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アジア発★ アドフェスト2014リポート③ 若手映像クリエーターの競演「ファビュラス・フォー」

2014/03/24

    第17回「アジア太平洋広告祭」(アドフェスト2014)では、3日間の会期中16のセミナーやイベントが開催された。華やかにその先陣を切ったのが、若手映像クリエーターによるショートフィルムの競演セッション「ファビュラス・フォー」だ。

    同セッションは、未来のスター発掘を目的に2008年にスタート。事前に脚本を応募し、フィルムクラフト部門/ニューディレクター部門の審査員によって選出された“卓越した4人”だけが5分間のショートフィルムを制作し、アドフェストでの上映を許される。

    今年の課題は、同広告祭のテーマ「Co-Create the Future」。脚本とかけ離れた作品を制作し1人が失格になるというアクシデントの末、3人を選出。オーストラリアのAdam Graveley氏、日本からフリーのフィルムディレクター節田朋一郎氏と、電通クリエーティブXの畔柳恵輔氏がその座を勝ち取った。最優秀作品には、節田氏の「A Man」が選ばれた。


    節田朋一郎氏作 「A Man」

     節田朋一郎
     
      最優秀作品 「A Man」
       

    企画意図

    今回のテーマ「Co-Create the Future=一緒に未来を創る」を受け、自分なりに考えた結果、「未来を創る」とは「今を創る」と同じことだろうと思いました。「今」を創ればそれが「未来」になり「過去」になってゆく。この先を見ても、後ろを振り返っても、私たちはいつも「今」を生きていると。
    そこから今回のループしてゆくストーリーに入っていきました。

       

    ストーリー

    畑を耕す初老の男、彼がバス停の中学生の男の子に気付く。
    二人の間にバスがやって来る。
    中学生の男の子は同級生の女子と恋に落ちる。
    二人の時間が進んでゆく。
    高校生、大学生、結婚、妊娠、新しい家族・・・。
    すっかり初老となった男が畑を耕していると、ある中学生に気付く。
    かつて中学生だった自分がバス停にいる。
    そして二人の間にバスがやって来る。

       

    工夫した点

    今回はアドフェスト用として言葉のハンディをなくすためにせりふをなくし、最後の一言のせりふに集約できるよう考えました。「また思い出つくろう」のせりふには「思い出」という過去の言葉と「思い出つくろう」という未来への言葉の二つの意味が入っています。

       

    撮影時のエピソード

    とにかく天候に泣かされました。何十年ぶりかの大雪、小道具の傘を吹き飛ばす強風。スタッフ皆で夜な夜な雪かきをした成果が出ていると思います。風には勝てないと思います・・・。
    ***気に入っているシーン***
    今と過去と未来の自分が交錯するシーンは特に気を付けて撮影しました。ルール的には自分より過去の自分の姿は知っている、という設定だったので。その意味でバスの中のシーンは特に気に入っています。

       

    これまでの制作活動

    フリーランスの助監督業をしながら、個人的に執筆、自主映像制作をしています。
    YouTube「Tomoichiro Setsuda」チャンネル 

       

    今後について

    これから企画・演出のお仕事が頂ければ、どんどん挑戦していきたいと思っています。


    畔柳恵輔氏作 「DEADS」

     畔柳恵輔
     
     「DEADS
       

    企画意図

    今回のテーマである「Co-Create the Future」に際して、映画オタクとして前々から温めていたアイデア、生けるしかばねのゾンビ(LIVING DEAD)と生きる気力がない人(DEAD LIVING)が影響し合う、という奇妙だけどほっこりする話をつくろうと思いました。

       

    ストーリー

    元美容師がゾンビをきれいにするという話。それ以上のことは映像でお楽しみください。

       

    工夫した点

    もともと映画志向なので、映画好きとしてゾンビというエンターテインメントをぜひ描いてみたかった。脚本で選考される賞なので、まず、読み物として面白いこと、コンセプトと見せ場が文字だけで伝わるか、を意識して脚本を日本語で書き、英訳にも細心の注意を払いました。

       

    撮影時のエピソード

    1月中旬~2月中旬、日本が一番寒い時期の撮影で、こともあろうに撮影2日前に46年ぶりの積雪。「タイの人たちにはこの苦労が分かるのかね…」なんて愚痴りながら、スタッフ全員で乗り切りました。

    完成した後もやはり一番難しかった、まだやれた、と思う点は「ゾンビを通じて、あくまで人間を描く話になっているか」というところです。ゾンビはいうまでもなくキャッチーなモチーフなので、「ゾンビが面白かった」だけで終わらないような物語に仕上げなくてはいけなかった。ホラーではないので、ゾンビをチープにするというのも選択肢としてなかったわけではありませんが…。

    ほぼ初めから僕の中ではリアルなゾンビにしようと決めていました。国際的に「伝わる」ゾンビがあってこそ、それと対峙する人間の滑稽さもちゃんと伝えられる、と思いました。

    その点からいっても、自分が一番気に入っているのは、後半、ベランダでゾンビに襲い掛かられた主人公が、家の中に逃げ込んでくるカット。芝居だけでない役者さんのパーソナリティーがにじみ出て、最も「人間のやるせなさ」が見える場面だなと思います。

       

    これまでの制作活動

    中学で初めて映画を作ってから、高校卒業まで映画少年としてたくさんの映像を作り、武蔵野美術大学の映像学科へ。その時点から漠然と「CMをつくる仕事から、将来1本でも映画を作りたい」という思いがありました。

    2008年に電通テック(現電通クリエーティブX)に入社し、アシスタントディレクターやビデオコンテ作業、メーキング作業を経て、ここ2年ちょっとでウェブムービーを中心に企画から演出を任せてもらえるようになったところです。まだまだ15秒30秒のCMの仕事は少ないです。

    13年、いじめ防止をテーマにした60秒CM「卒業生のことば」編でJAC リマーカブル・ディレクター・オブ・ザ・イヤーの最高賞を頂き、社内外に「企画があってこその演出」を実証することができた直後のファビュラス・フォー選出で、この機会を本当にありがたく思っています。

    2013 JAC リマーカブル・ディレクター・オブ・ザ・イヤー「卒業生のことば」編

       

    今後について

    まだまだ「CMディレクター」としての経験値は浅いですが、先にも述べたように、しっかりストーリーを考えられる演出家として、CMだけにとどまらず、骨太に「伝わる」映像コンテンツを生み出していけたら幸せです。