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顧客起点のブランドサイクルを回す、プラットフォームとは?

―デジタルが変えるブランド戦略の今

(第4回)

2014/09/09

こんにちは。今回は、デジタル時代のブランド戦略を支える「ブランドプラットフォーム」について述べていきたいと思います。

ブランドを「デジタルの土俵に乗せていく」ために

「プラットフォーム」という言葉は実にさまざまな場面で使われますが、ここでは、「ブランドと顧客や関係者が参加し、つながることで持続的な価値を創造する場」という定義をしておきたいと思います。
例えば会員コミュニティや登録サービス、ブランドチャネル(Eコマース/リアル店舗)、SNSアカウントやアプリ・サービス、ネットワーク化された製品そのものもプラットフォームになり得ますが、これらの個別の機能や接点を包含する概念を意味しています。

今日のブランディングを考える上で、マスメディアを通じたコミュニケーションだけではなく、オンラインで企業が顧客と直接つながる、「顧客との関係プラットフォーム」をつくることがますます重要な課題となっています。
自らプラットフォームを持つことで、直接的なブランドコントロールや顧客体験の創造が行えること、継続的なコミュニケーションと安定した顧客基盤構築を図れること、顧客からのフィードバック情報を通じて価値創造(共創)につなげられることなど、ビジネスとブランド戦略上の大きなチャンスを生み出せるからです。

実際に、ITサービス企業や製造小売業をはじめ、この10年の勝ち組ブランドを思い浮かべると、ほとんど全てが顧客と直接つながるプラットフォーム構築に成功しており、それが大きな成功要因になっています。

いってみれば、ブランド戦略を今日的なデジタルマーケティングの「土俵に乗せていく」ためにも、ブランドプラットフォームは不可欠な要素になっているのです。

オムニチャネルを超えて:ブランド価値創造サイクルの進化

最近では、小売業などを中心に、個人の購買プロセスに応じて、オンラインチャネルとリアル店舗など、さまざまな接点をシームレスにつなげ、効果的なセールスを図る、「オムニチャネル」という概念が注目されています。

しかし、メーカーにとって顧客と直接つながるプラットフォーム構築の目的は、Eコマースなどの販売戦略だけではありません。より本質的なのは販売チャネルにとどまらない、顧客起点のブランド価値創造のプラットフォームです。

実際、大手小売業のプライベートブランドの隆盛に見られるように、顧客との距離の近さや顧客データに基づく価値提案力がますます優位になる中、製品にイメージをつけて差別化する従来のブランドマーケティングの手法には限界が来ているともいえます。こうした中、メーカーにとっても「製品起点」から、「顧客起点」の新たなブランド価値創造サイクルを強化していくことが必要になっています。

顧客起点のブランド価値創造サイクルを進化させる

それは、今までの製品ブランディングと何が本質的に異なるのでしょうか?
顧客と直接つながるプラットフォームによって、ブランド価値創造のサイクルの進化を実現していくには、大きく3つの次元があります。

①製品のサービス化
まず、製品のサービス化により、プラットフォームを通じて顧客に付加価値の高いブランドの購買体験を提供することはもちろん、モノを売って終わりではなく、販売後のプロセスに入り込み、顧客にとってのブランドの使用価値とリピート性(再購買)を高めるサービス価値を提供できます。

顧客情報を活用したカスタマイゼーションや情報配信サービス、製品の先にある、目的実現や課題解決を主題にしたメディアコンテンツ・会員サービス強化などもその例です。これは「ブランドのサービス事業」としての収益を広げる機会ともなります。

②コミュニティ価値創造
2つ目に、共通の関心・目的を持つ人(顧客や関係者)がつながる場をブランドが提供することによって、「製品」だけでなく「人」を通じたブランドとの絆を形成するチャンスが生まれます。

ブランドと個人の関係を超えた、コミュニティによるモチベーションづくりや集合知の活用、そして参加者によるコンテンツ発信や共有など、ユーザーが軸となってブランド価値を増幅する活動を促進できます。ハーレー・ダビッドソンやナイキ、GoProなどはその代表例です。

もちろんコミュニティの形成にはプラットフォームの仕組みだけでなく、参加者にとって意味のある目的や利便性、そして求心力が不可欠であり、ブランドがいかに生活や社会的な目的・テーマと結びつくかが成功の鍵となります。

③製品/市場価値共創
そして3つ目に、販売以前の段階からユーザーの需要創造プロセスに入り込むことで、彼らの欲しいモノを発見・共創する、ブランドの購買・利用モチベーションを活性化することができます。

例えば無印良品などが取り組む顧客参加の製品開発は、顧客の声を聞くだけでなく、コンセプトの提案を通じて需要自体を創るプロセスだと言えるでしょう。
さらに、前回記事で述べたようなユーザー体験を増幅することによる製品の自己表現価値の強化や、ユーザー情報のフィードバック回路を活用した製品イノベーションの加速を図っていくことができます。

そもそもブランドは、製品にとどまらず、「顧客にとっての価値」を意味します。
顧客との「共創」が最近キーワードとしてよく用いられますが、製品開発以前に顧客とつながることで欲求や期待(需要)を生み出したり、顧客同士をつなぐことで(CtoCやBtoC)市場を生み出す発想も、新たな顧客起点のブランド価値創造の観点から考えてみるべきでしょう。

実は現在もっともビジネスのイノベーションが起こっているのもこの領域で、例えば米国発のUber(タクシー仲介サービス)やAirBnB(宿泊仲介サービス)のようにユーザー自身のビジネスを仲介したり、コンテンツを流通させる場(市場)の創造という、ブランドの新しいビジネス機会を生み出す可能性もあります。

このようにブランドプラットフォームは、メディアや顧客データ管理・CRM(顧客リレーションシップ管理)のプラットフォームにとどまるものではなく、「顧客」起点の新しいブランド価値創造サイクルを回し、ビジネスモデルやマーケティングプロセスを革新していくエンジンとなるものです。

多くの企業がオウンドメディア(自社サイトや自社チャネルなどの顧客接点)の進化に戦略的に取り組む理由も、まさにこの点にあります。

個別の部門や目的に分断されたメディアやチャネルの顧客接点を連携・統合し、顧客起点のビジネスを加速させる戦略的なブランドプラットフォーム構築を考えてみる時期が来ているのではないでしょうか。

(第5回以降につづく)