10年の変遷から見えてきた、教育とビジネスの共通点
教育×クリエイティブで、日本のオリジナルな教育を面白くするために。
コピーライター・アートディレクター・クリエイティブディレクター・マーケターなどが集まって、電通社内に設立した「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」。設立10周年を記念して、メンバーそれぞれが教育に関わってきた中での発見や、感じた変化をリレーコラム形式でお届けします。

2015年秋にアクティブラーニングこんなのどうだろう研究所ができてから早10年あまり。私が研究所に参画した2016年から2025年までの10年間で、「教育」を取り巻く風景もずいぶん様変わりしてきました。
あらためて教育界と研究所のこれまでの10年間を振り返りながら、これからに向けてのヒントを探りたいと思います。
2016-2025 キーワードとともに振り返る、教育界と研究所の10年間
2016年~2020年、2021年~2025年、と大きく2つに分け、各年の教育関連のキーワードをピックアップしながら、研究所の取り組みとともに振り返っていきます。
【2016年〜2020年:教育改革の始動とデジタル化の予兆】
- 2016年:「プログラミング教育」「アクティブラーニング」
次期学習指導要領を見据え、小学校でのプログラミング教育必修化が議論の的になりました。江崎グリコが、お菓子(ポッキーなど)を使ってプログラミングの基礎を学べる無料アプリ「グリコード(GLICODE®)」を初めてリリースしたのもこのころです。また、「アクティブラーニング(主体的・対話的で深い学び)」が教育界の共通言語になったのも同じ時期でした。
しかし、「アクティブラーニング」という言葉は2016年をピークに検索キーワードとしては減少を続けており、言葉としては衰退気味です。研究所ができたころ、所長の倉成英俊が研究所のウェブサイトで「『アクティブラーニング』という言葉自体、変えていくべきでは」と言及していたのですが、その予言(?)通りとなりました。
- 2017年:「資質・能力の3つの柱」
新学習指導要領が告示。「(教師が)何を教えるか」だけでなく「(生徒が)何ができるようになるか」に焦点が移り、「知識および技能」「思考力、判断力、表現力など」「学びに向かう力、人間性など」の3つの柱が示されました。これに先駆けて、研究所では前年の2016年から、大阪の公立高校をはじめさまざまな学校でオリジナルの共同授業、実践授業を行いました。
- 2018年:「働き方改革」「カリキュラムマネジメント」
教員の長時間労働が社会問題化し、「学校における働き方改革」の議論が加速。学校全体で教育活動を最適化する「カリキュラムマネジメント」も重視されました。このころ、民間企業出身の校長先生や教育長、また、先進的な学校改革に取り組む先生方が一般のメディアにも登場するようになりました。
前年の2017年には、商社出身の主人公が私立高校の校長に就任して学校を立て直すというドラマなども放映されています。(日本テレビ「先に生まれただけの僕」)
研究所では、“Edvation × Summit”や“未来の先生展”といった教育界のイベントに研究所メンバーが登壇するなど、各学校の先生たちとの関係づくりも進みました。
- 2019年:「GIGAスクール構想」
文部科学省が、生徒1人1台端末と高速通信網の整備を目指す「GIGAスクール構想」を打ち出し、教育環境が大きく変わり始めようとした年です。EDIXという日本最大の教育分野の展示会イベントが、にわかにIT見本市のように変わったのを記憶しています。このころ研究所では、学校だけでなく、企業の社員研修などの取り組みも増えていきました。
- 2020年:「オンライン学習」「小学校新指導要領」
コロナ禍による全国一斉休校でオンラインでの授業実施が急務になり、「GIGAスクール構想」が急速に進められた年です。同時に、小学校で新学習指導要領が全面実施され、英語の教科化やプログラミング教育が始まりました。このころ研究所では、山口県教育委員会と協同で「ICTを活用した新たな学び」事業を始めました。(2020年~2022年の3年間)
【2021年〜2026年:ICTの定着と「個別最適」への深化】
- 2021年:「個別最適な学びと協働的な学び」
中央教育審議会の答申において、子どもの特性や興味関心に応じて子ども自身が学習を進めていく「個別最適な学び」(指導の個別化・学習の個性化)と、多様な他者との交流を通じて資質や能力を育成する「協働的な学び」、これらを一体的に充実させていくことが掲げられました。
- 2022年:「探究(学習)」
高校では、「総合的な探究の時間」やプログラミングを含む「情報I」が必修化。大学入試を見据えた学びの変容が話題となりました。特に「探究」は、課題解決型学習と結び付けて語られることが非常に増えました。一方で課題解決型学習は「問いを立てる力(=課題を設定する力)」が重要とされる中、生徒の主体性を引き出す難しさや、教師の指導計画の立てにくさ、評価の難しさなどが浮き彫りになりました。2026年現在も、「探究疲れ」といった言葉があがっています。
- 2023年:生成AI
生成AIの急速な普及を受け教育現場でのAI利活用に関するガイドラインが策定され、「AIを敵視するのではなく、どう使いこなすか(AIリテラシー)」が議論の主軸になりました。研究所でも、昭和女子大学現代教育研究所との共同プロジェクトである教員向け研修事業(「先生による、先生のための先回り研修会」通称「先3」)において、研究所メンバーが「生成AIを教育現場でどう活用していけばいいか」の講義を行ったりしました。
- 2024年:「デジタル教科書」「不登校対策」
小学校高学年と中学校では「英語」のデジタル教科書の本格導入が開始。また、不登校30万人時代への本格対応として、学校以外の学び場(フリースクール等)への支援も強化されるなど、学校中心主義からの脱却が政策課題になりました。
- 2025年(~現在):「教育DXの定着」「ウェルビーイング」
ICTは学びの前提となり、AIを活用した個別最適な学習ドリルや校務効率化が進む一方、子ども・教員双方のウェルビーイングを重視する傾向が生まれてきています。教育の目的そのものとなる指標を、「成績」から「ウェルビーイング」や「多様性の尊重」に見直す段階にきている、といえます。
10年間を振り返って見えてきたこと
こうして振り返ってみると、教育界でずっと言われてきたキーワードは、すべてビジネス界でも同じように言われてきているキーワードだということがわかります。あまりに共通点が多いので、整理してみました。

広告づくりの知見を生かした「クリエイティブ×教育」を主に公教育に役立てることを目指してできた研究所ですが、今や教育界の知見をビジネスに応用する時代ではないかと感じています。
以前、研究所の所長に「1クラス30~40人の生徒を見ている学校の先生はマネジメントのプロだ」と言われたのが強く記憶に残っているのですが、まさにビジネスへのヒントが教育界には詰まっていると思う、研究所11年目の昨今です。
アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所ウェブサイト
https://www.konnano-dodaro.jp/
関連する連載はこちら:アクティブラーニングこんなのどうだろうレポート
著者

野田 千尋
株式会社電通
データテクノロジーセンター
マーケティング・コンサルタント
2016年4月よりアクティブラーニングこんなのどうだろう研究所に参画。大学時代は教育行政学を専攻。卒業論文のテーマは「社会人教育とリカレント教育」。さまざまな業種のクライアントのマーケティングに携わりながら、研究所ではリサーチを担当している。 2026年1月1日より株式会社電通クロスブレイン出向中。


