『GIVE&TAKE』―「与える人」はなぜ成功するのか?
2014/04/11
次のコミュニケーションを考える一冊。
今回は、アダム・グラント著の『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』(三笠書房)を取り上げます。
広告の本でもマーケティングの本でもない本書が、なぜラボで話題になったのか? そもそものきっかけは、ラボの読書会で『ツイッターノミクス』(タラ・ハント著、文藝春秋)という本を読んだことにあります。ソーシャルメディア時代の人間関係について書かれたこの本では、「ウッフィー」というキーワードが紹介されるのですが、それがメンバーの記憶に強く残っていました。
「ウッフィー」とは、SF小説に出てくる仮想通貨の名前。経済的な「お金」に代わって未来で流通している貨幣なのですが、他人に対して善行を行うたびに「信用」や「評判」が蓄積され、その多寡によってすべての決済が行われるというもの。つまり、評判が高い人ほどリッチであり、低い人ほどプアというわけです。
ソーシャルメディア時代には、オープンなネットワークの発達によって、個人や企業の「評判」が短期間で流通するようになる。『ツイッターノミクス』では、貨幣経済は残るものの、一方で「評価経済」とも呼びうる「評判」を介したつながりが、これから重要になると予測しています。
そこで今回の『GIVE & TAKE』ですが、そうしたソーシャルメディア時代の特質をベースに、人に惜しみなく与える人(=ギバー)が、長期的に見た場合にいちばん成功するということを、豊富な事例をもって実証的に明らかにしようとしています。「相手のことを考え、真っ先に相手に与える人」(=ギバー)は、「つねに自分の利益を優先させる人」(=テイカー)や「自分と他人の損得バランスを考える人」(=マッチャー)より、幸せな成功者になれるというのです。
これまでの人間関係、特にビジネス社会では、ギブ&テイクが常識的な態度であり、本書の分類でいえば「マッチャー」が主流になっていて、与えてばかりいる「ギバー」は損をするのではないかと思われがちですが、著者はそこに3つの時代の変化があると言います。
1つ目は、先ほども触れましたが、インターネットやSNSが普及し、良い評判が形づくられ流通するまでの時間が短くなったこと。2つ目は、ビジネスにおいて、個人の作業よりチームの作業が多くなり、「ギバー」がその真価を発揮する場面が増えたこと。そして3つ目は、サービス業が主流になり(現在ではアメリカ人の80%以上)、会社や自分の利益より、顧客の利益を一番に考えることが、成功のカギになってきたこと。
こうした時代を背景に、他者志向の「ギバー」が同僚や顧客の評判を獲得し、結果として成功するというわけです。
ただ、こうした「評判形成」の話に加えて、より本質的なのは、「ギバー」は、ビジネスを「ゼロサムゲーム」と考えず、全体のパイを増やそうとするので成功するという話です。
「ゼロサムゲーム」とは、一方が勝つと、もう一方が必ず負ける(利益の総和がゼロになる)ゲームのことですが、ビジネスは必ずしもゼロサムゲームではないことを、著者はいくつかの具体例とともに説明していきます。
たとえば、限られた市場ではパイの奪い合いになるが、その市場に新しい価値を持ち込み市場全体のパイを拡大すれば、すべての人が今より多くの恩恵を受けられること。あるいは、チームの作業では、個人個人が競争原理で動くより、おたがいに助け合い、伸ばし合うことで、チーム全体のパフォーマンスが格段に上がること…etc.
つまり、従来のような、どちらかが勝てばどちらかが負けるという世界観ではなく、ともに利益を増やせるやり方を模索するのが「ギバー」の世界観です。
そして「ギバー」は、関わる人すべてに利益をもたらす重要な場として、ネットワークやコミュニティーをとらえます。チームの作業が増え、仕事の8割がサービス業である現在、同僚や顧客とどれだけ有効なネットワークを築き、そこで全員のメリットになるような新しい価値を生み出せるかが勝負になる、と著者は述べています。
「ネットワークとは自分のためにつくるものではなく、すべての人のために価値を生み出す道具であるべきだ」
上記は、本書に登場する究極の「ギバー」、リフキンという人物の言葉ですが、自分のメリットだけを求めてつながる、いわゆる「人脈づくり」とは違う、ソーシャルメディアの本質的な価値を言い当てています。
【電通モダンコミュニケーションラボ】