loading...

対談 「ビジネスとクリエーティブは、よく似たゲームだ」No.1

課題よりもアイデアが先行する新しい“ゲーム”

2013/10/18

リブセンス社長  村上太一氏 × 電通コミュニケーション・デザイン・センター長 古川裕也氏
リブセンス社長  村上太一氏 × 電通コミュニケーション・デザイン・センター長 古川裕也氏

第1回 課題よりもアイデアが先行する新しい“ゲーム”

25歳という史上最年少の若さで上場を果たした気鋭のビジネスリーダーと、国内外の数々の広告賞を受賞してきたクリエーティブ・ディレクター。活躍する場も世代も異なるが、「今という時代」を捉える感性が共振した。ビジネスの世界と、クリエーティブの世界、共通するキーワードは何なのか?

「はてな」の思想をいつも大事にしていたい

古川:この紙コップにもロゴマークが入っていますが、御社の入り口に「雨垂れ、石をうがつ」という故事成語にちなんだ、水が滴り落ちるオブジェがありますね。

村上:当社には「あたりまえを、発明しよう。」というビジョンがあります。「あたりまえ」を発明するためには何が大事かと考えたときに、ロゴのマークにもなっている「はてな」と「しずく」の両方が必要ではないかと思ったんです。「はてな」というのは、「あたりまえ」を発明するために何が大事かを表します。既存のラインを疑う視点です。

ただ、「はてな」だけではないだろうと考えたときに、「雨垂れ、石をうがつ」の精神が「あたりまえ」をつくっていくだろうと思いました。

例えば、今iPhoneは当たり前のモノになっていますが、実はそれ以前にも似たコンセプトで同じようなアイデアのものがあった。けれども広まらなかった。それは「はてな」だけで創ったものだったから。何が違うのかといったら、この「しずく」の普及させようとする徹底力ではなかったかと思うんです。

古川:それは、自分を信じ続ける、みたいなことですか。

村上:近いと思います。自分の考えが正しいと思いつつも、やはり常識とは違っていることを貫き続けるというのは結構苦しいし、少なからず迷いが生まれるときもある。その中でも信じ続けて、しずくを垂らし続けるというのが、最後に「あたりまえ」を生む。しずくをちょっと垂らしただけで諦めてしまうと、事業は生まれない。難しい、苦しいを越えた瞬間にイノベーションがあるのだと思います。

古川:リブセンスといえば、成功報酬型のアルバイト求人サイト「ジョブセンス」で高い評価を得たのが出発点でしたが、そのようなビジネスモデルはどのようにアタマの中で構築していくんですか。「村上式」のようなものがあれば教えてください。

村上:やはり、リブセンスのロゴにも込めている「はてな」の思想を大事にしています。「はてな」とは何事にも「疑問」を持つ姿勢です。常にサービスや仕組みなど、どこか改善できないか、もっとよくできないかを考えています。例えば社員と食事に行く際でも、「どうやったらこのお店の売り上げを上げられると思う?」と考えてみたり、新しく出たサービスの「ここをこうしたらもっと使いやすいのに」と考えることですね。また、その際にビジネス第一ではなく、自分がユーザーだったらどうなったらいいか、使いたいかなどを特に意識して考えています。

古川:商品が普及するには、ブレークスルーの瞬間があると思うんですけど、それは何だというふうに思われますか? 

村上:一般的には、これがきっかけでうまくいった、と分かりやすく解釈したいと思うんですが、実際は、じわじわと進んでいくことが多いのではないかと思います。

OSのバージョンが上がったからとか、そういうこともあるかもしれないですが、そのバージョンが上がった背景には、じわじわと徹底的に改善し続けるとか、お客さまの声を集めて、一つ一つ改善を積み重ねていくような、その地道なところがあるのではないかと思っています。これやったからうまくいったよね、みたいなものはないのかなと。

                           

起業家や事業家とクリエーティブは、ほぼ同じ種目になった

古川:僕がリブセンスのビジョンで特に面白いなと思ったのは、「あたりまえを、発明しよう。」の「発明」というところです。ニーズとか時代とかではなく、「発明」をベースに、今までになかった「普遍」を打ち立てると言い切った。

村上:実は、「あたりまえを、生み出す」なのか、「あたりまえを、つくろう」なのか、「あたりまえを、発明する」なのかとか、いろいろ悩んだんです。最終的に「発明」という言葉をあえて選んだのは、「今までにないものを生み出すぞ」という意思をより強調したかったからです。ないものを生み出すということを「発明」という言葉で表現したかった。

古川:私たちの広告の仕事というのは、プロセスが非常にはっきりしているんです。まず、クライアントの抱えている課題がある。それを解決するアイデアを提案して、エグゼキューション、つまりカタチにする。この「課題→アイデア→エグゼキューション」というプロセスは、広告業界ではずっと変わらないものだった。

ところが、今年の「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」で、イノベーション部門が新設されました。これはある意味、すごく画期的なことで、ソリューションすべき課題がないところにサービスやプロダクト、プラットフォームなどを創り出すカテゴリーなんです。まずプロトタイプやアイデアがあって、それが世の中をどう良くする力があるだろうかと考える。「アイデア→課題」というふうにベクトルが逆なんです。それって、アイデアというより発明に近いなって思って。

広告業界にとっては、60年続いた“ゲームのルール”を変える画期的なカテゴリーの登場だと私は思いました。だから、これからは広告会社も、課題がないところに優れた新しいアイデアを出して、そのアイデアでいかに世の中を良くするかを追求していく必要があると思っているんです。

この、アイデア→課題というベクトル、村上さんのビジネス現場の感覚としてはどうですか?

村上:ビジネスにおける「課題」は、これまで「自分が欲しい」といった言葉に置き換えられて、「課題→アイデア」という矢印の方向が多かったのではないでしょうか。しかし一方で、アイデアが課題を解決するという逆の動きもあったことは確かだと思います。

例えば、顔認識の技術があります。「そんなもの、何に使うんだよ」と言われながら、技術者はずっと研究をしてきた。フェイスブックが、顔認識技術を持つイスラエルの新興企業フェイス・ドットコムを買収しましたが、アイデアを持っている会社を買収して、課題の解決につなげるという動き方ですよね。

古川:確かにビジネスでも、「こういうことをやりたい」というアイデアがあって、それが世の中にある課題を解決するというケースが増えている感じがしますね。課題とアイデアとの関係ということでいえば、クリエーティブアイデアを考える筋道とビジネスアイデアを考える筋道は意外と似ているなと思うんです。今日、「発明」という単語を見て、あ、やっぱり同じなんだなと。起業家とクリエーティブは、way of アタマの使い方という意味では、ほとんど同じ種目になったなという感じがする。

やはり、村上さんが言うように、2種類あるんですね。

一つは、困っている問題とか、「あそこ、うまくいっていないね」という課題が先にあって、それを解決するアイデアを考えるというパターン。広告会社はその課題をクライアントから与えられる。いわば人様の課題ですが、村上さんの場合は、アルバイト情報の探しにくさという、自分で発見した課題から入った。

もう一つは、とにかく「何かできちゃったよ」というか、「こういうの、できそうなんだけど」という、課題も何もない、まっさらな状態にアイデアの芽みたいのがポンと出てくるパターン。もちろんビジネスだから、最終的には利益を上げることがゴールなんですけど、そのアイデアの芽から逆に課題を発見していくという形ですね。