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デジタル・ソリューションの「革新者」であるためにNo.2

Jean Lin × 佐々木 康晴 (後編):
デジタルによる革新的クリエーティブの追求

2015/01/13

前編に続き、デジタル・クリエーティブの世界で先導的な役割を果たしてきたIsobar(アイソバー)グローバルCEOのジーン・リン氏と、電通CDCの佐々木康晴氏が、「国境なき時代」のクリエーティビティーの本質について語り合いました。

全社員がイノベーションに関っていると自覚することが大切

佐々木:日本では今、ウェアラブルやIoT(Internet of Things)などといった新しいテクノロジーに注目が集まっています。最新テクノロジーに向き合うときの基本姿勢をどのようにお考えですか。

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ジーン:最新テクノノロジーは私たちが提供するサービスの重要なアイテムとして位置づけ、Isobar の全社横断的なR&D組織であるnowlabでも多面的に研究・開発に取り組んでいます。そこで大事にしているのは、「ユーザーの生活をよりシンプルにするにはどうしたらいいのか」という自問自答です。便利なウェアラブル・テクノロジーでも、一つ一つ別個のデバイスをいくつも身に着けるとなると、消費者は「もうこれ以上いらない」と思ってしまうはずです。これまでの経験と実績から確かなこととして言えるのは、テクノロジーを融合していくことが次の大きなステップになるということです。

佐々木:「人々の生活をよりシンプルに」が重要なキーワード。同感ですね。

ジーン:よりシンプルにということは、仮想世界と現実生活を融合していく、ということにもつながります。どの技術イノベーションもその方向に向かっていると思います。

佐々木:私は、単に便利ということだけではなく、人々を活動的にするテクノロジーであってほしいとも思っています。何でもできるデバイスであるのはいいけれど、人をなまけものにしてしまうようなテクノロジーがつくる未来はけっして良いものではない。もっとアクティブに行動したくなって、人ともっと話したくなるような、そんな、人々のエモーションをより高めるテクノロジーを提供していけたらと願っています。

ジーン:今の話で思い出したのは、わが社のブラジルオフィスのプロジェクトです。ブラジルでは、夏はみなビーチで過ごすので、紫外線を浴び過ぎて皮膚がんのリスクが高まることが大きな問題になっています。そこで、子どもたちにも理解を深めてもらうために、洋服にクリップで留められる小さなウェアラブル・デバイスを開発したのです。モバイルアプリにつながっているので、昼間どの程度紫外線を浴びているのか、親がモニターできるようになっています。このようなデバイスはただ便利なだけではなく、よりアクティブに過ごす手助けをするものです。

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佐々木:素晴らしいプロジェクトですね。テクノロジーだけにフォーカスするのではなく、人間の生活も考慮し、人間重視のシンプルなソリューションを考案しなければいけないということを、ふだん技術チームにどのように伝えているのですか?

ジーン:nowlabでは小さな実験なら、どんどん好きにやってよいと日頃から言っています。ただし、根本的な姿勢として求められるフレームワークがあります。私たちは世界を5つの「C」で捉えていて、まず中心にあるのはConsumer(消費者)。そしてContent(コンテンツ)、Community(コミュニティ)、Connection(つながり)、Commerce(コマース)。特に戦略的プランを策定するときなどは、このフレームワークは必須です。技術担当者が何かを思いついたとき、そのアイデアによってどのように問題が解決し、どのようなチャンスが生まれるかまで考える必要があります。小さな実験的プランが実際のソリューションとして採用されるためには、これらのさまざまな質問に答えられないといけません。

佐々木:先頃行われたIsobar Expoでは、イノベーションを使ってクライアントにソリューションを提供するというお話をされていましたね。もう少し詳しく伺えますか。

ジーン:私たちがこれまでの経験で学んできたのは、イノベーションだけに特化したチームは要らないということです。全社員がイノベーションに関っている自覚が何より大切です。そうでないと、イノベーションチームの言うことにただ同意するだけになり、他の人々は進化できなくなってしまい、クライアントに新しい提案ができなくなります。なので、Isobarのnowlabは固定したチームではありません。誰もが、nowlabのプロジェクトに参加できるのです。提案したアイデアが、クライアントが受け入れるには時期尚早でも、そのアイデアがプロトタイプになり、他の市場で導入されるチャンスもあります。大事なのは、イノベーションが会社の文化の一部であり一つのプロセスであることです。

佐々木:私たちもDentsu Lab Tokyoという新しいラボをつくっていますが、やはりイノベーションだけをやる専門チームを持っていません。アイデアがあれば誰でもラボに参加できます。メディア局でも、営業でも、持ち込んだ新しいアイデアが新しいビジネスとしてクライアントに適用できると評価されれば、ラボメンバーとなって、一緒に取り組めます。

ジーン:わが社と非常に似ていますね。Isobarの各拠点にいるイノベーション・リーダーにしても、多くは技術者ではありません。クリエーターもいれば、ユーザーエクスペリエンスの担当もいたり、データ担当だったりもします。イノベーションを実験する際に、より感動的で人を引きつけることができるのは誰か、ということが重視されます。

同じ立ち位置にいることが、ベストなコラボレーション

佐々木:電通には「necomimi」や「draffic」等といった新しい技術がたくさんあります。そのような技術やアイデアを売るためには、イノベーションをソリューションにつなげるストーリーや価値づけが必要だと思いますが、ジーンさんはどのように考えていらっしゃいますか。

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ジーン:イノベーションを語る前に、課題に対する革新的な解決策について語る方が先ではないでしょうか。革新的なソリューションを実現できたというサクセスストーリーは、長年お付き合いをしてきたクライアントとのコラボレーションから生まれることが多いと思うのです。信頼関係と長年にわたるパートナーシップがあるからこそ、独創的なソリューションでもクライアントは理解をしやすいし、逆にそれがないとリスクを恐れてしまう。そういう意味で、日本における電通の影響力や長期にわたって築き上げてきた多くのクライアントとの関係を考えると、イノベーションを売り込むには、今は絶好の環境にあるのではないかと思います。

佐々木:おっしゃる通り、電通はクライアントと良好な関係を築いてきました。その電通が持つクライアントとの絆にIsobarの能力、イノベーション力が加われば、アドバタイジングを超えた強力なソリューションを提供できるのではないかと思うのですが、電通とIsobarのコラボレーションはどういう形がベストでしょうか?

ジーン:重要なことは、電通が、Isobarを異なる能力を持った別個のユニットとしてではなく、自社の一部としてとらえることではないでしょうか。Isobarも、クライアントのソリューションを推進していくためには、電通と手を取り合って同じ立ち位置で対応することが必要だからです。そのほうがクライアントにとっても分かりやすくなり、私たちもソリューションのデリバリーに責任を持つことができます。そして、変化をもたらすプロセスに、よりポジティブなエネルギーが注げるようになります。

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佐々木:同感です。そうしたプロセスをスタートさせるために重要なのは、チームをつくる営業のデジタル対応力をより強化していくことかと思います。Isobar Expoには多くの営業担当が参加しており、今回の経験から得た気づきも多かったのではないでしょうか。
ところで今、営業担当でもクリエーティブでも、グローバルな仕事をしたいと思っている若手は多いはずですが、日本人が海外にもっと目を向けて日本から飛び出すようになるには何が必要でしょうか。

ジーン:現在、わが社に電通の社員が数か月間駐在して学んでいくという試みはうまくいっていると思います。私が出会った電通人はみな、何かを学びたいという意識がとても強い。それは、電通の重要なカルチャーではないでしょうか。海外に出ると、滞在先の国のことを知りたいと思って行くはずですから、何でも吸収するし、学びの効果も上がります。それは、Isobarでも同じです。最近の調査では、50%のIsobarスタッフがグローバルな仕事を望んでいます。

また、言葉も重要だと思います。ヨーロッパの人たちは英語が母国語ではありませんが、それでも英語を話すことを恐れません。日本人は英語の読み書きは得意なのですが、仕事ではもっと話すことが要求されます。「自分」を表現するだけの勇気を持つことが大事です。

佐々木:日本人はシャイで、ネイティブのように英語を流暢に話せないことを気にしがちですが、そこまでは必要ないということですよね。

ジーン:そんなこと誰も期待していません。ネイティブではないことはみな分かっているので、とにかく試しに話してみることです。私の日本人の友人の多くは英語のレベルは高いと思います。あとは行動すればいいだけです。

佐々木:とても貴重なお話でした。ありがとうございました。