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酒井美紀の「なぜ?の向こうに行きたくて」No.3

しみじみ深い、暮らしの「なぜ?」

2024/12/05

前回(#02)は、私、酒井美紀が女優として大切にしている「なぜ?」についてお話しさせていただきました。今回は、暮らしの中にある「なぜ?」にフォーカスします。何げない暮らしの中に、何げなく転がっている「なぜ?」。そんな「なぜ?」たちと、改めて向き合ってみたいのです。

都内の「なぜ?」、湘南の「なぜ?」

プライベートの酒井美紀には、二つのよりどころがあります。一つは、都内にある自宅。もう一つは、私が所属する湘南にある事務所です。はやりの言葉でいうと「多拠点生活」ということになるのでしょうか。事務所のある湘南へ赴くことは時々しかないのですが、それでも「心が落ち着く、心を解放できる場所」という意味では、私にとって大切なよりどころといえる存在です。

こんな仕事がおもしろい!あんな仕事もやってみたい!と想像を巡らせ、クリエイティブな価値観を作り上げていく。そういう仕事をしている私には、事務所の窓の先にある湘南の海や水平線が、何よりの宝物。果てしなく続くその先には何があるのか?果てはあるのか?という思いが湧いてくるんです。

事務所の部屋の中には、白い壁がほとんどありません。部屋ごとにテーマがあります。設立からもう5年もたちましたが、部屋のインテリアは、まだ未完成。ウッドデッキも作りたいし、カウンターにしたい場所のペンキ塗りも終わってないし、お気に入りの椅子とペンダントライトもまだ見つかっていないのです。でも、未完成というのも悪くないですよ。このあとどうしよ~?と想像を巡らすきっかけになりますからね。湘南への思いをつらつらと書いてしまいましたが、実は、事務所を湘南に置くことを決めた理由は、目の前に広がる景色がまるで浮世絵だ!と感動したからなんですけどね(笑)。

いつもは、私自身がなぜ?と思うのですが、周りの方に2019年に事務所を湘南に構えた話をすると、なぜ?という問いが多いこと、多いこと(笑)!芸能事務所=東京のイメージが強いからなのでしょうか。でも、仕事をする場所から、きれいな景色を見ることができたら、皆さんはどうですか?仕事がはかどりませんか?
いつもは、私自身がなぜ?と思うのですが、周りの方に2019年に事務所を湘南に構えた話をすると、なぜ?という問いが多いこと、多いこと(笑)!芸能事務所=東京のイメージが強いからなのでしょうか。でも、仕事をする場所から、きれいな景色を見ることができたら、皆さんはどうですか?仕事がはかどりませんか?
そうそう。テーマは、「暮らし」でした。仕事柄、というより性格柄、いろいろな場所へ出向き、いろいろな「なぜ?」と出会うことを楽しみにしている私なのですが、湘南の事務所もそうなのですが、やっぱり自宅で過ごす時間はやはり格別です。仕事で「なぜ?」を追求していることもあり、自宅では「なぜ?」を意識せず、何となくリラックスして過ごしているのですが、よくよく思い返してみると、おうちにもそこそこの「なぜ?」は転がっていたりするんですよ。

暮らしの「なぜ?」に、正解はない。だから、オモシロイ

これはもう、誰にも納得いただける「あるある話」だと思うのですが、旅先から自宅に帰るなり「ああ、やっぱりわが家が一番だなー」と思わず声が漏れちゃいますよね。あれって、なぜ?なんでしょう。他人を意識せずにくつろげる、ということだけじゃないような気がするんです。愛着があるモノに囲まれることでの、安心感や安定感というのでしょうか。ああ、私のことを裏切るものは、ここには何一つない、みたいな。
それでいうと、おうちにあるモノに「裏切られた」ときにはちょっとそわそわしてしまいます。裏切られたといっても、電球が切れた、とかそういうちょっとしたことなのですが。この夏は、年代モノのエアコンが壊れました。すると、それに呼応するように、テレビの映りが悪くなって、そういえば冷蔵庫も……みたいなことが同時多発的に起きたんです。息子や夫は、それは大変だ!すぐに修理しなきゃ!買い替えなきゃ!と大騒ぎなのですが、私の方はというと「そんなことはさておき、なぜ、一度に……(裏切られたー!)」というところが気になります。
私は人生の中で、一度に家電が壊れたり、一度に水回りの不具合が生じたことが数回あります。要するに経年劣化なんでしょうけど。でも、私の「なぜ一度に家電が壊れたんだ?」の問いに対して、過去の経験値から導き出された解は、“変化”のシグナル、ということなんです(笑)。私を取り巻く何かに変化が起きていて、このままじゃだめだぞ!ちゃんとしっかり考えて人生を生きなくちゃ!みたいなシグナル。あるいは健康へのシグナルなのか?みたいな。要するに、自分と向き合うために家電さんたちが放ってくれているサインのように思えるのです。
そんな話を打ち合わせの際に持ち出すと、編集の方が大まじめな顔でこう言うんです。「それはねえ、酒井さん。家電にもきっと、心があるんですよ。よく言うじゃないですか、そろそろクルマを買い替えようかな、と思った途端、今乗っているクルマがスネて動かなくなる、みたいなこと。エアコンや冷蔵庫にも心があって、長いこと働きづめでお互い疲れたよねーという気持ちが通じ合っていたとしても、おかしなことではないと思いますよ」って。なるほどねー、と妙に納得してしまいました(笑)。
私にとって、家電やクルマって、私らしい時間を過ごすための「大切な存在」であり、「いとしい相棒」「いとしい家族」のようなもの。ぞんざいな扱いをされたら、そりゃ、向こうはスネちゃいますよねー
私にとって、家電やクルマって、私らしい時間を過ごすための「大切な存在」であり、「いとしい相棒」「いとしい家族」のようなもの。ぞんざいな扱いをされたら、そりゃ、向こうはスネちゃいますよねー

「なぜ?」という気持ちに私がロマンを感じるのは、「正解がない」あるいは「そうそう簡単に正解にはたどり着けない」というところ。正解がないとなると、私の思考はエンドレスに広がっていって、さながら宇宙空間を漂っている感じです。たとえそれが、「なぜ、エアコンが壊れたの?」といったささいなことであっても、です。

なので、たくさんの「なぜ?」の宿題を抱えて仕事の現場に入る前は、自宅で「静かに考える時間」を大切にしています。ですから、ふと気がつくと、そういえばここ何日もおうちにこもっているわー、なんてこともあったりします。ん?「仕事論」なのか、「おうち論」なのか、はたまた「家電論」なのか、自分でも論点が分からなくなってきました(笑)。

おうちは、「自分に帰る場所」

よく言われることですが、家とは「自分に帰る場所」ですよね。これには、二つの意味があるのでは?と、私は思っています。一つは「素の自分に帰る場所である」ということ。自然体の自分に戻ることで、リラックスできる。もう一つは、「自分でも気づかなかった自分と向き合う」ということ。趣味や家事、習慣……何でもいいのですが、なぜ私は、こうしていると楽しいんだろう?こうしたくなるんだろう?みたいな。そういうどうでもいいこと(私に言わせると、とても大切なことなのですが)を考えると、見えてくる自分がいるんです。

たとえば、私は今、「七輪」にハマってます。炭をおこして、サンマとかをちりちりと焼く、あの七輪です。どうしても「ぬか漬け」が作りたくなって、ぬか床を準備して……なんてことも、突然、やりたくなったりします。

家族で出かけるレジャー(魚釣り)でも、七輪は大活躍!釣れたて、とれたてを、ちりちりと焼いていただきます。ぜいたくー
家族で出かけるレジャー(魚釣り)でも、七輪は大活躍!釣れたて、とれたてを、ちりちりと焼いていただきます。ぜいたくー

こんな便利な世の中で、どうしてそんな手間のかかることにハマるんだろう?なぜなんだろう?と考え始めると、故郷の父の顔がアタマの中にもわん、と浮かんできたりします。何で?と思うのですが、そうそう、父は何でも作る人。魚を釣って、野菜は自分で育てて、お肉は炭で焼いて……そうやって手間のかかることを楽しんでいる人なんです。今年も父の畑ではいい野菜が採れたのだろうか?ヒゲの伸びた泥だらけの大根、おいしかったなーみたいなことが思い出されて、それでかー!となったりする。

そうなってくると気になり出すのが、「故郷の味って、何歳くらいまでさかのぼって覚えているものなんだろう?」「あの味!というものは、どうして幾つになっても覚えているのだろう?」みたいなこと。という感じで、「なぜ?」好きな私の場合、暮らしの中にある「なぜ?」も、そこそこしっかり楽しんでいる、というわけなんです。

2歳の誕生日のスナップ
2歳の誕生日のスナップ
実家の畑で採れる野菜は、何だかんだいって富士山から長い年月を経て運ばれてきた水で育っています。そりゃ、おいしいわけですよー。この写真は、事務所のある湘南からみた富士山なのですが(笑)。
実家の畑で採れる野菜は、何だかんだいって富士山から長い年月を経て運ばれてきた水で育っています。そりゃ、おいしいわけですよー。この写真は、事務所のある湘南からみた富士山なのですが(笑)。

私にとって「おうちに帰る」とは、大げさにいうと「自分のルーツに立ち戻る」といった意味での「帰る」なんです。何もないところから、「そうだ、七輪で魚を焼こう!」とはなりませんよね?「七輪?なぜ?」の答えは、遠い昔の静岡に
あったりするわけですから。そんなとき、「ゼロイチ」(編集部注:ゼロからイチのものを生み出すクリエイティブな発想)のヒントは、案外、日々の暮らしの中にあるんじゃないか、なんてことを思ったりもするんです。

酒井美紀は、ガンコなのか?

編集の方や事務所の湘南さん(仮名)との会話を思い出しながら原稿を書いているうちに、何だかヘンテコな方向へ話が転がってしまいました。でも、それはそれでいいのだ、と自分に言い聞かせていたりもします。「なぜ?」の魅力は、「自分では想像すらできなかった展開」にこそあるのですから。

それで思い出したのですが、仕事を始めて間もない10代前半の頃、そのとき所属
していた事務所の社長(※)から、「美紀は、ガンコだからねー」と言われたことがあります。自分では思ってもいなかったことなので、びっくりしました。でも、今になって思うのは「一度やると決めたら貫き通す」というあたりが、昔から変わらない私のガンコなところ。「なぜだろう?どうしてなんだろう?私が知らない答えが、きっとあるに違いない!」という、かたくなな思いというか……。その意味で、私、酒井美紀は、もの心がついた頃から「ガンコ一徹」なのかもしれません。

※オフィスジュニア・佐藤伊次社長(当時)

 
中学生時代のスナップ

とはいえ、いろいろな「なぜ?」を経験するたびに、「これが正解!なんてものはない」というところに私のガンコは必ずたどり着きます。中でも、暮らしの中にある「なぜ?」が行きつく先は、そんなことばかり。正解を追究するものの、正解はなかなかつかめない。でも、それでいいじゃない。いいえ、そこがたまらなくいいのです。

#04へつづく
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