはならない部門だと考えています。ビジョン構築によって、研究員たちの視点をもう少し未来に向けさせ、今後の研究開発の意味や今後取り組む領域を明確にしたいと考えました。

私はどのような業務においても、将来を予測し、取り組むべきことを明確にし、その実現に向けた具体的アクションを積み上げていくことが仕事の基本だと考えています。研究の場合、技術開発から製品・サービス化までにそれなりの時間が必要になります。そのため営業・事業部門よりも、もう少し長い視点で物事を見ることが大事になる。こうした考え方を整理し、言語化していくプロジェクトを一緒に進めてもらえる相手がいないか探していた際に、広告分野での関わりを通して未来事業創研の皆さんにお会いしました。
 

若山氏

──ビジョンをつくることにより、研究員みんながそれを指針にしていくことを目指されたのでしょうか?

若山:そうですね。世の中の現状を把握・理解することや、未来に対する予測は研究をするうえで重要です。その未来において、自分たちはどうありたいのか、現状はどのような状況にあるのかを認識し、ありたい未来の実現に向けて、自分たちはどのようなことに取り組むのか?を考え、行動していくことが大切だと思っています。それを見つけだし、全員が共通の認識を持つことは、組織とその実行力を高めていくための大切な要素であり、当研究所なりの“ありたい姿”を定義するために、ビジョン策定に取り組みたいと考えました。

「何のためにこの仕事をしているのか」自発的な気づきをもたらすプロジェクトに、参加希望者が殺到

──吉田さんは、ファンケルさんから今回の相談を受けた際、どのような印象を持たれましたか?

吉田:お話の中で若山さんから「研究員一人一人が『自分の研究がどういう未来を創るのか』について考えていかなくてはいけない」とお聞きしました。その後、他社のR&D関連の方からも同じような話をお聞きするケースがとても増えたんです。これまでは「狭く深く」だった研究員の役割が、どんどん“広がり”や“可能性”について考えなくてはいけない状況に変わってきているのだと気づかせていただいた点がとても印象的でした。

同時に「“不”の解消」という言葉に強く共感を覚えました。“負”ではなくて“不”。これはマイナスをゼロに近づけるという考え方ではなく、「プラスの価値を得られるようにする」という意図だと理解しています。多くの会社は“負”の解消をしようとして、「ストレスをなくしましょう」といった話をしますが、この「不」というのは、「ありたい」「なりたい」ことができない状況をなくしていくことです。私たち未来事業創研もビジョンにつながる「本来人々が望む状態」をゴールに設定し、そのために何をするかというアプローチですので、この視点が今回のプロジェクトの実施につながった、ファンケルさんとの大きな共通項だったと感じています。

──ビジョンの策定に向けて、未来事業創研からは「Future Craft Process」によるアプローチが提案されました。今回の取り組みでは、ワークショップを通じて研究員の皆さまが考える「ライフピース(未来の生活シーン)」や「ありたい姿」を見いだし、最終的にビジョンをつくっています。こうしたご提案をされた理由をお聞かせください。

吉田:「Future Craft Process」は、未来の情報をインプットし、その未来と向き合った上で、未来における人々の幸せを見いだしていくアプローチです。現状も兆しとして顕在化しているものも多いですが、未来の課題や環境変化と、人々が望むことが重なるところに、企業やブランドがどのような価値を提供できるかを見いだしていくものです。その際に課題解決型ではなく、未来の顧客像を設定し、企業やブランドが関わることができるその人たちの幸せな状態を可視化し、その状態を創出するために具体的に何ができるかをバックキャストで考えるフレームになります。

ビジョン策定において、「何のために仕事をしているのか」の視点を会社や上司から一方的に投げかけられてしまうと、職員の方々はなかなか自分ごと化ができません。また、普段の業務の中ではどうしても自分の仕事の枠組みを決めがちになってしまう。そこで、ワークショップを通してもう少し視点を広げ、一人一人が「どのような未来のために今の仕事をしているのか」「自分たちはどんな幸せな未来を創出できるのか」といった自身の想いに自発的な気づきを得られる機会を設けてから、ビジョンを構築していく手法が有効になると考えました。

吉田氏

若山:研究員や技術者は個々で仕事をする機会が多くなります。当時私の傘下には6つの研究センターがあり、それぞれの部門が独立しながら仕事を進めていました。センター間のコミュニケーションが取りにくく、各自の専門性を生かした成果創出にフォーカスするような環境でもありました。そこで各部門間の連携や研究所全体への示唆を高めていくような場をつくり、もう一度自分が見ている範囲を認識し直すことはとても大事な機会になる、と感じました。

実際に参加者を募集したところ、非常にたくさんの研究員が手を挙げてくれたため、プレゼンシートを書いてもらってメンバーを決めることになりました。自分がいかにこのプロジェクトに参加したいのか、そこでどんなことをしたいのかを提案書のような形で書いてもらい選出しました。

美容や健康は、生活者の夢をかなえる「手段」。“かっこ良さ”ではなく“機能する”ビジョンを策定したい

──今回のプロジェクトには0~3まで4つのステップがあり、STEP2としてワークショップが行われました。実際の取り組みを見て、どのような印象を受けられましたか?

4つのステップ
※各ステップにおける具体的な取り組みについてはこちらをご覧ください。

吉田:ワークショップは3日間行いましたが、当初はなかなか発想が広がらず、どのチームも現実的な視点に滞留している様子でした。研究員の方は特に「正解」がなくてはいけないという考えがあるように感じましたね。その点を各チームに参加した電通のメンバーが広げて聞き出していく流れになりました。

若山:確かに「ここまでは自分としてコミットできる」といった実現の可能性を前提とした思考があったように感じました。ただ、この手の取り組みにおいては、一度、現実から離れ、“少しぶっ飛んだ”くらいの発想に広げてから現実的なものに戻してきた方が、良い思考ができると思います。現状の延長線上で考えるよりも、大きな差が生まれますし、話も活発になりますからね。最終的には、“飛んだ”発想から戻ってこられないテーマもありましたが、視点を未来へと向けた今回のワークショップの場合、それも良かったのではないかと。

吉田:僕は「未来」もあくまで一つの手法、ツールみたいなものだと思っています。いわゆる「Forecast」で考えると、どうしても領域が狭くなってしまう。視点を「未来」に移すと目先の業務や事業から離れて発想を広げられます。自身が携わる領域以外のところにわくわくするものが見つかり、それと自分の研究をつなげていけるかもしれないと思ったら、大きくモチベートされるのではないでしょうか。若山さんがおっしゃったとおり、研究開発はスパンが長い仕事ですので、未来との相性は非常にいいように思いました。

──研究員の皆さんによるワークショップから生まれた24個のライフピースを見て、若山所長が感じたことや気づきがあればお聞かせください。

24個のライフピースは研究所のコミュニティエリア  に掲示されている
24個のライフピースは研究所のコミュニティエリアに掲示されている

若山:「化粧品やサプリメントを作ること」から離れ、「未来に向けて自分たちがどのようなことを実現したいのか」と考えた様子が表れていたことに、私自身の中でも大きな納得感がありました。われわれは日々、化粧品やサプリメントの研究開発を業務としていますが、それらはあくまで手段であり、当社がこれまで大事にしてきたことは、お客さまの夢や目標、実現したいことをかなえるために美と健康を通してサポートをすることである。といった、創業の原点に立ち戻った印象がありました。

その「目的」と「手段」の関係性が明確にイメージできることでお客さま、ひいては世の中の問題を解決するような新しい商品やサービスの創出に取り組んでいけるのではないかと感じました。

──ライフピースをもとに、研究所の「ビジョン」とそれに則した7つの「心構え」が未来事業創研によって言語化されました。こちらについてはいかがでしょうか?

ビジョン

若山:最初の案から、ビジネスをすることよりも、お客さまの未来の幸せや、その生活のためにわれわれができることに取り組もう。という内容になっており、ファンケルらしさが適度に“香ってくる”ビジョンになっていました。また、研究員のみんながこのビジョンの実現に向け、日々、主体的に具体的に活動していってほしい。といった想いから、7つの「心構え」についても作成をしていただきました。

吉田:「かっこいいもの」をつくるのではなく、ちゃんと「機能する」ものをつくりたいという思いが明確でしたので、研究員の皆さんが共感できて、毎日の行動に移すときどうしたらよいかがわかりやすいコピーライティングを意識しました。例えば、「打ち合わせの最後にこの心構えを思い出したから、もう少し話をしよう」とか、「今までしていなかったことを習慣化できるような言葉を入れたい」と何度もおっしゃっていたので、言語化についてはあまり困りませんでしたね。

「“ファンケルの研究所”としての役割」を再認識した取り組みに

──本プロジェクトを通してビジョンと心構えが言語化され、社内での変化はありましたか?

若山:現時点では、変化は少しずつですね。このビジョンが定着し、果たされるまでには時間がかかると思いますが、「自分たちの研究って何のためにあるのか」「自分は未来に向けてどうありたいのか」といった意識は着実に芽生えてきており、研究員の提案にもそれが表れているな、と実感しています。

昨年一年間で、ビジョンの明確化とそれに基づく研究戦略・テーマの検討ができたので、ここからは研究員たちと共に、ビジョン実現に向けた具体的な取り組みを推進していきたいと考えています。

吉田:成功している企業はやはり、ビジョンが明確であり、事業は手段であることがはっきりしていると思います。その思い描く未来の社会やビジョンがぶれなければ、事業もぶれることなく突き進んでいけます。逆に、それが明確化されていないと目先の売り上げや、マーケティング手法に目がいってしまいがちになるので、もったいないですよね。

ファンケルの皆さんは本当に真面目で、ワークショップに約40人が参加された中、ほぼ全ての方が欠席せずに続けられたのは稀有(けう)な例です。このプロジェクトに向けた思いを非常に強く感じられたのが印象的でした。

若山:今回の取り組みでは、当社が何のために存在していたのかを再認識する機会になったことに最も意義を感じています。企業としての存在意義と、さらにその中でファンケルにおける研究所としての役割意識を持てた。“どこか”の研究所ではなく「ファンケルの研究所」として役に立てるとはどういうことかが、整理できました。

社外の方と一緒に取り組むことで幅広い視野と示唆も得られました。自分たちが見ている範囲や深さももちろん大事ですが、異なる視点で見た世の中については、通常“外”に出てかないとなかなか経験できません。外部の方に話をしていただくと納得度が高まることもあって、とても良い取り組みになったと感じています。

若山氏と吉田氏

後編では、ワークショップに参加された研究所のメンバー3人を招き、プロジェクトで行われた取り組みを振り返るとともに、得られた気づきや業務を進めるうえでの変化などについてお聞きします。

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