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Dentsu Design TalkNo.26

Social Value Creationへの試み

2014/05/16

Dentsu Design Talk 第2回(2005年9月1日実施)は、共に電通OBであり、Think The Earthプロジェクト(現・一般社団法人Think the Earth)のプロデュースなどビジネスを通じて社会を変えていく活動に取り組んでいる(株)スペースポートの上田壮一氏と、クリエーティブ・ディレクターで(株)リワインド代表(実施当時)の友原琢也氏をお迎えし、「Social Value Creationへの試み」をテーマにトークセションを繰り広げた。

上田壮一氏
上田 壮一氏
一般社団法人 Think the Earth理事
プロデューサー
友原琢也氏
友原 琢也氏
株式会社 バッテリー 代表
クリエーティブ・ディレクター

自分たちでゼロからつくるThink The Earthプロジェクト

上田氏は1996年に電通を退社後、フリーランスで映像のドキュメンタリーを制作する仕事をしながら、プランナー、ディレクターとしても活動。95年の阪神・淡路大震災や国際紛争地でのNPO活動の取材などから、「自分をなげうってでもその場に新しい種をまいていくような仕事をしている人に心を打たれて、社会性のあることが世の中でもっと創造性をもってクローズアップされるようなことができないか」と考え、2000年に社会・環境テーマだけを扱う企画制作会社スペースポートを設立。さらに、クライアントのオリエンテーションに対してクリエーションをしていく仕事と別に、自分たちでゼロからつくる「オリジナルプロジェクト」として、2001年にThink The Earthプロジェクトを立ち上げ、NPOを設立する。

 

便利さではなくメッセージをもったプロダクツ「地球時計」の誕生

上田氏がNPOを立ち上げるきっかけになった最初のプロジェクトは、半球型のドームの中で小さな地球がゆっくりと回り、地球の時間が体感できる腕時計「地球時計(アース・ウォッチ)」の製品化。この企画の元には、上田氏が学生だった1988年に出版された写真集『地球/母なる星』に感動して、「宇宙から自分たちを振り返る視点が大事と思った」ことや、「自然のリズムと大きく切り離されてしまった現在の人間の時間に対する感性を地球時間に戻せないか考えていた」上田氏の思いがあった。NTTの研究所の技術を活用する企画でプロトタイプを作ったことをきっかけに、セイコーインスツルと2年をかけて事業化する。「その時に、この企画に共感したみんなの頭にあったのは、この時計を売ってお金もうけをしようということではありませんでした。世の中に便利さをつくる商品開発提案ではなくて、メッセージを持ったプロダクツを出してみようとしたプロジェクトだったので、売り上げの一部が地球に還元される仕組みをつくったり、インターネットを使って全世界に販売したりと、エコロジー(環境保全)とエコノミー(経済活動)が両立するようないろんなチャレンジを考えました」と上田氏は振り返る。地球時計は2001年3月に発売されて大きな話題となり、その後のThink The Earthプロジェクトを進める上での足がかりとなっていった。

 

ソーシャル・バリューを生み出すさまざまなプロジェクト

その他にも、20世紀の100年間に人類が地球環境と自分自身に対して及ぼした数々の愚行を100点の写真を選んで編んだ写真集『百年の愚行』(2002年NY-ADC銀賞)の出版や、写真家のブルース・オズボーン氏が提唱する7月の第4日曜日「親子の日」を応援するプロジェクト、電通扱いでNTTデータが協賛した事例として、カナダにある野生のオルカ研究所からの映像と音声を世界中にライブ中継する「オルカ・ライブ」、その姉妹プロジェクトで沖永良部島のウミガメのライブ中継を現地の高校生が主役になって行う教育プロジェクトなど、社会に働きかけソーシャル・バリューを生み出すさまざまなプロジェクトを紹介。続いて、これらのプロジェクト企画を実際にどのようにして実現していくのか、またNPOの活動や企業の社会的責任(CSR)に対して広告会社がどう関わっていけるのかという問題について、友原氏とトークセッションに入っていった。

 

半完成品の企画を持ち込んで企業と一緒に考える

友原氏は、「僕らも社会貢献のアイデアを思いつくことはありますが、実現まで持っていくことがなかなかたいへんです。プロジェクトを実現していく秘訣は何ですか?」と問いかけた。上田氏は、「何社も回って面白がってくれる人がやっと見つかって、さらにその人が社内を説得できないと駄目で、次に予算が下りてスケジュールを立てるという、乗り越えなきゃいけない現実はいっぱいあって、最終的に実現するのは簡単ではありません」と答えた。「ただ、1回ある企業に持っていってハッとしたことなんですが、『完成された企画を持ってこないでくれ』と言われたんです。それでは企業側からしたら勝手におやりなさいという返事しかできないと。そうじゃなくて、『もう少し半完成品のものを持ってきてほしい。そうすると自分たちも何ができるかを考える余地がある』と。それは確かにコツかもしれないですね」と秘訣を話した。

 

個人の思いを伝えるために広告会社ができること

友原氏は自身の経験から、「電通はパワーがあって組織力も強いけれど、ソーシャル的な活動には、個人の思いのようなもの、その強さのほうが重要な気がする」と述べる。それを受けて上田氏も、「会社対会社の関係よりも、その人がすごく信用してくれて僕らのことを面白がってくれると、お互いにいろんなものを託してみようという気持ちになる。関係性が熟してくると実現性も高まってくると思います」と話した。一方で、友原氏は電通時代に社会貢献部を兼務した実感から、「Think The Earthはすごくクリエーティブだし、デザインも言葉のセンスも優れているけど、日本のほとんどのNPOは、熱い思いにはあふれているけど、うまく伝えられずメディアを使うお金もない。広告会社の仕事はコミュニケーションの促進だから、社会を良くしていこうと純粋に思っているNPOの「伝え方」をお手伝いしたり、逆に社会貢献をしたいと思っている企業がどこと組んで何をやればいいかをコーディネートすることができる」と広告会社のCSRについて述べた。

 

ドキュメンタリーの言葉が伝える本気の思い

上田氏は、広告会社の仕事で社会貢献の広告やプロジェクトの提案をした経験で感じるのは、「一緒に担当してくれている人たちが、プロジェクトが終わって解散したら、たぶんこのことを忘れちゃうんだろうなという感じがした」ことだという。「たぶん問題は本気かどうかということ。僕が電通にいた時は先輩から『おまえはクライアントよりもたくさん遊べ』と言われて、つまりクライアントが知らないことをいっぱい知っているのが電通の強みだったと思いますが、社会貢献・社会的責任に関しては広告会社よりクライアントの方が圧倒的に勉強している」と述べ、「この分野に関しては、広告の言葉じゃなくてドキュメンタリーの言葉も大切」と指摘した。その上で「広告会社の人に頑張ってほしいのは、本気でどういう広告を作ったら良い影響を社会に与えるか真剣に考えて、それぞれが事例となって積み重なり、日本の社会が良くなっていくこと」と広告界への期待を述べた。

このトークセッションから8年、東日本大震災を経て企業の社会貢献も成熟し、それぞれの企業ならではの特徴ある事例が数多く生まれつつある。

(了)

(企画プロデュース:電通人事局・金原亜紀    記事編集:菅付事務所 構成協力:小林英治)