Jean Lin × 佐々木 康晴 (前編):
広告以上のものを提供する
デジタル・エージェンシーの役割
2015/01/06
デジタル化とグローバル化がますます加速する社会で、クライアントにイノベーションをもたらすクリエーティブとはどうあるべきなのか。デジタル・クリエーティブの世界で先導的な役割を果たしてきたIsobar(アイソバー)グローバルCEOのジーン・リン氏と、電通CDCの佐々木康晴氏が、「国境なき時代」のクリエーティビティーの本質について語り合いました。前編・後編の2回に分けてお伝えします。
グローバルスタッフを束ねる秘訣は、管理より、いかに導くか
佐々木:初めに、Isobarについてお伺いします。Isobarをデジタル・エージェンシーというイメージで見ている人も多いと思いますが、私はそういう側面だけではないと考えています。ジーンさん自身は、Isobarという会社をどのように説明しますか。
ジーン:デジタル時代においてクライアントが直面する最も複雑で困難なチャンレンジを、クリエーティビティーで解決することに情熱を燃やす国境なきエージェンシー。そんなふうに言いますね。
佐々木:端的に表現していただいたそのフレーズ、とても重要だと思います。われわれのクライアントのご担当者の中には、私たちの仕事を広告やウェブサイトをつくることだと思っている方もいますが、電通CDCもIsobarも、クライアントが抱える課題を見つけ、それを解決するという、広告以上のものを提供しています。
ジーン:デジタル広告は、私たちがやっていることのほんの一部にすぎません。
佐々木:Isobarは人材も多様性に富んでいて、ポーランドには有能なテクノロジー系のスタッフがいますし、上海には素晴らしいクリエーティブチームがいて、アメリカでは単なる広告会社というよりデジタル・コンサルティングやマーケティングサービスを提供しています。世界中に拠点がある多角的なチームを、グローバルCEOとしてどうマネジメントしているのですか?
ジーン:人は管理されるものではなく、導かれるものであるというのが私の基本的な考え方です。優秀な人というのは、こちらで管理しなくても、自分が掲げたゴールを達成するために、自ら何をすべきかを学び実践しています。だから、私の立場では、それができる環境を整えて導けばいいのです。
加えて、クライアントが直面する緊急かつ複雑な問題を最もクリエーティブな方法で解決することが私たちの目標だとすれば、クライアントのニーズに合わせたチームをデザインすることも重要です。
私たちは、すべての市場で、「戦略」「キャンペーン」「エクスペリエンス」「プラットフォーム」「プロダクトデザイン」という5つの分野のサービスを提供しています。このうちのどれに重点を置くかは、国によっても違ってきます。成長著しい中国では競争が激しいため、「キャンペーン」と「エクスペリエンス」が重要です。一方、アメリカのような成熟市場では、「エクスペリエンス」に加えて「プラットフォーム」「プロダクト」で差別化を図ります。
どの国でも、クライアントのニーズにマッチするよう対応するのは当然ですが、今はグローバル展開するクライアントが増えているので、各国のスタッフがグローバルに参加できるフレームワークを導入しています。テクニカルチームが、遠く離れたポーランドやマニラにいたり、Eコマースのイノベーション担当チームがシカゴやイギリス、ブラジルにいたりします。さまざまなスキルを持ったチームを世界から集めるプロセスが、私たちのビジネスでは大変重要だと思います。
佐々木:ジーンさんの力もそこで発揮されているわけですね。電通も今や世界中にオフィスがありますが、私は、電通のネットワークはもっともっとグローバルであるべきだと思い、まずは日本の電通の強みを他の地域へも広げて生かしたいと思っています。これからIsobarとのコラボを通じて、東京にいる多様な才能の若手たちをグローバル化して、新しいリーダーを育てていけたらと考えているんです。
ジーン:これからのリーダーはスタッフにインスピレーションを与えるのが役割という信念を持ち、その国の環境に合ったソリューションを見つけ出す自由な発想を持つように導いていくことが大切ですね。そうすれば拡大・発展のスピードを上げることができるでしょう。
佐々木:貴重なご意見ですね。
プロジェクトの牽引役に欠かせないビジネスコンサルティングスキル
佐々木:Isobarのチーム構成について伺います。クライアントによって、クリエーティブ、営業、ストラテジストなど、チーム構成はどうしているのですか?
ジーン:さまざまなケースがありますが、通常のチーム構成は、他のエージェンシーとほぼ同じだと思います。営業、プロジェクト管理、戦略、データ分析担当がいて、それからクリエーティブチームにはリーダー、コピーライター、デザイナー、アートディレクター、テクノロジスト等がいます。求められるスキルはみな共通していますが、重要なのは、クライアントのビジネスの原動力となるプロセスとは何かを見極めることです。例えばビジネス戦略が重視される場合は営業と戦略担当が方向性をリードします。クリエーティブなアイデアが鍵を握る場合は、営業とクリエーティブチームが機動部隊となります。通常は、クリエーティブは後半で登場しますが、クライアントによっては、クリエーティブが最初から直接クライアントと組んで進める場合もあります。そうしないと、営業と戦略担当が課題を明確にするまで時間を無駄に費やすことになるし、課題克服のソリューションを探すのにクリエーティブなひらめきが必要なこともあるからです。
佐々木:広告以上のものを提供する場合、プロジェクトを牽引するのは誰だろうかと、私もよく考えます。コピーライターは表現を考える係、営業はクライアントとの関係づくりをする係、と決めつけていては、その先に進めません。広告を超えたものをつくるには、新しい構造を求めるべきかもしれません。時にはコピーライターがプロジェクトのリーダーになったり、プランナーが新しいビジネスモデルを考案したりすることもあり得ると思うのですが。
ジーン:わが社のアメリカオフィスでは、どのようなスキルを持つ社員であっても、クライアント・エンゲージメントに関わる場合はみな「クライアント・パートナー」と呼ばれます。技術担当でも、ユーザーエクスペリエンス担当でも、イノベーション担当であってもこう呼ばれます。ただし、共通して必要なのは、ビジネスコンサルティングのスキルで、このクライアント・パートナーがビジネスプロセスを前に進める役割をたします。クリエーティブ担当の中にはクライアントとの関係づくりやプロジェクト管理があまり得意ではない人もいます。どうやってバランスを取るか、ソリューションをデリバリーするためにチーム力をどう発揮させるかが重要なポイントになります。
(後編に続く)