デザインシンキングの終焉と攻めのDX
2025/01/16
2023年11月、世界的に有名なデザインコンサルティング会社「IDEO(アイディオ)」の東京オフィスが閉鎖されました。デザインシンキングの普及に貢献してきたIDEOの撤退は、日本のデザイン業界、特にデザインシンキングを中心としたコンサルティングサービスの今後について、多くの議論を呼び起こしています。
今知っておきたい、DXやデジタルプロダクトに関することを中心にお届けする本連載。第5回となる今回は、デザインシンキングの現在地から、「攻めのDX」についてお話しします。
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デザインシンキングと国内の現状
デザインシンキング(デザイン思考)は、「デザイナーの思考プロセスをビジネス課題解決に応用する手法」として、近年注目を集めてきました。
ユーザー視点や共感に基づいた「本質的な課題の発見」「多様な視点からのアイデア創出」「プロトタイピングによる検証」といったプロセスは、ビジネス上の課題を解決し、新たなイノベーション創出や、顧客体験向上に貢献すると期待されています。
そんな中、IDEOの東京オフィスの閉鎖を受けて、「デザインシンキングそのものの価値が日本において陳腐化したのではないか」という意見が業界内で話題となりました。
しかし、私はデザインシンキング自体の価値が陳腐化したとは言い切れないと思っています。確かに一時的な目新しさや、新たなアプローチとして注目を集めすぎた当時と比べると多少凡庸になったとしても、日本のビジネス界においてデザインシンキングが必要となる場面や可能性がまだまだ多く存在すると思っているからです。
デザインコンサルティングビジネスが直面した「困難」とは
では、デザインシンキングの価値が陳腐化したのではないとすると、IDEOの東京オフィスの閉鎖は何を意味するのでしょうか?
現在の日本において、デザインシンキングというアプローチは徐々に浸透してきているものの、IDEOのようにデザインシンキングを用いた「デザインコンサルティングビジネス」に対して、企業の判断や予算を投下し続けることが難しい状況なのではと考えています。これを踏まえると、「デザインシンキングの終焉」ではなく「デザインコンサルティングビジネスの困難」が正しい解釈だと考えています。
デザインコンサルティングビジネスが困難な状況になっている理由については、主に2つの背景があると考えています。
1つ目は、デザインコンサルティングの成果が、「必ずしも定量化できるものではない」ということです。支援を受けたクライアント企業は、短期的に費用対効果を明確に把握することが難しく、継続的な投資判断にちゅうちょするケースが多くなっているのではないでしょうか。本来、本質的な効果を得るためには、長期的な視点での評価が不可欠であるための難しさだと思っています。
2つ目は、デザインシンキングの成果を引き出そうとすると、特定のプロジェクトの進め方だけにとどまらず、全社レベルでの承認フローやビジネス判断のスピードの変更が必要になってくるため、「これまでの企業内の検討や承認のプロセスやタイムラインを変える必要がある」ということです。クライアントの事業を支援するだけでなく、クライアント組織の構造や権限の見直しについても、社内での理解と協力を得る必要があります。
「攻めのDX」を支援するGNUSの挑戦
実は、デザインコンサルティングビジネスが直面する課題は、私たちが支援するデジタルプロダクトの開発を中心とした「攻めのDX」においても、同じことが当てはまります。
「攻めのDX」とは、デジタル技術を駆使して、新たなビジネスモデルやサービスを創出し、競争優位性を築く、ということです。一定のコスト削減や効率化を定量的に把握することができる「守りのDX」に比べて、「攻めのDX」は、費用対効果の把握が難しく、さらに、新しいデジタルプロダクトやサービスが事業として成功する確率は決して高くはないため、クライアント企業内での継続的な投資判断を獲得することが難しい領域であると感じています。
「攻めのDX」に重要なのは、単発のアイデアではなく、継続的に企業課題を解決していく姿勢と、組織変革における新たなカルチャー作りであり、ここへの投資は短期的に判断できるものではありません。
デジタルプロダクト専門企業である私たちGNUSは、日本のビジネス変革に本当に必要なサービスを成立させるために、短期的な事例づくりだけでなく、長期的な企業の成長という実績を作ること、そしてその価値をクライアント企業に真摯(しんし)に説明し続けることが必要だと考えています。