シンブン!今だからできること。今しかできないこと。No.11
新聞販売店、異業種とのコラボで
新たなビジネス・プラットフォームへ
2014/06/13
先日、駒澤大学の講義で、新聞メディアの紹介をする機会をいただいた。ゴールデンウイークの最中ということで、出席者もまばらかと思いきや、学生には人気のコマらしく、200人ほどの出席者で盛況であった。とはいえ想像に難くないが、現役の大学生が実際に新聞を読む機会はほとんどないだろう(実際その場で挙手してもらったら、そのクラスの閲読者は2割程度だった。平均的な学生よりは多いと思う)。よって、「新聞メディア」という講義内容にどこまで興味を持っていただいたか、正直なところ不安があった。
この講義の出席者にはレポートが課されていて、私のところにも170件ほどのレポートがフィードバックされた。その中で、私にとってちょっと興味深かったのが、新聞販売店についてコメントされているものを散見したことである。実は講義の中では、主に新聞社のビジネスモデルというテーマで話をしたため、販売店については多くは触れなかったのだが、(特に春先の)大学生にとって身近なのは、新聞社よりも、頻繁に勧誘に来る新聞販売店ということらしい。
かくいうわが家も某新聞を購読しているのだが、5月と11月が契約更新になっているようで、3月ごろから頻繁に大学生くらいの販売店員が契約更新の依頼に来ていた。先日妻がカタログギフトで景品の申込みをしていたので、きっと契約延長したのだろう。今時の販売店員では、若い人は非常に珍しいようだ。私の学生のころは、新聞配達はポピュラーなアルバイトで、大学の同級生にも住み込みで働いている友人が何人もいた。朝が早いのが特徴で、飲み会に行っても必ず1次会(21時半くらい)で帰るので、よく覚えている。最近では、新聞販売店のイメージ刷新のため、女性の勧誘員を確保しようという動きもあるようだ。いかついおじさんよりも若い女性に勧誘された方が、契約するこちら側としても、確かにちょっと得した気分になる。妻にとっては、若い大学生の方がよいらしいが。
私の家族を含め一般の生活者にとってみると、新聞を発行する新聞社よりも、新聞を配達する新聞販売店の方がより身近な存在なのかもしれない。妻いわく「インターホン越しに顔を見るだけでどこの新聞販売店の人か分かる」とのこと。同じような経験を持っている方も多いのではと思う。生活者との接点ということでは、直接の接点を持っているのは新聞社ではなく新聞販売店である。コンタクトポイントとかCRMとか難しい言葉を使うまでもなく、新聞サービスのイメージを良くするのも悪くするのも地域の販売店なのかもしれない。その販売店も、従来は新聞を届けるだけの存在だったのが、生活者との関係づくりのために、さまざまな新しいサービスに取り組んでいるそうだ。地域の住民側から見ると、新聞という枠組みを超えた販売店とのお付き合いが始まっている。
その新たなサービスの一つが、地域に貢献するコミュニティーサービスの拠点としての役割だ。高齢者の見守りサービスなどはその代表例で、新聞配達の際に独り暮らしのお年寄りの体調を気遣うことがお年寄りの健康維持に役立つそうだ。また万が一の事故があった場合にも、前日の朝刊がポストに残っていたことで早期発見につながったなど大きな効果を挙げている。独居老人の多い田舎の方では特に効果的で、警備会社とタイアップする事例も出ている。他にも、店舗を開放して、子ども向けに「寺子屋」や読み聞かせ活動を実践したり、親子向けのクリスマス会や七夕の飾り付け会を開いたりしている店舗もある。私が子どものころには「公民館」がその役割を果たしていたように記憶しているが、販売店が街のコミュニティーセンターとして同じような機能を果たしている。このように安心安全、子育て問題から街づくりの課題に至るまで、販売店が核となって地域課題を解決するようなコミュニティーを創出しているといえるだろう。
新たなサービスの二つ目は、実際に家庭を訪問して配達(販売)するという、デリバリーサービスの拠点としての役割だ。新聞を毎日配達しているので、地元の道路事情などは当然よく理解している。新聞配達以外の時間を使って他のモノをデリバリーする取り組みは珍しくなくなっている。例えば地元書店と連携することで、予約注文した本の宅配サービスを行う。また地元のスーパーと連携することで、食料品や日用品を届ける買い物代行サービスを行っている販売店もある。このサービスは、外出が難しい高齢者や育児中の母親の足代わりとして非常に重宝されているそうだ。その他にも、実際にお宅を訪問して、対面でサンプリングを実施している販売店や、折り込みチラシを活用することで健康器具や舞台(コンサート)チケットなどを実際に販売するお店なども出てきている。既にクリーニング店の代行とかお米の販売などをしている販売店もあるので、将来的にはピザ店とか弁当デリバリーなどを併設する、あるいは宅配便センターを併設する店舗が一般的になるかもしれない(ただし、朝夕刊配達時はデリバリー不可となるかもしれないが)。同じ配達員が、朝は新聞配達し、昼は宅配便を届け、夕方はピザを届けるなんてことが起こりうるのだろうか?
こうした取り組みは、販売店による読者サービスの側面もあるのだが、実は販売店を活用した新しいビジネススキームとしても注目され始めている。新聞販売店には、配達、集荷、集金、地域拠点、顧客情報、地域情報など、今現在でもさまざまな機能が包含されている。店舗は、既に全国に2万弱あり、全国の郵便局の数が約2万4,000といわれているので、ほぼ同規模のデリバリーネットワークの拠点、地域コミュニティーの拠点が存在していることになる。地域の生活者を深く知り尽くした販売店ネットワークは、顧客の接点拡大に取り組んでいる企業にとって、エリアマーケティングの有益なプラットフォームになる可能性を秘めている。新聞販売店にとっても、現在は新聞配達と折り込みチラシが収入の2本柱なのだが、3本目の収入の柱が全くの異業種とのコラボレーションによって起こるかもしれないのだ。
デジタル領域で急速にネットワーク化が進むからこそ、それに対応したリアルな領域でのネットワーク化も、ますます重要性を増していくのだと思われる。私は、新聞が好きだからこそ、その基盤となっている新聞販売店を応援したいと思う。そして、そこで働く新聞販売員の人に、心からエールを送りたいと思う。