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対談 「ビジネスとクリエーティブは、よく似たゲームだ」No.2

ビジネスとクリエーティブにとっての“for good”

2013/10/23

リブセンス社長  村上太一氏 × 電通コミュニケーション・デザイン・センター長 古川裕也氏
リブセンス社長  村上太一氏 × 電通コミュニケーション・デザイン・センター長 古川裕也氏

第2回 ビジネスとクリエーティブにとっての“for good”

気鋭の若きビジネスリーダーと、熟達のクリエーティブ・ディレクターの議論は白熱。話はいよいよ、時代の潮流を捉える核心的な問題に。

古川氏から提示されたキーワードは“for good”。 クリエーティブの世界も、ビジネスの世界も、この“for good”が厳しく問われる時代だと。

 “for good”に向かっているかどうかが厳しく問われる時代

古川:最近の広告業界では、“for good”の時代とよく言われます。人間の究極は、みんなが住んでいる世界を良くするためにブランドが何をできるかという考え方です。ケネディの「国家が諸君のために何をなし得るかを問うのではなく、諸君が国家に何をなし得るかを考えよ」という有名な言葉ではないですが、国が何をしてくれるかではなくて、自分に何ができるか。リーマンショックのあたりから、世界的にそういう空気が出てきました。

「ストロング」が優勢な時代から「グッド」が優勢な時代へと変化して、新たな起業にしても、既存企業のビジネスにしても、それが世界を“for good”の方に向かわせるものなのかどうか、厳しく問われるようになった。これは20世紀が戦いの世紀だとすれば、21世紀をなんとかより良い世紀にしたいという人類の本能的欲求ではないかと。

村上:世の中の「尊敬」とか、「かっこいい」という言葉の定義も変わってきていますよね。例えば米国だと、大学卒業者を全国の教育困難地域に派遣する「ティーチ・フォー・アメリカ」が就職人気ランキング1位になったりとか、お金を稼いでブイブイいわせるのではなく、自分の能力を社会に還元することが「かっこいいよね」とされるようになってきた。これは大きな変化ですよね。

古川:同感ですね。

村上:それと、これまでは、世の中の出来事や事象を評価する人たちが一部の限られた人たち、つまり「権威」だったわけですけど、それがインターネットの普及で、一般の人たちもどんどん評価の力を持って発信できるようになってきた。今までの権威というのが見直されるようになってきたわけですね。この人が言ったからすごいということも、業界の専門知識もないような人たちが、「ダサくない?」とか言って否定されてしまう。

あとは、今までの言葉の定義がいろいろ変わってきているというのは感じます。昔だったら、「空」を見ると、「自由だ」みたいな印象。昔は人間は空を飛べなくて、鳥が飛んでいけるのは自由だ、みたいな思いがあったと思うんです。それが、飛行機も当たり前になって、「空」という言葉一つとっても、その言葉から受ける感覚が違ったりする。

古川さんが先ほどおっしゃった、“for good”という言葉の意味は、CSR(企業の社会的責任)として言われている世界とは、ニュアンスがまた違うと思うんですが。

古川:まったく違います。“for good”は、100パーセント本業の話です。“稼ぐこと”と“良きこと”をイコールにするということです。自社のブランドや能力で、世の中をこういうふうに良くする、だからわれわれのブランドあるいは会社は存在する意義があるという考え方。そこのアカウンタビリティーがすごく求められていると思うんです。つまり、「その企業は何のためにあるのか」という問いに対して、明快に答え続けられる。そういう企業だけが、みんなの支持を受け、リスペクトされ、結果収益も上げられるということだと思います。

先ほどの村上さんの「権威」の失墜の話に重ねれば、これまでは、大衆の意見として切り捨てられていたものが、もう絶対、無視できないものになってきたわけですね。

 

利益と“for good”は一体のもの。掛け算でなければならない

古川:村上さんは、経営者として、自社の“for good”がどうあるべきかということも自らに問い続けてこられました。そこが村上さん、新しいですよね。

村上:もともと、「リブセンス(Livesense)」という社名は、「生きる意味」という言葉に由来しているんですが、当社では、「生きる意味=幸せになること」であるという考えの下に、お客さまにサービスをご利用いただくことで、提供する私たち自身も幸せになることを目指しています。つまり、「幸せから生まれる幸せ」ですね。要は多くの人に喜んでもらえることによって、自分たちが幸せと感じられるような、そういった会社にしたかったんです。

ただ、ビジネス界の現実を直視すれば、商品の価格がただ安いということで評価される側面があったりして、企業家も葛藤を抱えているのではないかと思います。“for good”をやっているからここいいよねと、無条件に商品やサービスを選んでもらえるわけではない。でも、企業の利益が大事か、社会のためか、という両極端に分かれるのではなく、その間を行ったり来たりしながら、らせん階段を上るように、ちょっとずつ“for good”の方に向かっている感じはします。

古川:階段は確実に上がってはきていますね。昔は「利益」のためか「社会」のためか、というのはまったく別の話だったのが、今は利益が“for good”と一体のもので、それが掛け算になっていないと誰からも信頼されないということだと思うんですね。別な言い方をすると、企業の利益が一時的に上がったとしても、企業活動自体が、“for good”になっているということを証明しないと、淘汰されていく運命にある。

カンヌの広告祭の評価にしても、これまでは、課題に対するアイデアがいいかどうかのゲームだったのが、今は、課題そのものの意義・高さが問われるようになっています。そのブランドの社会的・人類的・歴史的価値を踏まえてないと評価されないようになってきた。それは、先ほど村上さんがおっしゃった「幸せから生まれる幸せ」という言葉と重なる部分があるんじゃないかと思います。

村上:そうですね。世の中のためになってなきゃ、というところですね。貨幣という、分かりやすい価値基準を超えた新たな価値基準というか。今まであまり可視化できなかった、社会的な意義というのを数値化するとか、そういったものが求められてくるのかなと思っています。

実は、私が個人的にやりたいプロジェクトとして一つあるのは、そういった社会的意義を全部可視化することなんです。“for good”として、世の中に対してプラスの影響を与えているものをもっと可視化することによって、企業活動や個々人の行動が変わるんじゃないかという思いがあります。

古川:すごく面白いですね。これまでは、貨幣価値を基準にした価値観だけがドンとあった。しかし、存在意義ということでいうと、それだけで本当にいいのかと。それだけの貨幣価値を生むために、こういう“for good”なことをしたからこれだけの利益があるとか、その掛け算になっていないと、リスペクトされないようになってきている気がしますね。