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金融ビジネスにイノベーションを!No.5

銀行からのメールは、ケタ違いのクリック率!
データと仮説から導く“金融商品マーケティング”

2014/07/21

投資信託やカードローンといった金融商品のマーケティングは、商品の特徴、顧客の年齢層、多く使われているデバイスなど、さまざま条件を考慮した上で行われています。条件を知るために欠かせないのが、データ分析。

金融マーケティングのプロだからこそ語れる“意外なデータ”について、電通国際情報サービス(ISID)の瀧下孝明さんに聞きました。

仮説とデータから見えた、投信信託の“意外な現実”

――前回は金融機関が直面している問題や、課題解決のための取り組みついて伺いました。今回はもう少しミクロな視点で、金融商品ひとつひとつのマーケティングについて教えてください。

瀧下:金融機関が扱っている金融商品のひとつに、投資信託というものがあります。投資信託とは、簡単にいうと、資金をアセットマネージャーなどの専門家に預けて運用してもらう金融商品のこと。預貯金や退職金などのまとまった資金が使われることが多く、そのため圧倒的にシニアの顧客層が厚いところが特徴です。

大多数のシニアの方々は、インターネットがまだ根付いてない時は、店舗に通ったり、渉外担当とコミュニケーションを行うことで金融取引を行っていました。ときには行員に市場の状況を教えてもらったり、資産運用のアドバイスをもらったり…。また、結婚、出産などのライフイベントが起きた際、銀行に行って適した金融商品について相談する、というのも当たり前のことでした。こうした濃密なコミュニケーションを体験しているため、銀行に対するシニアの方々の信頼感は非常に強いのです。特に地元の銀行を「昔からある」「家族でお世話になっている」といった理由で、支持しているケースが多いんですよね。

おそらくそうした前提があるからだと思うのですが、実はシニアの方々の、銀行からのメールのクリック率は、びっくりするほど高いんです。他業界とは比較にならない、ケタ違いのクリック率。「それなら」と、投資信託を行っているシニア層に役立ててもらえそうな情報をメールに盛り込んだところ、今度はメールの情報を見て、インターネットで投信信託商品の買い増しをするシニア顧客が増えたことが分かりました。一方、銀行の窓口担当者にアンケートを取ったところ、「買い増しはインターネットでするけれど、迷ったときや新しい商品について知りたいときは窓口に来るシニア顧客が多い」という事実も分かったのです。こうして、「投信信託を買っているシニア層には、店舗とインターネット、両面でアプローチしていきましょう」という、ひとつの方針を導き出すことができました。

商品や顧客の特徴をつかみ、行動データ、ときに意識データを取りながら仮説を立てて、そしてプランや導線をつくっていく。これが、僕たちがやっている金融商品のマーケティングという仕事です。商品軸の案件でていねいにコミュニケーションをデザインしていくことが、やがては、大きなブランディングにつながっていくんですよね。

カードローンの検索は、圧倒的にスマホで行われている!

――投資信託のほかに、最近目立った動きをしている特徴的な金融商品というのはあるのでしょうか?

瀧下:やはりカードローンでしょうか。今までは法人顧客に力を入れている金融機関が多かったのですが、法人だけに頼っていては限界があることが分かってきて。ここ3年ぐらいでググッと、個人に力を入れて収益分野に育てていこうという動きが興るようになりました。

カードローンの場合は、年齢ではなく、デバイスにものすごく大きな特徴が出るんですよね。スマホとパソコンなら、圧倒的にスマホが使われているケースが多い。実際はパソコンの2倍も、スマホでカードローンに関する検索が行われているんです。しかもスマホで検索されているキーワードが、「審査」や「返済期間」といった生々しい言葉ばかりでして。今、まさにカードローンを必要としている人の検索が多いということが分かってきました。パソコンの場合、上位にそこまで強い言葉が並ぶことはありません。ですから、カードローンという商材を扱うときは、スマホかパソコンかで、まったく異なるマーケティング戦略を考えなければいけないわけです。

単純化するならば、投資信託のときは年代で、カードローンのときはデバイスで考える。このように扱う商材によって、そもそものセグメンテーションも変わります。金融商品のマーケティングを行うときは、まず、どんな商材を扱い、どういう枠組みで分類するか、はっきりさせることが肝要です。そこから、導線設計やコミュニケーションのシナリオに落とし込むという流れになりますね。

ユーザーの行動データと背景の意識について

――マーケティングと切っても切り離せないのが“アドテクノロジー”だと思います。金融商品とアドテクノロジーの関係について、どのように考えていますか?

瀧下:アドテクノロジーの進化は日進月歩です。今はウェブサイトのアクセスが取得できるだけでなく、複数サイトのアクセスが統合され、集計・分析され、リアルタイム入札の仕組みで非常に効率的に広告が配信できます。最終的な目的は、申し込みや購入といった獲得単価をどれだけ下げられるか、という点に尽きると思います。

金融商品の選択は基本的にライフイベント駆動ですが、結婚や住宅購入といったライフイベントを迎えていない人であっても、生活の状況や心境の変化から行動が変わることもあります。例えば、休日はお金のことを考えないけど、週明けの通勤中にスマホで、職場でパソコンで検討する人はいるのではないでしょうか。

ウェブサイトのアクセスデータは行動データなので、ユーザーの心理状態までは分わかりません。ただ、いろいろなサイトの行動データを積み上げて、どういう状況でどの金融商品の広告が効果的なのか、心理状態の推測ができるようになります。今は、デジタル広告の業界全体で行動データを積み上げている段階だと思います。僕は心理と行動は一体となって評価されるべきものだと思っていて、行動データとアンケート調査やインターネットバンキングのログから、ユーザーの心理状態を洗い出しているところです。

金融商品は商品同士に類似性が多く、分かりやすい特徴で差別化することが難しい。そうすると、ユーザー側は「どの銀行の商品」を「どんな理由で選ぶか」という基準があいまいになります。例えば同じウェブページに複数のカードローンのディスプレイ広告が並んでいる場合、選択したくても決め手がない。この場合はマス広告を含め、どれだけ認知されているが商品選択の一要素として効いてきます。定量調査でも、カードローンは、テレビとウェブ広告の親和性が高いという結果がでているので、金融商品ごとに他行の広告も見ながら、親和性の高い媒体を組み合わせた導線設計を行っています。

(第6回に続く)