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企業の未来のためにできることNo.16

言語化できない「センス」をいかにデザインするか?

―デジタルが変えるブランド戦略の今

(第6回)

2014/10/07

近年、デジタル化によるメディア・プラットフォームの変化や顧客接点の多様化・分断化がますます進む中で、ブランド構築においても、メディアを超えた一貫性や識別性を創り出し、顧客とのエンゲージメントを形成する、新たなデザイン戦略の役割が重要になっています。
今回は、電通のクリエーティブ・ディレクターの村松氏と、デジタル時代のブランドデザインのあり方について対談を行いました。

小西×村松

小西:村松さんとはさまざまな企業のリブランディングのプロジェクトでご一緒しています。その中で、非常に共感したのが、プランナー隆盛の時代といわれる中、単なる広告以上の一貫したブランドの世界観やストックをつくる上で、アート・ディレクター(AD)の存在がいかに重要かということです。

村松:同感です。デジタル時代で情報量が増え、コミュニケーションのスピード感も増している中で、ブランドの世界観をワンビジュアルでつくり出す、そんなシンプルなビジュアルコミュニケーションがとても重要になっています。

■顧客と対話・コミュニケーションする、デジタル時代のブランドデザイン

小西:ロゴをはじめ今日的なブランドデザインの方向性にも「デジタル・フレンドリー」な要素があると思うんです。一つ目は「シンプル」。さまざまな展開がしやすく、コミュニケーション速度が速いこと。スマホのアプリやグーグルマップの表示など、デジタルフォーマットに合った「アイコン性」も求められる時代ですね。

村松:そうなのです。情報過多の時代だからこそ、デザインにおいては「引き算」が大事ですね。なんでも詰め込むよりは、余白や空間の使い方一つで、ブランドの品質感を生み出すことができる。特に日本人は「わびさび」の概念が昔からあるように、余白の使い方は潜在意識に届くと思います。

小西:二つ目は「等身大」であること。例えばブランドロゴの「小文字」化などは10年以上前からトレンドですが、今は見た目を大きく立派に見せるよりも、ブランドへの共感や親しみをデザインでつくり出すことが重視されている。
三つ目には、「ダイナミック」という点。カスタマイズできて、ブランドのエモーショナルな表現を可能にする動的なデザイン。コカ・コーラが、ネームボトルなどで自分たちの象徴的なロゴを変えるなんていうのは、従来の記号的なマークの概念ではあり得なかった。グーグルなどもそうですね。

村松:単なる記号としてのマークではなく、顧客と対話・コミュニケーションするブランドデザインという考え方ですね。ある通信会社のブランド刷新の際も、筆記体を使ったシンプルで動きのあるデザインによって、繋がるというイメージが付加されましたね。感情や世界観を表現するためにロゴをチャーミングに動かせるモーションロゴなどもよく使われるようになってきています。

小西:企業が一方的にブランドコントロールしてきた時代から、今は生活者がブランドを勝手にいじったりシェアしたりする時代。守るべき要素ももちろん大事ですが、エンゲージメントをつくるという本質的な目的を考えると、ブランドサイドも生活者に遊んでもらうぐらいの柔軟な発想が必要になっていると思います。

村松:LINEのスタンプなどもそうですね。LINEのキャラクターなどは、親しみのあるデザインでクオリティーが高くユーザビリティーが計算されています。企業と生活者の気分がマッチしたブランドづくりがうまいですね。

小西:そうですね。あとユニクロの「UNIQLOCK」などは先駆的でしたが、今日では生活者が所有・共有できるデジタルコンテンツを通じて、ブランドの世界観を効果的につくり出していく体験デザインの可能性も大きく広がっていますね。

■グローバル化するデジタルメディア×日本人のデザイン文化

小西:ウェブだけでなくメディア全体のデジタルフォーマットの広がりで、従来とは異なるブランドデザインの考え方もだいぶ増えているのではないでしょうか。

村松:そうですね。テレビ映像や動画も、4:3のテレビモニター時代から16:9のフレームに替わって、より伸びやかでハイクオリティーなクリエーティブに進化してきました。最近は、縦構図のデジタルサイネージや、スマホで撮影した縦撮り動画も多くなりました。縦構図は襖絵や、縦書きの文字文化など、元々日本人にはなじみがあり、受け入れやすいと感じます。

村松

小西:それは非常に面白い視点ですね。

村松:今はまだ、縦構図のデジタルサイネージにテレビCM用に作った16:9の映像を入れていることも多いですが、縦構図で企画したオリジナル映像を開発したら、日本人ならではの面白いクリエーティブができると思います。例えば文字は縦書きを前提にレイアウトするとか、音程を意識してフレームの上下を使った動画をつくるとか。

小西:日本人ならではという視点は興味深いです。一方、今日のブランドは、デジタルプラットフォームなどでグローバルに展開する前提も増えてきました。ソーシャルメディアでもデザインや写真や映像、インフォグラフィクスなどのビジュアルコミュニケーションは国境を越えやすく、非言語コミュニケーションとしてのブランドデザインの役割はこの点でも重要になっている。

村松:グローバルで通用するデザインは意外に難しい。例えばグローバルで通用するブランドロゴをつくる際は、文字配列ひとつとっても欧米的なタイポグラフィー文化を理解しなければいけなくて、日本人的な感覚だけではグローバルスタンダードにならない事もあります

小西:そうですね。また逆に、日本発のグローバルブランドとしてのアイデンティティーを、デザインを通じて積極的に示すケースも増えてきました。ユニクロが、あえてアルファベット+カタカナロゴを展開しているのもその例ですね。

村松:外国人が日本語のタトゥーをカッコいいと思って入れたがる感覚ですかね。とんでもない意味の日本語だったりすることもありますが…。単に欧米化するのではなく、外から見た日本的なアイデンティティーをブランドが表現することも大切ですね。

■ユーザーの体験ストーリーをデザインする

小西:デジタルといえば、かつては制約も多くリッチなブランド体験をつくり出すのが難しかったわけですが、今は高画質なイメージや動画コンテンツが可能になり、店舗やサイネージなどリアルの世界にもデジタルが広がっていますね。

村松:ブランドに信頼があり、体験のクオリティーが高ければネットでも高額商品を購入できる。また、ユーザーがよりパーソナルな、自分に合ったものとして関われるブランド体験づくりの可能性もデジタルの世界では広がっています。

小西:バーバリーなどは、ラグジュアリーブランドとしてデジタル・フレンドリーなブランディングで店舗も含めてブランド世界観を現代化し、若年層などへもファンを広げることに成功しています。

小西×村松2

村松:私も、ある社会人女性向けファッションブランドのクリエーティブディレクションを担当しましたが、ユーザーと等身大の3人のタレントに24タイプの服を着てもらい、何気ない日常の気分を撮影しました。この演出はユーザーが感情移入すると共に、コーディネートした着回し術が参考になり、複数の商品を同時購入したくなる仕組みを狙ったものです。
店頭を媒体と見立て、デジタルサイネージを利用して写真や動画でコーディネートを数多く見せることができるようにしました。常に新しいコーディネートを発信している感じがブランド全体をアクティブに見せています。

小西:ブランドの世界観やコーディネートを一方的に押し付けるのではなく、よりユーザー目線でコーディネートしやすい価値を提案しているわけですね。
ファッションの世界は、デジタル/ソーシャルメディアの活用でパーソナルな体験や、ユーザー視点の編集・コーディネートの共有など、モデルによる静的なイメージづくりなどの既存の手法にとらわれない、新しい価値が今どんどん生まれていると思います。

■言語化できない感覚をいかにデザインするか

村松:昨今、コミュニケーションのスピードがとても速くなっています。お客さまも多くの情報から、自分に合った情報のみを取捨選択しています。そのため一瞬でユニークポイントを伝え、ブランドの世界観を伝えなければなりません。そのときに直感、いわゆる無意識に働きかけるコミュニケーションがより大切になっていると思います。

小西:同感です。製品でも細かいスペックや機能よりも、消費者の気持ちや欲求に働きかける、言語化できない感覚・センスをデザインすることの方が、大きなブランドの差別化につながる時代ですよね。

村松:心理学的にみても潜在意識は、私たちの普段の行動、思考、意思決定に大きく関与しています。この言語化できない「なんとなく」を理解し、つくり出すのがデザイナー・クリエーターの役割だと思います。

小西:一方で、論理化しにくい「なんとなく」の良さを説得するのもなかなか大変ですよね。それを右脳と左脳で説得していくのが、われわれの仕事でもあるかと思いますが。センスに関する領域は、なかなか組織的な意思決定になじまないので、プロフェッショナルに対する信頼や委任の体制づくりも大事だと思います。

村松:人間のセンスや欲求などの潜在意識を理解する、脳科学や心理学などの知見をもっと広告やブランドデザインに取り入れていくことは有効かもしれませんね。

小西:本日はいろいろ興味深い対談になったと思います。ありがとうございました。

(おわり)