広報オクトパスモデル
その5「情報発信力」
2014/09/22
日本の上場企業479社を対象に企業広報戦略研究所が行った「第1回企業の広報活動に関する調査」の連載も9回目。今回は、企業の広報活動を「8つの広報力」に分解して考える「広報オクトパスモデル分析」の5つ目、「情報創造力」について解説したい。
8つの広報力
「8つの広報力」全ての設問80項目のうち、最もスコアが高かったのは「自社HPサイトへニュースリリースを掲載している」だった(下図参照)。88.9%、約9割の企業がリリースを自社サイトにアップしている。しかし「ニュースリリースを定期的に発信している」企業は64.9%で、スコアは下がってしまう。ニュースリリースは企業広報における最もベーシックな活動といえるが、定期的に発信すると回答したのが約3分の2にとどまったのは、上場企業に対する調査結果としては若干気になるところである。決算短信などは当然だが、商品やサービスに関わる企業の新しい動きは、株主ならずとも知らせてほしいところだ。
今回の調査では企業の「情報発信力」を「マスメディアや自社メディア、ソーシャルメディアなどさまざまな情報発信手法を複合的にタイムリーに駆使する能力」と規定した。広報の専門家パネル(研究者、メディア、広報実務家)が重視した項目(注)は、①「トップは定期的にメディアの取材を受けている」、②重要ステークホルダーに合わせた情報発信活動を行っている」、③「自社HPサイトは月2回以上更新している」と「ソーシャルメディアを活用した情報発信を行っている」。このうちで企業によって差が出るのは「トップ広報」と「ソーシャルメディアの活用」だろう。
(注)調査では80の設問中、広報の専門家パネルにあらかじめ最も重視する設問を「8つの広報力」ごとに3つずつ選んでもらい、加点した上で分析している。
『日経ビジネス』が、2012年、2013年と2年続けて「社長の発信力ランキング」を特集した。それぞれの年のサブタイトルが「『言葉の力』が企業を強くする」(2012年)、「語る覚悟、語らぬリスク」(2013年)となっていて、トップが情報発信することが企業にとっていかに重要であるかを意識させるものになっている。上位にランキングされたトップはいずれもメディア露出度が高い方々である。個人的な情報発信能力、コミュニケーション能力も高いと見られている。しかし、それだけではないはずだ。
トップの露出機会をつくる、メディア取材をアレンジする、取材目的が適切なものかどうか判断する、取材終了後にフォローするなど、全て広報担当者の仕事である。トップの理解はもちろんだが、広報担当が能動的に行動しなければ情報発信は効果的なものにならない。時にはトップを説得するケースもあるだろう。注目度の低い企業では、メディアに果敢にアプローチしても取材機会をつくることさえ難しい場合もあるだろう。しかし、責任を持った発言で企業を代表して情報発信できるのは、極論するとトップだけだ。企業の情報発信では、トップの発言機会、トップからの情報発信の仕組みづくりが最も優先的に取り組まなければならない課題といえるだろう。
近年のメディア環境の変化で、企業の情報発信にも変革が求められている。今回調査で「ソーシャルメディアを活用した情報発信を行っている」と回答した企業は34.7%だった。約3分の1にとどまっていると見るか、3分の1は活用に踏み切っているので企業のソーシャルメディア活用が進んできていると見るか、どちらにも取ることができる。ただ、これまでのように大手新聞などへの掲載や、記者クラブとの付き合いを優先する広報の時代が変わってきているのは間違いないだろう。情報発信手法も知恵と工夫が求められる。
企業広報戦略研究所について
企業広報戦略研究所(Corporate communication Strategic studies Institute : 略称CSI)とは、企業経営や広報の専門家(大学教授・研究者など)と連携して、企業の広報戦略・体制等について調査・分析・研究を行う電通パブリックリレーションズ内の研究組織です。