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STARTUP GROWTH TALKNo.7

未来の事業をつくる、ステークホルダーとのコミュニケーション(後編)

2022/09/20

本連載では、スタートアップ企業の起業家、経営者、投資家、CMOなどが、会社や事業の成長過程で直面した課題をどのように乗り越えたのか、スタートアップ支援を行なっている電通社員との対談形式でお届けします。

前回に続き、通信・産業・医療等の分野で新しい半導体レーザソリューションを提供する株式会社QDレーザ代表取締役社長の菅原充氏に、電通の越智浩樹、秋山貴都がインタビューを実施。2021年2月に東京証券取引所マザーズ市場へ新規上場した同社が語る、「価値を可視化することの重要性」とは?

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(左から)電通 越智氏、QDレーザ 菅原氏、電通 秋山氏

素晴らしい技術もビジョンも伝わらないと価値がない

越智:前回、どんなに優れた技術や新しいアイデアがあっても、それが社会にどう実装されて、どんな価値や変化を生み出すのかを伝えないと世の中は動かない、というお話がありました。まさに僕らが菅原さんと出会ったころに、QDレーザの技術を、技術起点ではなく社会起点で整理し直すことが必要だとお伝えしたことにつながる考え方なのかなと思います。

菅原:越智さんに「価値は伝わらないと無価値である、素晴らしい技術もビジョンも伝わらないと意味がない。価値を可視化し、実行することが大切だ」と言われたことは、とても印象に残っています。

実際、レーザアイウェアも見えづらい人が見えるようになるだけで価値があると思っていたんです。でも、見えない人は見えない生活に適応しているので、そこまで困っていないんです。私自身、メガネを外すとほとんど見えませんが家の中ではメガネなしで生活していますからね。

秋山:そうですよね。僕らも弱視の方がレーザアイウェアを試着する現場に参加させてもらいましたが、確かに喜んではいるのですが「使いますか?」と聞くと「いや、別に」という想定外の反応が返ってきて困惑したのを覚えています。

菅原:つまり、ただ見えるようになることを伝えるだけでは不十分で、レーザアイウェアがその人の何を変えるのか、具体的にどんな価値を生み出すのかを伝えないといけないんです。われわれは技術者なのでつい技術視点で物事を考えがちですが、その技術が社会にどう生かされ、誰を幸せにするのかを常に考えないといけない。昔、投資家の方に「スタートアップにとって一番大切なのはマーケティングだ」と言われて、当時は正直ピンと来なかったのですが、今ではその意味がよく分かります。

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QDレーザ 菅原氏

越智:菅原さんがマーケティング視点で意識されていることはありますか?

菅原:やはり価値をきちんと伝えることが大切だと思っています。それこそ上場後も数百回というレベルでステークホルダーの方々にプレゼンテーションを重ねていく中で、資料や説明の仕方を改善したり、相手によって内容を変えたりと、「どうすればもっと伝わるか?」を常に試行錯誤しています。

研究者だろうと科学者だろうと、自分が持っている技術やアイデアの社会的価値を伝えられなければやっていけない時代です。今は伝えるための便利なツールやテクノロジーは揃っているので、その潮流に乗って価値を社会実装していける人に大きなチャンスが生まれると思います。

この「価値をきちんと伝える」においては、特に電通チームのお力添えが大きく影響しています。良い意味で、第3者視点、社会起点でわれわれの価値を汲み取り、違いと時間軸をかけ合わせて、ストーリー構築をしてくださいました。

「閉じないこと」で、アイデアもビジネスも広がる

越智:もう一つの視点としてお聞きしたかったのが、事業スピードを上げていく方法です。新しい技術の社会実装には当然ながら時間がかかると思いますが、研究開発を続ければ続けるほどコストはかかります。社会実装までのスピードを少しでも早めるために心がけていることはありますか?

菅原:やはり一番スピードが落ちるのは、手戻りが発生した時なんです。最初に考えていなかった問題が後から顕在化してやり直しが必要になると、そこまでにかけていた時間やコストは大きなロスになります。なので、最初の段階であらゆる要件をとことん考え尽くすことが重要だと思います。実際にそれを完ぺきにやるのはすごく難しいことなんですけどね。

越智:徹底的にインプットして構造を理解した上で進めるということですね。

菅原:その時に大切なのは、「閉じないこと」です。自分でとことん考えるだけでなく、いろんな人の意見を聞きにいく。ステークホルダーがいるならどんどん会いに行くし、似たような分野で成功している人がいるならその知見を学びに行く。自分だけで完結させようとすると大体失敗します。

秋山:菅原さんは僕らともよく会話をしてくださいますし、常にオープンマインドで皆さんと接している印象です。

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電通 秋山氏

菅原:こちらが全部曝け出さないと、相手も本当のことは教えてくれないですからね。自分の考えを包み隠さず話さないと、人とはうまく連携できないと思います。

越智:確かに、僕らもスタートアップ企業の支援を検討する際に、事業のコアな技術やアイデアの部分までオープンに話してくださると支援がしやすいし、逆にそこを隠されてしまうと判断が難しいと感じるケースもあります。

菅原:技術やアイデア自体を守っていてはダメで、本当の金脈はその先にあると考えるべきですね。「With My Eyes」(※)プロジェクトも、越智さんや秋山さんと本音で議論することで生まれたものですから。

秋山:まさしく「With My Eyes」は、いろんな弱視の方に会わせていただいたことで得られた気づきから生まれた作品です。

※=With My Eyes
なんらかの原因により視覚に障害を受け「見えにくい」「まぶしい」「見える範囲が狭くて歩きにくい」など、日常生活での不自由さをきたしている「ロービジョン者」が、レーザ網膜投影技術によって自らの目で写真撮影に挑む様子を描いた映像作品。

経営者のビジョンを可視化すれば、社会を変えることができる

越智:今回いろんな話をお聞きして、改めてQDレーザの技術は非常に奥深いものだと思いました。レーザ網膜投影技術も深すぎるがゆえに、ともすれば「すごい」のひと言で終わってしまう可能性もあります。でも、菅原さんは実際に弱視の方にお会いする機会を設けてくださって、そこで僕たちの中に生まれたモヤモヤを忖度なく議論できる環境を作ってくださったからこそ、QDレーザのことをより深く理解し、その上で「価値の可視化」という価値提供に一緒に取り組むことができたのではないかと思います。

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電通 越智氏

菅原:もちろん、前提として私たちのことを深く理解しようとしてくれるから、こちらが提供できるものは全てお渡ししようとなるのだと思います。初回の面談からお二人がわれわれの技術を調べ上げて、いろんな仮説をぶつけてくれたことは非常に印象に残っています。会社という枠組みを超えたパートナーとしてシンクロすることで、現状の思考や行動を一歩も二歩も前に進めることができると感じています。

越智:ウェブサイトをリニューアルするための制作パートナーとして初めて菅原さんにお会いした時のキックオフ資料を振り返ると、僕らは分からないことだらけだったので膨大な量の質問を書いてお送りしたんですよね。すると、菅原さんが全ての質問に対する回答を書いてくださって、資料もたくさん送ってくれたんです。それがすごくうれしくて、秋山と資料を必死に読み込んだ結果、ウェブサイトリニューアルの提案は一切せずに、もっと中長期に渡る、企業価値を最大化するためのプロジェクトを自主提案しました(笑)。

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キックオフ提案時の資料

菅原:提案を受けたことで、われわれのビジネスが一気に広がる可能性を感じましたし、実際、電通チームが構築してくれた成長ストーリーによって、企業との協業はもちろん、大学との共同研究など、多くの共感を得ることで、ビジネスがいまだに拡張している実感があります。

越智:僕自身、経営者のビジョンを可視化すれば、社会を変えることができるという思いを持って仕事をしているので、それを実現する機会を与えてくれたことにとても感謝しています。

秋山:QDレーザはもっと世界を変えられると信じているので、これからも一緒に大きなチャレンジをしていけるとうれしいです。

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