感動テクノロジーの世界No.1
ロボットは人をどこまで感動させることができるか?
~エンタメロボットの最前線~
2014/10/28
はじめに
人はテクノロジーに感動するのではなく、それによってもたらされたエクスペリエンスに感動するのです。
テクノロジーの進化がわれわれの生活に大きな影響を与えていることは間違いありません。広告の世界でも、昨今、テレビCM制作、メディア開発やプロモーションなどでテクノロジーが欠かせない時代になってきました。イベント分野も同様です。そこで、この7月に電通イベント&スペース・デザイン局にエクスペリエンス・テクノロジー部が創設されました。エクスペリエンス領域において、プロジェクションマッピングやAR(拡張現実)技術などテクノロジーに関する知見を社内外から集約し、テクノロジーを開発・プロデュースしていきます。本連載では、コミュニケーションに活用できる“感動テクノロジー”を、最新事例などを中心に紹介してまいります。イベントやプロモーション以外のクリエーティブやメディア、営業など、さまざまな領域の方にも参考になるような情報を毎回掲載していきたいと思っています。
エンタメロボットの最前線
一体いつから人はロボットの夢を見てきたのでしょうか。SFやマンガの中で描かれてきたロボットが、いま急速に現実のものとして、私たちの目の前に現れてきています。エクスペリエンス・テクノロジー部のコラム、初回のテーマはロボット。一言でロボットといっても定義がたくさんあるので、このコラムでは「エンタメロボット」に注目してみたいと思います。
昨今ロボットによるパフォーマンスや、ロボットを中心としたイベントやスペースが出現している中、今後ロボットには、機能価値だけではないより一層人を楽しませる役割が与えられていくのではないかと考えます。10月に幕張メッセで開催された「CEATEC JAPAN 2014」(アジア最大級の最先端IT・エレクトロニクス総合展)に出展されたいくつかの事例をもとにロボットによる感動創造について考えてみたいと思います。
見るだけじゃない体感による感動 — 人搭載型ロボットの夢
いままでのロボット体験といえば、一定時間のパフォーマンスを見るだけのことがほとんどでした。でも私たちが憧れているロボットは自分で動かせたり乗れたりするもののはず。そんな夢をかなえるロボット「スケルトニクス」をご紹介します。
このロボットは、装着者の手足の動きが外骨格へダイレクトに反映され、巨大な体にもかかわらず機敏に動きます。乗ってみると分かるのですが、自分の身体が拡張される高い体感性があり、まさしくエクスペリエンス・テクノロジーといえます。このテクノロジーは、2016年にチューリヒでの開催が決定している「CYBATHLON 2016」(ロボット技術などの高度な補助器具を使い競技する国際大会)や、2020年に開催が期待される東京ロボット五輪開催に向けた第一歩として、夢のエンターテインメントをわれわれに約束してくれているように思われます。
最新エンジニアリングで感動させる — 技術訴求からエンタメ・パフォーマンスへ
今年の CEATECには、他にも多くのロボットが出展されていました。各社の技術力の高さがプレゼンテーションされていただけではなく、今年はエンタメ性と体感性の高いロボットが注目されました。
オムロンは、人と機械が密接に関わり合い、互いに協力して共通の目的を達成するという新しいオートメーションのコンセプトのもと「ラリー継続卓球ロボット」を出展。相手と長くラリーを続けられるように、自分の打球と同じくらいの強さで、打ちやすいところに玉を返してくれる姿に「ロボットの気遣い」を感じられる不思議な体験でした。
自社の技術や製品を生かしたロボット制作を進める村田製作所。今回出展されたのは「村田製作所チアリーディング部」。ボールの上に乗ったロボットの「倒れない技術」と、ロボットの位置をトラッキングする「ぶつからない技術」を駆使し、10体が見事にそろった演技を見せます。言葉ではなくエンタメ性のあるパフォーマンスによって同社の技術力の高さを人に伝えていました。
圧倒的なリアリティーに感動する — ロボットによる感情表現の進化
これはCEATECの事例ではありませんが、いままで映画の世界で発展してきたアニマトロニクスによる表現も、リアルタイムなパフォーマンスとして現れてきています。記憶に新しいソチオリンピックの閉会式でも大会マスコットたちの大きなロボットが登場しました。
等身大のリアルな恐竜ロボットによるライブエンターテインメント「ウォーキング・ウィズ・ダイナソー」でのブラキオサウルスの母親が子どもを心配し涙するシーン(涙は流れていなかったけどそう見えた!)に私は思わずウルっとしてしまったのですが、数年前まで見せ物的であった巨大ロボットは、いまや高度な演技力で人に感動を与える感情表現ができるまでに至っているのです。
おわりに
ロボット技術には、人の集まるエンタメスポットや、舞台芸術、ライブパフォーマンスを拡張する力がありますが、忘れてはいけないのは、その表現力を生み出すのはやはり人であるということでしょう。人を感動させる最先端パフォーマンスは、高度なエンジニアリングと同時に、どこまでもアナログに人を感動させる「魅せる技術」というものがあって初めて成立するものだと思います。
エクスペリエンス・テクノロジー部は、デジタルもアナログも、新も旧も、さまざまなテクノロジーを掛け合わせることで、今までにない感動を創造することを目指します。次回コラムでも、エクスペリエンスの視点からテクノロジー情報をお届けします。どうぞご期待ください。