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カンヌレポート2014 メディアの人間ですがカンヌに来ています。No.2

カンヌで見たテクノロジーとメディアに用意された空白域と可能性

2014/06/24

カンヌライオンズ2014も全日程を終えました。まる1週間、世界のクリエーティビティに触れ、語り、(食べ、飲み)思い返すとあっという間の日々でした。

前回の記事でメディア畑の広告人がカンヌに来て、何の役に立つのか?というテーマを掲げましたが、全日程を経た今それをレポートしたいと思います(メディアの人間が初めてカンヌを体験しての内容です。賞についての評価などはありませんので、ご容赦ください)。

まず、どんなことがこの場で行われていたのかを簡単にまとめますと、大きく分けて「賞の選考」「セミナー」が主なプログラムです(あと「パーティー」というのも参加者のネットワークづくりの点で大事な催しで、さまざまなところで行われています)。

選考は、全17部門で各国のトップクリエーターからなる審査員が、数千にも及ぶ(多い部門で5000強!)応募作品を数日間かけて審査し、最終的な賞を決め、発表していくものです。部門ごとに日を追ってショートリスト(入選、約10分の1)に絞り込まれ、会場で作品が掲示されます。応募している人は、毎朝出るショートリストに自分の作品が残っているかで悲喜こもごもが生まれる第1段階です。
ショートリストの発表の後、夜に行われる授賞式でブロンズ、シルバー、ゴールド、そしてグランプリが発表され、表彰されます。ゴールド以上はステージ上での作品紹介と贈賞(贈“ライオン”)が行われ、観客からの拍手を浴びる栄誉が贈られます。

ショートリストの作品内容は部門ごとに会場で一覧できるようになっていて、数千の応募の中から世界トップの審査員がふるいにかけた優れたアイデアをざざっとみることができます。映像での応募が多く、1本2分程度の映像を見ているだけでもあっという間に時間が過ぎていきます。

設置されているタブレット端末でショートリスト作品映像を見られます
設置されているタブレット端末でショートリスト作品映像を見られます

セミナーは映画祭でも使われるシアターで、広告会社、クライアント企業、メディア各社が最新の事例や未来の広告についてなど盛りだくさんの内容をプレゼンテーションをする場です。人気のセミナーは会場に人が入り切らずサテライト会場でのライブ視聴なんていうこともあるほど、受講する人も熱心に参加します。

階段のさらに先までセミナーに並ぶ長蛇の列
階段のさらに先までセミナーに並ぶ長蛇の列

さてそんなカンヌライオンズ(この呼び方にも慣れました)の中でメディアの人間が見て思ったことをお伝えします。

ソーシャルグッドに囲まれて

全体を通じて「ソーシャルグッド」なものが、これでもかというくらい多かったと感じました。貧困、犯罪、差別など社会の問題を解決するためのアイデアと施策のことです。新興国だけでなく先進国からもソーシャルグッドな作品がありました。
しかしその多くの内容が、国やNGOがクライアントとなっていて、一般企業のサービスや製品に落とし込まれているものは少なかったと感じます。社会的な意義を問うことは世界中の共通テーマだと痛感しましたが、一方でそれを実行することと企業のメッセージを伝えることを両立するのは容易ではないということかもしれません。

多くのソーシャルグッドの中にありながら印象に残ったもので、メディアの人間にとって特筆したい内容を、スペースの関係上一部ですが、以下でご紹介します。

アナログテクノロジーへの挑戦

チタニウムで見事にグランプリを受賞した「Sound Of Honda / Ayrton Senna 1989」に代表されるように、テクノロジーによって見たことのない表現が実現されていることも、全体を通して実感するところでした。普段の仕事の中でも、「テクノロジーを使った新しい企画」のような難テーマに当たることもあります。そのような文脈ではテクノロジーとは概ね、「デジタルテクノロジー」を指すことが多いように思います。デジタルテクノロジーなんて、そんなに詳しくないし…とそのニーズは理解しつつもなかなか踏み込み難い領域でもあります。

しかしカンヌで出合ったメディア×テクノロジーのアイデアには、最新のデジタル技術ばかりではない意外にアナログなものもありました。

たとえばショートリストの一例では・・・
・蚊除け剤をインクに混ぜた新聞でデング熱予防の啓発
・新聞にビニールコーティングをして、多雨の地域で突然の雨よけにもなる傘新聞
・雑誌に電源と小さな回路を埋めて、丸めるとサーチライトに
・雑誌にパネルを埋め込んでスマホのカラーバリエーションを実物大で表示
のような、伝統的なメディアの中で完結できるちょっとしたアイデアを、本当にやってしまったというものが評価されていました。案外、シンプルなインサイトに基づくアイデアを実現させるための苦労を超えたところに、こうした「その手があったか…!」という企画がまだ広がっているのかもしれません。

メディアの人×テクノロジーの人

複数の部門で賞をとっていたのが、「最新のデジタル」×「伝統的なメディア」というものでした。
モバイル部門のグランプリ「Nivea Sunkids Protection Ad」は、小さな子どもを遊ばせる際に、遠く離れてしまわないようビーコン(発信器)を使ってアラートするアプリケーションを配布したブラジルの事例です。
この企画では、子どもにつけるビーコンを、ママ向け雑誌に貼りつけて、ターゲットの読者である母親(商品のターゲットと同じ)に届けるという手法をとっていました。雑誌からビーコンを切り取って子どもの腕にまき、アプリを起動すれば、子どもがある一定の距離だけ離れるとアラートが鳴るというものです。

この作品はイノベーションライオンでショートリストに入っていたのでプレゼンテーションを聴く機会がありました。企画を担当した人は雑誌に近いところで仕事をしており、すぐ隣にテクノロジーに強い人を置いて企画をしてきたそうです。これまでにも雑誌にGPSをつける企画などを考えたそうですが、機材が大き過ぎて実現できず、iBeaconの登場によってこの企画が実施できたとのこと。
このようにメディアの事情をよく知る人が、テクノロジーに詳しい人とつながっていくことで新しい企画が形になるのだと思いました。テクノロジー単体では人の心を動かすものではないため、課題やインサイトがベースとなって、形にしていく際にテクノロジーの役割があるという順番も、同時に感じるものです。

ソーシャルグッドに比べればニッチではありますが、小さな子どもを持つ母親の困りごとを促え、それを解決するアプリケーションを、母親層に確実に届くメディアに乗せて実現したことがシンプルながら上手な手法だと思いました。それによって子どもの肌を守るという商品の存在と姿勢が、母親にきちんと伝わる構図になっています。いくつかのセミナーでも語られていましたが、SNSなど世界をつなぐインフラが整っている今、スケールにとらわれず生活者のインサイトに応えるアウトプットが世界を変えていく一つの方法となる、という指摘も勇気付けられるものでした。

どこの階層の課題に向き合っていくか

ソーシャルグッドから母親の悩みまで、さまざまな課題に対するアイデアに触れる中で、課題に階層があることが見えてきます。広い方から「社会」「生活者」「業界」です。課題の重要さということではなく、このような国際的な舞台で見たときに共感を得やすい土台の広さという意味です。その点で、ソーシャルなテーマが共感を得やすいのは人種も性別も超える普遍性が高いためだと思います。

コミュニケーションの仕事をしていく中では「企業・商品」「生活者」とその間に存在する「メディア」の大きく3つに向き合っていくことになります。私のようにメディアの側にいる人は、メディアと向き合い企画をし、その業界のルールの中で協業し、また交渉しながらアウトプットまでやり切ることが役割である一方で、生活者や社会の課題に対しての向き合いが相対的に弱くなることがあります。そこでさまざまな階層の課題まで捉えた解決策ができれば、業界ネタ(業界初、など)にとどまらない影響力を持ち得るのではないかというのが、(日頃の自分の仕事への反省を込めて)今回の視察で感じたことです。かなり漠としていますが、多くの作品を見て、結局この事例は何を解決したのか?と問い続けた結果、考えたことです。いい企画だなと感じる作品は、きちんと生活者にとっての価値に落とし込まれているものでした。

メディアに寄ったレポートになりましたが、カンヌライオンズの部門には最近始まったイノベーション、今年からプロダクトデザイン、ヘルス(ヘルスは別イベントとなっていましたが)などが加わり、議論される領域がどんどん広くなっていることも感じました。それはクリエーティビティーがもたらす課題解決がさまざまなビジネス領域に広がっていることの表れで、そこへのチャレンジを促すものだと思います。同時に、クリエーティビティーが限られた人に求められるのでないことも意味している、とも思います。

カンヌのステージで表彰され、ライオンを手に拍手喝采を受ける偉大な先達の姿を、気持ちいいだろうな…と眺めていました。でもそれは企画提案から実施まで、それだけの責任を負って真ん中でやった人とやり遂げたチームが、その素晴らしいアウトプットに対してもらえる称賛なのだと想像します。賞を取ること自体が仕事の目的にはなりませんが、それでも世界から評価を受ける場にいつか自分も…などと妄想しながら、カンヌの空と海から遠く離れた東京に戻って、日々に邁進したいと思います。

短いレポートでしたがこのような機会を与えていただきありがとうございました。

表情から感情を読み取るインタラクティブウォールの展示で
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