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高度化テレビラボ~進化するプランニング・効果測定システム~No.2

事業の中長期成長に、テレビCMが有効な理由とは?

2025/10/14

本連載では、広告主のKPIや課題を踏まえて、どのようにテレビCMを活用していけばよいかをお伝えします。

「効果がすぐには分かりにくいから、テレビCMは必要ないのでは?」「商品やサービスの認知や好意を向上させることが、本当に売り上げにつながるのか?」。これらは、テレビCMを含むメディアプランニングを考えるうえで、論点になることがあります。

前回記事の中で、広告主がテレビCMの活用を考えてみるべきケースの1つとして、「特に3年以上を見据えて商品・サービスの成長を望む場合」を挙げました。今回はこの点を深掘りし、中長期の事業成長戦略にテレビをどう活用するべきか、電通のメディアプランナー・山崎博史が、実例を交えてお伝えします。

<目次>
広告の事業貢献効果を正しく計測する

「効果が見える=効果がある」は、正しいのか?

トップファネル投資が、中長期成長を促す

「認知」や「好意」は、売り上げにつながるのか?

数年先の売り上げを作るために、トップファネルコミュニケーションは非常に重要

広告は投資である

 

広告の事業貢献効果を正しく計測する

私は普段のメディアプランニング業務において、「広告をいかに事業成果につなげるか」という点に重きを置き、プランニング・実行・検証のプロセスに当たっています。このプロセスを実現するには、広告の事業貢献効果を、いかに正しく計測するのかが重要になってきます。

特にテレビCMを活用するうえでは、この計測アプローチを誤ってしまうと、広告の投資先を誤ってしまい、本来であれば獲得できた顧客や売り上げを逃してしまうことになりかねません。

近年、広告に関する分析・プランニングツールは増加しており、高度な効果検証が可能な環境が整いつつあります。例えば、テレビとデジタル動画の接触データと、クライアントの売り上げデータを突合させて、それぞれの媒体がいかに事業成果や売り上げに貢献したかを可視化できるようになっています。一方で、事業成果の計測方法やアプローチをカテゴリー特性に合わせたものにしないと、思わぬ落とし穴に陥ることがあります。

「効果が見える=効果がある」は、正しいのか?

事業成果への貢献という観点で真っ先に思いつくのは、ボトムファネルを狙ったデジタル広告、テキストやバナー形式の広告でしょう。ボトムファネルを狙った広告は、まさにいま需要が顕在化している層に効率的にターゲティングすることが可能であり、効率的に売り上げやコンバージョンにつながる顧客を獲得できます。また、その効率がリアルタイムに運用画面などで確認できるのも特徴です。

一方で、テレビをはじめとする動画広告は、トップファネルを狙うコミュニケーションに用いられることが多く、効果が見えづらいと思われてしまうこともあります。これは、事業成果につながるまで時間がかかるうえ、データ連携がされていないことから、成果がそもそも可視化できないことが大きく関係しています。併せて、需要が顕在化していない層にも幅広くリーチするという特徴から、一見すると無駄打ちが多いと捉えられてしまいます。

ボトムファネルコミュニケーションは、トップファネルコミュニケーションに比べ効果が可視化しやすい傾向がありますが、だからといって「ボトムファネルを狙う方が事業成果につながる」と捉えてしまうのは危険です。

よく「ボトムファネルコミュニケーションの方がコンバージョンにつながるのであれば、予算をそちらに寄せた方がよいのでは?」というお声もいただきます。しかし、私は事業成果を求めるなら、テレビCMをはじめとしたトップファネルコミュニケーションも上手に活用すべきだと考えています。トップファネルコミュニケーションは中長期でじわじわと効果を発揮する性質を持っており、ボトムファネルコミュニケーションとは異なった形で事業成果につながっていくからです。

トップファネル投資が中長期成長を促す

下図は、ある事例において、最適なトップファネルとボトムファネル向け広告予算の比率を分析したものです。トップファネルとボトムファネルの予算の比率を変えると、1年後、3年後、5年後に、売り上げがどのように成長するのかを分析したものです。青く示したところは、それぞれの年の最高の売り上げとなる比率とその値です。

テレビCM
※実際の分析事例を基に加工。翌年の売り上げを100とした場合。

トップファネルへの配分を増やしていくほど、数年先の売り上げが伸びていく傾向が読み取れます。数年先の成長を見据えた場合は、トップファネルへの投資を増やす戦略が有効と言えるでしょう。

「ボトムファネルコミュニケーションは刈り取り」「トップファネルコミュニケーションはブランド」と言われることがあります。上の表では、1年後という短期でみるとボトルファネルが100%、80%(最高値)、60%という、高い比率のときに売り上げが最高になっています。このことからも、デジタル広告をはじめとしたボトムファネルを狙う広告は短期の売り上げに寄与し、テレビCMなどのトップファネルを狙う広告は長期の売り上げに寄与することが読み取れます。

「認知」や「好意」は、売り上げにつながるのか?

トップファネルは「認知」「好意」などの意識指標を高めると一般的に言われますが、それらの意識指標が高まると売り上げは上がるのでしょうか?

ここで、あるブランドに対する顧客を「無関心層」「興味層」「好意層」の3つに分けて、「興味」「好意」が年間金額を変化させるのかを、アンケート調査と購買データを突合して調べた事例を紹介します。

「興味」という意識指標を獲得することで年間購入金額は約1.8倍、「好意」まで至ると2.7倍まで購入金額が増えていることが確認できます。

テレビCM
※実際の分析事例を基に加工

意識指標が上がれば期待されるリターンが増えることは理解いただけたかと思いますが、意識指標と売り上げの関係を語るうえでもう1つ重要な視点があります。それは「意識指標は一度上がれば長期で残り続け、ストックし続ける」ということです。

下のグラフは、ある事例での意識指標の推移ですが、広告をやめている期間もゆっくりしか下降していません。意識指標は一度獲得すると数年単位で残り続けるのです。

テレビCM
※実際の分析事例を基に加工


 


数年先の売り上げを作るために、トップファネルコミュニケーションは非常に重要

ここで少し分かりやすくお伝えするために、なるべくシンプルな事例を取り上げます。日本の人口が1億人で、あるブランドの商品の価格は1000円だったとします。その中で、好意がない人は1カ月に平均0.1個買う、つまり月あたりの売り上げ期待値が100円。好意がある人は1カ月に0.3個買う、つまり月あたりの売り上げ期待値が300円だったとします。

このとき、トップファネルに10億円投下して広告を打ち、好意を0%から12%に上昇させることができるとしましょう。この12%は、5年(60カ月)かけて直線的に減少して0%になるとします。好意という意識指標の獲得によって、売り上げ期待値が広告を実施したタイミングから上昇し、60カ月かけて元の水準に収束するという現象が起きます。

テレビCM

広告を打った場合とそうでない場合の売り上げ期待値の差は、60カ月合計で720億円となります。つまり、10億円の広告投資に対して72倍のリターンがあるわけです。

一方で、最初の1カ月だけを取り上げて、同じような評価をしてみると、売り上げ期待値の上昇の効果は24億円分しかなく、2.4倍のリターンという捉え方になってしまいます。

また、獲得単価で置き換えてみると、今回のケースでは、商品の単価を1000円と設定したので、広告は、60カ月では7200万個の商品売り上げ個数増、1カ月では24万個の商品売り上げ個数増に貢献したことになります。これを獲得単価にしてみると、60か月では、10億円÷7200万個=約14円、最初の1カ月では、10億円÷24万個=約4167円と、捉え方に大きな差が出てきます。

商品カテゴリーによりますが、約4167円の獲得単価はボトムファネルの施策より効率が悪く、約14円の獲得単価はボトムファネルより効率良く見えることが多いかと思います。

これはあくまでモデルケースですし、実際にはこんなに単純なものではなく、電通に蓄積されている知見をもとに、各ブランド・カテゴリーの状況に合わせて分析を行っていく必要があります。しかし、評価する時間軸を変えると、トップファネルの効果・費用対効果は大きく変わってしまうのです。ボトムファネルは獲得単価をリアルタイムに確認でき、そちらの方が、効率が良い投資に見えてしまうと冒頭で申し上げましたが、投資の目的・特徴を踏まえて適切に分析を行い、2項対立ではなくうまく組み合わせてトップファネルとボトムファネルに広告を投下していくべきです。

この考えに基づき導かれた1つの結論が、記事冒頭で申し上げた「特に3年以上を見据えて商品・サービスの成長を望む場合、テレビCMの活用を考えてみるべき」というものです。

各カテゴリー・ブランドの状況に合わせてディテールは変わってきますが、大きくは「数年先の売り上げを作っていくにはトップファネルコミュニケーションは非常に重要である」ということは共通した方向性であると考えています。

広告は投資である

「広告で売り上げを作っていく」。まさに広告とは、予算を投下して売り上げというリターンを得ていく「投資」であると捉えることができます。また、トップファネルとボトムファネルをうまく組み合わせることも、分散投資して相乗効果を生み出していくという、投資の原則に類似しています。

これはトップファネル・ボトムファネルというレイヤーだけではなく、トップファネルの中のメディア投資先においても同様のことがいえます。認知・興味・好意などの意識指標を高め、将来の売り上げを作るトップファネルコミュニケーションにおいて、テレビCMだけ、OTTサービス(※)などのデジタル動画広告だけでは、効果を最大化できません。すべての手段をうまく組み合わせながら効果を最大化していく必要があります。

例えば、20~49歳に対して3回以上広告をリーチさせたい場合、以下のグラフのように、テレビCMだけ(左端)・OTTサービスだけ(右端)に投下するより、両者をうまく組み合わせて投下した方が、3回以上広告にリーチする人数が増えます。

※OTT:Over The Top。インターネットを利用することで、マルチデバイスでエンドユーザーにコンテンツを提供するサービス。動画配信サービスやコネクテッドTVに対応しているサービスも該当する。
 
テレビCM
※電通メディアシミュレーションツールより 2億円投下時の20~49歳の3回以上リーチ 最大を100とする 

メディアを目的に応じて効果的に組み合わせることが重要ですが、その中でもテレビは日本市場において、いまだに強いパワーを有しており、優先度の高いメディアです。「効率的にリーチを獲得できる」ということに加えて、「大画面という良い視聴環境下で広告接触が可能」「同時視聴性により世の中ごと化しやすい」といった特性を持っており、意識指標を高めて将来の売り上げを作ることに向いています。

本記事では、中長期の事業成長戦略にテレビをどう活用するべきなのかについて、認知や好意といった意識指標を形成するというテレビの特性に焦点を当てて解説しました。短期視点での売り上げも大切にしながら長期の事業成長にも貢献していく、このバランス感覚がメディア戦略において重要になると思います。

次回は、「メディアの典型的な視聴スタイル」が不在となった昨今、どのような点を踏まえてメディアプランニングを考えればよいか、「マーケットの流動性」にも目を向けながらお伝えします。

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