心踊るサステナフードを食べながら、サステナビリティによるマーケティングの進化について考えてみた
2025/10/16

「マーケティングにとって、サステナビリティは敵か味方か?」
電通サステナビリティコンサルティング室で、サステナビリティによる企業価値向上や事業支援を行っている桜井香織です。
企業経営におけるSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の重要性が高まる中で、マーケティングにもサステナビリティを取り入れようという動きが進んでいます。しかし、「商品やサービスを売るためのマーケティング」と「環境や社会の持続可能性を担保するサステナビリティ」の両立は決して簡単ではなく、多くの企業にとって難題です。
マーケティングとサステナビリティの両立について考える際、私たちは“心踊るサステナ”というキーワードを使っています。“心踊るサステナ”であれば、自然と買いたくなるはずだから――。
この連載では、お買い物好きなプランナー5人が、暮らしの中でいいなと思った“心踊るサステナ事例”を基に、マーケティングにおけるサステナビリティの可能性をひもといていきます。
<目次>
▼「多少価格が高くても、サステナブルな商品を買う」人は6.8%!?
▼心踊るサステナフードの魅力をみんなで考えてみた
▼「◯◯◯なのにサステナ」という逆張り発想
▼心踊るサステナ探しの旅はつづく
「多少価格が高くても、サステナブルな商品を買う」人は6.8%!?
電通で行った調査によると、「多少価格が高くても、サステナブルな商品を買う」と答えた人はたった6.8%。この結果に「やっぱりか〜」というのが正直な感想でした。私自身、価格が上がらないに越したことはない……というのが本音です。
マーケティングにサステナビリティを取り込むことが求められる時代ですが、どうしても価格に跳ね返りやすく、それが生活者に受け入れられにくい。特に、多くの人をターゲットにするマス商材で価格上昇を受容してもらうことは難しく、それがマーケティングSXの障壁になっていると考えます。
一方で、マス商材にはなっていないけれど、話題になっているサステナ事例はたしかに存在しています。そこにマーケティングSXのヒントがあるのではないか、と思ったサステナビリティコンサルティング室のメンバーは、“心踊るサステナ事例”を持ち寄って、みんなでおしゃべりしながら考えてみることにしました。ここからは、その座談会の様子をリポートします。
心踊るサステナフードの魅力をみんなで考えてみた


初回は親しみやすい「食」からスタート!ということで、2つの事例を紹介します。1つ目は森ちゃんが教えてくれた「2foods(トゥーフーズ)」。銀座ロフト店にみんなで行ってきました。


2foodsはふらっと店舗に入って知ったブランドで、メニューを見ると「どうやら植物由来らしい」ということに気づきました。あえて“ヴィーガン”や“プラントベース”といった言葉を前面に出さずに、むしろポップに見えるブランド作りが面白いと思いました。
銀座ロフト店はおしゃれで今っぽい店舗デザインですよね。植物由来感はゼロで、むしろ都会感を感じました。インバウンドをはじめ、若者でにぎわっていたのが印象的です。値段は若干高いけど、銀座という立地を考えるとそこまで高くないのかも。
バーガーはかなり盛られたボリューミーな作りで、単なるファストフードというよりは“ごちそうバーガー”に近い感じ。お肉もチーズも植物由来で、罪悪感なくかぶりつけました!

私はオムライスを注文。プラントベースのたまごを初めて食べましたが、本物のたまごと変わらない味!思った以上にオムライスでびっくりしました。この味わいでヘルシーなら文句なしですね。


私が食べたたまご風サンドも驚くほどふわとろでおいしかったです。特にうれしかったのは、たまごサラダ部分は植物由来でコレステロールゼロなたまごフィリングが使われていること。アレルギーがなくても選びたくなる魅力がありますね。
他にもクロワッサンやスイーツを売っていて、どれも食欲をそそる見た目なのに植物由来という、まさにジャンクフード欲求とヘルシー欲求の2つのわがままをかなえてくれるブランドでした。
2つ目の事例は福田さんが教えてくれた「ovgo Baker(オブゴ ベイカー)」。


ovgoはクッキーやマフィンを展開しているブランドで、100%プラントベース、かつ、できるかぎりオーガニックや自然栽培、国産食材で作っているそうです。こう聞くとかなりストイックに感じるかもしれませんが、店舗や商品がとにかくかわいい。
小伝馬町の店舗は、レトロでどこかニューヨークの街角を思わせる空気感があります。商品の並べ方も海外らしくて、ディスプレーを眺めるだけで楽しい気分に!
正直サステナだから買っている人は少ないと思うのですが、そこがミソですよね。おいしそうだから、かわいいから、喜ばれそうだから買っている。しかもその先に、「実は環境に配慮している」や「実はヴィーガンで、オーガニックで」といったストーリーまでついている。


種類がたくさんあって、テーブルに並べるだけで気分が上がる!一番人気は「インポッシブルチョコレートチップクッキー」だそう。これのどこがプラントベース!?というくらいの食べ応えです。
まさにアメリカのクッキーみたいなザクザク食感で、ドライフルーツやチョコチップがたっぷり入っていて、でも甘すぎなくてすごくおいしい!このボリュームでクッキー1枚あたり400円程度。手が届きやすい価格なのもうれしいです。
私たちの中では「ウィークエンドシトロン」というレモンケーキが一番人気でしたね。個人的には「チョコレートクランベリーカルダモンクッキー」はカルダモンの香りがすごく効いていて好みでした。
「◯◯◯なのにサステナ」という逆張り発想

2foodsとovgoに共通するのは、一見サステナに見えないところ。そして、「ジャンクな刺激」や「映えるアメリカンクッキー」といった食指の動くブランド作りをしているところ。
サステナビリティってどうしても何かを我慢したり節制したりする方向になりがちですが、今回紹介した2つのブランドは窮屈な感じが全くなくて、むしろ人間の本能や欲求を肯定してくれる感じが新しかったです。「食欲を刺激するのにサステナ」や「映えるのにサステナ」という意外性やギャップが若い人を中心に受けているのだと感じました。
直感的に「食べてみたい!」「かわいい!」と心をつかんだ上で、しかも「ヘルシーでサステナなんです」と言われると、満足感が増しますよね。右脳的にも左脳的にもうれしいというか。
冒頭で、サステナ商品だからといって価格受容性が増すわけではない、という話がありましたが、“おいしくて、SNS映えして、ヘルシーで、しかもサステナ”なのであれば、値段がちょっと高くても許容できそうな気がします。

サステナビリティだけではモノを買う理由にはなりづらいということを前提にした上で、「◯◯◯なのにサステナ」の「◯◯◯」で顧客にとっての価値をしっかり作りつつ、さらにサステナビリティで価値を上乗せしていく。サステナビリティを「ブランド価値やストーリーを複層化していく上での武器」と捉えると、マーケティングに前向きに生かせるかもしれません。
<今回のまとめ>
・「◯◯◯なのにサステナ」という意外性やギャップで心をつかむ。
・サステナビリティは、ブランド価値やストーリーを複層化する上での武器になりうる。
・サステナビリティを前面に出すのではなく背景価値にすることで、「実はこれってサステナなんだよ」と人に語れるストーリーにもなる。
心踊るサステナ探しの旅はつづく
すっかりおなかいっぱいになった私たちですが、すでに2回目、3回目の記事も考案中。5人それぞれの個性や興味を生かしながら、心踊るサステナ収集をしていきたいと思います。それでは、最後に一言ずつコメントを。

■PRと環境の視点をかけあわせて、ずるいサステナを掘り起こしたいです!(澤井有香)
■オーストラリアで過ごした経験を生かして、日本でもサステナをもっと身近に!(坂本愛)
■母として主婦としての感覚を生かして、マーケティングSXをやわらかくひもときます。(桜井香織)
■サステナな買い物は、子どもへの罪悪感もないし教育にもなる。母・クリエイター・生活者としてウオッチしていきます!(森由里佳)
■世界を彩るイノベーティブなサステナをグローバルに探していきます。(福田恭子)