loading...

“社会”からリソースを得る「ソーシャル・ソーシング」の可能性No.4

社会と共創するためのフレームワーク(2)

2014/08/12

※用語解説
【ソーシャル・ソーシング】
アイデア、資金、スキルなど社会から必要なリソースを提供してもらうことで、社会の皆と共創していく仕組み。
【クラウドファンディング】
インターネットを介して広く個人からお金を集める仕組み。「寄付型」「購入型」「融資型」「投資型」など、さまざまな手法がある。
【ファンドレイズ】
ある特定の目的のためにお金を集めること。

 

 
◆電通ファンドレイズ・ハニカムモデルとは

連載第2回で「電通ファンドレイズパワー分析“3C×2フレーム”」を紹介しました。今回は別のフレームワークを紹介します。「電通ファンドレイズ・ハニカムモデル」です。これは10年以上電通が活用してきた、ブランドをプランニングする「電通ハニカムモデル」をファンドレイジング用にカスタマイズしたものです。
連載第3回で、クラウドファンディングで集めるべきは「お金」ではなく「仲間」であり「共感」であるとお話ししました。企業におけるブランディングでも生活者から「仲間意識」や「共感」を得るアプローチをします。そうすることでブランドロイヤルティーを高め市場優位性を確保することができます。ブランディングとファンドレイジングには「仲間意識」や「共感」の獲得を狙う部分で共通点が多いのです。
そこでブランディングのためのフレームワーク・電通ハニカムモデルを、ファンドレイズプランニングの整理に役立つフレームワークとして、カスタマイズしました。

電通ファンドレイズ・ハニカムモデル

このフレームでは、ファンドは3つのレイヤー、7つの要素で規定されます。

レイヤー①
最初のレイヤーにはファンド情報を見た生活者に真っ先に認知される表層の要素が入ります。つまりファンドの存在意義である「ファンドの目的」と次に重要な「ファンドの呼び掛け人(およびファンドの根拠・信頼性情報)」です。その内容によって、生 活者は自分にとって有益か否か、興味の範疇か否かを短時間で識別、判断します。

レイヤー②
レイヤー②はレイヤー①を経た次の段階です。生活者の趣味嗜好や社会背景をファンドと照らし合わせ、生活者がファンドを評価します。ファンドが生活者にもたらす最も重要な価値(コアバリュー)の評価もこの時に下されます。人それぞれ違う結論になり得ます。

レイヤー③
レイヤー③まで到達するのは実際に支援を行う人です。ここで規定すべきはファンドと支援者の関係・絆になります。ファンドが支援者にとって「どのような存在なのか」「ファンドにとっての理想的な支援者はどのような存在なのか(ターゲット像)」を規定します。


 

J-WAVE LISTENERS’ POWER PROGRAM第1弾の『復興途上の三宅島を伝える番組を皆で作ろう!』を電通ファンドレイズ・ハニカムモデルに当てはめると一例ですが下のようになります。

電通ファンドレイズ・ハニカムモデル

このフレームワークに正解はありません。ファンドを起案する際のプランニングに使用する、整理のためのフレームワークです。同じフレームワークでもさまざまな整理結果があり得ます。しかし、一つ一つの要素を抜き出して整理していくことで、漠然と考えるより、はるかに的を射た思考ができるようになります。そして抽出された各要素、各レイヤーのメッセージを関係者で合意し共有することで、ブレの無いコミュニケーションが実現します。それこそがフレームワークを使用する目的となります。

◆広島テレビ「てれびdeふぁんでぃんぐ ひろしま」第2弾 のスタート

7月30日に広島テレビのクラウドファンディング第2弾が開始されました(8月13日まで)。その名も「8/28『Piece for Peace HIROSHIMA』GAME記念 PFP×広島カープ コラボTシャツを着て平和を考えよう!」。「平和を願う一人ひとりの思いを、世界を変えてゆく力に」というテーマを掲げる「Piece for peace HIROSHIMA」は広島テレビが2012年から実施しているプロジェクトです。その一環として、広島テレビスポンサードの「Piece for Peace HIROSHIMA」GAME(カープVSヤクルト)で、カープ×広島テレビ限定コラボレーション赤Tシャツを制作するクラウドファンディングが実施されています。そして23年ぶりの優勝に向けて突き進む広島東洋カープを応援すべく、先日、目標金額に到達しました。

 この新しいファンドを例えばターゲットとして最もボリュームが見込める「地元のカープファン」の視点から、先ほどのファンドレイズのハニカムモデルに当てはめてみると、このように分析ができます。

図3

誰が何のために、誰とどんな夢を共有したいのかが明確に見えてきます。仲間がたくさん集まりそうな夢だと感じられるので、このファンディングはうまくいくと予想できるのです。

◆クラウドファンディングの成功と失敗とは

当然、どんなに頑張っても、緻密に計画を立てても、クラウドファンディングは成立したり、しなかったりします。絶対に成立するクラウドファンディングはもはやクラウドファンディング風の演出をしているPRキャンペーンという方がふさわしいかもしれません。

クラウドファンディングが成立しなかったプロジェクトは「失敗」なのでしょうか。私は違うと思います。

クラウドファンディングという仕組みが存在しないと、そもそも日の目を見る機会すらないアイデアはたくさん世の中に存在します。例えば、企業の中には世に出ず、企画会議や稟議の段階で消えてしまうたくさんのアイデアがあります。消えてしまう理由はさまざまでしょうが、中には世に出れば人気を集めたり、社会のためになるものもあると思います。

今までは世に出られずにいたアイデアが、実際に世間の目にさらされ、社会の声によって育てられていく。そんな可能性のある仕組みがクラウドファンディングだと思います。

そう捉えれば、たとえクラウドファンディングは成立せずとも、「その企画はなぜファンド目標額に至らなかったのか」という示唆、次の段階へのブラッシュアップの材料を得ることにつながります。これは、今までの企業での企画会議の仕組みでは考えられなかったことだと思います。企画者や関係者が諦めない限り、何度でもPDCAを回してクラウドファンディングに挑戦することも可能です。

大切なことは「クラウドファンディングによる資金調達の失敗」は、決してその「プロジェクト自体の失敗」ではないということです。クラウドファンディングに失敗しても、その活動の中で得たつながりや知見から、別の方法による資金調達が可能な場合もあるのです。

そもそも資金調達もプロジェクトにとっては手段であり、目的ではないはずです。もしかしたら、資金を要さない方法を発見するかもしれません。なぜなら、クラウドファンディングは「資金集め」の手法に違いありませんが、その過程で「仲間」集めや「共感」集めを経るので、資金は十分に集まらなくとも、新しい知恵や協力者が現れる可能性は十分にあるのです。

そういう意味でも、クラウドファンディングはそれにチャレンジすること自体が、プロジェクトを世に知らしめ、PDCAを回していく上での貴重な第一歩となると感じます。

最後に、私の好きな言葉を紹介します。

此の道を行けば どうなるのかと 危ぶむなかれ
危ぶめば 道はなし
ふみ出せば その一足が 道となる その一足が 道である
わからなくても 歩いて行け 行けば わかるよ

清沢哲夫『無常断章』p.172~173(法藏館、1966年)

これはアントニオ猪木氏が引退の際に読んだ清沢哲夫氏の「道」という詩です。この踏み出す一足として、クラウドファンディングはとても良い手段なのではないでしょうか。

今のところ、クラウドファンディングという新しい仕組み自体が「踏み出されたばかりの一足」なのかもしれませんが、迷わず行きたいと思います。きっと行けば道ができるでしょう。