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STARTUP GROWTH TALKNo.8

データを軸に企業の意思決定を"顧客中心"に変革する Asobicaの挑戦

2024/11/06

本連載では、スタートアップ企業の起業家、経営者、投資家、CMOなどが、会社や事業の成長過程で直面した課題をどのように乗り越えたのか、スタートアップ支援を行なっている電通社員との対談形式でお届けします。

今回のゲストは、「遊びのような熱狂で、世界を彩る」をミッションに掲げ、企業の意思決定を顧客中心に変革するために、顧客データの取得から活用までをワンストップに支援する「coorum(コーラム)」を提供するAsobica代表の今田孝哉氏。

近年、顧客理解やコミュニティの重要性が増している背景や、企業がコミュニティプラットフォームを導入するにあたっての課題、それを解決するAsobica×電通の取り組みについて、電通の高井俊輔と語り合いました。

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コミュニティは、顧客理解に欠かせない“体験データ”“心理データ”の宝庫

高井:今回はコミュニティプラットフォームを起点に企業の課題解決に取り組んでいる今田さんをゲストにお招きして、近年ニーズが高まっている「コミュニティ」の重要性や可能性についていろいろとお話しできればと考えています。はじめに、そもそもなぜコミュニティがビジネスにおいて重要になってきているのか、その時代背景について教えていただけますか?

今田:まず、大きなトレンドとして「顧客」を中心とする考え方に注目が集まっています。例えば、事前に情報収集できる環境が整ってきたことで衝動買いよりも「指名買い」が増えており、口コミやUGCの重要性が増しています。また、サービスのコモディティ化が進んだ結果、顧客との関係構築に重きが置かれるようになっています。さらに、人口減少の影響で新規顧客獲得が頭打ちになる中、より一層LTVを高めることが大切になっています。これら全てのカギを握るのが「深い顧客理解」であると言えます。

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高井:なるほど、顧客を本質的に理解することで、顧客体験を高めていくような取り組みが求められているのですね。

今田:そうです。そして、顧客を深く理解するためには、お客様が商品・サービスのどこに満足していているのか、どこに不満を抱えているのかを知る必要があります。例えば、企業は属性データや購買データ、ウェブログなどを収集・分析していると思いますが、そのような“買う前”や“買った瞬間”のデータだけではなく、買った後に商品をどのように使っているのか、使用前後で気持ちにどんな変化があったのかという“体験データ”や“心理データ”も収集・分析することが深い顧客理解には欠かせません。

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今田:近年はアプリやメディアを活用して顧客データを収集する動きが活性化していますが、そこから得られるのは購入前、購入時のデータが中心で、購入後の体験や気持ちまで深く理解するのはなかなか難しいのが現状です。このような“体験データ”“心理データ”を集めるのに最適な手段が、コミュニティという接点構築だと考えています。なぜなら、コミュニティには商品やサービスを購入し、実際に使っている人たちが集まってくるからです。

さらに、コミュニティに集まるユーザーのIDを軸に購買データ・心理データを掛け合わせることで、自社にとって重要なロイヤル顧客(理想の顧客)を見つけることもできます。これらのデータをユーザーの同意許諾を得た上で活用することで、ロイヤル顧客の行動・購買・心理を分析したり、ロイヤル顧客を増やすための施策の効果測定をすることが可能になります。

高井:マーケティング視点で見ると、おそらく「顧客を深く理解したい」というニーズは昔からあったと思うんです。ただ、それを実現する手段がなかった。それこそ、かつてのCMや広告は一方通行の情報発信で、受け手がどう思っているのかを一人一人理解することは不可能でした。そこから徐々にペルソナを考えるなど、顧客理解に世の中がシフトしつつある中で、SNSの登場によって一人一人のユーザーが自分の存在を示し、つながることで影響力を持つようになりました。

さらにスマホが浸透してデジタル上で買い物や決済を完結する方法も定着しました。こういった社会やテクノロジーの変化によって、顧客を深く理解する仕組みや、一人一人の顧客満足度を高める施策を実現できるようになった。その最前線にチャレンジしているのがAsobicaだと感じています。

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ロイヤル顧客の行動やその背景にある心理を、テクノロジーの力で可視化

高井:ビジネスにおけるコミュニティの重要性が高まる中で、Asobicaはコミュニティ運営と顧客分析機能で企業活動を支援する「coorum」を提供しています。具体的にどのような活用がされているのでしょうか?

今田:ニップン様の事例をご紹介します。ニップンは小麦粉やパスタ、冷凍食品、健康食品などの商品を開発・製造していますが、基本的にはスーパーやコンビニを通し販売しているため、顧客とは直接つながりにくい、という課題がありました。POSデータを通じて「いつどこで、何が何点売れた」というデータは取得できるものの、なぜこの商品に興味を持ったのか?なぜ売れたのか?なぜ使い続けてくれるのか?という情報まではなかなか集めることができません。そこで同社の“アマニ”について、当社のcoorumでコミュニティを開設いただき、購入前から購入後の体験データ・心理データを取得・分析しました。

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今田:アマニ油は使い方・食べ方がわからないという声があったので、それまでは違和感なくどうお料理に組み込むかの提案を積極的に行っていました。しかし、実際に継続している方々は「パスタにかけました」「コーヒーに入れて飲んでいます」など、普段使いにちょっとかけている、という実態がわかり、これが当初の仮説と異なる新たなインサイトでした。

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高井:企業にとって大切なロイヤル顧客の行動や、その背景にある気持ちの変化までを明らかにする仕組みをテクノロジーで実現しているところが素晴らしいですね。そして何よりも、顧客を中心にマーケティングの未来を描いているところに電通グループとの深い親和性を感じます。2022年に電通ベンチャーズがAsobicaに出資させていただいたのも、今田さんが掲げるビジョンや世界観に共感したことが大きいと聞いています。

今田:そうですね、私たちのプロダクトや目指す世界に共感していただけたのは嬉しかったです。そして、顧客のデータ収集・分析が得意なAsobica、それらのデータを活用してプロモーションや顧客体験につなげるのが得意な電通、お互いの強みを掛け合わせることでより大きな価値が創出できるのではないかと思いました。

高井:ありがとうございます。個人的にも今田さんの熱い信念や、まだ誰もがやったことがない領域にチャレンジする姿勢にとても共感しています。「遊びのような熱狂で、世界を彩る」というミッションはどのようにして生まれたのですか?

今田:簡単にお話しすると、起業することを決めた時に「あってもなくても変わらない会社や事業に自分の人生を使いたくない」と思ったんです。では、世の中になくてはならない会社とは何なのか?これからの未来を想像してみると、データやテクノロジーによってあらゆる時間がますます短縮されていき、人びとの余暇や自由に使える時間が増えていくはず。そしてその変化は不可避な未来だと思いました。

そうなると、効率や生産性を追求する社会から、心の豊かさを追い求める社会、つまり夢中になれることや熱狂する体験に価値を見出す社会に変わっていくのではないかと考えました。モノの豊かさではなく、心の豊かさを満たす世界一の会社を作ろう。そのような思いで、「遊びのような熱狂で、世界を彩る」というミッションを定めました。

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高井:素晴らしいですね。今や私も含めて世界中の多くの人たちが今田さんのミッションに共感し、実際に2020年には30歳以下のアジア次世代リーダー「Forbes Asia Under30」に選出されていらっしゃいます。私も起業や、日本では前例のなかったダンスフラッシュモブへの挑戦、世界一周の経験など、未開の領域を切り拓くことに情熱を捧げて生きてきたので、今田さんの生きざまにすごく励まされています。

Asobica×電通のシミュレーション開発で、コミュニティ実施のボトルネックを解消!

高井:そして今回、Asobicaと電通の共同開発で、コミュニティ導入のシミュレーションツールを開発しました。これはクライアントの既存接点の情報をもとに、コミュニティを作った際の集客計画や見込まれる成果をシミュレーションするもの。コミュニティに参加するユーザー数を時系列で算出し、見込み顧客数や獲得CPAをシミュレーションすることで、コミュニティ施策の意思決定に活用いただくことができます。

背景としては、クライアントにcoorumをご提案させていただく中で、「興味はあるけど、売上や事業貢献にどれだけつながるの?」「うちのサービスで本当に人が集まるの?」という懸念点をいただくことがありました。近年、SNSや広告の施策に効果予測が求められているように、コミュニティ施策についてもシミュレーションができないとなかなか検討が進みません。電通グループ社内でも、コミュニティの可能性は理解しているものの、KPI設計や数値的な根拠を示せないことが導入のボトルネックになっているという悩みを聞きました。

世の中を調べてみても、コミュニティ領域に関するシミュレーションはない。それなら作ってしまおうということで、今田さんにご相談したんですよね。

今田:はい。正直、実現できるか分からなかったのですが、「シミュレーションさえ出せれば、導入するとおっしゃっているクライアントがいます」と高井さんに背中を押してもらって、チャレンジしてみようと。クライアントにヒアリングをした上で近しい過去事例を参考にしつつ、クライアントが保有しているデータ、Asobicaのデータ、外部データなどを掛け合わせて独自のシミュレーション方法を確立しました。

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高井:大変な作業であることは想像できていたので、無理には言えないなと思ったんです。それでも、今田さんをはじめAsobicaの社員の方々が前向きにトライしてくださって嬉しかったです。

今田:ただ、私たちも過去にクライアントの担当者はコミュニティ施策にすごく前向きだったのに、決裁者や経営層から精度の高いROIを求められてストップしてしまうという経験をしていたので、課題としては認識していたんです。その課題解決に、高井さんをはじめとする知見のある電通と一緒に取り組めることは心強かったですね。

高井:実際にこのシミュレーションを開発した結果、クライアントや社内から「活用したい」という声が増えており、大きな期待を頂けていると実感しています。

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データを軸にあらゆる企業活動の意思決定を顧客中心に変革する

高井:最後に、Asobicaの今後の展望を教えていただけますか?

今田:コミュニティから得られるデータは企業活動において重要な役割を果たしますが、ほかにもさまざまな接点に膨大なデータが存在します。それらを統合・収集し、AIでスピーディに分析・可視化することで、顧客理解や顧客育成を誰もが簡単にできる世の中にしていきます。さらに、お客様の特徴やセグメント、クラスターを可視化するだけではなく、それを踏まえてどういう施策を実施すべきなのかをレコメンドするところまでサポートしたいです。

その先に見据えているのが、データを軸にあらゆる企業活動の意思決定を顧客中心に変革していく世界です。現在は主に広告・マーケティング領域で私たちのサービスをご活用いただいていますが、ほかにも商品企画・開発、店舗・オペレーション、そして、経営戦略に至るまで、さまざまな部門で意思決定のあり方を変革していくことを考えています。
 
そして、最終的には顧客と企業の関係性自体を変革し、企業が顧客を「消費する存在」として捉えるのではなく、「価値創造のためのパートナー」として共創できるような関係性を作っていきたいです。そうすることで、生活者にとっての企業やブランドに対する熱量や熱狂が増えていき、私たちのミッションの実現に近づいていくのではないかと思っています。

高井:ありがとうございます。私たちもIGP (Integrated Growth Partner)として、広告やマーケティングの枠組みを超えた広い領域からクライアント企業の成長をサポートし、生活者にとってより良い体験を提供することで、社会全体の成長に貢献していくことを目指しています。その実現に向けて、Asobicaの力をお借りし、二人三脚でチャレンジする機会はこれからますます増えていくと思いますので、ぜひ今後ともよろしくお願いいたします!

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