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マスター・オブ・イノベーションマネジメントNo.4

不可避なモノに、真っ向から対峙する

2014/08/13

こんにちは。電通関西支社マーケティングデザイン局 コンサルティング部の志村彰洋です。第1回第3回は、イノベーションマネジメントの基礎についてお話ししてきましたが、今回は概論から少し離れ、「イノベーションにおけるネットワーク化の是非」についてお話しします。

 

企業の経営者にネットワークによるイノベーションについて説明すると、ほとんどのケースで賛同を頂けますが、同時に「自社で、これだけオープンかつドラスティックな手法の創発ができるのだろうか?」と言われることが多くあります。また、評論家やイノベーションマネジメントに取り組む企業の担当者とは、『イノベーションのジレンマ』(翔泳社)や『シリアル・イノベーター「非シリコンバレー型」イノベーションの流儀』(プレジデント社)など、話題になっている書籍の論旨に基づいた懸念点について議論する機会が増えています。

根強く残る「自前主義」

オープンイノベーションに対する考え方として、大企業、特に日本企業で多いのが「自前主義」です。自前主義の根底には、開発の進展が見込める分野、競争が激しいものの技術が生まれやすい分野、自社のみが優位に事業展開を行っている分野は、あえて自前主義を採用した方が、研究開発の効率化や利益の最大化が図れるという思いがあります。

この考え方が根強い場合、これだけさまざまなサプライヤーがバリューチェーンを構築して成り立っている昨今の状況下であっても、アイデアの種が生まれる段階で社外にも門戸を開いてしまうオープンイノベーションの手法では、「外部との連携によって、創出できた事業の利益が減ってしまうのではないか」「外部のハンドリングが難しいのではないか」「特許権等の知的財産権への対応が難しいのではないか」という懸念が挙がってきます。

しかし、高度化・複雑化した要件にもスピーディーな対応が求められ、情報がネットワークで集約されている現在、イノベーションが限定的な集団(例えば1つの企業)の中からしか出てこないということは考えられません。オープンソースにすべきという意味ではなく、ネットワークというつながりから逃げずに、他企業や一般のユーザーを巻き込むメソッドの採用と、巻き込む際のルールつくりによって、むしろしっかり利益を担保できるのだと思っています。そうでなければ、Fortune Best 500の世界的企業の大半で、このようなメソッドを取り入れているわけがありません。

ベンチャー企業型か、大企業型か、という定義合戦

シリコンバレーのようなオープンイノベーションを主軸にしたベンチャー企業型の手法は、大企業のイノベーションには必ずしもなじまない、うちはベンチャー企業ではない、という意見も多数あります。例えば、日本のように同じ人材を(時間がかかっても)再教育して新しい事業に割り振る考え方と、欧米のように社員の雇い直しを頻繁に行い、即戦力を一気に集めてしまうような人事面の考え方にも起因しています。

また最近は、大企業のように専門・細分化され高いピラミッド構造を成す組織形態には、次々と画期的なブレークスルーを生み出す人材「シリアル・イノベーター(※1)」がいるとされ、彼らが能力を発揮できる環境を明らかにし、その発掘・育成からマネジメントのあり方に着目すべき、という考え方もあります。

これはネットワークによるイノベーションを実施していない企業の中だけで起こっているように思います。というのも、イノベーションマネジメントのカンファレンスなどに参加してくる企業は、自らの「型」など意識しておらず、もしシリアル・イノベーターがいるのならば、「シリアル(連続的)にイノベーションを連発してもらうよりも、パラレルに同時並行でイノベーションを起こして欲しい」といっています。これは市況の変化の速さに加えて、イノベーションを担当する者の任期の問題(成果を出すまでの期限)もあります。

 

上記のように、市況の時間的動きの速さが一番の課題であり、この課題に真っ向から勝負するには、卓越したイノベーターがいてもいなくても、重要な情報とアイデアをネットワークに次々と放り込んで、アイデアを磨ける人がどんどん磨いて、有望なものを世に出していかないといけないのです。○○型などと定義している時間は全くありません。

暗黙知の共有が難しいという誤解

オープンイノベーションは、アイデアを新しく出すというイメージが強く、暗黙知の可視化のようなものには向いていないのではないか、ともいわれます。いわゆる、サイレント・ニーズのすくい上げが目的であるケースです。これに対する解は簡潔で、暗黙知を可視化するという目的を、そのまま明文化して創発活動をすればよいということになります。ただ、そうしたテーマ設定の際、参加者もアイデアを投稿しにくいのも事実です。

暗黙知のような、テーマ自体が難しい場合に有効な手段は、事前にテーマの主旨を説明して、創発活動開始時に率先して動いていただく「草の根サポーター」の組成です。具体的には、IMO(イノベーション・マネジメント・オフィス)が、創発開始前に各事業ドメインや地域ごとに有志を選出し、事前にイノベーション・マネジメント・ツールの使い方や、アイデア投稿の仕方をレクチャーし、率先して創発活動の見本として振る舞ってもらいます。その他、積極的に他者のアイデアを評価したりコメントしてもらうことで、有機的に創発活動に火をつけてもらいます。

何もないところから最初の一歩を踏み出すのは、それなりに迷いが生じますが、道標があれば、どのような難しいお題であっても参加者のアクティブ率が高まります。

 

今回ご紹介したように、ネットワークによるイノベーションを躊躇する、さまざまな意見がありますが、オープンイノベーションは手法であって、解ではありません。それよりも、「知識はネットワークでつながっている時代であること」「市況の変化がとても速いこと」「テーマ設定が難しいこと」などから目を背けず、むしろ真っ向から勝負するための手法がネットワークによるイノベーションだと理解してもらうことが、一番重要なミッションだと考えています。

次回以降は、応用編として、大学や行政などアウターとのオープンなつながりを前提とし、オフラインでのセッションとも連動するケースについてご紹介していきますので、ご期待ください。

(第5回以降に続く)

※1 シリアル・イノベーター:
企業の中で連続的(シリアル)に、画期的な製品やサービスを生み出す人のこと