Z世代が買い物に行きたくなるお店とは?「ジェネキュン」に聞いてみよう!No.2
Z世代がアガる!売り場企画アイデア3選
2025/01/21
ジェネキュンでは、Z世代のメンバーが中心となり、Z世代の価値観に寄り添った新たな売り場提案を行っています。
今回ご紹介するのは、「お月見」「母の日」「ピクニック」といったシーズンイベントに合わせた、3つの売り場企画アイデア。
それぞれの企画を考えたジェネキュンメンバーの、幡野千聖氏と山本幸平氏に伺いました。
<目次>
▼マンネリ化した売り場企画を一新し、Z世代を呼び込む!
▼売り場アイデア「#エモ映え月見」。Z世代になじみが薄い行事をあえて選ぶ
▼売り場アイデア「オンマーペンミの日」。母の日と推し活を合体!
▼売り場アイデア「懐ピク!平成ファンシーにときめく会」平成ブーム×ピクニックの掛け合わせ
▼Z世代の幅広い層を動かすには「少額から参加できる企画」が重要だ!
マンネリ化した売り場企画を一新し、Z世代を呼び込む!
──自己紹介をお願いします。
幡野:私は電通tempoのアカウントリード(営業担当者)として、主に化粧品や食品メーカーに向けた販促プランの提案をしています。入社から現在まで、化粧品メーカーのフラッグシップショップでのギフトサービス企画に携わっており、店頭体験やCX領域の提案を得意としています。
山本:私は電通リテールマーケティングに所属しながら、現在はドラッグストアを展開する企業に常駐しています。そこではDXを推進する部署に在籍し、プロデューサー兼プランナーとして、メーカー担当者とも向き合いながら、アプリを活用したクーポン施策など、1to1マーケティングのサポートを行っています。
──ジェネキュンとお2人の関わりを教えてください。
幡野:ジェネキュンは、2社の知見を合わせて、「店頭×Z世代」をテーマに調査・情報発信するプロジェクトです。メインメンバーは、両社からZ世代の社員が2人ずつ選抜されており、あとは施策に応じてサブメンバーが加わります。
ジェネキュンの取り組みは主に4つあります(下表)。今回ご紹介する「Z世代がアガる!売り場企画アイデア」は、本音調査や売り場トレンドなど、ジェネキュンの活動で蓄えた知見をベースにしながら企画を考えるというものです。
山本:現在は、各季節ごとにいくつかの売り場アイデアを企画し、社内向けにアウトプットしています。まだクライアントに直接提案するところまで至っていませんが、電通グループ内でクライアントの販促企画を考える際に役立ててもらっています。
──お2人が売り場企画を考える際の手順を教えてください。
幡野:まずZ世代の興味を引きそうな売り場の「テーマ」を考え、それに合わせて訴求する商品カテゴリーを設定します。そこから、「テーマ」のキャッチコピーやキービジュアルで具現化し、POP、店頭集積、チラシ、ネットスーパー、ウェブメディアなどへの展開イメージを形にしていきます。
山本:ただし、どの商品をどのくらい仕入れて、どの棚に置くのかという「棚割り」は、小売り店の現場のプロフェッショナルの方々の領分です。私たちはあくまでも、売り場企画の中で上流部分の「テーマ」を提案して、その先は小売り店の担当者に入っていただきながら、現実的な棚割りなどを一緒に考えていくことを想定しています。
──そもそも小売り店などの流通企業とメーカー企業は、売り場企画についてどんな課題を抱えているのでしょうか?
幡野:私は普段メーカーの方と接する機会が多いのですが、「お正月やバレンタイン、ゴールデンウイークといった年中行事に絡めた売り場企画などを行っているが、毎年のことなのでマンネリ化している。お客さまも飽きてしまっているので、企画の新しい切り口が欲しい」というご相談をよくいただきます。
山本:私が現在、マーケティングに携わっているドラッグストア業界の顧客層は、40~50代の女性がメインです。それと比べると、Z世代の売り上げのインパクトはそこまで大きくないので、流通業界では「Z世代に向けた企画」の打ち出しにまだ消極的な傾向があります。しかし、いまの段階での投資というか、Z世代のライフタイムバリューというものを意識してファン化しておかないと、将来、売り上げのボリュームゾーンとなる層が減ってしまう懸念があります。その点はドラッグストア業界に限らず流通各社ともしっかり意識はしていて、例えば専用アプリで顧客接点をつくる動きもあります。
明るい材料として、前回の記事でもご紹介したとおり、Z世代はリアル店舗での買い物体験も重視しています。私たちが考える売り場企画が、流通各社がZ世代に向けて踏み込んだ売り場企画を考える際の“補強材”になればいいなと思っています。
幡野:一方で、メーカーも自分たちの商品のことだけを考えるのではなく、すごく流通の気持ちを理解しようとしたり、棚のことまで考えていらっしゃるなと思います。そこで私たちは、メーカーも流通もWin-Winになるような売り場企画を提案できればと考えているんです。
売り場アイデア「#エモ映え月見」。Z世代になじみが薄い行事をあえて選ぶ
──ここからはお2人が中心になって考えた売り場企画について、ピックアップして伺います。まず、幡野さんが担当した秋の企画「#エモ映え月見」です。テーマに「お月見」を選んだ理由から教えてください。
幡野:そもそもZ世代が生活の中に取り入れなさそうなイベントだと思ったからです。お月見は、お団子やウサギといった“なんとなく古くさいイメージ”がありましたが、Z世代の消費トレンドでもある「エモさ」「アート」をフックとすることで、Z世代にも新鮮に映り、興味を持ってもらえる売場つくりができるのではないかと思いました。
お月見=中秋の名月(十五夜)は、毎年9月中旬から10月上旬にある季節イベントです。近年は残暑が厳しいことが多く、ホットメニューの展開が後ろ倒しになっている影響で、それに代わるイベントとして、流通で注目されているイベントでもあります。
──この企画では、どのような商材を想定していますか?
幡野:「十五夜」というピンポイントの日を楽しむための商材というよりも、9月後半から10月の「お月見シーズン」をエモくかわいく楽しむためのアイテムを想定しています。
化粧品であれば、ムーディな香りのフレグランス、パープルを基調としたコスメ、キラキラとしたタトゥーシールなどです。インテリアは、ムードライトや月モチーフのお香といったアイテムで、フード・ドリンクは、月をイメージするまるいモチーフのお菓子、フルーツやアイスを浮かべたカクテルやソーダなどです。「#エモ映え月見」というキャッチコピーのもとで、衣食住さまざまな商材を展開していくことを考えました。
山本:Z世代よりも上の、広告や販促について経験豊富なメンバーも加わってサポートしながら、幡野さんのアイデアを具現化していきましたよね。
幡野:「#エモ映え月見」というキャッチコピーは、ジェネキュンをサポートしてくれるプランナーの方といろいろ意見を交わしながら生まれたものです。Z世代とお月見がマッチする側面があるのか情報を探したところ、ちょうどはやっていたアートフェスに着目しました。「お月見」と「アート」をつなげることで、美しさやエモさを強調しようということになり、キャッチコピーは生活者に分かりやすく伝わることを意識しました。
売り場アイデア「オンマーペンミの日」。母の日と推し活を合体!
──続いて春の売り場企画では、山本さんが「母の日」に向けた企画を考えたそうですね。初めに、「オンマーペンミ」とは、どのような意味でしょうか?
山本:韓国語で、オンマーはお母さん、ペンミはファンミーティングです。いま「推し活」がブームになっていますよね。母親にとっての一番の推しは、わが子だと思うんです。母の日は、普段とは逆に、子どもが母親を推しとして捉えて、「母への推し活をして感謝を伝える日」という設定にしました。
母の日の売り場企画では、「母の日に、お母さんに感謝を伝えよう」のようなストレートな打ち出し方だと、子どもは少し照れくさくてアクションを起こしにくいかなと思いまして。「推し活」という、いまはやりの企画パッケージを作ることで、普段言えないような感謝の気持ちが伝えやすくなるのではないかと思いました。
──売り場企画に母の日を選んだのには、何か理由がありますか?
山本:私の場合、まずお客さまの心を動かす、琴線に触れるような企画を考えたいという前提がありました。春はいろいろなイベントがありますが、その中でも多くの生活者の気持ちを揺さぶれるという点で、母の日に着目しました。
──母の日に、「ペンミ=ファンミーティング」とは、どういうことでしょうか?
山本:ファンミーティングとは、握手会や撮影会、トークコーナー、ゲームなどを通して、アイドルや芸能人がファンと交流するイベントです。今回の企画では、母親をタレントに見立てて、子どもと母親が一緒に楽しむ日を想定しています。母親と一緒に料理を作る、お酒を飲む、映画を見たりゲームをする、プレゼントを渡してチェキを一緒に撮るといったことを楽しんでいただくイメージですね。
普段の家族だんらんが、「オンマーペンミ」という企画パッケージによって、少し特別なものとして捉えてもらえるのではないかと考えました。もっとも、私自身はあまり推し活に詳しくなかったのですが……。
幡野:ジェネキュンには、韓国アイドル好きな人や推し活に熱心なメンバーがいて、いろいろ教えてくれるんですよね(笑)。Z世代のメンバーが実際に生活の中で体験していることを、さまざまな企画に落とし込めるのは、ジェネキュンの強みかなと思います。
山本:メンバーから聞いた一つ一つのエピソードがとても参考になりました。おかげでアイドルや芸能人のファンミーティングで行われている内容を、母の日というテーマに落とし込むことができたと思います。
──どのような商材や業態を想定していますか?
山本:主にスーパーマーケット向けの企画として考えていて、商材は食品や飲料が中心ですが、プレゼント用のブーケやレターセット、フォトアイテムなどの雑貨にも展開できます。
売り場アイデア「懐ピク!平成ファンシーにときめく会」平成ブーム×ピクニックの掛け合わせ
──もう一つ、幡野さんの春の企画「懐ピク!平成ファンシーにときめく会」もご紹介いただけますか?
幡野:いま私たちZ世代の間で「たまごっち」や「オシャレ魔女 ラブandベリー」といった、自分たちが子どもだった平成初期~中期にはやっていたものがリバイバルしていることに着目しました。「平成に帰れるような企画」と、春のテーマを掛け合わせられないかと思ったんです。
「おしゃピク」がピクニックの楽しみ方の定番になっているなかで、最近では「バレエコアピクニック(※)」「推し活ピクニック」など単純におしゃれなだけではない、コンセプトだてたおしゃピクがトレンドになっています。
※1 バレエコアスタイル=レース、リボン、トゥシューズ、レッグウォーマーなど、バレリーナの衣装を意識したガーリーファッション。
──「平成懐古」と「ピクニック」という、いまZ世代にはやっているもの同士を結び付けたわけですね。
幡野:はい。ただ、いくら面白そうなアイデアでも、マーチャンダイジングや商品と結びつけられないと、「売り場企画」としては意味がありません。その点、平成×ピクニックというテーマは、食品スーパーや雑貨ショップで、幅広い食品や雑貨に結び付けられそうですよね。
──なるほど。ピクニックに持っていく食品や雑貨を、平成っぽいもので固めるというコンセプトでしょうか?
幡野:そうなんです。そして平成ブームといっても、アニメキャラクターなど版権物のグッズをずらっと売り場に並べましょうという提案ではありません。あくまでも「Z世代が自分たちでピクニックのコンセプトを考える」というトレンドを重視していて、ピクニックを「自作」するときに役立つものを集めて陳列することを想定しています。
具体的には、ロールサンドイッチやキャラ弁といった、子どもの頃の「手作り懐カワ弁当」を再現するための食材だったり、あるいは最近流行している「海苔(のり)アート」(※2)に役立つ商品をラインアップしたり。それに加えてレジャーシートや紙コップといったピクニックの必需品、「デコクロックス」や「じゃらじゃらキーホルダー」などの写真映えする雑貨アイテムなどです。
※2 海苔アート=海苔をキャラクターの顔や模様に切り抜き、お弁当に飾ったもの。
──「懐ピク!平成ファンシーにときめく会」というコピーは、どのように生まれましたか?
幡野:ジェネキュンメンバーからいろいろ意見をもらいながら、「平成の懐かしさ」を言葉に落とし込むとどんな表現になるか、かなり考えました。「キラキラ」ではないし、「平成女児」も違うなと。考えた末にたどり着いたのが「平成ファンシー」というワードです。平成のトレンドの中でもファンシーというコンセプトを打ち出すことで、売り場の意図が消費者に伝わりやすくなると考えました。
Z世代といっても、年齢層は幅広く(※3)、平成時代のトレンドを実際に楽しんでいた20代後半くらいの層と、平成の文化に憧れを感じている10~20代の層、両方の層を取り込める施策になったと思います。
※3 Z世代=いくつかの定義があるが、ここでは「1990年代半ばから2010年序盤生まれ」(2025年現在で15~27歳)の層を想定している。
Z世代の幅広い層を動かすには「少額から参加できる企画」が重要だ!
──今回、Z世代向けの3つの売り場企画をご紹介いただきました。このような企画をジェネキュンでは日々開発されているとのことですが、メーカーや流通企業にどのように活用してほしいですか?
幡野:私は、最初に申し上げたようにマンネリ化している売り場企画を変える一助となればいいな、と。あとは、企画を通して、これまであまり注目されなかった商品に光が当たるとうれしいですね。
山本:メーカーと流通のバイヤーが商談をする中で、売り場アイデアの一つとして話題にしていただければと考えています。いざ企画を実現するとなった際には、電通グループがお手伝いできることもあるので、ご相談いただきたいですね。
──お二人が、売り場企画を考える際に最も重視するポイントは何でしょうか?
山本:私の中では2つあります。一つは、ジェネキュンが介在する価値があるかどうかです。これまでにないクリエイティブが必要なケースや、実現のために多くの会社との調整が必要なケースで、ジェネキュンが力になれると考えています。
もう一つは、「現場」のことをきちんと考えられているかどうかです。私が流通企業に常駐して特に強く感じるのは、本部は現場を本当に大事にしているということです。いくら企画が斬新でも、現場スタッフの負担が増え過ぎるものや、売り場のレイアウト変更が大変といったものは受け入れてもらえないでしょう。現場をきちんと見て、現場の声を聞いて、実現可能な企画にする必要があります。
幡野:流通の現場の視点は、何よりも大事ですよね。企画がどれだけ面白そうであっても、売り上げのことを考えた場合、扱う商品がせますぎるテーマでは、企画として扱いづらいと思うんです。なので、「できるだけいろいろな商品を巻き込めること」を意識していますね。そして生活者に向けては、一言で心に刺さるキャッチーなテーマを考えるように心がけています。
山本:Z世代に向けた企画という観点でもう一つ大事なことを挙げると、お金がかかり過ぎず、少額から参加できるものを考えていますね。Z世代といっても、社会人だけでなく中学生や高校生もいます。お小遣いが限られる学生でも、手軽に参加できる企画が求められているのではないでしょうか。たとえ大きな売り上げに直結しなくても、そうした層が、次のボリュームゾーンを担うようになっていくので。
──商品や現場を意識して実現可能なものにしていくという点でも、ジェネキュンや電通グループの知見は大いに役立ちそうですね。本日はありがとうございました。