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結局、ビッグデータは広告会社にとって敵なのか?味方なのか?No.1

電通と富士通のビッグデータ業務提携、その後…

2014/12/09

半年ぶりに連載を再開させていただきます。今回、「ビッグデータ」というタイトルを変更することも検討しました。何しろ2014年10月にガートナーが発表した「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2014年」において、「ビッグデータ」は今後1年程度で幻滅期に移行する とコメントしているのですから。

ただ「ビッグデータ」が、これまでのIT系流行ワードと同様に死屍累々なものになったかというと、実はそうとは思いません。むしろ、ビッグデータと意識することなく当たり前のように活用されていて、「この新しい施策の裏側では、さまざまなデータが使われているらしいです。え?データの容量ですか?うーん?大きいかもしれないですね。多分」など、多様な形式でリアルタイムに流れ込んでくるデータでさえも、普通に利用されている。そんな存在になったのではないでしょうか。

繰り返しますが、もう固有名詞の「ビッグデータ」ではないのです。「ビッグデータ」ブーム前のように、一般名詞の「データ」として扱われ始めたのです。では、なぜそれでも今回のタイトルに「ビッグデータ」を使い続けるのかというと、それでもまだ「過度な期待のピーク期」であるように思うからです(笑)。

業務提携から1年がたち…

昨年5月、電通は富士通とビッグデータ領域における業務提携を発表しました。その提携コンセプトは以前の記事をご覧になってください。あれから1年強経過し、その間、ユーティリティー、流通、金融、自動車など多彩な企業との取り組みにご一緒させていただきました。その中で、広告会社とITベンダーという、まるで両極に存在するかのような2社が協業するからこそできる「ビッグデータ活用による、クライアント企業の業務を高度化するフレーム」がカタチになったので、この度、再びリリースを発表しました。

業務ビッグデータによる最適な顧客体験の創造

昨今のマーケティング領域におけるHOTワードとして「カスタマーエクスペリエンス」(顧客体験価値)があります。詳細な説明はここでは割愛しますが、モノあふれのこの時代において企業が顧客に提供すべき価値は「モノの価値」から「コトの価値」へとシフトしており、企業はモノを販売する瞬間だけに注力すべきではなく、販売前、販売後の企業との接点全てにおける顧客の体験を重要視しなければならない、という考え方です。

例えば自動車業界では、購買プロセスにおいて企業側と顧客側で、喜びの瞬間が異なります。企業側つまり営業マンにとっての喜びは、「契約(受注)」した瞬間です。厳しいノルマのなか地道な販売活動の末、顧客に1台の新車を契約していただく瞬間、その喜びはひとしおなのだと思います。

しかし、顧客が一番うれしいのは、契約時ではなく「納車」のタイミングです。このタイミングのギャップによって、企業から提供するサービスという名の体験価値が棄損されている事が多いようです。営業マンによっては、契約いただいた翌日から新たな顧客獲得に意識が向いてしまい、納車の遅延が発生した際に、顧客への連絡が遅れるといったミスが起こることもあるとか。指折り数えながら納車日を待つ顧客にとって、納車当日に遅延の連絡がきたとしたら…。その残念な気持ちは、察するに余りあります。

「モノの高度化」には限界があり、差別化がより難しくなっていきます。これからは、「コトの高度化」による顧客体験価値の向上と、その積み重ねが競争力となってきています。

ビッグデータによる顧客体験マネジメント

顧客体験を支える重要なファクターとして、「顧客接点のマネジメント」があります。デジタルに限らずリアルも含めて、企業が顧客との接点で提供するサービス体験を、いかに素晴らしいものにするか。先ほどの例では、納車が遅れそうなことが発覚した瞬間に、営業マンはどのチャネルを活用していかに迅速丁重に連絡をするか。もちろん、できる営業マンはそれをやっているのです。さらに、企業全体で、そのサービス体験レベルを維持できているのか、顧客接点でのやりとりが正しく機能しているのかを検証することが、今非常に重要です。

この顧客接点履歴は、これまでウェブサイトで収集されUXなどの分野で最適化されてきましたが、実はSFA(Sales Force Automation:営業支援を目的としたシステム)などの導入により顧客単位のリアルな接点履歴も収集され、検証可能な環境が整いつつあります。またIoTにより、顧客が自社サービスや製品をどのように活用しているかの履歴も収集することが可能になりつつあるのです。

これら企業が収集できているデータを、業務から発生するデータとして「業務ビッグデータ」と定義し、電通と富士通の所有するノウハウやデータを用いて分析検証を行い、あるべき体験を提供するための施策を立案するフレームワークが今回の発表です。

5つのステップによるフレームワーク

■ステップ1:クライアント企業の業務理解と業務データの取得
主にワークショップ形式で、企業の現状の顧客接点と、その接点業務を支える仕組みを理解します。
またそれらを客観的に検証するために活用できる業務データを洗い出します。

■ステップ2:電通と富士通のノウハウやデータを活用して現状の顧客接点における課題を抽出
業務データを富士通のビッグデータ解析技術を用いて分析し、課題を検証。
また施策を精緻化するために顧客をセグメント。

■ステップ3:顧客体験を最適化するために、顧客像(ペルソナ)描写と最適な顧客接点シナリオを設計
電通が所有するマーケティングデータとその分析ノウハウを用いて、顧客セグメントごとに描写・設計。

■ステップ4:顧客スコアリングを用いて、リアルタイムシナリオ施策を実行
日々蓄積される業務データを分析し続け、購買ファネルをベースとした顧客ごとの「購買スコア」を算出。
顧客のスコアに応じた育成・獲得のシナリオ施策を実行。

■ステップ5:フィールド実証などによる効果検証
上記フレームワークの有効性を施策実行後の業務データを用いて検証しフィードバック。

なお、本フレームの先行導入による活動が評価され、CRM協議会による「2014年CRMベストプラクティス賞」を受賞した静岡ガスは、エネルギー利用データや営業活動履歴を活用した顧客体験マネジメントに取り組んでいます。
参考記事:全数データとパネルデータの融合がより良い暮らしの提案を支援(日経ビッグデータ)

冒頭で説明したように、特に「ビッグデータ」を利用することが目的なわけではなく、現状の顧客体験を見える化し検証するための手段として、結果、活用するものが「データ」であった。そんな感覚です。それこそ、ビッグな容量のデータであったどうかは全く関係ないのです。

さて、以前の記事において、今後の広告会社とITベンダーによる活動の一例として、企業の「プライベートDMP」構築による顧客体験最適化を挙げさせていただきました。今回の取り組みがその一歩目であると考えています。ビッグデータ登場に端を発して、広義なDMPを支えるためのさまざまな「マーケティングテクノロジー」が誕生しているので、今回の連載で紹介していきたいと思います。

次回は「マーケティングテクノロジー」の高度化によって、われわれにとってなじみ深い、かの「4P」さえもが変化しつつある。という視点のお話をお伝えしていきます。