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カンクリ通信No.4

商店街ポスター座談会【後編】

2015/01/08

前編に続き、「商店街ポスター展」についてのカンクリ若手座談会をお届けします。

制作で心がけたこと

日下:制作で心がけていることはある?

松下:ポスター展は、メディアに取り上げてもらえるか否かでけっこう運命が決まるなぁって思ってます。ポスター展を開催している地元の人たちの目にとまる数と、メディアに取り上げられて全国の人の目にとまる数って、何ケタも違いますからね。だから、僕はこのポスター展ではTCCは狙わない。狙うのは、メディアのウケなんですよ。だから、今回もなんとかメディアの取材来てもらわんとなぁってところから考えましたね。

瀧上:業界の中のウケとかはまったく考えないですね。僕は、店主の方に喜んでほしいなって気持ちが一番にあります。まぁ、どんな仕事でもそれは当たり前なんですけど、でもここまで純粋にクライアントに喜んでほしいなって思える仕事はなかなかないですよ。普段は営業がクライアントとの間に入ってるけど、ポスター展は自分たちが営業の立場で店主に会いに行って、何度もインタビューするでしょ。だから、余計にクライアントの反応が気になるんですかね。親密度が増すというか。インタビューは本当に何度も行くんですけど、店主の言葉がそのままコピーになったり、行けば行くほどヒントがもらえるんやなぁって思いました。これは普段の仕事でも生かせることですよね。

大嶋漬物店ポスター「お漬かれさまでした。」 大嶋漬物店ポスター「お漬かれさまでした。」
C:前田将多 AD:瀧上陽一 P: 日下慶太

 

日下:インタビューを重ねれば重ねるほど、よいコピーが書けると何人かが言ってたな。

松下:1回目、2回目のインタビュー情報ってあんまり意味ないんですよ。店側が「こんなポスター作ってや~!」「ウチの店のウリってココやで~!」って真っ先にアピールしてくることは、普通に見てもだいたい分かる。もちろんそれはそれで、ベースの情報としては大切なことなんですけどね。で、そろそろ話すネタが尽きてきたでっていう3回目くらいに、しつこく色々聞いていくと、苦し紛れにポロっといい話が出てきたりするんですよ。今回担当させていただいた中華料理の開華亭さんも、最初は「麻婆豆腐のお風呂に家族がつかってる、みたいなポスター作って」って言われたんですよ。それからしつこくしつこく話を聞きに行って。で、3回目のインタビューで、そういえば厨房に先代の親父さんの遺したレシピを置いてるんやって見せてもらって。そうそう、そういうの待ってたんや!って、それをネタにしました。


C:松下康祐 AD:小路翼 P: 茗荷恭平

 

小堀:1回目、2回目とポスター展の反応を見てて思うんですけど、みんな生死に関わるポスターが好きですね。そういうのがポスター展の鉄板ネタって感じがします。


C:永井史子 AD:河野愛 P:日下慶太

 

日下:そういう意味では、今回の松下の企画も亡くなった親父さんネタやもんな。あれ、店主のお母さんが、親父さんの仏壇にポスター供えたんやて。あまりに感激して。仏壇に供えられるポスターなんて、なかなか貴重やで。

松下:そこまで喜んでもらえてたなら、こちらも感激ですね。当初の店の希望通りに、アホなポスターにせんで良かったです。危うく、アホのインフレ起こすところでした。あの店は普段からアホくさいことが好きな店なんですよ。春巻きの皮で折り紙してみたり、メニューのネーミングもアホくさいのが多いしね。常連のお客さんも、アホなこと好きな店ってのはじゅうじゅう承知やから、そこにちょっと真面目なトーンで、エモーショナルなポスターが来ると、店がピリっとしまるかな、と思って。

研修の成果

日下:ポスター展が実際の仕事に生きたことはあった?

 

中尾:私の作ったポスター見た人が、こういうのやりたいんやけどって新しい仕事に誘ってくれました。あとは、私の担当した澤野工房のポスターがCDのジャケットになったりとかも。

 
新世界市場のJAZZレーベル
澤野工房のジャケット
 
 

松下:僕は前にタクシーに乗った時に、運転手さんにポスター展の話をされたんですよ。文の里でポスター展やってるから、今度嫁さんと一緒に行こうと思ってるねんって。僕らとか、その商店街だけとか、業界の中だけで盛り上がるんじゃなくて、一般の生活してる人らもポスター展のこと知ってはって、興味持ってくれてはるんやなぁってうれしかったです。僕は自分のことはすごく優秀やと思って仕事してますけど、普段は企画出すたびにCDにボロカス言われて、結構傷ついてるんです。でも、ポスター展で「おまえのやつ、おもろいやん!」ってちょっとチヤホヤされると、心のバランスがとれますね。

 

瀧上:あぁ、すごい分かります。そういうのって、業界誌に載るのとは違ううれしさがありますよね。ツイッターとかで自分の作ったポスターがバズってたりするのを見ると、それが自信につながったり。まとめサイトとかにも取り上げられたりした後に、クライアントの所で「あれ、僕らが作ったんですよ」ってアピールして「そうだったんですか、あれおもしろいですよね!」って言ってもらえてめちゃくちゃうれしかったです。自己紹介のときにも、アレを作った瀧上ですって言うと、あぁあれね!って分かってくれることも多いし。

中尾:なにより、店主に納品した時に無邪気に喜んでくれる姿ってうれしいですよね。TVCMの仕事とかだと、社内外で自分以外にも関わってるスタッフが多すぎて。「あれいいね」って褒めてもらうことがあっても、どこか他人事みたいに感じちゃうことがあるんですけど。2人だけで考えて作ったポスターが褒められると、自分が褒めてもらえたって思えるから「あ、私まだまだイケる!手に職あるやん!」って自信持てるんですよね。

 

日下:俺らが取り組んできたポスター展みたいなことを、よそが似たような企画でやってたりするの、最近増えてきたよな。芸人がどこかの商店街でおもろいコピーつけてポスター作るっていうのも、まさしく俺らと同じことやってるんやけど、全然おもしろくないねん。おもしろいこと言うはずのプロの芸人のコピーがダダ滑りしてもうてるねん。それで、あぁ、お笑いと広告は、やっぱ別モンやねんな、やっぱりおれらはおれらでプロやねんな、と思えた。クリエーターって響きが大げさで好きじゃなかってんけど、やっぱり俺らは「手に職があるクリエーターやな」って思えたね。っちゅうわけで、次、みんなまたやってくれる?

松下:はい。

小堀:ええ、まあ。

瀧上:やれといわれたら。

中尾:…。

日下:え、中尾なんで黙ってるの?実はみんなイヤやったん?

中尾:わかりました! 次もやりますって(笑)。

 

大槻の感想:商店街のポイントは「店主の魅力」

私は今回の伊丹で初のポスター展で、「今日平」というお魚が美味しい居酒屋を担当させていただきました。これがもう…ツッコミどころ満載の店主でして。

ペアを組んだ同期のAD松長と何度か取材に行ったのですが、アピールしたいこととか、お店の特徴とか、何を聞いてみても「はい」「いえ…」「わかりません」「やめてください」と、そんな返事で会話が打ち切られてしまうものだから、全くお店の情報がつかめず。

数日かけて今日平のメニューを何品も食べた頃、かすかに心を開いた店主が「・・・・ボクの名前が・・・・浩平って言うので・・・」と、やっと店名の由来を教えてくれました。料理は今日仕込むんや!という意気込みを自分の名前をもじって表現したそうで。座談会の中で、「インタビューの最初に得た情報はあまり意味がないんや」という話がありましたが、私は心の中で「それは人並みか、それ以上に口を開いてくれる店主にのみ当てはまることや!」と異論を唱えておりました。

寡黙な浩平のお店のポスターを作る私たちのペアは、何時間もかけて得た「店主の名前は浩平」という情報、そして帰り際に酔った勢いで超強引にしつこく無理やり聞き出した「彼女・・・いませ・・・ん・・・」という情報にすがるほか、道はなかったのです。でも私たちは、そんな不器用さがチャーミングな浩平さんだからこそ!っていうポスターが作れたよね、と自負しています。納品の時、微かにほほ笑んだように見えたあの表情からして、浩平さんも喜んでくれた手ごたえがあり、大満足です。

座談会で参加者たちの話を聞いていると、どのお店も、どんなネタにせよ、「店主の人柄」が生々しくポスターからにじみ出てくるんやなぁと実感しました。商店街が大型ショッピングモールに勝るポイントも、店主の魅力にある気がします。(大槻祐里)

C:大槻祐里 D:松長大輔 P: 出口貴裕

あとがき

関西支社では年に1度の恒例行事となりつつあるポスター展。ポスターの季節になると、みんなそわそわしてきます。締め切り前の1週間は、60名の人間が一斉にポスター制作に奮闘していて、ものすごい熱気がフロアに満ちています。それは、もう祭りのよう。世界各地に広告祭はあるけれども、こっちの方が祭りですよ! つまり、ポスター展は「広告祭」。広告が人と地域を一つにする祝祭となるわけです。
ポスターのおもしろい町がたくさんできて、町が元気になって、参加者たちも賞をとって、自分たちに誇りを持って、よりよく目下の仕事に取り組める。そんな未来って素敵ですよね。これが、10年、20年とずっと続くといいな。最後になりましたが、2月21日からまたポスター展をやるんです。次はなんと東北です。津波で大きな被害を受けた宮城県女川町を元気にしようと仙台・山形・東京・大阪・沖縄のクリエイターを63名が参加します。こちらもお楽しみに!(日下慶太)

カンクリ通信スタッフ
アドバイザー:山本良二(電通関西支社 クリエーティブプランニング局 エグゼクティブクリエーティブディレクター)
リーダー:日下慶太(電通関西支社 クリエーティブプランニング局 コピーライター)
スタッフ:大槻祐里(電通関西支社 クリエーティブプランニング局 コピーライター)
写真:大原漢太郎(電通関西支社 クリエーティブプランニング局 アートディレクター)